34 / 169
勇者セイル編
第33話:エルフの里リオモ
しおりを挟む「テルマ村への魔物の大群襲来に、ラグスの里への大量の瘴気流入と剣歯虎による守護石強奪…。無関係とは思えぬな」
完全防音の国王専用書斎で、タブレットを前にプルミエ王ラスタが言う。
「加えてさっきリオモの里からも相談がきたよ。神樹の病を治す為に聖女に来てほしいって」
ラスタのボイスチャット相手、瀬田が言った。
「神樹が病に罹るなど、14年前以来ではないか」
溜息混じりにラスタは言った。
放課後、プルミエ王立学園の正門から出てきた星琉とイリアを迎える者がいた。
美しい純白の毛並み、澄んだ水色の瞳をした仔狐。
(え?リマ??)
星琉はすぐそれが誰か分かった。
「勇者様ぁ~」
仔狐は星琉に気付くとフサフサした尾を振り、ピョーンと飛び込んで来た。
そして、スッポリその腕の中に納まる。
「え~何そのコ可愛い~」
「セイルのペット?」
下校しようとしていた生徒たちが群がる。
「あら、リマちゃんじゃない」
イリアはあっさり仔狐の正体に気付いた。
「聖女様ぁ~」
仔狐が星琉の腕の中からイリアの方へピョーンと飛び移る。
「…り、リマ、なんかキャラ変わってない?」
昨日までの物静かな雰囲気とのギャップに星琉は困惑した。
「こっちが素なんです。お兄ちゃんが『こっちの方が可愛がってもらえるぞ』って言ってました」
(…っていうか誰に可愛がらせる気だ、ナル…)
星琉は心の中でツッコミを入れた。
年相応の子供らしく無邪気な雰囲気になった仔狐は確かに可愛い。
実年齢は分からないが、小学生くらいだろうか?
「うんうん、リマちゃん可愛いね」
イリアはニコニコしてリマを撫でた。
「で、森から出てここまで来たのは、何か用があったんじゃないか?」
星琉は聞いた。
「はい。エルフの長老様が昨日のラグスの森に出来た結界について聞きたいそうで、それを伝えに来ました」
(…そういや1000年に1つ出るかどうかの魔石だったっけアレ…)
言われて、ラグスの祠に寄贈した上位種エルク魔石を思い出した。
「それと、聖女様にも来てほしいって言ってました」
「私も?」
イリアがキョトンとした。
その後、王城へ帰って国王に報告すると、既にそちらにもエルフの里リオモから聖女への依頼が入っている事が分かった。
リオモは神樹を護る場所なのでラグスのように街の転送陣からは行けず、王城の奥に隠された転送陣での移動だ。
2人がリオモの里に着くと、すぐ長老の元へ案内された。
「お待ちしておりました」
長老といっても見た目は青年のエルフが穏やかな声で言う。
「話は聞いています。すぐに神樹の治療に入りましょうか」
パールホワイトのローブに身を包んだイリアも落ち着いた口調で言った。
その腕には、白仔狐リマが抱かれている。
長老の案内で神樹がある場所へ向かいながら、ラグスの祠に寄贈した上位エルク魔石の経緯を話す。
「ではアイラ様が授けた幸運の力で、あの神話級魔石をドロップされたと?」
「はい」
「歴史に残る幸運ですな」
「女神様のおちゃめな歴史が残りますね」
感心する長老に苦笑しつつ星琉は答えた。
途中まで来たところで、星琉の気配探知が敵の接近を報せた。
「長老様、イリア、リマ、ここで待ってて下さい」
言うと、星琉は2人と1匹を包むバリアを展開させる。
表面に魔法陣が浮かぶそれは、全方位・全種類の攻撃を反射する防御壁だ。
そして少年はフッとその場から消えた。
エルフの里リオモとその森を護る神樹。
その葉は神々がメッセージを伝えるのに使われており、アイラがいつも星琉のところに落としている木の葉もそれだ。
その樹に、イナゴに似た虫が襲いかかる。
「この!あっち行けよ!」
神樹を護る妖精たちが小さな剣を手に、追い払おうと必死になっていた。
突然、神樹を取り囲んでいた虫が一斉に消滅した。
妖精たちが驚いたところへ、青い騎士服姿の少年がスッと姿を現す。
少年は手にした刀を鞘に納めた。
「セイル~!」
「ありがとう!」
安堵した妖精たちがワッと寄ってくる。
星琉はここに来るのは初めてで彼等とは初対面の筈だが、妖精たちは独自のネットワークで情報を共有しているようだ。
「イリアも来てるよ」
星琉も既知の中のように妖精たちに言うと、長老とイリアのところへ戻った。
バリアの外側に、スズメバチに似た虫が複数死んでいる。
こちらも襲撃があったようだが、予測していた星琉が設置した反射魔法をまともに食らって敵は全滅していた。
神樹の森に、聖女の浄化と祝福の光が広がる。
半ば枯れかけていた大樹に新芽が吹き出し、新緑の葉へと育ってゆく。
星琉の頭や肩に乗ったりフワフワと空中に浮いたりしていた妖精たちが、一斉に舞い上がりその葉の茂みへと還ってゆく。
白仔狐リマが星琉の腕に抱かれつつ、澄んだ水色の瞳でそれを見上げる。
やがて、病が癒えた大樹が神秘的な燐光を放ち始めた。
『…ありがとう…』
星琉とイリアの頭の中に声が響く。
神樹の前に、緑の瞳と長い髪の女性が現れた。
『…勇者と聖女に、創造神から託された贈り物を渡しましょう…』
女性の左右の手のひらから光の玉が湧き出る。
2つの光の玉はフワリと風に流れるように空中を移動すると、1つは星琉の額に、もう1つはイリアの額に吸い込まれていった。
何か温かな力が、体内に宿るのが感じられた。
『…どうか、大切なものの為に使って下さい…』
言い残すと、神樹の精霊と思われる女性の姿は消えた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜
野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。
しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。
義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。
度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。
そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて?
※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~
夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する!
農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。
逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。
これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
