蜘蛛の亜人

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蜘蛛の亜人

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人を信じられなくなったのはいつからだろうか。
友人だと思ってた奴に素っ気ない態度をとられたときだろうか。
昔は甘やかしてくれていた親から見放されたときだろうか。
勝手に期待するだけしておいて、自分の都合通りにいかないとわかれば切り捨てられる、そんな人間関係にうんざりしたときだろうか。

いずれにせよ、俺はそんなことで一喜一憂することに疲れてしまった。

だったら俺は一人で良い。
期待なんてさせない。一々相手のことなんて考えない。
必要最低限、やらなきゃいけないことだけやって、それ相応の報酬がもらえれば良い。

なんて、かっこいい言い方をしているけど、つまりコミュ障だ。

要は言い訳が欲しかったんだと思う。

・・・

朝のギルドは依頼を探す冒険者であふれかえっている。
ギルドの掲示板に目を通し、めぼしい依頼番号を頭に入れる。

順番になるとカウンター越しにギルドの受付嬢が笑顔を浮かべた。

「おはようございます」
「おはよう。D-36の依頼はまだ空いてるか?」

俺の言葉に彼女は、笑顔を崩さずに手元のファイルに目を通す。

「はい、ただいま確認いたしますので少々お待ちください」

そうして何枚かページをめくると手を止めた。

「こちらですね。依頼主はタルタ村の村長さん。害獣駆除の」
「ああ、それだ」

俺の返事に、彼女は頷き、それからこちらの目を見て、伺うように声を潜めた。

「念のための確認ですが、今回も一人で受けられると言うことで間違いないですか?」
「条件は不問だったはずだけど?」

俺の言葉に受付嬢は慌てたように手を振る。

「は、はい。それは、そうなんですけど」
「それに、この報酬じゃ二人でやったら足が出ちゃうよ」

その報酬は俺が言うとおり、お世辞にも十分とは言えないものだった。
でもしょうがない。そもそも俺は取り合いにならないように進んでそういう依頼を受けているんだから。
受付嬢は少しだけ肩を落としてから、気を取り直すように姿勢を正して言う。

「そう、ですよね。わかりました。詳しい説明をしますので奥の部屋へどうぞ」

そうして俺は、彼女の手の先にある部屋に向かった。

・・・

受付嬢の案内で入ったのは、ギルドの職員が一人と大きめの机、何脚かの椅子がある部屋だった。部屋の側面の本棚にはぎっしりと本が収まっている。
依頼を選んだ冒険者は、その依頼担当のギルド職員から説明を受けここで正式に依頼を受諾する。

「D-36だ」

俺がそう声をかけるとその職員は微笑む。

「やあシルヴァン。その依頼はどうせキミが受けると思ってたよ」
「そうか」

俺にそう親しげに声をかけたのは顔見知りの職員だった。
俺が選ぶしょっぱい依頼は彼が担当であることが多く、自然と顔見知りとなったのだ。

気にせず椅子に腰掛ける俺の対面に、彼は大きめな分厚いファイルを開きながら座る。

「早速説明をしようか」

依頼があったのは、俺が拠点としている街から馬車で三日ほどの距離にある小さな農村。
何でも最近、夜な夜な農作物や家畜が荒らされてるらしい。
今のところ村人の被害者は出ていないがいずれにせよこのまま放置していては冬を越せなくなるとのことだ。

依頼は周辺の調査と害獣の始末。
依頼主である村長の話を踏まえたギルドの推測では、フォレストボアかグリングリズリーが俺の相手らしい。
もっともその特定も俺の仕事のうちとのことだった。

そもそも先述の通り人の被害が出ていないことから緊急性は高くなく、決して裕福とは言えない村からの依頼なので報酬も美味くない。
そんな依頼誰が受けるんだ。

俺だ。
だって資格持ちなら一人でも良いって言うから……。

一通りの説明を終えると職員は渋い顔でぼやく。

「顔を合わせるたびに言ってる気がするけど。キミはパーティを組んだりしないのか?」
「組む理由がない」
「いやいや。キミみたいな“弓使い”をメンバーに求めているパーティは少なくない。今よりもっと割の良い仕事だってこなせるようになるはずだ」
「……」

