【R18】I've got a crush on ogre

Cleyera

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四、生まれたままで

49 志野木 :注意: 暴力や痛々しいとか注意

 
 ガラスのはまっていない窓から、吹き込んできたらしい枝などが転がる家の中を進んでいく。
 裸足で歩くなんて経験は、いつ以来だろう。
 足を守れそうなものなんてないから、怪我をしないように気をつけるしかない。

 窓の外を見れば、単管パイプとそこに結ばれた灰色の布のようなものが揺れているのが見えた。
 やはりここは解体中の建物なのだろう。
 窓の近くに細々としたものが落ちていなければ、外を見られるのに。

 見回してみれば、ログハウスのような建物には、内壁が少ない。
 出入り口を探すのは簡単そうだ。

 黒い鬼の狙いが何なのかは推測しきれないけれど、言っていた言葉を信じるのなら、ただの逆恨みとしか思えない。
 あの鬼は、それを正当な怒りだと、復讐だと信じているように聞こえたけれど。

 鬼の姿だと年齢が判別できないけれど、甥っ子だと言っていた。
 つまり、あの鬼は東鬼のおじさんで、ケイショウって人が、東鬼シノギの父親か。
 ケイショウとかいう人が発端だとして、東鬼と、前に聞いた隆仗タカヨリさん、東鬼の弟が巻き込まれてるってことだ。

 ……ぶっ飛んだ親族がいるのは、鬼だからなのか?
 あの鬼の言い分が本音なら、東鬼が鬼の里って場所に戻らないのも納得だ。

 あんな考え方が普通だとしてまかり通るなら、あまりにも人と価値観が違いすぎる。
 妖っていう存在が人と違うことは理解できても、姿が人と同じになる以上、もう少し精神性も似てくるものじゃないのか?

 東鬼は臆病だからな。
 人のものを奪って平気な顔をしていられるほど、厚顔じゃない。
 鬼のくせに。

 ああ、俺の鬼は本当に愛しくて可愛い。
 とても本人には言えないけれど、格好良いと思っていた東鬼が、いつの間にか可愛いになっていたのは不思議だな。

 虚弱な俺が東鬼を可愛いなんていうのは、きっとおかしいんだろうけれど。
 もしも勃つなら、突っ込んで可愛い顔を見たいって思ってしまう。

 自覚はなかったけれど、俺は突っ込まれたい方じゃなかったらしい。
 東鬼に抱かれるのは嫌じゃないけれど、俺が東鬼を可愛がってやってもいいんじゃないだろうか。

 どうにかして、東鬼に連絡をしないといけない。
 東鬼の弟にも連絡が行くように。

 あんな、意味不明の八つ当たりだか逆恨みに巻き込まれて、一生を台無しにされてたまるか。
 それにしても、東鬼のことを俺は何も知らないんだな。

 クローゼットの骸骨……ってどこで聞いた言葉だったか。
 誰にでも知られたくないことはあるだろうけれど、秘密が多すぎるんじゃないのか?
 東鬼の場合は、秘密にしていたのではなく、言い忘れている可能性が否定できないのが、困るところだけれどな。

 大小様々な物が散乱している足元を気にしながら歩いていたので、出入り口らしいところにたどり着くまでは、少し時間がかかった。

 丸太が積まれた小屋のようなのに、巨大な開口部が作られている。
 扉の残骸らしい金具や、割れたベニヤ板のようなものが、周辺には転がっていた。
 それだけでなく、木屑や石のようなものが多く転がっていて、これから先に進むのをためらう。

 俺が怪我をするのは耐えられる。
 でも、傷ついた俺を見る東鬼の姿に耐えられない。
 ……どうする。
 いいや、答えは初めから一つしかない。

 東鬼が泣いているかもしれないのを知りながら、ここで助けを待つ?
 いつまで?
 絶対に嫌だ。

 踏み出した足の裏が痛い。
 気をつけていたのに、尖った石のかけらのようなものを踏み抜いた感触がして、ぬるりと地面が滑るようになる。

 元から冷えきって痺れるように痛んでいた所に、違う痛みが増えただけだ。
 もう爪先の感覚がないから、問題はない。
 痛みも寒さも、足を止める理由にはならなかった。

 建物を囲むパイプの間をくぐり、目の荒い布のようなものをくぐり抜けたけれど、目の前に広がるのは思った通り知らない家並みだった。

 ……アスファルトの敷かれた道がない?
 まるで田んぼの中のあぜ道のように、土をならしただけのようなやけに幅の広い道が、家の前からなだらかに続いている。
 日常的に使われているのか、草はほとんど生えていない。

 轍やタイヤの跡がないってことは、自動車は使われていないのだろうけれど、それならどうして、こんなに広い道を作ったのか?

