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一、片思いから
07 志野木
三回出したことでスッキリしたらしい東鬼を座らせて、夕食の準備をする。
突然のプロポーズには「(国外にでも)移住先を決めてからにしよう」と返しておいた。
その場の勢いだけで本気だとは思っていないが、衝動的に口にする言葉としてはひどすぎる。
……期待はしない。
用意した夕食は冷凍してあった白飯と、買い置きのインスタント味噌汁、あとは買ってきた惣菜だ。
おかずを作る予定だったのに、風呂、その他で思った以上に時間がかかったので諦めた。
作る時間がなくなったのが残念だ。
我流の自炊料理しかしたことがないから、上手くはないけれど、俺以上に寂しい食生活をしているらしい東鬼を驚かしてやろうと思ったのに。
それでも、れんこん入りきんぴらと、塩唐揚げと、餃子が乗っている折れ足の座卓を見て、酒のつまみかよ、とせめてもう一品は野菜が欲しいな、と冷凍庫からカット済みオクラを出してレンジに入れて、だし醤油とラー油と鰹節をかける。
……逆に酒のつまみ感が増したか?
「でへへ、タクの手料理か~」
東鬼は疲れきってるんだろうか、温めて並べただけだって。
顔が緩みすぎだぞ。
それとも俺が飲んだことがショックで、おかしくなったのか。
喉の奥で出されたことと、息が苦しくて必死になっていただけで、初めから飲もうと思っていたわけじゃない。
生臭い匂いは感じたけれど、味はよく分からなかった。
腹がぐるぐるするのが落ち着いてよかった。
次の機会があっても飲みたいとは思わないけれど、その手の話みたいに「せーえき美味しい♡」って言うべきだった……か?
いや、無理無理、引かれて終わるな。
うわーどこのビッチだよ……って思われる。
これまでの流れで、俺が受け入れる側なのは間違いないだろうから、これからも咥える機会があるかもしれないのか。
俺が東鬼に突っ込む?
……もやしの俺が、プロレスラーみたいな東鬼を押さえ込む姿が想像できない。
今はまだ、突っ込まれる方も想像できないとしても、悩む。
「タク」
「ん?」
「おれさ、すっげ幸せ」
「……お、おう」
正面から笑顔で言われると、困る。
俺は高校生の頃から、何年も東鬼への恋を引きずって拗らせていた。
どうせノンケへ恋しても叶わないんだよ、ってやさぐれて付き合い出した女性に振られて、自業自得で落ち込んでいた。
そんな時に再会しただけでなく、まっすぐこんなこと言われたら、どう反応すれば良いのか分からない。
「お、俺も、好き……幸せ、だっ」
顔を背けてなんとか言葉を絞りだしたと思ったら、突然、抱きしめられた。
勢いでフロアクッションを吹っ飛ばすなよ。
「くそ、可愛い、なんだよ、なんなんだよタクっおれを殺す気かっ!」
「何言ってるか分からないし、お前、疲れすぎてないか?」
さっき三回も出したのに、なんで、抱きしめられた俺の太ももに、固いものが当たっているんだろう。
「悪いけれど、俺は明日も忙しいから、寝たい」
普段は、二回も続けて出すことなんてないから疲れていた。
予定ではあと一週間で余裕が出てくるけれど……忙しくなくなったら、俺は今度こそ東鬼とこれ以上のことをするのか?
答えの出ないまま、食事をして皿を片付けて歯を磨いて、東鬼とくっついて寝た。
東鬼は人並み以上に大きいのでダブルベッドでも狭いけれど、筋肉量が多くて体温が高い体にくっついているのは気持ち良くて、あっという間に眠りに落ちた。
翌朝、ただの生理現象なのに、ひとまとめにしてしごかれた。
そんなに連続で出るか!と思ったけど、人間の体ってすごかった。
ただ、だるくなるから朝からは勘弁してほしい。
◆
あっという間に一週間が経った。
俺は定時を過ぎても仕事が終わるまでは帰れないから、先に帰ってほしいと伝えてある。
一緒にサーキットに行きたい。
虚弱で貧弱な俺にとっては重労働だけれど、あの、自分ではどうしようもない馬力を、必死で操ろうと四苦八苦する感じがすごく好きだ。
車はいじればいじっただけ返事をしてくれる、手を入れれば入れただけ、調子が良くなる気がする。
なんて、気のせいなのは知ってる。
オイル変えてもらって、エンジン周りもチェックして、そうだ、そろそろエンジンのタイミングベルトの交換を頼まないと。
胡散臭いおっさんである田貫所長につかまり、急ぎの用を頼まれて一心にキーボードを叩く。
電話を先輩方へ繋ぎながら、今日も無事に仕事を終えることができた。
「志野木くん」
「はい、なんでしょうか」
「ちょっと良いかな」
帰ろうと鞄を手に席を立った所で、所長に声をかけられて、なぜか事務所の外に連れ出される。
