悠生が息をする為の方法

七々虹海

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市川の過去

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 生まれた時から父という存在はいませんでした。母は絵にかいたようなあばずれで。

 若い頃はモテるのを良いことに二股以上は普通で金も貢がせてた時代もあったそうです。

 子どもに語って聞かせるんだからロクな親じゃないでしょう。

 『若さ』という付加価値がなくなっても金を出す男は少なくはなく、色んな男がやってきては母を抱き金を置いていきました。普通のシングルマザーの親子が住むような広くもないアパートで。当然のように、行為中の音や声を聞いて育ちましたね。

 グレない方がおかしいんじゃないですか。
男達が金を出してくれるから、何か勘違いしてしまったんでしょうね。

 昼間の仕事を辞めてしまったんですよ、あの人。男達が置いてく金で生活できる、酒も飲めるってね。

 えぇ、あの時仕事を辞めたのが堕落の始まりだったんでしょうね。

 母の所に来る男だって、昼間は働いてるんですから、昼間は暇をもて余すようになったんです。

 自然と、酒に手がのびる。酒量が増える。男だって、昼間から飲んでぐてんぐてんになった、老いの影も出てきたような女抱きたくなくなるじゃないですか。そりゃぁ、客が減り始めましたね。

 んで、他所の縄張りにも足を伸ばして、その土地の用心棒に叩かれたり。女だからって加減してくれたんでしょうけど、顔を殴られてたので、益々仲良くしてた付き合いの長い男も去っていく。

 潮時なんだって気づく頭はとうに、どこか行っていたんでしょうね。当時高校に入ったばかりの、俺のバイトの金を当てにするようになり、男が来なくて身体が寂しくなり始め、あろうことか息子の俺に手を出そうとしたんですよ。

「博美ちゃん、博美ちゃんはママのここから産まれたんだもんね~。産まれてきたとこにチンチン入れるくらいできるでしょ。ほら、若くて有り余ってんだろうから出しなよ!」

 母を見て育ち、女にはうんざりしてましたけど、一応自分を育ててくれてる母だという情はあったんですよ。

 けど、その言葉を聞いて、もう母の頭はおかしくなってしまったんだなと悟りました。滑稽で笑いが止まりませんでしたよ。

 俺がいても母の為にならない。一人になった方がこの人は立ち直る事が出来るかもしれない。余計堕落するかもしれないけど、賭だなと思いました。そのまま家を出ましたね。
後ろで叫んでる母の声が聞こえなくなっても聞こえてる気がして、遠くへ遠くへ。母の手が届かない所まで。

 今どうしてるかって?知りませんよ。調べようと思えば調べられるでしょうけど、そこまでの興味がもてません。母にも、見たことない父にも。そんなわけで、女に興味をもつのは無理でした。

 自分より幼い、穢れてなさそうな可愛い、無垢な顔立ちの子供にばかり惹かれるようになったのは、そんなわけなんでしょうね。古い事を思い出してしまいましたね。
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