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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第117話 オッサンの下心

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   冬も深まり、クリスマスも近づいてきた頃、皆は調査に励んでいた。ある日の昼休み、雅文と美夜子は、前回の依頼を解決させた後に起きた奇妙な事件について話していた。
「雅文、ニュース見た?」
「ニュース?」
既に昼食を済ませ、美夜子は食後のホットココアを飲んでいた。雅文は弁当を食べながら、美夜子の話を聞く。
「須磨での戦いの後に、砂浜に少女の変死体があったの。その変死体が、京子ちゃんをイジメたギャルと同一人物やったの。」
思わぬ一言に、雅文は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「えっ?あの戦いの後に一体何が?」

   あの日、DEATH MOSRAを撃破し、ボスのマキと幹部3人と手下13人は逮捕された。現場から3人が逃亡した。生存者の証言によると、あの時、ミナと男子2人は警察からは逃げ隠れて、パトカーが去るまでやり過ごすことが出来た。
「ハァハァ、まさかこんなことになるなんてな。」
手下の男子2人は、黒いスカジャンとサングラスをかけている。
「探偵って言うてたな。もしかしたら、京子が依頼したんちゃうか?」
「それしか、考えられへんな。そうやったら、京子をボコボコにしたるから大丈夫や。」
ダークウェブに公開した動画には、DEATH MOSRAが雅文と美夜子に敗北した様子が映し出されている。月が出た夜の、須磨海水浴場の砂浜。誰もいない冬の海に、波の音だけが聞こえる。そこに、黒い和服を着た少女が、黒髪をなびかせて現れた。10代とおぼしき様子で、その目は不気味な雰囲気に満ちていた。
「フフ、ダークウェブに動画を投稿しているから、どんなに強いかと思ったら、探偵ごときにヤられておる。大したことないわね…。」
少女の嘲笑に、ミナが食ってかかる。
「ハァ?何やのアンタ?和服とか時代遅れやし、喧嘩売ってんの?てか、アンタが名乗りなさいよ!!!」
「わらわか…。わらわは、百鬼夜行之衆の妖怪 霊少女 閻魔 奇羅と申す。」
「キラ?「「DEATH NOTE」」か「「鬼滅の刃」」か知らんけど、舐めとったら殺すで!!」
試しに男子が1人襲いかかるが、少女が手を翳すと、黒いオーラが出て来て、妖気を吸い取られてミイラ化した。
「えぇぇぇぇ!!!!!!」
「コイツやべー!!!!!」
残りの男子は、一目散に逃げ出し、警察に通報した。取り残されたミナは、少女を挑発し、パンチを食らわす。
「舐めんなオラァ!!」
「フフ、わらわを倒せるとでも?そうじゃ、ここは海。夜の海には怨念がおる。さぁ、わらわに集まれ。」
海から水死者の怨霊が集まり、少女の背中に宿る。怨念の集合体は1つの形になり、大きな骸骨の化け物になった。
「えっ、まさか、ガシャドクロ?」
「フフ、さぁ、ガシャドクロよ。その小娘を食すが良い。」
ガシャドクロが襲いかかり、ミナは食い殺された。

   怪奇現象のような事件の話を、雅文は真摯に聞いていた。
「ほうほう。百鬼夜行之衆か…。」
「六凶の一角のようね。百鬼夜行というだけあって、ひょっとしたらホンマの妖怪達かもしれへんよ。」
「妖怪か、会ってみたいな…。」
臨死体験をした雅文は、妖怪にも興味津々である。昼休みが終わり、仕事を再開。14時になると、依頼人が来た。グレーのスカートスーツを着た40代と思しき女性で、雫が対応する。
「こんにちは、中村探偵事務所の烏丸雫です。今回はどういったご用件でしょうか?」
「こんにちは、私は大阪から来ました。」
依頼人の名前は、宮島悠里 44歳。大阪府大阪市出身。淀屋橋のオフィス街で管理職として働いている。彼女は会社の財務を担当しており、金の流れも把握していた。ある日、不正に会社のお金が抜かれていることに気づいた。
「ん?一体何で?」
彼女の他に、財務を担当している者がいた。彼の名前は宗谷徹(とおる) 46歳。かつてミナミで金融屋を経営していたが、疫災の影響で破産。流れ者のような形で、今の会社に入った。金融屋をしていた経験からか、金にがめつく、かつ女癖も悪く、梅田や難波で女子高生をナンパしてはフラれている。悠里は一度、彼を問い詰めたが、ふてぶてしい態度でしらばっくれるばかり。
「さぁ?何の話か知らんな?ここは喫煙室や。タバコ持ってへんのに入って来んなや。」
「私の他に、管理してるんは貴方やんね?梅田で女子高生ナンパしてはフラれて、北新地のキャバクラで湯水の如く浪費して、貴方しか考えられへんのよ。」
彼は開き直り、灰皿代わりにしていた缶コーヒーの空き缶にタバコを捨て、壁ドンで詰め寄り、ニコチン臭い息を吐いて、悠里の胸倉を掴んで挑発した。
「お前、誰に口聞いてるんや?おぉ!?ワシはな、ミナミでその名を知らんモンはおらんトイチの金融屋やったんやぞ!舐めた口聞くなや、更年期のオバはんが!」
「ハァ!女子高生ナンパしてるようなエロ親父に言われたくないわ!」
「舐めとったらアカンぞ!」
思いっきり鳩尾にパンチし、うずくまる悠里に空き缶を投げつけ、彼は立ち去った。

 ここまでの話を聞いて、雫は憤っていた。
「金の亡者で、セクハラパワハラのクソ野郎やな、ソイツ。」
「彼なら、横領しかねないと思ったんです。幸い、会社にはそこまで損害は無いので、今のうちにと依頼をしました。」
調査内容は、企業犯罪調査。彼女から、彼の写真を受け取り、調査計画を立て、調査費の計算を行う。前金として10万円受け取り、調査期限は3日。早速、今夜から調査を開始する。相棒として、美夜子と共に調査を行う。車で大阪市に移動。御堂筋を走り、梅田を過ぎて、淀屋橋に着いた。中之島の近くでオフィス街があり、大阪造幣局や大阪市役所もある。
「ビルばっかりやな。」
「オフィス街ですね。」
悠里の働くオフィスビルに張り込み、ターゲットが出てくるのを待つ。
「金の亡者雇ったらアカンで。」
「金融屋って、いいイメージが無いですね。雫さん。」
「それに、SDGsに「「ジェンダーの平等」」ってあるやん。それをするんやったら、権力あるポジション。会社で言うたら、管理職とかから、オッサンを締め出さなアカンで。」
「それは、日本刀で斬り殺すとかですよね。」
そんな話をしている間に、ターゲットが出てきた。気づかれないように車で尾行していくと、北新地に着いた。車を駐車場に停め、尾行すると、高級そうなキャバクラに着いた。そこで客として、潜入捜査を開始。ターゲットの席の近くに盗聴器を置く。
「飛鳥ちゃ~ん、今日も可愛いね~!」
「もう飲んでるん?徹さん、ノリノリやな~!」
鼻の下を伸ばし、キャバ嬢にデレデレになる。
「膝枕ちて~。」
この光景に、2人はドン引きしていた。
「日本刀で、首刎ね飛ばしてやりたいわ。」
「美夜子ちゃん、まだ我慢や。」
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