Strawberry Film

橋本健太

文字の大きさ
51 / 89

第51話 のんびりした日々

しおりを挟む
 京都の写真館での仕事は、慌ただしくなくのんびりとしたペースで取り組めた。薫と久美は写真家なので、一般人相手の撮影も手慣れたものである。
「はい、撮ります。」
被写体は動かないので、スムーズに撮影出来る。老若男女と幅広い年代の人達を撮影し、ゆったりした日々が続いた。久美とは、ラブラブで、両親も久美の写真の腕を絶賛。
「やるね、久美ちゃん。」
「ありがとうございます。」
薫と過ごした冒険の日々を、明るく語る久美。一緒に撮影の仕事をしたのは2002年6月。17th2002FIFAW杯日韓大会の時であった。ペアを組み、W杯に熱狂する人々と日本代表を追いかけた。
「稲本決めたー!!!」 
「日本の初勝利に立ち会えるなんて、幸せ者よね。」 
2007年の夏には、アジアカップとアジアの今という撮影で、東南アジアへ赴き、熱狂・混沌・動乱を収めた。
「ほぉ、そんなことがあったんやな。」
「はい、ジャーナリストの長井健司さんが射殺された事件は、衝撃的でした。」
ミャンマーで反政府抗議活動が起き、大規模な動乱が起きていた。銃撃戦も起き、薫と共に銃撃から逃げながら、シャッターを切りまくった。
「これはマズイわ!!!」
「逃げて逃げて、撮る時は撮る!!」
銃声が響き、ジャーナリストの長井健司さんが射殺された。帰国後にニュースで知り、大変な衝撃を受けた。薫自身も思い悩んだ。
「グラビアカメラマン如きが、中途半端な気持ちでジャーナリズムの世界に、首突っ込んだらアカンかったんや…。」
だが、一方でジャーナリズムの世界に魅力を感じたこともあったようだ。
「世界のスリリングな場面で、そこにあるリアルを収める。これはグラビアとは、また違った興奮があるな。一歩間違えると、殺されるような極限状態。ここで撮れるものは非常に価値がある。」

 父は、薫が久美と共に海外での撮影などを経て、大成したということに感銘を受け、真摯に話を聞いていた。
「そうか、薫も成長したな。」
薫も心の中で、ジャーナリストになるという夢を抱きながら、日々の仕事に真面目に取り組んだ。春になり、おめでたいニュースが来た。ここ数日、体調が優れなかった久美。妊娠検査薬で診た結果、妊娠したことが分かった。
「薫君、私、妊娠した。薫君との間に子どもが出来るよ。」
薫は、久美を抱きしめ、心から喜んだ。
「良かったな。」
子どもが産まれれば、薫は父になる。子どもには、カメラマンとしてだけでなく、人間としての立派な背中を見せられるか、が大事になると考えた。でも、自分は一人じゃない。久美がいる。共に育んでいこう、と決心した。久美は母親になる。妊娠している間は、自分が働いて収入を得る、そのことに専念した。

 グラビアアイドルの撮影からは退いたが、芸能界の流れはチェックしていた。
「AKB48か。ノリに乗ってるな。」
秋元康が設立したアイドルグループ AKB48。秋葉原を拠点とするグループで、「会いに行けるアイドル」というコンセプトで活動している。2009年から選抜総選挙を行い、上位に入ったメンバーが、選抜メンバーとしてシングル曲に抜擢される。48グループは拡大し、名古屋にSKE48が出来、地名は関係ないが、SDN48も出来た。アイドルの他に、J-POPではEXILEが全盛期が迎え、ヒット曲を連発していた。
「このEXILEもカッコイイな。」

 6月になり、薫はW杯を観戦する。W杯は日本が初出場を果たした16th1998FIFAW杯フランス大会から観続けており、17th2002FIFAW杯日韓大会では、現地で試合観戦&撮影を行なった。今回の19th2010FIFAW杯南アフリカ大会は、W杯史上初のアフリカでの開催であり、新時代を感じさせる。だが、この当時の岡田武史率いる日本代表は、直前の国際試合で連敗を喫し、期待値がかなり低かった。
「今回のW杯、大丈夫なんかな?岡田武史監督、批判されとるけど…。」
「まぁ、始まってみな、分からんわな。初戦で勝てば、状況は好転するやろ。」

