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第1章:プルミエ剣術大会

第5話:ミノタウロス汁とスライムシャーベット

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青野家の土産を確保した後、筋肉トリオと日本人トリオは祭りの屋台用とお城の差し入れ用に10頭ほどミノタウロスを狩った。
といっても渡辺と森田は「解体」と「収納」専門だが。
渡辺曰くアーシアに転移すると「ストレージ」「鑑定」「解体」はもれなくついてくるそうな。
手をかざして「解体」と言うだけでポンッと音をたててミノタウロスが肉類・皮・骨・角に解体される。
肉は部位ごとに分けられ、その中には和牛と同じくサシが入った霜降り肉もある。
スーパーの精肉コーナーに並んでるような白いトレーに乗ってラップまでかけられた肉になるのは奇妙な光景だ。
「なんでこんな日本風なんですか?」
便利だけどファンタジー感がイマイチ、と苦笑する森田。
「スキル作ったのが日本人だからね」
渡辺が言う
「って、それもしかして社長とか言いません?」
「そう。よく分かったね」
「社長のレジェンドが尽きない件!」
そんなやりとりをする2人のところへ、今日の必要量を確保した冒険者たちと星琉が戻って来た。
「お疲れさん。セイルのストレージに入れたミノはそのまま屋台の連中に売れるから解体しなくていいぞ」
マッチョのリーダーが言う。
「血抜きとかしないんですか?」
星琉が聞くと
「ストレージで鮮度が保てるからな。それにミノの血も屋台の『ミノ汁』で使うから連中に丸ごと渡してやればいいさ」
リーダーが答えた。
「汁物に血ですかぁ~生臭くなりません?」
ワイルド感漂う料理に軽く引く森田。
「香草で臭みは消すからそれほどでもないぞ。初めて食う時は多少気になると言う奴もいるけどな」
「獣人族の大好物だぞ。セイルなら好みに合うんじゃねぇか?」
「って俺、獣人認定?」
マッチョたちの中では星琉はヒューマンじゃなくなってるようだ。

丸ごとミノタウロスを売りに屋台へ行くと、ダイナミックな丸焼き風景が見られた。
「お、イリア様を助けた兄ちゃんか」
「は、はい」
で、やっぱりここでも知られている。
「ケモ耳とシッポが無いけど変身で隠してるのかい?」
そして、獣人認定。
「いやいやいや、地球には獣人いませんよ?」
苦笑しつつ否定する星琉。
「そうなのか?じゃあ地球人は獣人と似たステータスなのかい?」
「個人差がありますよ~それも大差で!」
今度は森田が否定した。
「まあそれはともかく、味見してみるかい?ミノ汁」
「いただきます!」
屋台のオヤジに言われ、食べる事には遠慮しないセイル即答。
「多分、あれと似たようなものかなぁ?いただくよ」
渡辺は似たような料理を食べた事があるらしい。
「チャレンジャーだなぁ」
森田は辞退して2人の食レポ待ち。
ミノタウロスの骨付き肉でダシをとり、少量の血を入れ、ネギに似た香草やニンニクのようなスパイスで臭みを消したスープは、レバーっぽい味はするもののそれほど気にならないものだった。
「あれ?この味…ひいばあちゃん家で出してくれたスープと似てる!」
1口食べて知ってる料理を連想した星琉。
「懐かしい~!小さい頃はちょっと苦手だったけど今は平気で食えるなコレ」
元々好き嫌いが無い食べ盛り男子、ペロリと平らげた。
「もしかして星琉くんのひいおばあさんて沖縄の人かい?」
渡辺が聞く
「あれ?なんで分るんですか?」
星琉はキョトンとした。
「このスープ、沖縄の郷土料理の『牛汁』に似てるんだよ」
「あ、それだ!ひいばあちゃんがギュウジルって言ってました」
などと話しながら完食した2人を見て、森田も少しだけよそってもらい食べてみた。
(この味…レバニラと同じで好き嫌いが分れるなぁ…)
森田にはちょっと苦手な味だったようだ。

「初めてでミノ汁2杯も食うなんて兄ちゃんやっぱり獣人だろ」
マッチョ冒険者たちがガハハと笑う。
「いやいやいや、日本人だよ?」
「日本に産まれた獣人だな。ミノ汁食いたくなったらまた来いよ」
屋台のオヤジも言う。
「ありがとう!って獣人じゃないから!!!」
星琉はツッコミ入れたが、獣人認定は解けないようだ。

屋台でごちそうになった後、冒険者たちと別れた星琉たちはお城へ戻った。
王様のはからいで城内顔パスである。
「シェフに食材を差し入れたいんですが、厨房へ行ってもいいですか?」
「どうぞ。ご案内します」
侍女の案内で厨房まで行けた。
「シェフ、ミノタウロス狩れたので肉持って来ました~」
「おぉ、こりゃ一番美味いところじゃないか」
霜降り肉はやはりこちらの世界でも人気の食材らしい。
「お城のみんなで食べて下さい」
「ありがとう!夕食はステーキだな」
城のみんなが食べられるように事前に人数を聞いていて、充分な量を持って来た。
「で、こっちはスイーツに」
ベリースライムも出した。
「OK、これは凍らせてシャーベットにしよう」
シェフはスライムシャーベット作りを見せてくれた。
容器に取り分けて、氷魔法で凍らせる。
簡単なようで、温度や魔力の調節で食感が変わるらしい。
「よし出来た。少し味見してみるかい?」
「いただきます!」
シェフが差し出したシャーベットを、もちろん受け取る星琉。
渡辺と森田にも味見用のシャーベットが手渡された。
名前や赤い色から想像はついていたが、そのお味は…
「…やっぱりイチゴだ~」
間違いなくストロベリー味だった。
「これはチビたちが好きそうだなぁ」
星琉はシェフに頼み、弟妹への土産用も作ってもらいストレージに入れた。
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