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第17話:水の乙女

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 『貴方の魂は、清めの力に満ちています』
  エレアヌの【声】に導かれるように、リオの身体が青みがかった銀色の光を放ち始める。
  あどけなさの残る顔に、大人びた凛々しさをもつ表情が浮かぶ。
  泉の側に膝をつくと、リオは片手を水の中に突っ込んだ。
  直後、彼が放つ光は銀色の閃光となった。

 「ギャアアッ」
  おぞましい断末魔の悲鳴が上がり、水面に黒い水が盛り上がる。
  それは、ドロドロとしたゼリー状の物体と化してゆく。
  アメーバを思わせる魔物は、全身から湯気らしきものを放って蒸発し始めた。
  リオの目前で、黒い半液体の魔物の最後の一片が、まるでフライパンに落とされた水滴の様に消え去った。

  清らかに澄んだ泉には、透明な水が静かに湧き出し始める。
 「ありがとう」
  柔らかく響く声がして、水面に一人の乙女が現れた。
 「……水の妖精アスリィル……」
  呟くリオ(リュシア)の目前で、アクアマリン色の髪と瞳をもつ乙女は、ドレスのように長い衣服の裾を左右の手でつまみ、西洋の貴婦人の様に優雅に一礼する。
 「お帰りなさい、友よ。貴方が戻ってくる日を、ずっと待っていました」
  その微笑みは、親しい者との再会の喜びに満ちていた。
水の妖精アスリィルは、この姿を見てどう思う?」
  リュシアの意識が沈み、リオの心が浮上して問う。
  漆黒の髪と瞳に変わった姿を見ても、乙女の笑みは変わらない。
 「姿は違っても、貴方は貴方。私達妖精族の友であることに変わりはありません」
  アスリィルと呼ばれる乙女は答えた後、不思議そうに首を傾げた。
 「何故不安そうなのですか? 貴方は自ら望んで、あちらの世界に転生したのでしょう?」
  意外な言葉に、リオは息を飲む。
  黒い色を嫌う筈の白き民、その長が何故、日本人に生まれ変わる事を望んだのか?
「まだ、そこまで思い出してはいないのですね」
  優しい微笑みを浮かべ、水の妖精は高く澄んだ声で予言めいた言葉を告げた。

 「『闇に勝つ力は、闇を恐れぬ心。すべての魂を救えるのは、輪廻を信ずる思い』これは、リュシアとしての貴方が世を去る前に、私達に語った言葉です」
  そして、彼女はゆっくりと両手を広げる。
 「何故その姿に生まれ変わる必要があったのかは、きっとそのうち思い出せますわ」
  薄青色の空間に流れが起こり、リオの身体を上へと押し始めた。
  戸惑いながら、リオは上へと流されてゆく。
  そんな彼に、乙女はまた笑みを向けた。
 「そろそろ地上に戻った方がよろしいですわ。貴方を信ずる者が心配しておりますから」
  その笑顔が、次第に遠くなってゆく。
  澄んだ泉が小さくなり、やがて一点の光と化した直後、リオは井戸の側に立っていた。
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