【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

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勇者セイル編

第99話:時の向こう側

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異空間の牢獄 : other dimension prison 。
星琉が魔道具のアプリを使って雷斗と側近を送り込んだそこへ、アクセス権限を持つ瀬田・奏真・空也の3人が入って来る。
収容された者たちは倒された際に心臓が停止したが、すぐに星琉が傷を治して蘇生、現在は意識を失っているだけの状態。
それぞれ独房のベッドに寝かせた状態で、魔道具を使った精神情報マインドデータのチェックが実施される。

尋問用魔道具 : deep consciousness reading
瀬田たちは尋問用魔道具を独房内に設置、新たな囚人たちにケーブルを取り付けた。
雷斗たちの意識が戻って暴れ出す事を警戒し、眠らせた状態で情報を引き出す。

「先祖返りなのでしょうか…。 兄上と顔立ちと背格好がよく似ています」
雷斗を見詰めて空也が言う。
500年前、帝位争いから退くつもりで宝剣を渡しに行った空也を、暗殺に来たと誤解して刺し、湖に落とした兄・海斗。
その海斗に似た子孫が、帝位を狙って兄の暗殺を謀り、返り討ちで倒された。
現帝・海世が刺され湖に落とされたように、海斗の子孫たちには因果が働いているのかもしれない。
或いは1000年前、血族間の争いに負けて異世界転移した祖先から続く、血の宿命のようなものがあるのかもしれない。
血族がその宿命から開放される事を願う空也であった。



「これで諦めてくれるといいね」
「諦めぬようなら500年ほど凍らせておいてくれ」
帝と対等に話す、黒髪の少年。
その背は、ジパングで最も長身と言われる雷斗よりも高い。
服装を見ると稀に訪れる異国の民のように見える。
雷斗との剣戟で浅い切り傷を負っていた海世を、手をかざすだけで治してしまう不思議な力。
隠密を解いて姿を現した星琉を、風斗は好奇心旺盛な子供の目で見詰めていた。

「痛いところは無い?」
海世の治療を終えた星琉が、風斗に声をかける。
「はい」
怪我はしていませんと答えた7歳児は、武術に優れた成人男性相手の対戦で無傷だ。
剣戟中、攻撃から守ってくれる不可視の何かがある事は、風斗も気付いていた。
武術を学び始めてそれほど経っていない子供が、皇子の側近を務めるような武士に打ち勝つなど、普通はありえない。

「貴方は神の化身ですか?」
「いや、神様のフリをしていただけの日本人だよ」
風斗の問いに、星琉が答える。
「日本…ジパングの民の祖先の国ですか?」
「そう。ジパングとは異なる歴史を歩んだ国だよ」
話す2人を見て、海世がふと提案する。
「風斗にも今の日本を見せてやってくれぬか?」
その提案に、好奇心全開で風斗が飛びつく。
「み、見たいです! お願いします!」
「抱っこして連れて行くけど、構わないかな?」
星琉は思いっきりタメ口だが、相手は高貴な血筋の子供、身体に触れてもいいか確認してみた。
「はい!」
風斗は即答、差し伸べられた両手に無防備で身体を預ける。
子供を抱っこし慣れたその腕は、世話役の女官たちより安心感があった。

『ソーマ、俺ちょっと日本へ行ってくるから帝の護衛を頼む』
『OK。まあもう暗殺しようなんて奴はいなさそうだけどな』
海世の護衛を奏真に変わってもらい、星琉は魔道具の転移アプリを起動する。
これまで連れて行ったシトリや海世は抱えやすいように小型化してもらったが、風斗は幼稚園の年中~小学1年生程度の体格なので、そのまま抱いて連れて行けた。

初めて見る祖先の国は、伝え聞く1000年前とはまるで別世界のようだった。
星琉もそうだが、背の高い人間が多い。
それは食生活が違うからだろうと教えるのは星琉。
御馳走したクレープを、風斗は美味しそうに食べていた。

「前に海世をここへ連れて来たら、娯楽の多さに驚いていたよ」
お馴染みのアミューズメントパーク【Carnival Box】を案内しつつ、星琉は言う。
「そうですね。ジパングにはこんなに娯楽は無いですから」
海世が気に入っていたライド型VRを体験しつつ、風斗が笑みを浮かべた。


「おみやげ~!」
「おかえり~!」
最後に星琉の家へ行くと、ドドドッと走って来る子供たちに風斗は圧倒された。
はいはいと言いながら、星琉は差し出される小さな手に1つ1つ菓子を持たせてやる。
「子供たちが一緒に暮らしているのですか?」
風斗は兄弟姉妹が共同生活をしている事にも驚いた。
星琉が子供を抱っこし慣れているのは弟や妹の面倒を見ていたからと聞き、海世に助けられるまで兄弟との交流がほとんど無かった風斗には珍しく、羨ましく思えた。

「海世は日本を見て、一緒に暮らす兄弟を見て、血族が殺し合う事を止めようと決意したんだよ」
見学を終え、風斗を海世の居室に送る前、星琉は言う。
「風斗は海世の家臣だろう? 彼の気持ちを理解し支える存在になれるかな?」
「勿論です!」
問いかけに、柔軟で曇りの無い心を持つ子供は迷わず答えた。
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