19th2010FIFAW杯南アフリカ大会
グループE
オランダ
デンマーク
日本
カメルーン

オランダは、ファン・ペルシー・ロッペン・スナイデルなどを擁し、攻撃力が高い。デンマークは過渡期にあるが、エースのヨン・ダール・トマソンは侮れない。カメルーンはアフリカ最終戦では1分1敗と出遅れたが、4連勝で巻き返した。エースのサミュエル・エトーがキャプテンを務めるが、リゴベール・ソングと反りが合わず、チームは不和である。岡田JAPANは、守備重視のスタイルで挑むが果たして…。

  ドイツW杯はTVで観戦。南アフリカW杯は、アフリカは未知の世界であるのと、南アフリカは殺人事件発生数が世界一と治安が悪い。仕事ではないので、わざわざ治安が悪い場所に行く必要は無い。ということでTVの前で観戦。

2010年6月14日 第1戦 VSカメルーン
日本時間22時に放送。「不屈のライオン」と呼ばれたアフリカの雄 カメルーン。薫は2001FIFAコンフェデ杯日韓大会で、カメルーン代表を生で見たことがある。
「エトーとソング、懐かしいな。」
日本は1トップで守備を固める。効率良くカウンターで攻めていく。エースのエトーに対しては長友佑都が対応し、徹底的に封じる。39分に遠藤保仁のパスから、松井大輔がドリブル突破を仕掛け、左サイドにクロスを挙げる。
「本田、行けぇー!!!!」
ボールをもらった本田圭佑が冷静に決め、日本が先制する。その後は集中して守りきり、1-0で勝利を挙げた。
「やったー!!」
「本田圭佑か。名前覚えといたるわ。」

2010年6月19日 第2戦 VSオランダ
日本時間19時に放送。夕食を食べながら観戦。勝てば決勝トーナメント進出の日本。ファン・ペルシー・ロッペン・スナイデルなどの強力な攻撃陣擁するオランダと対戦。守備を固めて、攻撃に耐える日本。前半は0-0で折り返す。
「これ、点取ったらイケるやんね?」
「後半が勝負やな。」 
〆の茶漬けを平らげ、茶を一口飲み、後半戦を見守る。53分にゴール前のこぼれ球を、スナイデルにボレーシュートで決められ失点する。それ以上追加点は奪われなかったが、0-1で敗れた。2戦終えて、オランダが2勝で決勝トーナメント進出。カメルーンは2敗でグループステージ敗退。日本とデンマークが1勝1敗で並び、直接対決で全て決まる。

2010年6月24日 第3戦 VSデンマーク
日本時間3時に放送。この日の仕事は10時からなので、終了後に2時間は仮眠する。日本はデンマークの猛攻に耐え、17分にフリーキックを獲得。キッカーは本田圭佑。久美は妊婦であるのと、時間帯が深夜なので、静かに観戦。公式球 ジャブラニは軌道がブレやすく、フリーキックで苦労する。だが、本田圭佑はそれをモノにして、無回転フリーキックでゴールを決めた。
「おぉ…。よしっ。」
31分にも、再びフリーキックのチャンス。キッカーは遠藤保仁。ガンバ大阪と日本代表でフリーキックの名手となっている。
「よしっ、ヤットさん行け。」
遠藤保仁もジャブラニを使いこなし、ブレ球フリーキックでゴールを決めた。前半は2点リードで折り返す。後半も日本ペースだったが、81分にPKを与えてしまう。キッカーは、ヨン・ダール・トマソン。GK川島永嗣は防いたが、こぼれ球を押し込まれ、1点差に詰め寄られる。だが、日本も負けじと87分に本田のパスから岡崎慎司が決めて突き放す。そして、3-1で勝利し、2勝1敗で決勝トーナメント進出を果たした。薫は熟睡し、時間差で久美と朝食。
「薫、上機嫌やね。」
「あぁ、ミルクティーが美味いな。」
ミルクティーとハニートースト。甘党でもある薫。久美との平穏なひと時を楽しむ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...