白衣を脱がさないで

七々虹海

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小さな頃

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 小さい頃の俺は小児喘息もちで、入退院を繰り返したり、学校休みなことも多くて。隣に住んでるたくちゃんだけはずっと大の仲良しだった。
 たくちゃんは俺が具合悪くなるとすぐ気がついてくれて、自覚ない時でも「みーちゃん熱あるかも」って、おでことおでこをコツンて合わせて熱を確認すると、「俺より熱いから熱あるよ。おばさーん!みーちゃん熱ある~!」

 俺のお母さんよりも早く気づいたりするから、たくちゃんは俺の中で『ヒーロー』だった。お母さんも「たくちゃんはナイトみたいね」って。
「ナイト?」
「翠を守ってくれる強い騎士様の事よ」
 お母さんは子供にいたずらっぽく教えてくれた。
「俺、みーちゃんのナイトになる!」
 
 寒い冬だった。俺は大きな発作を起こした。それは風邪をひいて、たくちゃんがお見舞いって言って夜来てくれてた時の事だった。

 横になってたけれど、たくちゃんが来てくれたからベッドに起き上がって、学校での今日の出来事を聞いてたんだ。
 そしたら『ぜーぜー、ヒューヒュー』あの嫌な音がしてきて息が苦しくなってきて、さっきまで普通に会話してたはずのたくちゃんに何も話せなくなった。

 枕元に置いてあるパルスオキシメーターをたくちゃんが取って、指に嵌めてくれたのは分かった。
「おばちゃーーん!みーちゃん発作!今酸素はかってるから!」
 お母さんが吸入を持ってきてくれたみたいだった。
「おばちゃん!みーちゃん酸素93%までしかあがらない!」
 
 お母さんが吸入をくれて、吸い込んで、少しずつ少しずつ呼吸が落ち着いて楽になっていく。その間たくちゃんはずっと背中を摩りながら「みーちゃん大丈夫、みーちゃん大丈夫」って声をかけてくれていた。
 たくちゃんの声が聞こえて、手の温かさを背中に感じられれば大丈夫って気がしてた。

 呼吸が落ち着いて、楽になったのを見たら、お母さんはかかりつけ病院に受診した方がいいか電話してくるねと部屋を出ていった。
 「みーちゃん、苦しくない?」
 こくりと頷く。たくちゃんがいてくれて、どれだけ心強かったことか。

 一応受診においでという話になり、車に乗せられた。たくちゃんは「俺も着いてく!」と言ってくれたけど、お母さんが電話したんだろう、たくちゃんのお母さんが連れにきて、引き摺られて帰っていった。「匠、病院まで行くのは迷惑よ」って言ってた。
 たくちゃん、着いてきて側に居てくれたら安心なのになぁ。


 その次の日に会った時の事だった。
「みーちゃん、俺!小児科のお医者さんになるから!みーちゃんの病気治すから!」
 たくちゃん、僕は小児喘息だから、大きくなるにつれ治るって言われてるし、たくちゃんがお医者さんになる頃には僕も大人なんだよ?って思ったけど、そう言ってくれたのが嬉しくて、大きな声で「うん!頑張ってね!」って返したんだ。

 引っ越したのはその冬が終わって、温かくなってきた頃。一旦空気の良い、お父さんの実家に住もうって話になったんだ。

 
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