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第53話 修学旅行13
しおりを挟む(麗華……! アカマターの奴が言った言葉……)
「――――お前、私の妻になれ。」
あの言葉が脳裏を駆け巡り、胸の奥がざわつく。怒りにも似た感情が体を熱くさせた。
「ふざけやがって……!」
林の間を駆け抜ける俺の足音が、荒廃した静けさに響き渡る。麗華の元へ向かおうとする中、突如背中に感じた冷たい殺気が、全身を硬直させた。
振り返ったその先にいたのは――。
そいつの姿は言葉にできないほど異様だった。細長い体は、まるで人間の骨格を無理やり引き伸ばし、ねじ曲げたような形状をしていて、その全身は薄黒い湿った皮膚で覆われている。皮膚は光を反射し、不気味なまでにテラテラと輝いていた。
手足は蜘蛛のように異様に長く、関節が逆向きに曲がっている。そのせいで動くたびに不気味な音――骨が軋むような音――が周囲に響く。その音が耳に残り、背筋に冷たい汗が伝う。
頭部――顔と言える部分は、さらに恐ろしかった。目があるべき場所には、ただの黒いくぼみがぽっかりと空いている。瞳はなく、ただ闇が存在しているだけだ。それなのに、その「目」が俺をしっかりと見据えているような感覚に襲われた。心臓が締め付けられるような圧迫感が襲いかかる。
鼻の部分は完全に潰れ、代わりに細い裂け目が口元まで走っている。その裂け目からは鋭い歯がいくつも覗き、嫌なほどに白く光っていた。
そいつ――ピーシャヤムナンは、まるで滑るような動きで地面を這い回り、その異様に長い腕を不気味に伸ばしていた。腕は体の倍以上に伸び、その先端には鋭利な爪が光っている。その腕が蛇のようにしなりながら、地面を這い回るたびに湿った音が耳に刺さる。
ピーシャヤムナンの異常に長い腕が地面に叩きつけられ、その瞬間、一瞬で俺との距離を詰めてきた。その動きは、獲物を狙う捕食者そのものだ。
「――――電光閃!!」
咄嗟に足元に雷の魔力を集め、全身を一瞬で加速させる。雷の力が足元から弾け、俺はピーシャヤムナンの猛攻をぎりぎりで回避した。
「コイツと無理に戦う必要は……ないだろ……!」
俺はそのまま逃走を選択する。
背後で爪が瓦礫を砕き、湿った皮膚が擦れる音が響く。振り向く余裕はない。俺は全速力で麗華の元へ向かおうとするが、その異形の存在がまたもや追いすがってくるのを感じる。
「…………しつけぇな……!」
ピーシャヤムナンの猛攻を振り払いながら、俺は拳を握りしめた。その時、背後から再び感じる殺気。奴の腕が再び伸びてくるのを感じた瞬間、俺は振り返りざま拳を構える。
「――――雷撃拳・裏!!」
拳に雷の力を集め、一気に振り抜く。雷の衝撃がピーシャヤムナンの長い腕を弾き飛ばし、その巨体を吹き飛ばす。奴は咆哮を上げながら瓦礫の山に叩きつけられ、動きを止めた。
「お前と遊んでる暇はねぇんだよ!」
俺はそのまま全速力で駆け抜ける。麗華の元へ――あの巨大なアカマターの元へ。
――――――――――
ピーシャヤムナンを撒いて荒れ果てた道を全力で駆け抜けていた俺。だが、次の瞬間、視界の先に不気味な気配を感じた。
そこに立ち塞がっていたのは――まるで異世界から這い出てきたかのようなゾンビのような霊たちだった。
白目を剥き、腐った肉が骨から垂れ下がっている。彼らの動きは鈍重だが、その数は異常だ。
そしてその中心には、透き通る白い肌に虚ろな目をした長髪の女――ユーリー。沖縄の伝承に名を刻む、死者を操る恐ろしい妖怪がいた。
俺の全身に冷たい汗が流れる。
「どけよ……!お前らに構ってる暇はねぇんだよ……!」
だが、その言葉に反応するように、ユーリーの口元が薄く笑う。彼女の冷たく低い声が暗闇の中に響く。
