死にたがりのねこ

灯兎巳

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死にたがりのねこ

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ここに死にたがりのねこがいました。
死にたい理由は特にありません。
ただなんとなく生きているのが嫌になってしまったのです。
死にたいという気持ちがねこの体の中いっぱいに溢れてしまっているのです。
なので今日死にます。

ねこは高いところが好きだったので、ここらへんで1番高い木のてっぺんから飛び降りて死のうと思います。
木のてっぺんは、太陽に届きそうなくらい高くて、世界のはしっこまで見渡せそうです。
今日はとってもいい天気です。
「こんな気持ちいい日に死ねるなんて、僕は幸せものだな」
ねこは嬉しくなって、クスクスと笑いました。
「死ぬってどんなかんじかな?」
怖い気持ちと、楽しみな気持ちが半分半分。
「さあ、死のう!!」

ねこは勢いよく飛び降りました。
一瞬だけ浮いたと思ったら、真っ逆さまに落ちて行きます。
「これはなかなか楽しいな。もう1度くらいやってもいいかもしれないぞ。死んでしまうからできないけどね」
自分の冗談にクスクスと笑っているうちに、地面はもうすぐそこ。

地面にぶつかる寸前、体がふわっと浮き上がります。
「あんたいったい何やってるのよ!!!!もう少しで死ぬところだったじゃない!!!!」
耳をつんざくような怒鳴り声。
どうやらカラスが危機一髪のところで背中に乗せてくれたみたいです。

カラスは勢いを逃すために、少しだけ飛行した後にとんっと地面に降り立ちます。
「ちぇ、失敗したな」
ねこはカラスの背中から降りながら、思わずつぶやきました。
「あんた!!自分から死のうとしたの!?」
カラスは目をまんまるくして驚いています。
どうやら聞こえてしまったみたいです。

「バカバカバカー!!!あんたが死んだら誰が私と遊ぶのよ!!私をひとりぼっちにする気!!!」
カラスはとっても怒っています。
「他の子と遊べばいいじゃないか」
ねこはきょとんとして言いました。
「バカバカバカー!!!私はあんたと遊びたいの!!あんたじゃなきゃ嫌なの!!」
カラスは泣き出してしまいました。
「困ったな。僕はどうしても死にたいんだよ。死んだあとに遊ぶのじゃだめかな?」
「バカバカバカー!!!死んだら遊べないじゃない!!!!」
カラスはどうしても死なせてくれそうにありません。
「困ったな」
「困ったなじゃないわよ!!!死んだら絶対許さないんだから!!明日も明後日もずーっと私と遊ばないとただじゃおかないんだから!!」

「君は僕が好きなの?」
ねこは思わず聞いてしまいました。
「バカバカバカー!!!好きじゃなきゃいっしょに遊ぶわけないじゃない!!!」
ねこはびっくりしました。
だってカラスはねこに会うたびにバカって言うし、他の子と遊んでいるとくちばしでつついてきたり、ひどい時はご飯を横取りしたりするのです。
「だってなんて声をかけたらいいのかわからなかったのよ!他の子と遊んでいる時だって私を仲間に入れてほしかっただけよ。ご飯だって本当は一緒に食べたかっただけなのに、あんたはすぐにどこかに行ってしまったじゃない。」

「そうだったんだ」
カラスに嫌われていたわけじゃないことを知ったねこはクスクスと笑いました。
「何がおかしいのよ?」
カラスは不思議そうです。
「ただ嬉しかっただけだよ」
ねこの体の中に溢れていた死にたい気持ちはお風呂のせんが抜けたみたいに、ぐんぐんと無くなっていきます。
かわりにねこの体の中は嬉しい気持ちでいっぱいになりました。

「死にそうになったからお腹がすいたな。君は命の恩人だ。ご飯をご馳走しよう!!」
ねこは上機嫌で言います。
カラスは一瞬喜びましたが、すぐに疑うような顔になりました。
「私を油断させて、また死ぬ気じゃないでしょうね?」
ねこはにっこり笑って、
「その時はまた君が助けてくれるんだろ?」




いつか死にたくなった時、誰かがあなたを助けてくれることを願って。
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