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7.山奥の廃村へ

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エリザベスは、産まれて初めてバイクと言う物に二人乗りをした。
ヘルメットを被り必死に光の背にしがみついていたので景色を見る余裕などは全く無かった。

「フゥー、早いけれど凄い音だわ。私は好きじゃ無いわ。」

「ははは。慣れたら気持ちが良いぞ。さあ、ここからは山道を歩く。お嬢ちゃんはここで休んでいていいぞ。」

光が嫌味に言うとエリザベスも黙ってはいなかった。

「あら、私の何を知っていると言うの?あなたには負けないわよ。」

「その元気、良いねぇ~。
泣きを見せるなよ。お嬢ちゃん。」

(何よ!お嬢ちゃんお嬢ちゃんって。こんな道くらい吉之助さん達についてよく歩いたわ。)

腹を立てると何だかパワーが湧いてきてグイグイと山道を進む事が出来た。
深い森の香りと鳥の囀りに吉之助の事を思い出さずにはいられなかった。

あの時代、山は直ぐ隣にあった。
よくこうやって彼と山菜取りをしたり、願掛けに出かけたりした。

「エリ、こっちだよ。手を出して。」

大きな段差があると必ず彼は振り返り手を貸してくれた。
心地良い低音の声で私の名を呼ぶ。
私も一対で居たいから「はい、吉さん」と返事を返すの。


「、、、おい、おい!聞いてるのか?」

「えっ?何?」

「ほら、手。」

「えっ?」

完全に意識が飛んでいた。
光が声をかけていたのだ。

「手を出せ。ぼっ~と歩く程、辛いのだろ?」

そう言って手を掴み引っ張って歩き出した。
エリは思ってもいない行動にポカンと戸惑っている。

「あの、、その、、大丈夫よ。」

「おぶられるよりマシだろ?この長い坂を登りきったら到着だ。頑張りな。」

丁度、吉之助の手を思い出していた時にまさか現実に手を握られるなんて。
思い出の中の吉之助の手と違い光の手は暖たかい。
ふと我に帰り手を振り解こうとした時、光の手が離れた。

「着いたぞ。良く頑張ったな。ウィリアムこっちだ。」

ウィリアムと一条奈々美が光のいる崩れた小さな社に合流した。

「ああ。確かに当たりだよ。光、感謝するよ。もう2体近くにあるはずた。」

「ではウィリアム様、私はエリちゃんとこちらを探しますね。」

一条奈々美は、社跡の左手を指差した。

「私は後方を見るから光は右を頼むよ。」

「了解。任せてくれ。っと、その前にお嬢ちゃんコレを身につけておけ。」

ポイッとエリザベスに投げられたのは紐のついた笛だった。

「あ~ら?光さん私のは無いの?」

嫌味っぱく一条奈々美が聞くと光も嫌味っぱく返した。

「奈々美、お前は何回捜索に来ている?持ってて当然だろうが?」

「ええ。当然よ。」

そう言って服の下に隠してた笛をツンと取り出した。

「で、嬢ちゃんの分は?」

「う、、無いわ。忘れてた。」

「へぇー、発見を知らせたり危険を知らせるのに必要なのに?」

「私のミスよ。わ、悪かったわ。ミスを認めるわ。」

「正解だ。完璧主義でもミスる事はある。最初からそう素直に言えば頭を撫ぜてやったのにな。」

「また子供扱いして!」

抗議する一条奈々美とは対照的に光は彼女を見下ろしてニヤリとして抗議を楽しんでいた。

「さあさあ、二人ともふざけて無いで捜索をしてくれ。もう一度言うぞ。2体だ。探して欲しい。」

いつものやり取りながら呆れ顔のウィリアムの掛け声で4人は行動を開始した。
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