上 下
68 / 89

第67話:中ボスとのタイマン勝負

しおりを挟む
「コォ~~~」

体重20~30kgの鶏が、翼を半開きにして頭を低くして構えてる。
母校の飼育小屋の鶏が飛び蹴り前によくやってたポーズだ。
飼育係の間では「荒ぶる鶏の構え」とか言われてたな。

「ケェッ!」

スカッ☆

ドガンッ!

予想通り、飛び蹴りがきたけど、見事にはずれて壁に激突する大鶏。

「すげ~な、足めり込んでるよ」
「コッコッコ」

俺が褒めたら、大鶏は得意気に笑った気がする。

「飼育小屋の鶏より強いかもね」
「いや間違いなく強いだろ」

壁に穴を開けた後スタッと身軽に着地する大鶏を見て言ったら、後方で見学してるモチからツッコミが入った。

「ケェェェ~~~!!!」

大鶏の首周りの羽毛が膨らむ。

この後に何が起きるかもう明らかだから、俺以外のメンバーはみんな防壁バリアの中に入ったままだ。

ドドドッ!!!

範囲攻撃、羽根が突き立ってるのは俺の近くの壁や床や天井だけ。
刺さってる羽根が1回目の攻撃より密集してるのは、攻撃範囲を狭くしたからかな?

もちろん、俺には1つも当たらない。

「コ~~~」

俺に集中させた羽根攻撃も回避されて動揺したのか、大鶏が目を見開きながら首を左右に振ってる。

「じゃあ今度はこっちの番かな。水神の必中ティアマト!」

起動言語キーワードに応じて現れた小さめの水の龍が、俺の周囲をぐるんと回って体内に入ってくる。

「コケッ?」

大鶏が首を傾げた。

俺は足元の床に刺さってる羽根を左手で抜き取り、大鶏を狙って投げてみた。

ドスッ!

金属みたいに硬くなってる羽根が、大鶏の胸に突き刺さった。

「グェッ!」

しかもダメージ通った?

「コ~~~」

大鶏は困惑した様子で、刺さった羽根を咥えて引っこ抜き、脇へポイッと捨てた。
カランと音を立てて、刃物みたいになってる羽根が床に転がる。

「やっぱ素の攻撃力だと駄目か。火神の激怒イグニス!」

起動言語キーワードに応じて炎の鳥が現れて、俺の周囲をぐるんと回って体内に入ってくる。

右手に持ったまま使ってなかった剣が、高温で熱した鉄みたいに赤く発光し始めた。

「コケェッ?!」

大鶏が驚いたような甲高い声を上げる。

「もう1つ使っておこう。風神の息吹ルドラ!」

ヒュンッと一瞬閃く何かが俺の周囲を一周して、体内に入ってくる。

まるで時間が停止したように、自分以外の全てが動きを止め、音が消えた。
大鶏も驚愕の表情のまま停止している。

俺は勢いよく踏み込み、赤く発光している剣で大鶏を斬り付けた。
肩から斜めに入れた斬撃の痕が、ゆっくりジワジワと赤く発光し始める。

風神の息吹ルドラの効果が切れて、周囲の音や動きが戻った直後、大鶏が倒れた。
その身体には、斜めに赤く光る裂傷がある。

「お疲れ様です。もう大丈夫そうですね」
風神の息吹ルドラを使うと、何が起こったか全く見えないな」

江原が防壁バリアを解除し、先生がこちらへ近付いて来る。

「ケ~~~」

すぐ近くで微かな、弱々しい声がした。

「え? 生きてる?!」

声がした方を見たら、倒れたままの大鶏が目を開けてる。

「お前気に入られたな。何か渡そうとしてるぞ」

先生が言う通り、大鶏は片方の翼を差し伸べてる。
その翼に両手を差し伸べたら、ポトンと1つ丸い物が手の上に落ちた。

「あ、ありがとう」
「コォ~……」

お礼を言ったら、大鶏は満足そうに目を細めて、パタッと動かなくなる。
直後、解体していないのにその身体が肉や羽根などの素材に変わった。

「え?!」
「ボスクラスの魔物に、たまにある現象だな」

びっくりしてたら、先生が教えてくれた。

「ボスモンスターは戦った相手の強さを認めて気に入ると、こうやって全ドロップアイテムをくれるらしい。お前の異空間倉庫ストレージに入れとけ」

言われて、俺は大鶏が遺した素材を収納した。

ありがとな。全部大事に使うよ。
狩ったからには責任を持って食べる、素材を使う。
それが殺めた魔物への礼儀だと、この世界に来て覚えたし、理解してる。

「しんみりしてるところ何だが、魔物は倒しても24時間経てば再び出現リポップするぞ」
「「……へ?」」

先生に言われて、俺も、釣られてしんみりしてたモチもポカンとしてしまった。

復活するんかい。
俺のシリアスモード返せ。
しおりを挟む

処理中です...