そう言われても、パーティを組むことによって発生する面倒もある。
それを天秤にかけてこのやり方を選んだんだ。
彼は黙る俺を見てから諦めるようにため息を吐いた。

「……そりゃあ、今回のような依頼を、キミが率先してこなしてくれるのは、正直ギルドとしてはかなり助かってるんだけどね」
「じゃあいいじゃないか」
「キミがいいなら良いんだけどね」

言いつつ職員は書類にペンを走らせるとファイルを閉じて席を立つ。
どうやら話は終わりらしい。
俺は彼に背を向け出口に向かう。
そんな背中に彼は声をかける。

「まあ、寂しくなったら臨時パーティでも組んでみるといいさ」
「お気遣いどうも」

俺は振り向かずにそれだけ言って部屋をあとにした。

・・・

部屋を出ると少し柄の悪い二人組に絡まれた。

「よう、シルヴァン。今日も元気に“残飯漁り”か?」

ヘラヘラ笑ってそう言う人間の男。名はコステロ。
腕の良い剣士だがこんな感じで素行があまり良くないため、ギルド内での評判は賛否が話kれている。

「まあね」

俺が適当に返すと、くだらないものを見るような目でこちらを見る狼の獣人が声を上げた。

「おいおい、わざわざ話かけんなよ。俺たちが同格だって思われちまうだろ」

獣人の名はヴェリオ。
コステロの兄貴分らしく、組んで行動しているところをよく見かける。
コステロが大きな問題を起こさないのはヴェリオが目を光らせているからだとギルド内では評判だ。
しかしそんなヴェリオは俺のことがあまり気に入らないらしく、こうして見下してくる。
わざわざ絡んでくる癖に大した用はないらしい。

「用がないなら行くけど、いいかな?」

俺はそれだけ言って、返事も待たずに二人の前を通り過ぎた。

「チッ、玉なし野郎がよ。プライドとかねえのかよ」
「そんなもんあったら残飯漁りなんてしねえだろ」

まあ、勝手に下に見てる分なら好きにしてくれ。
軽蔑するような二人の言葉を受けながら俺はギルドをあとにした。

・・・

ちょうど良くタルタ村方面に向かう乗り合い馬車があったので同乗させてもらう。
こういう馬車は用心棒代として馬車代が浮くから大変助かる。
そうして予定通りしっかり三日で特に問題もなく村に着いた。

依頼主であるタルタ村の村長は、背筋の伸びた快活な老人だった。
村に着いたのは朝だったので、村の被害状況を確認し、村長の話を聞いたその足で俺は森に足を踏み入れた。

周囲を警戒・観察しながらゆっくりと足を進める。
鬱蒼と木々が、藪が生えており見通しはあまり良くない。

しかし心なしか、獣の気配があまりない。
いや、足跡がある。
辺りの木々には縄張りを主張するかのような巨大な爪痕がある。

食料に困った大型の獣が、食料目当てに村に顔を出したのは間違いないらしい。
もっと言うとその獣は人間に闇雲に手を出さないという知能もあるようだ。

これボアじゃねえなあ。
爪痕の残し方はグリングリズリーだとは思うんだけど位置が高い。
これ、どのモンスターだ?
けどまあ、何かが居るのは間違いなくて、腹が減ったら多分近いうちにまた村に顔を出すだろう。
これは村に戻って待ち構えるのも選択肢か。
でも悠長にして良い状況ではないのは確かだ。

