ノンフィクション短編集

BIRD

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前方50cmの事故

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飲み屋のバイト帰りに起きた実話。
具体的な場所や日時は伏せておく。

当時、僕はバイトかけもちで、昼間はアミューズメントテーマパークのイベントスタッフ、夜は居酒屋で働いていた。
深夜、仕事を終えた帰り道、他のスタッフと喋っていて信号が変わったことに気付くのが少し遅れて、横断歩道を歩き始めたところで事故は起きた。

前方を歩いていた女性に、信号無視の乗用車が突っ込んだ。
女性は跳ね飛ばされて路上に転がり、車はすぐ後に急停車した。

「なに? なんなの? いやぁぁぁ!」

路上に倒れたまま、被害女性が叫んだ。
痛いとか苦しいとかは言わなかったから、パニック状態だったのかもしれない。
車から降りてきた加害者も女性で、そちらは呆然としている様子だった。

「携帯持ってる? 110番に電話して」

どうしたらいいか分からなくなっている様子の加害女性に指示して警察に電話をかけてもらいつつ、僕は自分の携帯で救急車を呼んだ。

深夜だったので後続車も対向車も全く通らず、パトカーと救急車はほぼ同時に到着。
一緒に事故を目撃した仕事仲間は、加害者が警察に電話をし始めたところで帰ってしまったので、既にその場にいない。
被害女性は救急搬送され、加害女性の事情聴取が始まり、僕は目撃者である事と自分の視点からの事故状況だけ警察官に伝えて、その場を立ち去った。

あんな至近距離で事故を目撃したのは初めてだった。
事故の瞬間、僕と車との距離、50cmくらい。
出遅れていなければ、巻き込まれていたと思う。
以来、僕は青信号でも道路の横断時は警戒するようにしている。
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