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勇者エリシオ編
第39話:祭りの準備
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星祭りの時期が近付く中、ペンタイア家では聖女認定式と祝祭の準備が進んでいる。
「お~! なんて可愛いんだマーニ!」
親馬鹿全開の父ミラン。
赤ん坊サイズで仕立てられた聖女の衣装が良く似合う娘。
侍女たちが着付けをするパールホワイトのローブ姿の小さな聖女。
赤ん坊ならではのキメ細かい肌は白く、銀の髪は艷やかで、パッチリ大きな瞳は空の青色。
親の贔屓目を除いても、マーニは人目を引く容姿の子だった。
「可愛過ぎて王都の皆が魅了されそう。見合い話がきてもパパとママが全部断ってあげるからね」
ナタルマが我が子を撫でて微笑む。
気の早い事を言っているようだが、カートル王都の貴族社会では幼少期に婚約はよくある。
ペンタイア家は呪いのせいで政略結婚から離れて久しいが、聖女誕生で状況は変わった。
既に夫妻の元には、婚約相談の手紙が複数届いていた。
「マーニには私達のように愛のある結婚をしてほしいね」
ミランが妻に微笑みかける。
「身分など気にせず、愛し合える方と結ばれてほしいわ」
ナタルマも夫に微笑みを向ける。
政略結婚の無いペンタイア家では恋愛結婚が常で、身分は気にしない。
ナタルマは平民の娘だが、侍女として働く中でミランと惹かれ合い、呪いが及ぶ事を覚悟の上で結婚に至っている。
「いつか、良い御縁があるといいわね」
「でも、マーニはあの方しか見てない気がするよ」
ミランが苦笑する。
彼が言う【あの方】はその頃、白薔薇の庭園でマーニの髪に飾る花飾りを作っていた。
見頃を迎えた花を摘み取り、樹液を抜き取り、自然な成分の染料に浸して染色し、排水、乾燥させる。
地球でのプリザーブドフラワーを応用した技術が、SETA社の魔道具で再現される時代。
エリシオはSETA商会からその魔道具をレンタルし、花飾り作成をしていた。
「白い薔薇に、葉っぱの緑と鎮魂花の青を添えよう」
エリシオは魔道具を地面に置き、完成イメージを思い浮かべつつ起動させる。
「薔薇はこれが一番形が良いわ」
猫ロミュラが花を摘んでエリシオに渡す。
「葉はこれが良いかと」
鷹に変身しているザグレブが葉を摘んで運んでくる。
「鎮魂花はこれでよいか?」
仔猫ルシエが小さな前足をチョイチョイと動かすと、その先に鎮魂花が湧き出てくる。
ルシエは最近、自在に花を出す特技に目覚めていた。
「OK、全部揃ったね」
素材を入れる丸い透明なケースに、庭園から摘んだ花と葉を入れる。
作成スタートボタンを押すと、素材の合成と加工が始まった。
綺麗に咲いた白薔薇をメインに、青い星型の花と深緑の葉が添えられた髪飾り。
それは生花に似た質感を持ちながら丈夫で、枯れたり散ったりはしない。
材料さえ揃えれば誰でも手軽に作れるのが嬉しい魔道具だ。
「これをマーニに着けてあげて。霊が寄り付かなくなるよ」
「まあ、素敵なデザインですね。お嬢様きっとお似合いですよ」
完成した髪飾りを侍女に渡すと、マーニがじーっとそれを見詰めた。
霊が視えてしまう赤ん坊は、髪飾りに込められた護りの力も視えるのかもしれない。
「よく似合ってるよ、マーニ」
エリシオが微笑んで言う。
侍女に髪飾りを着けてもらうと、マーニはぱぁっと輝くような笑顔になった。
「ああ何て可愛らしいんだ。まるで白薔薇の妖精のようだよ」
親馬鹿全開のミランが抱き締めようとするのをフイッと避けて、マーニはエリシオに両手を差し出して抱っこを求める。
見事に空振りしたミランを見て、ナタルマと侍女たちが気の毒に思いつつ苦笑する。
(…あ~、ほんとゴメン)
超笑顔のマーニを抱き上げ、壁際でいじけてしまうミランを横目で見ながら、エリシオも苦笑した。
「絶滅した筈の聖女の薔薇を見られるなんて素晴らしいね」
「棘の無い薔薇なんて初めて見たわ」
「良い香り~。楽園の香りってこんな感じかな?」
「普通の薔薇よりも柔らかい感じの香りね」
その頃、研究棟のメンバーも庭園の見学に来ていた。
珍しい棘無し薔薇はカートル国内固有種で、他国では育たないと言われる植物。
その香りは甘く、心を落ち着かせる効果があった。
「この花で芳香油を作ったら、心の病に効果がありそうだな」
医薬品の研究者であるクロスケは特に興味津々だ。
