【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

BIRD

文字の大きさ
120 / 169
勇者エリシオ編

第9話:魔王の側近

しおりを挟む
 プルミエの第一王女ソレミアは、勇者セイルの再来と言われる程の剣技を持っていた。
 王家に伝わるのは、勇者セイルが独学で身に付けたという居合道と抜刀術。

 マナが無く重力が重い地球環境で生まれ育ったセイルが、異世界アーシアの環境を再現したVRゲームを通して得た剣技。
 それを受け継ぐ為、子孫たちは地球環境を再現したVR魔道具で身体を慣らしつつ育ち、幼少期より日本刀を使った剣術を仕込まれた。

 抜刀術による速度と瞬発力は、全種族中TOPを誇る獣人をも超える。
 トップスピードで斬撃を繰り出せば、目視どころか痛みを感じる間も無く、攻撃を食らった相手は倒れる。
 そんなソレミアの峰打ちを食らって昏倒したロミュラは、捕らえられて異空間牢に幽閉された。

 異空間の牢獄:other dimension prison

 SETA社が造る魔道施設。
 その牢の中では魔法は使えず、自害しようとしても自動的に発動する蘇生・再生医療機能で完治してしまう。
 通路との間は透明で頑丈な防壁に阻まれ、牢の中から物を投げたりも出来ない。

「その顔、忘れもしない。前世の私を殺した勇者の子孫ね」
 牢の中からロミュラが睨む相手は、黒髪・黒い瞳の美少女。
 その顔立ちは、肖像画に残る勇者セイルに似ていると言われていた。
「貴女を殺したかどうかは知らないけど、勇者の子孫よ」
 答える少女ソレミアは、騎士団の制服に身を包み、腰に日本刀を差していた。
 祖先のセイルが学生と勇者を掛け持ちしていたように、ソレミアも学生であり剣聖でもある。
 プルミエ騎士団の制服は白色だが、ソレミアはパーソナルカラーで、赤い布地に金の飾りが付いていた。

「ロミュラよ、見たであろう? 我の身体はもう、存在力を吸収出来ぬ」
 通路側、ソレミアの隣にいるルシエは、エリシオに抱かれて魔力供給を受けつつ、牢の中のロミュラに話しかける。
「だからもう、存在力強奪ロブエナジーを使ってはならぬ」
 少女のような容姿の魔王は、大人びた穏やかな表情で命じる。
『ならば、その少年を眷属にして、魔力供給をさせればよいのでは?』
 ロミュラは念話で応える。
 魔王以外に聞かれないようにしたつもりのそれは、牢の読心機能サイコメトリで読み取られていた。

 研究室に戻って来た拓郎とクロードは、牢の監視装置から送られてくる動画と音声、念話から状況を把握していた。
 勇者の子孫を眷属にというトンデモ発言に、2人は顔を見合わせる。

『今は魔道具で出力を抑えているようですが、その少年の魔力ならば、魔王様本来の力を振るえるでしょう』
 ロミュラはエリシオの魔力量の多さに気付いていた。
 右手首に装着した銀のブレスレットが、ヒューマンの域を超えた膨大な魔力をセーブしている事も。

「我は、もうこの文明を滅ぼしたいとは思わぬ」
 変わらず穏やかな口調でルシエは言う。
 ルシエを抱くエリシオにはロミュラの『声』は聞こえないが、何か話しているらしい事は感じていた。

「それでは、文明の再興を諦めると仰るのですか?!」
 抗議の意を含めて、ロミュラが声を発した。
「我等の文明はどのようなものであった?」
 逆にルシエが問う。
「便利さを追求するあまり自然を壊し、生き物を滅ぼし、資源を求めて他国と争い、闇の極大魔法で多くの国を滅ぼした。その文明に幸せはあったか?」
 静かに問いかける魔王。
 その心の変化に側近は戸惑う。

「何かを犠牲に事を成すのは、此の世の理でございましょう。文明の発展の下に犠牲になるものがあるのは当然の事と思います」
 ロミュラには永く仕えてきた王が何故、これまで目指してきたものを放棄しようとするのか分からない。

「此の世の生き物は何かを食べて、犠牲にして生きている。それは間違いではない。だが、我等はやり過ぎたのだ」
 ルシエは言う。
「この身に刻まれた鎮魂花レエムの封印は、何百万もの生命を犠牲にせねば活動出来なかった我に、戒めとして与えられたものだ」
 白い肌の下に組み込まれている術式は、今は現れていない。
 存在エネルギーを注がれた時のみ活性化する、自動発動型の永久魔法。

『そのような戒め、転生して解いてしまえばよいのです』
 再び念話に切り替えて、ロミュラが言う。
「転生はせぬ」
 揺るがぬ意志を示すルシエ。
「私には理解不能です」
 ロミュラは溜息をついて首を横に振った。
「すぐに理解せよとは言わぬ。しばしそこで考えておれ」
 穏やかな口調で告げると、ルシエは自分を抱いているエリシオと隣にいるソレミアに向けて、小声で「そっとしておいてやってくれ」と頼んだ。
 姉弟は頷き、ルシエを連れて異空間牢から立ち去った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...