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第2章:算数0点、魔術100点
第19話:帰還(ケーラ)
しおりを挟む移動の魔術【帰還】は、魔術書に書いてあるから、ぼくも覚えている。
でも、リッカにぃにぃが今まで使ったことがないから、お手本が見られなくてぼくも使ったことがなかった。
いきなり大きいにぃにぃたちが出てきて、ぼくがビックリしている間に、リッカにぃにぃは初めてその魔術を使った。
にぃにぃが「帰還」とつぶやいたら、ぼくたちは星の海に移動した。
向こうに白いうずまきが見える。
「ナナミ、これが移動魔術だ。覚えたか?」
「うん!」
お手本を見せてもらったから、たぶんぼくも使えると思う。
効果と名前は、しっかり覚えている。
移動魔術は、はなれた2つの場所をつなぐトンネルを作って移動する魔術だ。
この星の海は、ぼくとムイが元の世界からヤイマ国へ転移したときに通ったのと似ている。
「ここ、前に来たことがあるよ」
「異世界転移したときだな?」
「うん」
「ここは、移動系の魔術や道具を使ったときに通る場所だ。ナナミはここでもうひとりのナナミとすれちがったのか?」
「うん。あの子は白いうずまきから出てきて、ぼくとすれちがうときに『じゃあ、あとはよろしくね』って笑って言ったあと、別のうずまきを通っていなくなったんだよ」
「なら、この入れかわりは、もうひとりのナナミが道具を使ったか、だれかの魔術でやってもらったかだな」
「もうひとりのナナミが、コッソリ移動の魔術を覚えていたりはしない?」
「それはできないだろうな。できていたら、魔術テストで0点はないだろうから」
「そ、そうだね」
ぼくと同じ存在だというあの子が、魔術で0点なのはどうしてなんだろう?
もしかして、あの子はぼくが覚えられなかった九九を覚えられたり、算数で100点をとれたりするんだろうか?
「ここは、時間の流れがちがうから、外にいる人からは一瞬で移動したように見えるぞ。アカハチさまは、この魔術を使って敵の兵士たちをすりぬけて、大将をたおしたそうだ」
「アカハチさま、カッコイイなぁ」
「カズマにぃにぃは、ナナミがゆっくり勉強できるようにってここへ連れてきたけど、全然覚えられなくてやっぱり0点だった」
「もうひとりのぼく、かっこわるいなぁ」
ぼくとリッカにぃにぃは、しばらく星の海を見ながら話した。
移動するときにぼくはリッカにぃにぃをだきしめていたから、星の海でもそのままになっている。
リッカにぃにぃは大きな魔術を使ってしんどいのか、ぼくに身をゆだねるように体の力をぬいて目を閉じた。
気を失ったのかな? と思ったけど、リッカにぃにぃが目を閉じて休んでいたのは、ほんの少しの時間だった。
「そろそろ出るか。ナナミ、あっちへ向かってくれ」
「わかった」
目を開けたにぃにぃがうずまきを指さして言うので、ぼくはリッカにぃにぃをだいて、星の海を泳ぐように進んで白いうずまきをくぐった。
うずまきの向こうは、リッカにぃにぃの部屋だった。
「やはり、増えているな」
部屋へ来ると、リッカにぃにぃは自分の手首に着けていた腕輪を見て言った。
腕輪は、まだ光っていない。
もしかして、また魔力が増えたのかな?
「これで2回目だ。気絶するまで魔力を使い切ったあと、目が覚めると魔力がかなり多くなっている」
「どのくらい増えたの?」
「そうだなぁ……少なくとも今朝気絶する前は、移動魔術を使えるほど魔力は多くなかった」
「じゃあ、おひるねしている間に増えたの?」
「そういうことだ」
「おひるねで魔力が増えるのは、よくあるの?」
「回復はするけど、元の量より多くなったりしないな。……そうか、もしかすると……」
話していたら、リッカにぃにぃは何か気づいたみたいだ。
「試してみるか。……帰還!」
ぼくをだきしめて、リッカにぃにぃは2回目の移動魔術を使った。
今度は星の海をすぐ通りぬけて、出た場所は魔術練習場だ。
ぼくはにぃにぃの腕輪を見た。
腕輪はまだ光っていない。
リッカにぃにぃは自分の腕輪をチラッと見たあと、ぼくをだきしめていた腕をはなした。
「ナナミ、今からオレは魔力を使い切る。気を失ったら他の人に見られないように移動魔術で部屋まで運んでくれるか?」
「いいよ。でもにぃにぃ、具合が悪くなったりしない?」
「問題ない、しばらく気絶するだけだから」
気絶するとにぃにぃは貧血みたいに顔色が悪くなるから心配だけど。
ぼくはにぃにぃの「実験」に付き合うことにした。
魔力をたくさん使う移動魔術を2回使っても光らなかった腕輪。
今の魔力がどのくらいあるのか、にぃにぃ本人も分からない。
「あんまり大きな音をたてると、にぃにぃたちが来るかもしれない。静かなやつでいくぞ」
そう言って、にぃにぃは水歩行の練習用の池に片手を向けた。
初めて見る魔術を、ぼくはワクワクしながら待つ。
「これも今までは魔力が足りなくて使えなかった魔術だ。……氷盾!」
それは、池の水を凍らせて空中にうかべて、盾を作り出す魔術だった。
カッコイイし、氷がキラキラしてすごくキレイだ。
「にぃにぃ、すごい、かっこよくてキレイだね」
「うむ。にぃにぃはいつもカッコイイんだぞ」
あまり大声でさわぐとだれかに聞かれるかもしれないから、ぼくたちは小さな声でささやき合った。
冬でも雪が降らないヤイマ国で、氷魔術はかなり魔力を使うものらしい。
にぃにぃは腕輪を時々見ながら、さらに氷魔術を使った。
練習場がさっぽろ雪まつり(テレビで前に見たやつ)みたいになったころ、ようやく腕輪が光り始めた。
「にぃにぃ、たおれて頭をぶつけないように支えておくね」
「ああ、たのむ」
ぼくはリッカにぃにぃの体を支えるようにだきついた。
リッカにぃにぃは魔術で近くの木を氷まみれにしたあと、ガクンと全身の力がぬけた。
気を失ったにぃにぃをだっこして顔を見たら、やっぱり青白くて貧血の子みたいになっている。
さあ、急いで部屋に帰ろう。
「帰還!」
ぼくはリッカにぃにぃをだいて、移動魔術で部屋へ帰った。
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