次の瞬間、霊たちが一斉に俺に向かって突進してきた。その動きはまるで命令を受けたかのように統一されていて、容赦がない。
「――クソッ、上等だ!」
俺は拳を握り締め、雷の魔力を拳に込めながらゾンビたちを迎え撃つ。拳を振り上げ、蹴りを繰り出し、次々と奴らを叩きのめしていく。
しかし――。
「――――――こいつら、不死身か?」
倒れていたゾンビたちは、俺の攻撃を物ともせずに再び立ち上がる。手足が欠けようが、体がバラバラになろうが、奴らの動きは止まらない。その異常さに、背筋が凍る。
その時、ユーリーの口元に薄く笑みが浮かぶ。まるで俺の苦戦を楽しんでいるかのようだ。その冷たい笑いが、耳元で囁くように響く。
「――――だったら元を断つしかねぇな。」
俺はゾンビの群れをかいくぐりながら、一気にユーリーへと突っ込む。拳に雷の力を込め、一撃で決める覚悟だ。
「雷撃拳――――!!」
俺の拳がユーリーの胸元に突き刺さる。衝撃波が辺りを駆け抜け、周囲の木々が揺れ、地面が震えるほどの衝撃が走る。しかし――。
ユーリーの体は、霧のように消えていく。
「…………!!??」
俺の拳が空を切ったその瞬間、冷たい殺気が背後に迫る。振り向く間もなく、冷たい手が俺の首元を掴んだ。
「しまっ――――――――!」
ユーリーの手は氷のように冷たく、その瞬間、全身の力が抜けていく。彼女の虚ろな瞳が至近距離で俺を見据え、その口元には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。
身体が動かない。視界が揺れ、意識が薄れていく。
――そして。
ユーリーの力に抗えず、俺の意識はそのまま深い闇へと落ちていった――。
――――――――――――――
気がついたら、俺は懐かしい庭に立っていた。
「ここ……昔の家じゃねぇか?」
周りを見渡すと、確かにそこはガキの頃に住んでいた家だった。時間が逆戻りしたような感覚に戸惑いながら、目の前に――。
「…………………母ちゃん…………?」
そこには、俺の母ちゃんが立っていた。若くて元気だった頃の、あの懐かしい姿。信じられない光景に思わず目を凝らす。けれど、その笑顔は間違いなく俺の母ちゃんのものだった。
「雷丸」
母ちゃんの優しい声が聞こえた瞬間、俺の体が勝手に動いていた。
「母ちゃん!!!!!」
全力で駆け寄り、そのまま抱きついた。懐かしい感触と温かさが胸に広がる。この瞬間が夢だろうと幻だろうと、どうでもいい。俺はただ、この時間を全力で味わいたかった。
「雷丸……よく頑張ったね」
母ちゃんが、いつものように俺の頭を優しく撫でてくれる。その瞬間、張り詰めていた心が一気にほどけてしまった。
「うわぁぁぁぁぁん、母ちゃん……俺、異世界帰りとかハーレム王とか、貴音の事とかマジで大変だったんだぜ……!」
泣き言を言うなんて思いもしなかったが、母ちゃんに頭を撫でられると、妙に気が緩んでしまう。どんなに強がったって、母ちゃんの前じゃただのガキに戻っちまうんだ。
「今まで本当によく頑張ったね、雷丸。異世界でも、ハーレムでも、貴音のことでも、サッカーでも……全部お母さん知ってるよ」
「え、知ってんの!?マジで!?異世界とか、ハーレム王とか、貴音との喧嘩とかサッカーのプロリーグの事まで……ぜ、全部知ってんの!?」
俺は目をパチクリさせて驚くが、母ちゃんは変わらない優しい微笑みを浮かべている。
「そうよ、全部見守っていたから。あなたの活躍も、頑張りも、お母さんはずっと知っていたの」
「母ちゃん、そりゃ……あんた、さすがだよ。異世界の事情まで知ってるなんて、すげぇよ!」
涙をこらえながら、母ちゃんの手を握りしめる。その姿がなんだかいつも以上に超人的に見えた。
