初恋奇譚

七々虹海

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差出人

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 髪が届きました。
 短い髪をどうにか紐で結ってあります。

『欧米では、愛しい人に髪を贈る習慣があるそうです。
次は何を差し上げれば僕の気持ちを分かってもらえますか』

 僕。この方は僕と同じ男性なのです。しかも最初は伝えたいだけと書いてあったはずなのに、今は分かってもらえますかと書いてるのです。この数日でこの方に何があったのでしょうか。僕の考えすぎでしょうか。

 明日はいよいよ試験です。手紙は持っていって正一くんに見せようと思います。学業で使う物以外を持っていくなんて、緊張で胸が張り裂ける思いです。でも1人で抱えるのは怖いのです。親にはなぜすぐに見せなかったと問われそうで怖いのです。正一くんには先日話してあるので少しは気楽に話せそうです。心は気楽ではありませんが。
 
 こうなっては正一くんの隣だけが安らげる場所だと思います。試験が終わればまた一緒に帰って触れあう事も出来るでしょう。
 それは、僕に勇気をくれる気がします。早く正一くんに会いたいです。明日は試験です。これ以上手紙が届かないと良いなと思います。
 明智先生…僕に知恵を貸してください。

*

 正一くんに見せました。手紙を持って次の休みに訪ねてきてほしいと言われました。正一くんの家にお邪魔したのは数回程度です。親御さんに僕たちがそういう関係であると知られてしまわないでしょうか。手紙の件もですが、それも心配です。手紙は全てとってあるので、全部もっていくつもりです。
 爪4通と髪1通。大した荷物にはなりませ
ん。

*

 とうとう清一くんに手紙の差出人は僕だと言える時が来ます。きっと、喜んでくれると思います。自分を想って自分の一部を差し出した僕に感激し、いつものように抱き締めて口づけをしてくれることでしょう。楽しみでなりません。それからあの部屋の存在も。
 きっと喜んでくれます。注意しなければならないのは清一くんを叩かないことだけです。武道家でもある僕は自分の自制心は頼りになると思っているので、何とかなると思います。休日が楽しみです。

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