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勇者エリシオ編
第9話:魔王の側近
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プルミエの第一王女ソレミアは、勇者セイルの再来と言われる程の剣技を持っていた。
王家に伝わるのは、勇者セイルが独学で身に付けたという居合道と抜刀術。
マナが無く重力が重い地球環境で生まれ育ったセイルが、異世界アーシアの環境を再現したVRゲームを通して得た剣技。
それを受け継ぐ為、子孫たちは地球環境を再現したVR魔道具で身体を慣らしつつ育ち、幼少期より日本刀を使った剣術を仕込まれた。
抜刀術による速度と瞬発力は、全種族中TOPを誇る獣人をも超える。
トップスピードで斬撃を繰り出せば、目視どころか痛みを感じる間も無く、攻撃を食らった相手は倒れる。
そんなソレミアの峰打ちを食らって昏倒したロミュラは、捕らえられて異空間牢に幽閉された。
異空間の牢獄:other dimension prison
SETA社が造る魔道施設。
その牢の中では魔法は使えず、自害しようとしても自動的に発動する蘇生・再生医療機能で完治してしまう。
通路との間は透明で頑丈な防壁に阻まれ、牢の中から物を投げたりも出来ない。
「その顔、忘れもしない。前世の私を殺した勇者の子孫ね」
牢の中からロミュラが睨む相手は、黒髪・黒い瞳の美少女。
その顔立ちは、肖像画に残る勇者セイルに似ていると言われていた。
「貴女を殺したかどうかは知らないけど、勇者の子孫よ」
答える少女ソレミアは、騎士団の制服に身を包み、腰に日本刀を差していた。
祖先のセイルが学生と勇者を掛け持ちしていたように、ソレミアも学生であり剣聖でもある。
プルミエ騎士団の制服は白色だが、ソレミアはパーソナルカラーで、赤い布地に金の飾りが付いていた。
「ロミュラよ、見たであろう? 我の身体はもう、存在力を吸収出来ぬ」
通路側、ソレミアの隣にいるルシエは、エリシオに抱かれて魔力供給を受けつつ、牢の中のロミュラに話しかける。
「だからもう、存在力強奪を使ってはならぬ」
少女のような容姿の魔王は、大人びた穏やかな表情で命じる。
『ならば、その少年を眷属にして、魔力供給をさせればよいのでは?』
ロミュラは念話で応える。
魔王以外に聞かれないようにしたつもりのそれは、牢の読心機能で読み取られていた。
研究室に戻って来た拓郎とクロードは、牢の監視装置から送られてくる動画と音声、念話から状況を把握していた。
勇者の子孫を眷属にというトンデモ発言に、2人は顔を見合わせる。
『今は魔道具で出力を抑えているようですが、その少年の魔力ならば、魔王様本来の力を振るえるでしょう』
ロミュラはエリシオの魔力量の多さに気付いていた。
右手首に装着した銀のブレスレットが、ヒューマンの域を超えた膨大な魔力をセーブしている事も。
「我は、もうこの文明を滅ぼしたいとは思わぬ」
変わらず穏やかな口調でルシエは言う。
ルシエを抱くエリシオにはロミュラの『声』は聞こえないが、何か話しているらしい事は感じていた。
「それでは、文明の再興を諦めると仰るのですか?!」
抗議の意を含めて、ロミュラが声を発した。
「我等の文明はどのようなものであった?」
逆にルシエが問う。
「便利さを追求するあまり自然を壊し、生き物を滅ぼし、資源を求めて他国と争い、闇の極大魔法で多くの国を滅ぼした。その文明に幸せはあったか?」
静かに問いかける魔王。
その心の変化に側近は戸惑う。
「何かを犠牲に事を成すのは、此の世の理でございましょう。文明の発展の下に犠牲になるものがあるのは当然の事と思います」
ロミュラには永く仕えてきた王が何故、これまで目指してきたものを放棄しようとするのか分からない。
「此の世の生き物は何かを食べて、犠牲にして生きている。それは間違いではない。だが、我等はやり過ぎたのだ」
ルシエは言う。
「この身に刻まれた鎮魂花の封印は、何百万もの生命を犠牲にせねば活動出来なかった我に、戒めとして与えられたものだ」
白い肌の下に組み込まれている術式は、今は現れていない。
存在エネルギーを注がれた時のみ活性化する、自動発動型の永久魔法。
『そのような戒め、転生して解いてしまえばよいのです』
再び念話に切り替えて、ロミュラが言う。
「転生はせぬ」
揺るがぬ意志を示すルシエ。
「私には理解不能です」
ロミュラは溜息をついて首を横に振った。
「すぐに理解せよとは言わぬ。しばしそこで考えておれ」