誰もいない喫煙室に入ると、所長が胸元から半分潰れた小さい箱と、使い捨てライターを取り出した。
「志野木くんは、吸わなかったかな?」
「はい」
吸っても良いかな、と喫煙室で聞かれて断れると思っているとしたら、この人はものすごく天然だと思う。
呑気そうな外見をして、わざとだろうけれど。
雇用主、職場の上司として信頼しているけれど、ここで働く期間が長くなればなるほど、胡散臭い人だと思ってしまう。
仕事はできるし、職場の人間にひどく当たるわけでもないのに、どうも信用できない。
「お話とは、なんでしょうか」
「志野木くん、警備の主任さんと仲が良いんだって?」
どきり、と鼓動が跳ねた。
所長は吸ってもいいかと聞いてきたのに、火のついていないタバコを指に挟んで、ゆらゆらと揺らしている。
「高校の時の同級生ですが、友人というわけではありませんので、仲が良いとは思えません」
これは東鬼と話しあって、周囲に認知してもらうべきことだと判断した一つだ。
俺が同性愛者だと知られないためのカムフラージュとして、真実をいくらか混ぜて、核心にたどり着けないように。
東鬼を避けていたから、友人でなかったのは本当のことだ。
「同級生か、ほお、そんな偶然があるんだね」
「はい、何年も会っていなかったので初めは気づかなかったのですが、名前を呼ばれて、そういえばと」
「ふむ、警備の主任さんもシノギさん、だったっけね」
「はい、苗字の発音が同じで名前が一字違いなので、声に出すと似ているんです」
「二人ともシノギなんだね、そっかそうか」
結局何を言いたいのか、のらりくらりと会話を続ける所長に苛立ちが募るけれど、相手は雇用主であり、かなり顔が広い行政書士でもある。
見た目は呑気そうなおっさんで、口を開くたびに俺に「恋人を作らんのか?」って言ってくるけれど、その姿に騙されると痛い目に遭わされそうだ。
この人の口から俺が同性愛者で、職場周辺で恋人を漁るやつだなんて風評をたてられたら、間違いなく仕事を失う。
「それでね、彼はどうかな?」
「……どういう意味でしょうか」
「ふうむ、ああ、んんん、言っちゃってもいいかな、東鬼さんには秘密だよ。
五鬼助さんに聞かれてるんだよ、彼を娘の婿に考えたいって、それで彼のひととなりを知りたいんだよね。
彼は好青年かい?」
「……ええ、彼は柔道部の主将をしていました、すごく頼りになる良いやつです。
直接の友人ではありませんでしたが、クラスメイトにも優しいやつでした」
俺の足、震えてないだろうか。
むこ、婿、ムコ、あいつが俺に連絡先を教えようとしない理由。
教えられない理由が、やっぱりあるんじゃないか。
なんだよ、結局、結婚の前に後腐れのない穴に突っ込んで、アブノーマルなプレイを体験しておきたかったってやつか。
……当たり前か。
あいつが同性愛者じゃないことなんて知ってたのに、相思相愛とか言われて舞い上がって、本当に情けない。
所長と話した後、どうやってアパートまで戻ったのか覚えていない。
あいつからのメールが届く。
〝次の休みに泊まりに行っていいか?〟……か、俺は本当に現金だ。
俺だけが熱くなったり冷たくなったりしているようで、なんだか疲れた。
人生に艱難辛苦なんて求めてない。
人並み以上の人生でなくてもいい、社会的な地位や金や権力を望んだりしない、普通に生きられればそれだけで良いのに。
「……無理」
たった二文字を返信するのが、こんなに辛い。
ビルの出入りには警備員のいる窓口前を通らないといけないから、顔を合わせないようにはできない。
……適当な相手を見繕って、尻に突っ込んでもらったら、次の恋に進めるんだろうか。
高校生の頃、あいつが好きだと自覚してから、どこが好きなのかを真面目に考えた。
あいつを見るたびに感じる胸の痛みを、恋だと認めたくなくて。
男として憧れている、の枠に押し込めようとした。
あいつは頼り甲斐があって、いつも朗らかで、自分からリーダーシップを取ろうとしないのに、頼られると断れないところがあって。
男子とばかりつるんでる割に、下ネタにはあまり乗ってこなくて。
高校当時は今ほど筋肉質な体をしていなかった。
柔道部にしては細くて、でも、道着を着た姿はすごく格好良かった。
再会してからは性格だけじゃなく、俺にはないしっかりとした肩、太い首、毎日夕方には青くなってくる顎まで男らしくて、どんどん好きになっていった。
俺だと転がすのがやっとのタイヤを簡単に持ち上げる力強い腕、仕事の関係なのか、先の硬くなった節の太い指に触れられると、体が勝手に疼きだすようになった。
「……なんでだよっ」
遊びで終わらせられる相手なんて、俺でなくても良かっただろうに。
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