母ちゃんは優しく微笑みながら、俺の肩をポンと叩いてくれる。
「本当に立派になったわね、雷丸。お母さん、いつもあなたのことを誇りに思ってるわよ。あんな困難な異世界で生き抜いて、貴音のことだって一生懸命守ろうとして……。」
「そうだろう!?そうだよな!?俺ってば本当、マジでスゲェんだよ!?」
俺は胸を張り、ここぞとばかりに母ちゃんに自分の活躍をアピールしまくる。
「異世界でもサッカーでも、なんでも自分で道を切り開いてきたのよね。あの初試合でゴールを決めた瞬間、私は涙が出ちゃったわ」
「そ、そこまで!?涙!?俺のゴールで泣いちゃうなんて……母ちゃん、感動屋さんだなぁ!」
俺の自信は天井を突き抜ける勢いだ。勢いに乗った俺は、もう止まらない。
「魔王だってさ、もうコテンパンにしてやったし、貴音との喧嘩も全部俺が大人の対応で丸く収めてるし!ハーレムの女の子たちだって、俺のために毎日頑張ってくれてるんだよ!もう、俺って完璧だよな、母ちゃん!」
俺がエッヘンエッヘンと胸を張りまくる中、母ちゃんはクスクスと笑いながら俺を見つめている。
「うふふ、そうね。雷丸は本当にすごいわ。異世界から帰ってきても、サッカーのプロとしても、そしてハーレム王としても、どれも立派にやり遂げてるんだもの。お母さん、そんな息子を誇りに思うわ」
「だろ!?そうだろ!?母ちゃん、俺ってすげぇよな!?」
もう、俺の胸はパンパンだ。まるで風船が膨らみすぎて破裂寸前みたいに、誇らしさが溢れんばかりだ。母ちゃんの褒め言葉が、まるで勝利のトロフィーみたいに感じる。
だけど――。
母ちゃんが突然、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた。
「でもね、雷丸。もう、頑張らなくてもいいんじゃない?」
母ちゃんの手が俺の頭にポンと触れた瞬間、まるで時間が止まったかのような感覚があった。
「……え?母ちゃん、今なんて?」
「もう、頑張らなくてもいいんじゃない?」
耳を疑った。いや、嘘だろ?俺の耳がバグってるんじゃないか?母ちゃんがそんなこと言うわけない。いつだって、母ちゃんは俺を応援してくれてたんだ。
小学校のかけっこで1位になった時は、「さすが私の息子ね!」って満面の笑みで褒めてくれた。サッカーでプロを目指すって言った時も、「世界一になれ!」って背中を押してくれたじゃねぇか。
「な、なんだよ、母ちゃん……急にそんなこと言うなよ!」
軽く笑って返そうとしたけど、母ちゃんの表情がやけに真剣だった。俺が今まで見たことないくらい、優しいけど切ない、そんな表情だった。
「雷丸、ずっと頑張ってきたでしょう?異世界で魔王を倒して、帰ってきて、今度はサッカーで世界一を目指して……それに、ハーレム王とかもね。」
ハーレム王、なんか母ちゃんも普通に認めてるのがちょっとシュールだけど、今はそれどころじゃない。
「でもね、雷丸。お母さん、貴方が頑張りすぎて心配なのよ。異世界でも、こっちの世界でも……ずっと走り続けてるように見えるの。少しは休んでもいいんじゃないかしら?」
――休む?
俺は走り続ける男だぜ?止まったらハーレム王も名乗れねぇし、プロサッカーだって、もう追いつけなくなるかもしれないんだぞ?それなのに、休むなんて――。
「ねぇ、雷丸。お母さん、例え貴方が何を成し遂げなくても、普通でも、特別じゃなくても、貴方を誇りに思うわ。だから……たまには自分を労わってもいいんじゃない?貴方が倒れたら、周りの人たちが悲しむわよ。」
母ちゃんは俺の頭をポンポンと撫でて、まるでガキの頃に戻ったような気分にさせてくれる。でも――。
「――あ゙?」
俺は物凄い形相で母ちゃんを睨みつけた。さっきの言葉が頭の中でぐるぐる回ってる。
――特別じゃなくても、誇りに思うわ?
