【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

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勇者エリシオ編

第48話:古代遺跡訪問

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「弁当、これで足りるかな?」
「ええ、人数に増減は無いみたいだから」
 エリシオは使い魔たちと手分けしてSETA食堂から弁当を受け取っていた。
 ロミュラとザグレブは人型で角と翼を隠した姿に、白い大型犬(犬神)の白雪とチビ黒竜のクーロはそのままの姿で、それぞれ異空間倉庫ストレージ機能を付与された魔道具を装備、大量の弁当をそこへ入れてもらう。
 ルシエは人型ではエリシオから離れて行動出来ないので、仔猫の姿で弁当の受け取りに向かう。

「飲み物は何にしようか?」
「酒好きばかりですが酔っぱらって話にならないのは困るので、お茶でよいと思います」
 エリシオとザグレブは打ち合わせして飲み物も買ってストレージに収納した。

「準備ヨシ、じゃあ行こうか!」
「魔族の本拠地に弁当を差し入れる勇者など、今まで見たことが無いぞ」
 張り切るエリシオの肩の上、仔猫ルシエが笑うように目を細めた。


 場所をよく知るロミュラやザグレブがいるので、全く迷う事無く行けるカートル地下大迷宮。
 今回の面々にとってそこは迷宮ではなく地下道だ。
「知性の無い魔物は襲ってくるから、狩りながら進んでね」
 ロミュラのアドバイス通り、ダンジョンでお馴染みのスライムやコウモリが襲ってくる。

「魔法だと火力が出過ぎるから物理にしておくよ」
 と言って左腕に右手をかざすエリシオ。
 次の瞬間、スライムもコウモリも、その場に現れた群れが瞬時に消滅。
 そこにいる誰も目視出来ない抜刀術、オーバーキルとなった魔物たちはドロップ品だけ残して消える。
「魔法じゃなくても火力あり過ぎると思うの~」
 白雪が笑いながらツッコミを入れた。
「物理は加減間違えて暴走とか無いからまだマシかな」
 誰にも目視出来ない速さで抜き放っていた聖剣を左腕の中に戻し、エリシオは苦笑した。

 986年前、フォンセという闇の大魔道士を捕縛または討伐する為に大勢の人間が入った場所。
 前世で祖先でもあるセイルが、トワの聖騎士団を率いて攻略した洞窟。
 今、エリシオは使い魔5体だけを連れて、そこを進んでいる。

「冒険者や騎士を連れて行くと、攻めて来たと誤解されるから」
 そう言って、エリシオはSETA社や王家からの付き添いを全て断った。
 プルミエ王国、聖王国トワ、カートル王国それぞれの国王とギルドには、カートル地下大迷宮に立ち入る旨の報告はしている。
 勇者が倒す筈の魔王は自分の使い魔になっているので、魔族と戦う必要は無いと告げた。

「使い魔ではなく嫁と言ってほしかったがな」
 フッとまた笑うように目を細める仔猫ルシエ。
「プルミエでもトワでも婚約発表出来るのは18歳からなんだよ」
 説明するエリシオ、まだ12歳。
 婚約発表出来るまであと6年だ。


 迷宮の奥に、古代の遺跡は在る。
 そこは普通に歩いて行っても辿り着けない。
 通路の途中、普通の岩壁に見える部分にロミュラが手をかざすと、別の通路への入口が開いた。
 その通路はゴツゴツした岩壁ではなく、滑らかに加工された岩盤になっている。

「永い時が過ぎても崩れたりしないように、古代の魔法文字で保護してあるの」
 滑らかな壁には古代文字が書かれており、ロミュラが説明してくれた。
経年劣化防止の魔法プロテクトエイジング、ルシエやフォンセが封印されていた魔道具にもかけてあったものと似た効果かな」
「プルミエの魔道具技術は古代の技術を追い越してるものね」
 エリシオが言うと、ロミュラは穏やかに微笑んで応えた。

 通路の先には、現代人はまだ誰も見た事が無い古代の遺産が残されていた。
 大賢者シロウの開発が無ければ、プルミエ王国も追い付けなかったであろう技術。
 ロミュラの念話を通して現代文明を知り、勝てないと察した古代の民たちは完全に戦意を失い、それぞれ透明な球体の中で目を閉じて身体を丸めてじっとしていた。
 エリシオたちが来た目的もロミュラから共有されているため、仔猫ルシエを肩に乗せたエリシオが球体に近付くと、中にいる者が出て来て跪いた。

「伝わってると思うけど、今日はこれを配って話をしに来ただけだから」
 そう言うと、エリシオは魔族と呼ばれていた古代人たちに弁当と飲み物を配る。
 使い魔たちもストレージから弁当と飲み物を出して配り始めた。
 作りたての状態を維持出来る異空間倉庫ストレージで保管されていた弁当もお茶も、熱々のまま。

 SETA食堂が販売する弁当は、日本の人気メニューを異世界素材で作り上げた物。
 魔道兵たちは肉が好きと聞いていたので、ルフの唐揚げ弁当と焼き鳥丼、ボアの生姜焼き弁当とカツ丼、ミノタウロスのステーキ弁当とすきやき丼などが用意された。
 ロミュラから伝えられていた現代人の食文化。
 出来たて熱々のそれらを口にした人々は、食欲には抗えずペロリと完食した。

「…う…美味かった…」
「…現代人はこんなに美味い物を食ってるのか…」
 美味の余韻に浸る、古代の民たち。

「今の世界を滅ぼさずに移住して共存すれば、それがいつでも食べられるんだよ」
 胃袋を掴んだタイミングを逃さず、エリシオは言う。
「この勇者は戦う気は無く、共存を求めておる。彼と共に未来を歩む事が我等の幸せに繋がるだろう」
 その肩に乗っていた仔猫ルシエは、エリシオの腕の中に移動すると少女の姿に戻り、穏やかな笑みを浮かべて告げた。
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