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2 一匹狼はつがう

05 童貞喪失 ※ 人×人

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 少し時間は戻る。
 裕壬ユウジンは、理性を放り出したゴーシュの手で、テントの中に引きずり込まれた。

 床に引き倒されるまでのわずかな時間で、手品のように服を引き裂かれた。

 怖いと思う暇もない。
 驚きすぎて体が固まってしまう。

 けれど、このままだと訳がわからない間に挿入されてしまう。
 痛いのも血まみれになるのも困る!、と思い、とっさに「顔が見たい!」と叫べば、願いは聞き届けられた。

 仰向けで、ふかふかのシュラフの上に転がされた。
 両足が高く持ち上げられて、左右に広げられる。

 そして、べろりと舐められた。
 過去に数回は使ったけれど、大学に入ってからは一度も、誰も迎えていない場所を。

 ここに受け入れてくれ、と懇願するように。
 ゴーシュは、人の姿でも長い舌を裕壬の窄まりに押し付けた。

「うわあっ」

 悲鳴など聞こえていないように。
 裕壬の尻を抱えるように持ち上げたゴーシュは、一心不乱にその体をむさぼった。

 時間をかけてほぐさないと指一本さえ入らない後孔を、ゴーシュは舐める。

 救いの水を求めるように。
 このままでは挿入できないと知っているように。

 人の姿のまま。
 ひたすら舐め続けるだけで、技術もなにもない。
 愛撫ともいえない。

 腹の中をきれいにしていないから、ゴーシュが腹を壊してしまわないか心配だ。
 後孔がふやけてしまうのではないか。

 頭上で揺れるLEDカンテラを見ながら、少しだけ余裕のできた裕壬がそんなことを思った頃、ぬっと現れた何かで光が遮られた。

「ユージン」
「……ゴーシュさん?」

 頭を持ち上げたゴーシュに、ゆっくりとのしかかられながら、裕壬は希望を見出す。

 もしかして、落ち着いてくれた?
 これで解放してもらえる?

 少しだけそう期待した裕壬に、ゴーシュは初めて両頬を持ち上げて見せた。
 ふは、と吐息をこぼすと同時に見えた、人としては鋭すぎる犬歯が、カンテラの明かりを反射した。

 子供のように無垢でありながら、欲情に塗れた明快な笑顔に、裕壬はみとれた。
 獣じみた危険な色香に惑わされて、うっとりとため息をついた。

「ユージンすき」
「え?」
「もっとおれをもとめて?」
「ええ?」
「もっとほしいとおもってよ」

 ぎらぎらと光を放つ瞳に射抜かれる。
 頭の中が真っ白になる、とはこういうことか、と裕壬はぼんやり思った。

 子供のような口調が、強面のゴーシュに似合っているかと問われれば、違和感しかない。
 それでも。
 これがゴーシュの本質だと分かった。

 素直な子供のような笑顔を見られたことが、心から嬉しかった。

「私はゴーシュさんが欲しいよ」
「ぐるるるうっ」

 唸り声を聞いて恐怖を感じる前に、抱かれてもいいか、と思ってしまった。

 裕壬は自分が抱きたい側か、抱かれたい側か、よく分からなかった。
 性交の相手に恋をしていないからかも、と漠然と思っていた。
 これまで、恋した相手とは結ばれることがなかったから、余計にそう思ったのかもしれない。

 ゴーシュが相手なら、抱かれる側で良い。

 舐められすぎて緩んできた裕壬の後孔は、ゴーシュの男根の先端をあっさりと受け入れた。
 人の姿でも骨が通っているため、硬さと長さはあるけれど、挿入前は不完全な勃起なので、太さはそれほどでもない。

 人の男根よりも細いことが功を奏した。
 細い先端は、唾液まみれの裕壬の後孔を押し広げて、ぬるんと中に滑り込んだ。

 挿入の勢いのまま、根元まで肉襞を押し開きながら貫く。

「あっ!?、ん、んん゛~~~~っっ」

 びたん、と尻たぶに叩きつけられた肌の熱さに、裕壬は叫びそうになった。
 慌てて服の袖口を噛みしめる。

 抱かれた経験はあっても数える程で、慣れているとは言えない。
 しかも今回は、事前に準備もしていない。

 なんて無茶をするんだ、という悲鳴は服を噛み締めているせいで言葉にならない。

 深くまで遠慮なく押し入ってきたものは、細いのに硬い。
 芯があると感じることで、人工物のような違和感があるのに、熱も持っている。

 今までにない経験に、裕壬は必死で声を殺した。

 テント一枚を隔てていても、どこに誰がいるのか分からないキャンプ場だ。
 水場が遠くて不便な場所を選んだとはいえ、無人ではない。

 一人用のテントに二人がすし詰めになって、その上、怪しい動きをしていると知られたら困る。
 これも青姦と言えるんだろうか?