ふざけんなよ。そんなの、あり得ねぇ。
「……てめぇ、誰だよ?」
―――――――――
「母ちゃん……俺、もう学校行きたくねぇよ……」
俺がそう呟いたのは、小学校4年生の時だった。夕方、いつものようにランドセルを背負って帰ってきた俺は、リビングのソファに倒れ込むように座り込んだ。その顔には悔しさと悲しさが滲んでいて、母ちゃんはすぐに異変に気づいた。
「どうしたの、雷丸?今日は元気ないわね。」
母ちゃんが優しく声をかけてきたけど、俺はその優しさが余計に胸に刺さって、こらえきれず泣き始めた。
「だって……!だって、みんな俺のこと、変わり者だって……!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、俺は今日学校であったことを話し始めた。
体育の時間、みんなでリレーの練習をしていた時だ。俺は全力で走ってバトンを渡したんだけど、その後でクラスメイトの吉田が俺に向かってこう言った。
「お前さ、なんで走ってる途中周りに投げキッスしてるんだよ!?キモすぎだろ!」
そいつの言葉にクラスのみんなが笑い出した。
「ほんとだ、雷丸っていつも変だよな! この間のリコーダーの時間だって、なんか一人で『超絶技巧!』とか叫んで横持ちで演奏してたしさ!」
「しかも自画像を描く時間だって、王冠を被った雷丸と、その周りに笑顔で手を振る美女たちが描かれてたし! あれ自画像じゃねぇだろ!ただの妄想だろ!」
「しかも先生に『絵は自由だけど、これは自画像ではありません』って真顔で注意されてたよな!」
「ほんとコイツ、変わり者だよな!」
それを聞いて、教室中がまた笑いに包まれた。俺はその場で笑われるのが恥ずかしくて、悔しくて、でも何も言い返せなかった。
「母ちゃん、俺、みんなから変な目で見られてんだよ……。もう学校行きたくないよ……」
俺が声を震わせながら話すと、母ちゃんは一度黙って俺の話を全部聞いてくれた。そして、そっと俺の頭を撫でながら、こんなことを言った。
「雷丸、他の子と違うことは、悪いことじゃないわよ。」
「でも……でも、みんな俺のこと笑うんだよ!変だって!変わり者だって!」
俺が泣きながら叫ぶと、母ちゃんは少しだけ笑って、俺の目を真っ直ぐ見つめた。
「ねぇ、雷丸。他の子たちと同じように生きることが、そんなに大事?」
「え……?」
母ちゃんの言葉に、俺は泣くのを忘れてキョトンとした。
「他の子が雷丸を笑うのは、雷丸が『自分の道』を歩いてるからよ。みんな同じことをしてる中で、自分だけ違う道を歩けるのは、本当はすごいことなのよ。」
母ちゃんは少し間を置いて、さらに言葉を続けた。
「たとえばね、みんなが普通に走ってる中で、雷丸が投げキッスするのは、自分が応援して貰えてるって思ったからでしょ? って思ったからでしょ?音楽の時間に『これが超絶技巧だ!』って叫んだのも、自分の演奏に自信を持ってるからよね?」
「……まぁ、そうだけど……」
「それはね、雷丸が他の子よりも自分を信じてるってことなのよ。みんなと同じじゃなくても、自分を信じられる子は本当に強いわ。」
「……でも、自画像まで笑われたんだぞ!」
俺が半分涙声で言うと、母ちゃんは少し困ったような顔をして、それでも笑いをこらえながらこう言った。
「それは……ちょっと雷丸が早すぎるだけね。でもいいじゃない。きっとその夢も叶うわよ。」
母ちゃんはそう言って、俺の頭をそっと撫でながら続けた。
「雷丸、覚えておきなさい。他の人にどう思われようと、自分を信じられるのが本当に強い人間よ。あなたはそれができる子なの。だから、みんなが何を言っても、自分を信じなさい。貴方は”変わり者”じゃなくて、“特別”なんだから。」
母ちゃんのその言葉は、俺の胸に深く刻まれた。たとえクラスのみんなに笑われても、俺は俺の道を行く。それが特別なことで、俺だけができることだって、母ちゃんが教えてくれたからだ。
俺はこう思ったね。「そっか、俺は『変わり者』じゃなくて『特別』なんだ!」と。まるでスーパーヒーローみたいな気分になったんだ。いや、むしろ、ヒーローどころか、ハーレム王の始まりだったかもしれないな。まぁ、この時はまだ「ハーレム」なんて言葉も知らなかったけどさ!