そう思っていると、甲高い声が聞こえた。
獣の遠吠えじゃない。
悲鳴だ。

「女の声!?」

しかも近いぞ!?
俺はその声の方に向かって走った。

・・・

その声の主はすぐに見つかった。
藪に隠れているが立ち上がり獲物を威嚇しているグリングリズリーと、それと見合って動けずにいるらしい20代くらいの女性。

俺は女に向けて大声で伝える。

「なんでこんなところにいるのか知らねえが、早く逃げろ!!」

女は俺の声にびくりと肩を揺らしてこちらを見る。
しかしなにやらその場を動く様子はない。

代わりにグリングリズリーがこちらに向き直った。
保護色のような深緑の毛並みに覆われた巨大な熊。
そう、巨大な熊だ。

近づき、見えてくるその全容に俺は思わず声を漏らす。

「いや遠目で見た時から薄々感じてたけども」

通常グリングリズリーは2メートルから3メートルほどだ。
だがそいつは。
群れからはぐれた個体はたまにこうなるってのは噂で聞いたことはあるがよお……。

「でかすぎんだろ……」

思わず悪態をつく。
その大きさは、俺の知るグリングリズリーよりも二回りほど大きかった。

グリングリズリーは、俺の姿を認めると背を向けこの場を離れようとする。
冗談じゃない。
こんなアホでかいモンスター野放しに出来るか。
何時こいつの気が変わって村に手を出されるかわからん。
あの村が無事だったのはこいつがたまたま手を出さなかっただけだ。

「くっそ……!」

俺は背負った矢を弓につがい一矢放つ。
矢は狙い通り奴の背に当たる。
しかし、

「効いてんのかこれ!?」

矢は刺さらずに弾かれた。

「効いてないみたいですね……!!」

俺は負けじと矢を放ち続ける。
しかし奴の分厚い毛皮は俺の矢をものともしないようだった。

「ざっけんなよマジで!! 矢は無料じゃねえんだぞ!!」

悪態をつきながら矢を放ち続ける俺をうっとうしいと思ったのだろうか。
グリングリズリーはようやくこちらに体を向け、ついでとばかりに俺の矢を、前足を振るうことで弾き落とした。

「だから弾くな!!」

俺は背後に手をやり、既に矢が残り少ないことを察する。
グリングリズリーは雄叫びを上げ、こちらに駆け寄ってきた。
その強靱な体躯で行く手を阻む木々をなぎ倒しながら、まっすぐと俺に向かって。

俺は覚悟を決めて、虎の子の一本を弓に番える。
それは、他の矢とは違い“魔法”を増やさせやすくした特別製。
通常のうん十倍の値がする特注品だ。
目の前の標的から目をそらさずに集中する。
心臓から右腕に、そして矢に俺の魔力が乗る。
俺は詠唱する。

「アル・ア・アン・ヒュリオ・メテオーラ」

瞬間、魔力は炎という形で顕在化し、俺が手を放すと同時に火線となってまっすぐに獲物の頭部を吹き飛ばした。
それは、流星の一撃。

ズバン、という音と共に頭部をなくしたグリングリズリーは飛び込んで来た勢いのまま俺の目の前に倒れ込んだ。

俺は恐る恐る足先でその体をつつく。

「死んだか?死んだよな……?」

反応はない。
ピクリとも動かず、焼けた断面は血すら流さず。
グリングリズリーは、確かに絶命したようだった。
俺は大きくため息を吐いた。
そして奴に弾かれた矢に目を向け、どれも再利用できないことを認識した。
俺は改めて盛大にため息を吐いた。

