【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

BIRD

文字の大きさ
123 / 169
勇者エリシオ編

第12話:知恵と技術

しおりを挟む
「ここのミノ肉コロッケ美味しいよ」
 エリシオに連れられて、ルシエはプルミエ王都を散策していた。
 王都の肉屋は惣菜も取り扱っており、賢者シロウが伝えたという日本の肉屋でお馴染みのコロッケや唐揚げもある。
 ちなみに王都内には日本人が経営する定食屋もあり、カレーライスやカツ丼なども食べられる。
 醤油や味噌など、日本で使われる調味料も全て国内で買う事が出来た。

「あれは肉を細かくする道具か? あんな便利な物は古代文明には無かったな」
 透明な壁の向こうで作業する肉屋スタッフを眺めて、ルシエが興味深い様子で言う。
 ブロック肉をミンチにする自動挽肉機ミンサーはSETA社の魔道具。
 使用後の器具の洗浄と消毒まで済ませてくれる便利品で、国外からも注文が入るという。

『ロミュラよ、我を通して視ておるか?』
 ルシエは異空間牢に居る側近ロミュラにメッセージを送る。
 自分が見たものを映像として相手に送る、SETA社の脳波通信機能。
 ルシエが拓郎から貰った変身用魔道具には、通信機能も搭載されていた。
 ロミュラが居る独房にモニターを付けてもらい、見せたい映像を送るようにしている。
 ルシエは街のあちこちで使われている生活用魔道具の数々をロミュラに見せていた。
『人の知恵と技術は、こうした道具に使う方が良いと我は思う。大量虐殺の兵器や魔法を開発するのではなく、生活に使う物を開発する方が人は幸せになれると気付いたのだ』
 念話に穏やかな気持ちを込めて送る。
 ロミュラからの返事は無いが、今はただ聞いてくれればいいと思った。

 ミノ肉コロッケは黒毛和牛のような肉質のミノタウロス肉と、ホクホクした食感の粉質系の男爵芋に似た芋で作る。
 王都の肉屋はコロッケの製造工程を公開しており、アクリル板のような透明な板で仕切られた向こう側で、魔道具を使って調理する様子が見えた。

 芋の皮を剥き、4等分にカットし、少量の塩を入れて茹でる。
 茹でている間に玉葱に似た根菜をみじん切りにして、少し色付くまで炒める。
 色付いたらミノ挽肉を加えて炒め合わせ、砂糖・みりん・しょうゆで味付ける。
 芋が茹で上がったら湯切りして潰し、炒めていた具と混ぜ合わせる。
 等分に分けて丸め、小判型に形を整える。
 小麦粉→とき卵→パン粉をまぶして衣を付ける。
 熱した油で揚げ、衣がキツネ色に揚がったらミノ肉コロッケの出来上がり!

 ルシエはエリシオに頼み、幽閉中のロミュラに差し入れるコロッケを買ってもらった。
 コロッケの持ち帰り容器は状態保存機能付きで、出来たてアツアツのまま届けてあげられる。

「パンも買っていこう」
 エリシオの提案で、2人はパン屋にも寄った。

「いらっしゃい! エリシオ様がお好きなモチモチパン、焼き立てですよ~」
 パン屋に行くと、店員に笑顔で声をかけられた。
 プルミエ王国は人口100万に満たない小国で、昔から王族が街の店屋を訪れる事が多かった。
 エリシオも気軽に街へ出て買い物をしており、パン屋は馴染みの店だ。
「これにコロッケと葉野菜を挟んでソースをかけたら美味しいよ。ロミュラに食べさせてあげよう」
 モチモチパンを買い、途中の店でソースも買って、2人は異空間牢へ向かった。

「魔王様、そのお姿は…」
 シルバーグレーの仔猫を見て、ロミュラはすぐにその正体に気付く。
「このサイズなら魔力消費が少なくて動きやすいのだ」
 エリシオの肩に乗りながら、ドヤ顔で言う猫魔王。
「これ、ルシエからのプレゼントだよ」
 そう言ってエリシオが転送魔法でロミュラの前に置いたのは、コロッケサンドが入った保存容器。

「食べてみよ。美味いぞ」
 ルシエはエリシオの腕の中に移動して人型に戻り、自分用のコロッケサンドを容器から出して先に食べてみせる。
 それを見て食べ方が分かり、未知の食べ物への警戒も解けたらしく、ロミュラもコロッケサンドを容器から出して食べ始めた。
 エリシオはルシエを抱いて通路にある長椅子に座り、2人で寄り添いつつコロッケサンドを頬張る。

「勇者の子孫、お前は魔王様を斃そうとは思わないの?」
 仲が良さそうな子供たちを見て、ロミュラが問う。
「思わないよ」
 エリシオ、即答。
「だってルシエは今何も悪い事してないし。せっかく友達になれたのに戦うのは嫌だ」
 6歳児らしい単純な理由だが、隣で聞いているルシエは満足そうにしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...