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勇者セイル編
第97話:雷神と龍神
しおりを挟む………帝には雷神の加護がついている………
そんな噂が広まるジパング国内。
日本よりもずっと小さく人口も少ないその国に、噂が広まるのは早い。
「海世様には雷神様がついておられる」
「帝に敵対する者には天罰の雷が落ちる」
人々はそう噂し合う。
突進してくる猪の群れを、天空から雷が落ちて全滅させた。
轟音と閃光の派手さも手伝って、雷神伝説が生まれてしまった。
『暗殺者、一気に減ったね』
『失敗した者の行方不明を神隠しと思われたようだ』
帝を害すると神罰が当たると思われたらしい。
一度死にかけた事から倒しやすいと思われ、暗殺しようとする者が増えた海世。
しかし神の力に護られているとの噂が広まると、神罰を恐れてほとんどの者が退いてゆく。
日常茶飯事だった暗殺未遂が激減し、帝・海世は比較的平和に過ごせるようになった。
一方、雷斗を見張る奏真は、何気ない会話の中に別の意味が隠されている事に気付く。
「弓の手入れは済んだか?」
「弦が切れておりますゆえ、今しばしお待ち下さいませ」
「代わりの弦はもう少し強いものを使え」
「では準備してまいります」
そう言って離れて行く家臣を尾行すると、通常は誰も通らない建物の裏に回り込んで何者かに金を渡す。
それを受け取った者は頷くと、いずこかへ向かってゆく。
金を受け取った者は街へ行き、何人かに目配せして合流させ、人数を増やしてゆく。
「猪を射った時は、何か不可思議な力がこの身に宿っていたのです」
山頂の湖、その湖岸に建てられた祠に酒と干物を供えながら、風斗が言う。
真冬に比べて気温がやや高くなったからか、湖の氷は海世が落ちた時よりも溶けて薄くなっていた。
祠は海世が龍神に命を救われた感謝を込めて建てた物で、まだ真新しい。
「おそらく神が力を貸して下さったのであろう」
もっともらしく言っているが、海世はその力の正体が星琉の支援魔法だと知っている。
当の星琉は隠密アプリで姿を隠しながら、新たな襲撃者の対応にかかっていた。
『前より強い弦が届くらしいぜ』
雷斗たちの隠し言葉を真似て、奏真が伝える。
弓の手入れとは海世の殺害の事、弦とはそれを実行する暗殺者の事を言っていた。
弦が切れたとは暗殺者と連絡が途絶えた事を言う。
『よし、今日は神様に任せよう』
言うと、星琉はコッソリ魔法を発動させる。
水属性・氷系魔法 : 氷龍
以前と同じく、湖水を凍らせて東洋の龍を作り上げる。
それはゴーレムの氷バージョンで、自在に動かす事が出来る。
氷の龍は、海世と風斗を護るようにその長い身体で囲んだ。
「兄上…」
「怯えるでない、これは我等を護るもの。 何も心配はいらぬ」
何が起きるのか分からず困惑する風斗に、海世が言い聞かせる。
暗殺者が苦無らしきものを飛ばしてきたが、護られた2人には当たらない。
(…しばらく凍ってもらうよ…)
心の中で呟くと、星琉は魔法の出力を上げる。
暗殺者たちの位置は、全て星琉に知られていた。
氷龍の周囲に氷の花のような結晶が湧き出てくる。
そして暴風雪のような勢いで、氷の結晶と冷気が敵集団に放たれた。
水属性・氷系魔法 : 雪花
そこにいた全ての暗殺者が冷気に包まれ、逃げる暇も無く氷に覆われて沈黙する。
完全に凍結した彼等は、かつての空也と同じ冷凍睡眠状態に落ちた。
今回は異空間牢には送らずに、大きな氷に封じたまま残しておく。
「龍神さま! ありがとうございます!」
風斗が感動して手を合わせる。
暗殺者を全て凍らせると、氷龍は細かな粒子に変わって消えた。
『さて、これは龍神の加護でよいのか?』
『それでいいと思うよ』
風斗に気付かれないように脳波通話で話す海世と星琉。
そして、雷神だけでなく龍神にも加護されている帝の噂が広まるのであった。
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