その日以来、俺は「変わり者」と呼ばれる事を恐れなくなった。それどころか、俺は俺だって胸を張るようになった。誰に笑われたって関係ない。俺には、母ちゃんがくれた言葉があるから。
でも、母ちゃんが病気になって入院するようになった時期から、俺の世界は少しずつ変わり始めた。まだ俺が中学生にもなっていない頃だった。
毎日病室に通って、宿題をしてる俺を見ながら、母ちゃんはいつも優しく微笑んでいた。
「――――私はいつでも、貴方を見守っているからね。」
なんて母ちゃんが言うから、俺は笑いながら思ったんだ。「母ちゃん、何言ってんだよ。俺、プロサッカー選手になるんだぜ?一緒に見ててくれよな!」って。
でも、心のどこかでは分かってたんだ――母ちゃんはもう良くならないって。
母ちゃんはいつも冷静だった。俺が学校でやらかした時も、絶対に怒らなかった。
「じゃあ、どうしたら次はもっと上手くやれると思う?」
って、俺に問いかけてくるんだ。そんなん、ガキの俺が答えられるわけねぇだろ!って思いながらも、その言葉にいつも救われた。どんな時でも、母ちゃんは俺のことを信じてくれてた。
そして、母ちゃんが亡くなった日――。
俺は彼女の手を握りながら、心の中で誓ったんだ。
「俺は……母ちゃんが教えてくれた強さ、一生忘れねぇからな!」
その時から、俺は決めたんだ。どんな困難があろうと、負けないって。異世界だろうが、魔王だろうが、俺は絶対に勝ち抜く男になるんだって。
母ちゃんはもういない。でも、俺の心の中にはいつも母ちゃんの声が聞こえている気がする。
「――――――雷丸、貴方は特別な子よ。」
その言葉が俺の支えだ。どんなに苦しい時でも、どんな敵が立ちはだかっても、俺にはこの言葉がある。
だから、俺は進み続ける。誰にも負けない、俺だけの道を――ハーレム王として、堂々と胸を張って生きていくんだよ!
それが、俺と母ちゃんの約束だからな。
ーーーーーー
――――普通でいい?特別じゃなくていい?
母ちゃんが、俺にそんなこと言うわけねぇだろ。瞬間、胸の奥から怒りが沸き上がる。
「……あ゙ぁ゙?」
俺はゆっくりと口元を歪めて、その偽の記憶に向かって睨みつけた。思い出すんだ、母ちゃんが俺に言ったことはいつだって違った。
――――雷丸、お前は特別な子よ。誰が何を言っても、自分を信じなさい。
そうだ。母ちゃんはいつだって俺を信じてくれたんだ。俺の生き方を教えてくれた母ちゃんが、こんなこと言うはずがねぇ。
「ふざけんなよ……!!」
拳を握りしめ、全身に力を込める。こんな嘘っぱちの幻に騙される俺じゃねぇ。
「普通でいいだぁ!?ふざけんな!!」
怒りが声になり、俺の全身を突き抜ける。
「母ちゃんはな、いつだって特別な俺を信じてくれてたんだ!お前みたいな偽物が、何を偉そうに言ってやがんだ!」
そうだ、俺の母ちゃんはいつも俺に『頑張れ』って言ってくれてたんだ。異世界でも、魔王と戦っても、どんな困難があっても、俺は負けないって決めたのは、母ちゃんが俺を信じてくれたからなんだ!
「俺は、誰よりも頑張って、母ちゃんが誇れる男になるって決めたんだよ!そんな俺に……『普通でいい』なんて、言うんじゃねぇぇぇ!!」
俺はその場で偽物の母ちゃんに向かって、拳を振り上げる。
「この偽物があああぁ!!」
その瞬間、目の前の偽りの風景が崩れ去り、現実が一気に戻ってきた。
俺は立ち上がり、怒りを胸に秘めてこう言い放つ。
「母ちゃんとの約束があるんだよ!俺は絶対に諦めねぇ!誰がなんと言おうと、俺は前に進むんだ!」
これが俺の覚悟、俺の強さ。そして、それが本物の俺の――ハーレム王としての信念なんだよ。
「覚悟しろ……俺の雷で、全部吹き飛ばしてやる!」
完全に目を覚ました俺は、全身の力を一気に集中させた。拳を振り上げ、全力で地面を蹴り、一気に突進する。
体中から放たれる雷が周囲を焦がし、ユーリーの虚ろな目にも驚きの色が浮かぶ。
「――――――――雷撃拳!!」
拳がユーリーに炸裂し、稲妻が彼女の体を包み込む。ユーリーは驚愕の表情を浮かべながら、徐々に体が崩れていった。
ユーリーの声が次第にかすれ、体が一気に光の中に消えていく。そして、完全に消滅した。
俺は拳を握りしめ、ふっと息を吐き出した。辺りを見回すと、すべてが静まり返っている。
改めて思う。
「――――うん、やっぱり俺ってカッコいいよな!!」
俺は笑みを浮かべながら、肩を軽く叩いて自分を褒めた。
これが俺、飯田雷丸だ。どんな困難が来ても、特別な俺が全部乗り越えてみせる。ハーレム王として――そして、母ちゃんが誇れる男として。
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