後に彼は、ペンタイア家当主から素材の提供を受け、白薔薇の花弁から香りを抽出した精油を作り出す。
その精油は悲しみや怒りといった負の感情を和らげる事から、聖なる香油として珍重された。
「お~! なんて可愛いんだマーニ!」
親馬鹿全開の父ミラン。
赤ん坊サイズで仕立てられた聖女の衣装が良く似合う娘。
侍女たちが着付けをするパールホワイトのローブ姿の小さな聖女。
赤ん坊ならではのキメ細かい肌は白く、銀の髪は艷やかで、パッチリ大きな瞳は空の青色。
親の贔屓目を除いても、マーニは人目を引く容姿の子だった。
「可愛過ぎて王都の皆が魅了されそう。見合い話がきてもパパとママが全部断ってあげるからね」
ナタルマが我が子を撫でて微笑む。
気の早い事を言っているようだが、カートル王都の貴族社会では幼少期に婚約はよくある。
ペンタイア家は呪いのせいで政略結婚から離れて久しいが、聖女誕生で状況は変わった。
既に夫妻の元には、婚約相談の手紙が複数届いていた。
「マーニには私達のように愛のある結婚をしてほしいね」
ミランが妻に微笑みかける。
「身分など気にせず、愛し合える方と結ばれてほしいわ」
ナタルマも夫に微笑みを向ける。
政略結婚の無いペンタイア家では恋愛結婚が常で、身分は気にしない。
ナタルマは平民の娘だが、侍女として働く中でミランと惹かれ合い、呪いが及ぶ事を覚悟の上で結婚に至っている。
「いつか、良い御縁があるといいわね」
「でも、マーニはあの方しか見てない気がするよ」
ミランが苦笑する。
彼が言う【あの方】はその頃、白薔薇の庭園でマーニの髪に飾る花飾りを作っていた。
見頃を迎えた花を摘み取り、樹液を抜き取り、自然な成分の染料に浸して染色し、排水、乾燥させる。
地球でのプリザーブドフラワーを応用した技術が、SETA社の魔道具で再現される時代。
エリシオはSETA商会からその魔道具をレンタルし、花飾り作成をしていた。
「白い薔薇に、葉っぱの緑と鎮魂花の青を添えよう」
エリシオは魔道具を地面に置き、完成イメージを思い浮かべつつ起動させる。
「薔薇はこれが一番形が良いわ」
猫ロミュラが花を摘んでエリシオに渡す。
「葉はこれが良いかと」
鷹に変身しているザグレブが葉を摘んで運んでくる。
「鎮魂花はこれでよいか?」
仔猫ルシエが小さな前足をチョイチョイと動かすと、その先に鎮魂花が湧き出てくる。
ルシエは最近、自在に花を出す特技に目覚めていた。
「OK、全部揃ったね」
素材を入れる丸い透明なケースに、庭園から摘んだ花と葉を入れる。
作成スタートボタンを押すと、素材の合成と加工が始まった。
綺麗に咲いた白薔薇をメインに、青い星型の花と深緑の葉が添えられた髪飾り。
それは生花に似た質感を持ちながら丈夫で、枯れたり散ったりはしない。
材料さえ揃えれば誰でも手軽に作れるのが嬉しい魔道具だ。
「これをマーニに着けてあげて。霊が寄り付かなくなるよ」
「まあ、素敵なデザインですね。お嬢様きっとお似合いですよ」
完成した髪飾りを侍女に渡すと、マーニがじーっとそれを見詰めた。
霊が視えてしまう赤ん坊は、髪飾りに込められた護りの力も視えるのかもしれない。
「よく似合ってるよ、マーニ」
エリシオが微笑んで言う。
侍女に髪飾りを着けてもらうと、マーニはぱぁっと輝くような笑顔になった。
「ああ何て可愛らしいんだ。まるで白薔薇の妖精のようだよ」
親馬鹿全開のミランが抱き締めようとするのをフイッと避けて、マーニはエリシオに両手を差し出して抱っこを求める。
見事に空振りしたミランを見て、ナタルマと侍女たちが気の毒に思いつつ苦笑する。
(…あ~、ほんとゴメン)
超笑顔のマーニを抱き上げ、壁際でいじけてしまうミランを横目で見ながら、エリシオも苦笑した。
「絶滅した筈の聖女の薔薇を見られるなんて素晴らしいね」
「棘の無い薔薇なんて初めて見たわ」
「良い香り~。楽園の香りってこんな感じかな?」
「普通の薔薇よりも柔らかい感じの香りね」
その頃、研究棟のメンバーも庭園の見学に来ていた。
珍しい棘無し薔薇はカートル国内固有種で、他国では育たないと言われる植物。
その香りは甘く、心を落ち着かせる効果があった。
「この花で芳香油を作ったら、心の病に効果がありそうだな」
医薬品の研究者であるクロスケは特に興味津々だ。
後に彼は、ペンタイア家当主から素材の提供を受け、白薔薇の花弁から香りを抽出した精油を作り出す。
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