 どこかに人がいないだろうかと見回し、周囲の建物がやけに遠いなと気がつく。
 まるでこの家だけが、孤立しているようだ。

 この家は丸太小屋なのに、周囲にあるのはトタン張りの壁や屋根。
 街中で多く建てられている建売の様式ではなく、築三十年、四十年くらいの家のように見える。
 しかも見える限りでは、各家には駐車場が設けられていないようで、車も見当たらない。

 車を走らせないから、土をならしただけの道なのか。
 車が必要ない、わけはないか。

 人の姿はなく、トタンの家が遠くに何軒か見える。
 遠くには木々が壁のように鬱蒼と茂り、背の高い緑が空を複雑な形に切り取っている。
 まるで山奥の集落だ。

 ここはどこだ?



 靴の代わりになりそうなものもなく、丸太小屋の外を覆っていた灰色の布を剥がすこともできなかったので、仕方なく裸足のまま土の上を歩いていく。
 道にはなっていても、石を取り除いたりした訳ではないようで、歩くたびに足の裏が痛い。
 冷えきった足には感覚がほとんどないのに、痛みだけは感じている。

 点在する少ない家を囲むように、守るように木々が生えているのに、周囲からは鳥の声も虫の鳴き声も聞こえない。
 耳の奥が痛いような静けさだけが漂っている。

 誰かいませんか、と声をあげようかと思い、ためらう。

 目覚めた時の状況から考えて、黒い鬼が俺をここに連れてきた、のだろう。
 まったく見知らぬ場所に。
 あの廃屋同然の丸太小屋は吹き抜けで、鬼の背丈で暮らせるようになっていなかったか?
 つまりここは、鬼の住む集落だと考えるのが、最も妥当だろう。
 ……そうなると、俺が外を歩いているのはまずいかもしれない。

 姿を隠そうと思っても、裸足で道を外れるのは辛い。
 土をならしただけでも、道の体をしている場所と、人の手の入っていない草地。
 裸足で歩くのに、どちらが安全かは考えるまでもない。

 すでに、歩いた跡に血痕を残してしまっているのに、今から隠れてどうする。
 東鬼への連絡手段もなく、助けに来てくれる確証もないのに。

 夜の屋外を今の格好で過ごしたら、一晩で凍死してしまう。
 見上げてみれば、梢の間に覗く空は鮮やかな夕焼けで、暗くなるまで時間が残されていないことを教えてくれた。

 ぐぅ、と腹が鳴って、そういえば、昨日?の夕食が最後だったかな、と思う。
 半日以上食べていないのに、空腹を感じていなかった。
 けれど自分が空腹であることを知ったら、唐突に胃が痛いことに気がつく。

 俺の胃の弱さはストレスに起因するものではないから、空腹すぎて、低血糖状態になっているんだろう。
 クラクラと目の前が揺れている。
 手足が痺れたままで治らないのは、飢えか寒さか。
 体感で数分は歩いているのに、体温が上がらずに寒いままだ。

 立ち止まることに理由が欲しいけれど、立ち止まったところで、何も変わらない。

 寒さと飢えと痛み。
 我慢し難いものを三つも同時に体感しながら、進むしかない。

 ……不意に、何かが崩れるような音が聞こえた。
 誰かいる?
 迷わずに足を向けた俺が、数メートル先の家の陰から顔を出すと、その先には言葉にし難い光景が広がっていた。

「……東鬼?」

 体から煙を立ちのぼらせる赤鬼が、粘土細工をこねるように、黒や青や緑や黄の鬼を曲げて、投げて、殴って、踏みつぶしている。



 なんだ、これは?



 距離があるからなのか、まるで踊りを見ているような気さえした。
 平手で叩き、掴んで、投げる、踏み潰す。
 腕を掴んで引き寄せ……折る。

 数百メートルは離れているのに、ごきり、とセロリだか白菜をねじ切るような音が聞こえる気がした。
 現実逃避でもしないと、見ていられなかった。

「……し、のぎ?」

 隙間風のような音は俺の呼吸だ。
 情けないほど震えている声を絞り出して、そして。

『ァア"?』

 俺に向けられた瞳は、俺の知っている愛する鬼の目ではなかった。

 考える。
 真っ白になっている頭を引っ掻き回して。
 どうしたら良い。

 目の前にいるのは、どこからどう見ても赤鬼だ。
 そう、俺のよく知ってる赤鬼の東鬼だ。
 でも、違う。

 俺の知っている東鬼は、こんな風に人を傷つけたりしない。
 いいや、そんなことできない奴だ。
 俺に触れるのだって、あんなに恐々と、触れてもいいのか?って確認するように手を伸ばす東鬼が、どうしてこんなことをする?

「……げろ、逃げなさいっ」

 その声が俺に向けられているのだと気がつき、すでに倒れている鬼たちへ目を向ける。

「呑まれた鬼に分別はない、赤鬼の衝動の強さは随一だ、逃げろ!」

 土埃にまみれた黄色の肌をもつ鬼が、俺に向かって叫んでいる。
 誰だろう、と思う前に腕を引かれた。

 風が頬を打つ。
 耳のそばで唸りを上げる。
 誰かが、俺を抱えて走っていた。
 

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