悠生が息をする為の方法

七々虹海

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体温

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 まただ。どうしてこうなった。どうにもこのおっさんといるとペースを乱される。それが別に心地好くないわけじゃない自分にも驚きだ。

 シャワーに連れていかれ、ギリギリまで抵抗した。そんな、他人と素っ裸でシャワーなんて。小さい頃は施設で風呂に入れてもらってたんだろうけど、それとこれとは全くもって別だ。別問題だ。

「どうせだから血を流すだけじゃなくて頭も洗っちゃったら楽じゃないですか」だの「あなた今片手使えないんですから、時間かかりそうですよね、そんなの待っててもう服を脱いでしまった私が風邪でもひいたらどうするんですか」だの、とにかく何だのかんだの言ってくるから、頭がついてけなくなって、気づいた時には全身髪から爪先まで洗ってもらって綺麗になり、今は湯船に、背中におっさんの胸筋あたりの体温を感じながら湯船につかっている。なんだこれ。

 ふと左手の包帯が目につくと、さっきのターゲットの気持ち悪いイチモツが頭に浮かんでくるし、気にしない気にしないって考えると背中におっさんの体温を感じてしまって、暑くなって顔を反らすと包帯を見ての繰り返し。
 もう俺はどうしたらいいんだ。しかし風呂は温かい、気持ちいい。1人で暮らすようになってから、シャワーばかりだったから。湯船に浸かるのはどのくらい振りなんだろう。
「少しは落ち着きましたか?」
「お、落ち着くわけねぇだろうが!こんな裸で洗われて後ろにあんたいるしどこ見たらいいかわかんねぇし!」
「裸じゃないと洗えないじゃないですか」
「大体、狭い湯船に男2人って、狭いだろうが!」
「うちの湯船狭いですか?」
「うっ……。狭くない……」

 うちのアパートのユニットバスはどうみても1人用だし、1人だけ入るのに風呂浸かるのも、ゆっくり浸かる趣味もないから、越してから使った事がない。
 対してここなら、細身の俺とおっさんが入った所で狭さは感じないけれど、目のやり場とか手の置き場所が分からなくて困る。
「何があったか聞かれたくないなら聞きませんけど、温まると少しは落ち着きませんかね~」
「何があったかとか思い出したくないし」
「ふむ」
 徐に顔を斜め後ろに向けられ、おっさんの顔が焦点合わない近さだななんて思ってる間に口が塞がれた。
 食べられてるかのような感覚。隙間がない。
 風呂場で温まった唇の、中の舌は熱いくらいで、口腔に割って入ってこられただけでのぼせそうになった。
 舌は絡めればいいんだっけ。よく覚えてないけど、動きについていくなんて無理で、くぐもった声だけが漏れでてしまう。息継ぎは?鼻息荒くなるのも恥ずかしいから、我慢してしながら応えてるとボーっとしてきた。
「はふっ、んっ、んっ、」

 声。はしたないけど、出した方が息継ぎできる。態勢が苦しい。けど、さっきの出来事を忘れるには苦しいくらいが、今目の前のおっさんの事で頭がいっぱいな方がずっと、ずっと幸せな感じがした。


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