「……絶対足出たぞこれ」

それから周囲を見渡して、気付いた。
さっきクマに襲われていた女が、未だにその場にとどまっていることに気付いた。

「おい女、なんで逃げてねえんだ」

言いながら女に近づいていく。
女はただじっとこちらを見ていた。
気にせず近づいて、そこで気付いた。

「あ……?」

女の下半身は、人間のそれではなかった。
腰から下はまるで昆虫の胴のようで。
そこからは黒い甲殻に包まれた八本の足が生えていて。

実物を見たことはない。
だが話だけは聞いたことがあった。

「アラクネ……?」

人間の上半身に、巨大な蜘蛛のような下半身。
アラクネと呼ばれるモンスターがそこに居た。

「あー……」

アラクネはその美貌で人間の雄を誘惑し、巣へと連れ去り餌とするらしい。
つまり人間に害があり、もっというとおおよその人間より強いということだろう。
しかし。

「失せろ。見なかったことにしてやる」

もう俺は使える矢がない。
そもそも今回の依頼には関係ない。
この状況から考えて、今すぐ人間に害をなすとも思えない。
なによりもう疲れた。早く休みたい。

そう思っての言葉だった。
俺の言葉を理解したのかわからないが、アラクネは俺の方を警戒しながら少しずつ距離をとっていく。

「……心配しなくても後ろから撃ったりなんかしねえよ」

矢もねえしな。

疲れながら俺がそう言うとアラクネは俺に背を向け、あっという間に森に消えて行った。

その後ろ姿を見送ってから俺はもう一度倒れたクマ公に目を向ける。

「……ったく。このクマ公売れるよな……?」

そもそもどうやって回収するんだこれ。

・・・

村に戻って村長宅に向かう。

「おお、ご無事でしたか狩人殿」
「ええ。ご依頼の通り、害獣は始末しました。場所をお伝えしますので若い衆に運ぶのを手伝っていただいても良いですか?」

俺がそう言うと村長は少しだけためらい、

「え、ええ。それは構いませんが」

そうやって少し歯切れ悪く答えた。
その表情を怪訝に思った俺は尋ねる。

「……なにか気になることでも?」
「ああ、いや。……あくまで子供の戯言だとは思うのですが」

村長はそこで一度言葉を句切ってから、続けた。

「山に入ったときに、アラクネを見たと。もし、それが本当だとしたら、その……」

村長はそこで口をつぐんだ。
要は若い衆が、被害に遭うかもしれない、と。

「アラクネですか」

いたね。アラクネ。
バッチリ見た。
なんだよ、もともとアラクネ居るってわかってたんなら依頼でもそう言ってくれれば良いものの。
あれ?それだと依頼料高くなるんだったか?
アラクネの相場っていくらなんだろうか。
でもそれであのクマを回収できないっていうのももったいない。

俺は答えた。

「いや、そんな気配はありませんでしたね。気のせいでしょう。まああれだったら俺もついて行きますよ」

・・・

件のアラクネに遭遇することもなく、俺たちはグリングリズリーを回収することが出来た。
それから村長にしっかり依頼完了の手続きをしてもらい、でかすぎるクマの肉を肴にささやかながら宴を開いてもらった。

ついでにいくつか矢も融通してもらったので帰り道も安心だ。
夜も更け、宴もたけなわとなった頃、俺は客人用の小屋に泊めてもらえることになった。

野宿よりは万倍も居心地が良い寝床でうとうとしていると、何かの気配を感じた。

俺は静かに体を起こし弓に手を伸ばす。

「気のせいか?」

直後、ギイと音が鳴った。
目を向けると開いている窓が揺れた音のようだった。
……さすがに閉めて寝るか。

そう思って窓に向かい、ついでに辺りをうかがうために少しだけ外に顔を外に出した。


目の前に、女がいた。


「は?」

思わず漏れた声と同時に何かが俺に絡みつく。
まずい!完全に油断した!

これは、“糸”だ。
粘着性がある。
まるで、“蜘蛛”の糸……!!

強い力で俺は窓の外に引っ張り出される。
そして気付いた時には俺は簀巻きにされていた。

恐ろしい早業。
全く反応できなかったね。
死んだかな?

……死ぬ!?

「んー!? んー!!」

体と同じく糸で口を塞がれているが、必死で声を出そうとする。
無理だわ。全然。
そんなことを考えていると下手人である“そいつ”は、

「おっきい声出さないの」

なんて、まるで人間の女のような声で、子供を窘めるようにそう言った。

「んん!?」

俺を簀巻きにした犯人、アラクネは小屋の中に足を踏み入れた後、満足したのか簀巻きの俺を背に乗せると音もなく駆け出した。

森に向かって。
……え? 俺食われるの?

