優しい人

mami

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出会い

1.

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深夜1時


一階のリビングから大きな音が聞こえる。
ガシャン、というガラスの割れるような音。
その後に聞こえるのは、母と父の言い争うような声だ。
母は言う「全部私の責任だっていうの⁉︎」
父は言う「家の事は全て君に任せている筈だ」


何時もの事ながら、ため息を吐かずにはいられなかった。

2階にいる俺のところにまでその声は届いてきていて、2人が何を言っているのかはハッキリと聞こえてくる。

あの二人はまた同じような事で言い争っている。
お互いにお互いの欠点をさぐり合って、脆い部分を見つけると嬉々としてそこを崩しにかかろうとする。
まるで言い負かした方は、すべての責任から逃れられるかのようだ。
そして、いつも二人で言い争って、口論の最終地点は必ずと言っていいほど俺のことになる。
学校の成績から始まり性格、態度、酷いときは容姿にまでいたる。
そんな内容のことを俺、本人には何も言わず二人で言い争う。
俺の汚点をなすりつけ合い、お互いを守り合ってけなし合う。
これほど滑稽な事はない。

先程ため息と一緒に吐き出した黒いモヤがまた胸にたまっていくのがわかる。

 
俺が父と母の言い争っているところを初めて見かけたのは、小学校に入学してすぐの頃だ。
きっかけを直接聞いたわけではないが、おそらく父の女性関係のことだと思う。
それをきっかけに2人の信頼関係は破綻した。
それからは些細なことでも口論が始まり平行線のまま終わる。そんなやりとりを何回も繰り返していた。

幼いながらに、俺たちの家族の関係は一体どうなるんだろうか…離婚なんてことになるのかな。
そんな事を考える時もあった。

ただプライドの高い2人は自分に欠点を作りたくないのか、家の外では何もないごく普通の家族を装っていた。

父も母もいつも硬く分厚い鎧で武装して生きている。

俺が小学校を卒業して中学受験の時には2人の争いのネタはもっぱら俺の事になった。
その頃から俺は2人の争いが少しでも減るよう期待に応えれるように、完璧でいい子であるようにつとめた。

しかし中学受験は失敗に終わり、2人の良くできた子供の鎧にはなれなかった。


「あの子の受験だってあなたがふらふらしないでちゃんと向き合ってれば、、、!」

「子供の事は君に任してるだろ」

「また全部私のせいにして、、、!」


俺がもっと頑張って受験にも合格して、2人の理想の子供であれば、今の関係は変わっていたのかな、、、

だんだんと自虐的になる思考に胸が潰れそうになる。
何もかも、俺が背負ったところで何も変わらないことは目に見えているのに。


そんな事を考えながらふと、外を見ると最近この辺をうろついている野良猫なのか飼い猫なのかよくわからない猫がじっーとこちらを見ていた。

ちょうどあの二人はお互いに意識を集中させてるし、今ならコッソリ家を抜け出せるかもしれない。
夜中に外出なんてしたことないし、気付かれたらややこしい事になりそうだけど、どうせこの言い合いが終われば俺の事など気にせず各々、自室にこもるのだろう。
ほとぼりが冷める頃にまたコッソリ戻ってくればいい。
とりあえず今は2人の声を聞いていたくないと思った。


掃除の行き届いたツヤツヤしたフローリングを足音を殺して進む。
リビングの扉の前を通る時はあの二人の声が脳にはいってこぬように他の事へ意識を集中させた。
玄関の扉の開閉には気を使い、大きな金属音が響かぬように手持ちをゆっくりうごかす。

ぱたん…

「よし」

外へ出た。
室内の気温と比べると少し肌寒いように思った。
最近は、昼間の暑さにつられてつい薄着になってしまい、Tシャツ一枚で出てきてしまった。
上にもう一枚羽織ってくるんだったな。
まぁ、我慢できないことも無いからいいか…
そう思いながら家の方へ耳をそばだててみる。

家のつくりはしっかりしているようで、外からはあの二人の声は全く聞こえない。
まるで、別の世界に来たみたいだ。
あの扉を一枚隔てた場所ではあの二人が声を荒げて怒鳴りあっているというのが信じられない。
こちらの世界はどうやら平和のようで、あたりはとても静かで少し虫の声が聞こえる。

「にゃー」

鳴き声の主に挨拶すべく、近くに歩みよろうと地面を踏み締めると

「にゃ!」

挨拶する間もなく猫はそそくさと立ち去ってしまった。

「え、、、そんな、、、」

しばらく猫と共に時間を潰す予定だったはずが、あまりにも早い別れに戸惑った。


こまったな、これからどうしようかな…

これから、あの二人が寝静まるまでの何時間かは1人で時間を潰さなければならない。

一応、財布とスマホはもって出てきたので、とりあえずはコンビニへ行き何か温かい飲み物でも買おうかな。

その後のことはまた、その時に考えればいい。
随分と投げやりな考えになっている自分を少し心配したが、外の空気を吸ったおかげで気持ちが軽くなっていることに気づく。

まぁ、時間がたてば何か良い案が浮かぶかもしれない。


「行こう」

暗い道を街灯が照らす、空を見ても星なんて数えるくらいで、飛行機なのか人工衛星なのか嘘くさい光がチカチカ輝いている。

こんなに簡単に抜け出せれるならもっと以前からこうしてればよかった。
そうしたらもっと楽に生きられてたのかもしれない。

過ぎたことを考えてても仕方がないか。
今はとりあえずあの家から抜け出せたことに喜ぼう。

猫ちゃんには感謝だ。

そんなことを考えながらコンビニへの道を歩いた。

夜中に家を抜け出すなんて初めての経験で、いつも歩いている道も、嘘くさい夜空も何故か違う世界の風景みたいに思えた。
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