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第59話:不死鳥の癒しと青い鳥

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次に俺たちが飛ばされたのは、五右衛門風呂みたいな巨釜おおがまがあり、グラグラとお湯が煮えたぎってる部屋だった。

完全回避が発動した俺は、釜から離れた安全な位置に着地。

モチは……

ドボーンッ!!!

……って音がしたので見たら、釜の中に落下してる!

「モチっ?!」

俺は一瞬慌てたけど、すぐ気付いた。

モチはさっき不死鳥フェニックス主人マスターになった。
俺が読んだ召喚獣の本には、こう書いてある。

───炎の召喚獣を従える者は、火や熱でダメージを受けない。
不死鳥フェニックス主人マスターは、炎や熱に害されず、それらから癒し効果を得る───

というワケで、煮えたぎる熱湯の中に落ちたモチは……

「あ~いい湯加減。服着たまま入りたくはないけど!」

……風呂に入ってる感じだ。

「悪いけどそこ、風呂じゃないから」
「「!!!」」

突然声がして、モチも俺も慌てて振り向いたら、そこには福島先生がいた。

「早く出てくれる?」

福島先生には【デビルアイさん】の異名があり、睨むと山根さんとは違った魔的な怖さがある。

「す、すいません……」

モチがビビリながら釜から出た。
火にかかっている鉄釜のフチに触っても火傷せず、平然と乗り越えて出てくる。

「笹谷くんのところで、不死鳥フェニックスの孵化に成功したみたいね」

福島先生は驚いた様子は無かった。
ここに来る前にどこで何してたか知ってるらしい。

「モチはそこの椅子で休憩してていいわ」
「は、はい」

言われて、モチは福島先生が指差す椅子に腰かけた。

モチに従う不死鳥フェニックスが、その右手からシュルンと出てくると、モチの周囲を1周してまた手の中に戻ってゆく。
自己PRに出てきたかと思ったらそうではなく、びしょ濡れになってるモチの服や髪を乾かしに出てきただけ。
命令されなくても主の役に立つ行動をする、デキる召喚獣だね。

「ここではイオに修行してもらうわ」

言いながら、福島さんが釜に向かって指をパチンと鳴らす。
大コンロの火が消え、釜の中だけ時間が巻き戻ったように、煮えたぎっていたお湯が常温の水に戻った。

「俺は何すればいいですか?」
「ソース作りを100回やってみて」

福島先生がパチンパチンと指を鳴らす度に、ドンッドンッて感じでハーブやスパイスや調味料の入った壺が出現する。
調合道具一式も一緒に出てきた。
……それを使えって事かな?

「失敗してもOK。もしも奇跡が起きて【神の雫】と呼ばれる伝説のソースを作れたら、ご褒美あげるわ」

福島先生がニッコリ微笑む。
多分これは、調合系の修行じゃなくて運を使えって事?

俺が育てているタマゴは福音鳥ハピネスが生まれる可能性を持つもの。
召喚獣の本には、その孵化促進の為に、主人となる者が結果問わず運勝負をしまくればいいと書いてある。

「イオは確か調理は得意だったわね。でも今は調理の事は考えず、思いのままに素材を混ぜなさい」
「はい」

100種類用意された素材。
俺はそれを、片っ端から混ぜてみる。
どういう味になるかとかは、今は考えない方がいいみたいだ。

素材を適当に選んで、混ぜて、ソースを作ってゆく。
調理なら味見するところだけど、今はしない。

ひたすら混ぜて混ぜて、出来たソースをテーブルに並べる…

……100回目のソース作りの時に、奇跡は起きた。

技術とか知識とかとは違う、ひらめきに近い何かに導かれて混ぜた素材から生まれたもの。

「……なんか、凄い美味そうな匂いがする……」

部屋の隅で退屈そうに待機してたモチが呟く。

「……さすが、前世でも福音鳥ハピネス主人マスターだった子。やるわね…」

福島先生が満足そうに言う。

肉にも魚にも野菜にも合いそうな、むしろそれを白飯につけて食っても美味そうなソースが完成!
ウスターソースや醤油などの素材をブレンド、ガーリックもしっかり香る。
多分これ、幼い頃に食べた思い出の味がベースかもしれない。


やり遂げた感に満たされて、ソースを入れた容器をテーブルに置いた直後……

パキンッ!

……何かが割れた音がする。

自分の右手に目を向けたら、召喚獣のタマゴを収納していた指輪から、青い鳥が飛び出してきた。

青い鳥は急速に大きくなり、飾り羽根が多く尾羽の長い、華やかな姿に変わった。

福音鳥ハピネスの孵化。
俺はその主人マスターとなった。


「神の雫まで作ったのは凄いわ。はい、これご褒美」

福島先生が、何か入った布袋を渡してくる。
開けてみると、1つ1つ個包装されたチョコレートボンボンが入っていた。

「私が作った回復効果つきボンボンよ。ポーション代わりに疲れた時に食べなさい」
「ありがとうございます!」

いいもの貰った。とりあえず異空間倉庫ストレージに入れとこう。

「ここでの修業は終了よ」

って福島先生が片手を振ると、またモチと俺の足元に魔法陣が……

「次、いってらっしゃい」

……やっぱり、次があるんだね!

3度目になるともう悟った気分で、俺たちは次の場所へ飛ばされて行った。
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