・・・

数刻ほど、夜の森を駆けていった。
次第に日が昇るのか空が白んでくる。

そうしてアラクネは岩壁に開いた洞窟に俺を連れ込むと、地面に俺を下ろした。

「ふう……ここまでくれば良いかしらね」

汗を拭う仕草をするアラクネ。
どこか優雅さというかそこはかとない淫靡さを感じさせるそいつに俺は抗議の声を上げる。

「んん!!んーん!!」

声は出ませんでした。
しかしアラクネは俺に目を向け、

「ああ、ごめんなさい」

なんて軽い調子で言ったかと思えば、慣れた様子で器用に足を使って俺の拘束をほどいていった。

最後に轡を外され自由になった俺は改めて抗議の声を上げる。

「いきなり何なんだてめえ!?」

そんな言葉にアラクネはきょとんとして、

「あら? 問答から入るのね?」

なんて心底意外そうにそう言うのだった。

「あ?」

怪訝に思い聞き返すと、アラクネはうんざりした様子で言う。

「普通人間は、あたし達を見つけたらすぐ攻撃してくるから」

俺は言う。

「知らねえよ。アラクネなんて初めて見たからな」

俺がそう言うとアラクネは目を丸くした。

「そうなの? 確かにこの辺りでは同族は見かけないわね」
「ああ。そもそもお前らに言葉が通じるとも知らなかった」

言いながら思う。
言葉が通じるのもそうだが、まるで仕草も人間みたいだ。
上半身だけに目を向ければ確かに美人でもある。
そうなると人間の男がだまされるのもわかる。
話している分には人間と大差ない。
俺は彼女の下半身に目をやる。
ギシギシと動く蜘蛛の下半身が目に入った。
……うん。話している分には。

アラクネは気にしていない様子で言う。

「あたし達は群れで行動しないからねえ。戦いながら独り言なんて言わないでしょ?」

え?
普通独り言って言わないの?
俺は昨日の自分の戦いを思い返す。

「………………………………いや、それは、人によるんじゃないか?」

俺がそう絞り出すと、アラクネは「そう?」と興味なさそうに言った。
そして続ける。

「あとはまあ、基本的には見つけたら逃がさないからね」

お互いね、なんて付け加えるアラクネに俺は尋ねた。

「で、なんの用だよ」

俺の問いに、アラクネはふむと唸って腕を組んだ。

「面倒だから単刀直入に聞くけど」

そしてじろりと俺をまっすぐと見据えて、言った。

「あなた、なんであたしを見逃したの?」

……随分もったいぶって、仰々しく聞くから何用かと思えば。
俺は呆れてしまって、適当に返した。

「別に理由なんてねえよ」

まあなくはないけども。
少なくともこいつが邪推してそうな深い意味なんかはない。
しかしアラクネは、

「嘘」

そうバッサリと切り捨ててから、続ける。

「街に戻ったら報告して仲間を呼んでくるつもりだったんでしょ?」

見当外れなその推理を、俺は思わず鼻で笑う。

「はあ? 違うけど?」

するとそんな俺の態度が鼻についたのかアラクネは少しばかり眉根を寄せて言った。

「じゃあ何? アラクネなんていつでも殺せるって?」

その言葉に少し考える。
こいつと鉢合わせた時のことを思い返す。

「……実際そうだろ。お前、クマから逃げてたじゃねえか。そのクマより俺の方が強えんだから、俺の方が強えってことだろ」

悲鳴とかあげてたし。
まあ虫だしなあ。クマは苦手なのかもしれない。
すると、

「は? アラクネ舐めてんの? あんなクマ公余裕だから」

なんて声を荒げて言うのだった。
まるで負け惜しみのようなその言葉に、堪らず俺は言い返す。

「じゃあなんで逃げたんだよ!」
「逃げてないでしょ!? ちゃんとあの場にいたじゃない!!」
「なら言い方変えるわ!なんで無抵抗だったんだよ!?」

俺の言葉にアラクネはぐっと固まった。

「それは、その」

言い返せないアラクネに気を良くした俺は徹夜のテンションも相まって詰める。

「ほら言い返せない! はい、俺の勝ち! 見栄張ってんじゃねえよ!」
「だから、その……」
「え? 何? 聞こえませんけど?」

言いよどむアラクネは、俺の言葉に、

「は、はいせつちゅうだったの……!!」

なんとも言いにくそうにそう答えた。

「……は?」

え? なに? はいせつ?
言葉の意味を理解しようと俺が聞き返すと、アラクネはそれを煽りと捉えたのか開き直ったように大きな声で言い直した。

「だから! 排泄中だったんだってば!」

俺は言った。

「お、おう」

あ、そ、そっかあ……。そうなんだ……。
しかしテンションの上がりきったアラクネは続ける。

「は? 何? じゃああんたあれなの? うんちしてる間に襲われたら戦えるの!? 戦えないでしょ!?」
「いや女の子がうんちとか大声で言うなよ……」
「うんちしてるときに襲いかかられたら悲鳴くらい出るでしょうが!!」
「出るよ、わかったよ、俺の負けだよ」
「ほんとにわかってんの!?」
「なんだよ怒んなよ」
「あんたが恥ずかしいこと言わせるからでしょ!?」
「勝手に言ったのはお前だよ!?」