 なんで、こんなことに、と思っても。
 もう遅かった。



「ふっ……ふうっ」
「ぅんっ、んん゛っっっ!?」

 低く唸りながらの数回の腰振りと共に、ゴーシュの男根が腹の中で太くなっていくのを、裕壬は感じた。

 入ってきた時の倍ほどにも、太くなっているような気がする。
 このままでは裂けてしまうのではないかという恐怖と、腹の中を擦られる不慣れな感覚に、声を我慢するだけで精一杯。

「ユージン、ユージンっ」
「んっ、んんっ、うんっ」

 名前を呼ばれ、声を出せないので必死で頷く。
 快感が足りないのに、口を押さえているせいで、自分の前をしごく余裕はない。

 しばらくの後。

「ううっ」

 ゴーシュが唸って、根元まで押し込む動きをした。
 揺さぶられることに耐えていた裕壬は、慌てて手を口から離して、ゴーシュの胸を押した。

「中はだめ、外にだしてっ!」

 びくり、と驚いたように震えたゴーシュは。
 一息に男根を引き抜くと、シュラフの上に白濁を吐き出した。

 よかった、終わった、と安堵した裕壬が全身の力を抜くと同時に、力なく伸びて広がった両足を、再び持ち上げられるのを感じた。

「え?」
「ユージン、すき、だいすき」

 にっこにこの笑顔が、向けられている。
 逆光なのに見えてしまった。

「ユージン♡」

 ハートマークが付いているようにしか聞こえない、甘える声。

「ゴーシュさん、それ……」
「なあにユージン?」

 カンテラの明かりにぬめって見えるゴーシュの股間のものは、太さと硬さを保って上を向いている。

 裕壬に乗りかかるように、至近距離で笑顔を浮かべるゴーシュの体が重い。
 再び根元まで突き刺されて、ぺたり、と汗ばんだ肌が触れるのを感じながら思った。

 やばい、猿だ、どうしよう、と。



 終わりなく揺さぶられて、何度ゴーシュが熱を吐き出したのか。
 中で出さないを守ってくれるのは良いけれど、テントの中にはじっとりとした熱と、さまざまな臭いがこもっている。

 ずっと天井で揺れていたカンテラの明かりが、不意に消えた。
 充電か、電池が切れたのか。

 テントの中は真っ暗だ。

「ふうっ、ううっ」
「……ごーしゅさん?」

 低くうめいて、何度目か分からない吐精をしたゴーシュが、裕壬に体を預けた。
 大きな体は重たい。

 ここまで裕壬の扱いは、ほぼオナホだった。

 初めての若い青少年と同じだ。
 相手への配慮なんてない、性欲にまかせた獣じみた性交。

 不慣れな動きとぎこちない反応から、これが初体験だったりするのかな、と裕壬は他人事のように思った。

 汗で濡れた肌は熱くて、ゴーシュが性交に溺れていたと伝わってくる。
 裕壬を傷つけようとしたわけではないのだろう。

 一方的な行為ではあったけれど、思ったほど手荒に扱われなかったことに安堵しながら、裕壬は言葉を待った。

「ユージン」
「うん」
「一生、大事にする」
「……?」

 なにを?
 言葉を口にする余裕はなかった。

 腹の中の刺激だけで絶頂を迎えられなくても、終わりなく揺さぶられれば疲れる。
 慣れていないから余計に。

 中で快感を拾えない裕壬の男根は、力を失ったままだ。

「なんでも言ってくれ、おれは人の心が分からない。
 ユージンに嫌われたくない」
「??」

 突然、ゴーシュの心の距離感が近くなったような気がして、裕壬はまばたきを繰り返す。
 暗くて、表情が見えない。

「おれはどうしたらいい?」
「……とりあえず」
「うん!」
「おふろはいりたい、はらのなかあらいたい」
「……え??」

 やっぱりゴーシュは、男同士での性交について、何も知らなかったのか。
 外に出してもらってよかった。

 そう思いながら、裕壬はしびれたように感覚のない下半身をどうしようと、目を閉じた。

 
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