穏やかな口調で告げると、ルシエは自分を抱いているエリシオと隣にいるソレミアに向けて、小声で「そっとしておいてやってくれ」と頼んだ。
姉弟は頷き、ルシエを連れて異空間牢から立ち去った。
王家に伝わるのは、勇者セイルが独学で身に付けたという居合道と抜刀術。
マナが無く重力が重い地球環境で生まれ育ったセイルが、異世界アーシアの環境を再現したVRゲームを通して得た剣技。
それを受け継ぐ為、子孫たちは地球環境を再現したVR魔道具で身体を慣らしつつ育ち、幼少期より日本刀を使った剣術を仕込まれた。
抜刀術による速度と瞬発力は、全種族中TOPを誇る獣人をも超える。
トップスピードで斬撃を繰り出せば、目視どころか痛みを感じる間も無く、攻撃を食らった相手は倒れる。
そんなソレミアの峰打ちを食らって昏倒したロミュラは、捕らえられて異空間牢に幽閉された。
異空間の牢獄:other dimension prison
SETA社が造る魔道施設。
その牢の中では魔法は使えず、自害しようとしても自動的に発動する蘇生・再生医療機能で完治してしまう。
通路との間は透明で頑丈な防壁に阻まれ、牢の中から物を投げたりも出来ない。
「その顔、忘れもしない。前世の私を殺した勇者の子孫ね」
牢の中からロミュラが睨む相手は、黒髪・黒い瞳の美少女。
その顔立ちは、肖像画に残る勇者セイルに似ていると言われていた。
「貴女を殺したかどうかは知らないけど、勇者の子孫よ」
答える少女ソレミアは、騎士団の制服に身を包み、腰に日本刀を差していた。
祖先のセイルが学生と勇者を掛け持ちしていたように、ソレミアも学生であり剣聖でもある。
プルミエ騎士団の制服は白色だが、ソレミアはパーソナルカラーで、赤い布地に金の飾りが付いていた。
「ロミュラよ、見たであろう? 我の身体はもう、存在力を吸収出来ぬ」
通路側、ソレミアの隣にいるルシエは、エリシオに抱かれて魔力供給を受けつつ、牢の中のロミュラに話しかける。
「だからもう、存在力強奪を使ってはならぬ」
少女のような容姿の魔王は、大人びた穏やかな表情で命じる。
『ならば、その少年を眷属にして、魔力供給をさせればよいのでは?』
ロミュラは念話で応える。
魔王以外に聞かれないようにしたつもりのそれは、牢の読心機能で読み取られていた。
研究室に戻って来た拓郎とクロードは、牢の監視装置から送られてくる動画と音声、念話から状況を把握していた。
勇者の子孫を眷属にというトンデモ発言に、2人は顔を見合わせる。
『今は魔道具で出力を抑えているようですが、その少年の魔力ならば、魔王様本来の力を振るえるでしょう』
ロミュラはエリシオの魔力量の多さに気付いていた。
右手首に装着した銀のブレスレットが、ヒューマンの域を超えた膨大な魔力をセーブしている事も。
「我は、もうこの文明を滅ぼしたいとは思わぬ」
変わらず穏やかな口調でルシエは言う。
ルシエを抱くエリシオにはロミュラの『声』は聞こえないが、何か話しているらしい事は感じていた。
「それでは、文明の再興を諦めると仰るのですか?!」
抗議の意を含めて、ロミュラが声を発した。
「我等の文明はどのようなものであった?」
逆にルシエが問う。
「便利さを追求するあまり自然を壊し、生き物を滅ぼし、資源を求めて他国と争い、闇の極大魔法で多くの国を滅ぼした。その文明に幸せはあったか?」
静かに問いかける魔王。
その心の変化に側近は戸惑う。
「何かを犠牲に事を成すのは、此の世の理でございましょう。文明の発展の下に犠牲になるものがあるのは当然の事と思います」
ロミュラには永く仕えてきた王が何故、これまで目指してきたものを放棄しようとするのか分からない。
「此の世の生き物は何かを食べて、犠牲にして生きている。それは間違いではない。だが、我等はやり過ぎたのだ」
ルシエは言う。
「この身に刻まれた鎮魂花の封印は、何百万もの生命を犠牲にせねば活動出来なかった我に、戒めとして与えられたものだ」
白い肌の下に組み込まれている術式は、今は現れていない。
存在エネルギーを注がれた時のみ活性化する、自動発動型の永久魔法。
『そのような戒め、転生して解いてしまえばよいのです』
再び念話に切り替えて、ロミュラが言う。
「転生はせぬ」
揺るがぬ意志を示すルシエ。
「私には理解不能です」
ロミュラは溜息をついて首を横に振った。
「すぐに理解せよとは言わぬ。しばしそこで考えておれ」
穏やかな口調で告げると、ルシエは自分を抱いているエリシオと隣にいるソレミアに向けて、小声で「そっとしておいてやってくれ」と頼んだ。
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