顔を真っ赤にしながら息を荒げるアラクネを見て、またしても人間みたいだな、なんて思ってしまう。

彼女はしばらく息を整えて、それから仕切り直すように、

「……それで、もう一度聞くけど」

先ほどまでの怒りを抑えた、真面目な顔で尋ねる。

「なんで、見逃したの」

どうやらこの“見逃した”という部分がなにやら彼女の琴線に触れたらしかった。
試すように俺は問いかける。

「自尊心でも傷ついたか?」

そしてどうやら俺の推測は辺りだったようで、彼女は目線鋭く俺を睨み付けて、続ける。

「そうよ。下等な人間如きに見逃されたなんて、末代までの恥よ。今だってあなた、あたしと会話してるじゃない。いつでもあたしを攻撃できるのに」

その言葉に考える。
確かに。
俺はいつでもこいつを攻撃することが出来る。
わざわざこいつの言葉なんて聞くまでもなく。
獣の咆哮を無視しているいつものように。
今だって、そうすることは出来る。
だが。

少しの沈黙のあと、俺は答えた。

「見逃したつもりは、ねえよ。昨日は矢がなかったし、お前は依頼の対象じゃなかった」

そうだ。
昨日は矢がなかった。アラクネを狩れとも言われてなかった。
だから無理して相手をする必要はないと判断した。
これは嘘じゃない。

アラクネは表情を変えずに言う。

「今は?」
「今は弓すらないし、」

それに。

「もう、会話したしな。今更外敵扱いも違うだろ」

そうだ。見知らぬ獣が相手なら問答なんて無用だ。
だけどこうして会話が出来て、意思疎通が出来るなら、きっと今この場で命を奪い合う必要はない。

俺の言葉にアラクネは納得したのかしていないのか、ただ意味深に「ふーん」と相槌を打つ。
そして試すような口ぶりで言う。

「あたし達、人間食べるわよ?」

その言葉に、眉を顰めたのは俺だった。

「じゃあお前こそ、なんで俺を食わねえんだよ」

先ほどのこいつの疑問を、そっくりそのまま返すようなものだ。
俺の問いに、彼女は少しだけばつが悪そうにして、

「別に今、お腹すいてないから」

そう言った。
俺は「そうかよ」と適当に返事をした。

そうしてまた沈黙が走る。
アラクネは少しだけもじもじしてから、遠慮がちに口を開いた。

「人間。あなた名前は?」

俺は悩まずに答えた。

「シルヴァン。ただのシルヴァンだ」

アラクネは「シルヴァン」と試すように口の中で呟いていた。
俺はそんな彼女をじっと見つめて言葉を待つ。
少ししてそれに気付いた彼女は怪訝そうに口を開く。

「……なに?」
「いや何じゃねえよ」

本当に心当たりがなさそうな彼女に少しだけ呆れて、俺は言った。

「人にだけ名乗らせんのかって。お前の名前は?」

彼女は俺の言葉を聞いて、

「……」

唖然として固まった。

「どうした? 名前ないのか?」

言葉を交わす知性があるが群れで生活しないならそういうこともあるだろう。
しかし彼女は浅慮勝ちに、口を開いた。

「……アリヤ」

アリヤ、アリヤか。
その名前は覚えておこう。

「そうか。アリヤ、俺は帰る。せいぜい他の人間に見つからないようにな」

そうして俺は彼女に背を向け出口の外を見る。
これどの辺りだ?
一応つれて来られたとき周りは見てたつもりだったけど夜だったからなあ。

なんて俺が帰りの算段を立てていると後ろから声が聞こえた。

「決めたわ」

何を?
そう思って振り返るとアリヤが目の前に居た。
うお。こいつやっぱ美人なんだな。
少し圧倒されている俺に、アリヤは言った。

「あなた、今からあたしの番になりなさい」

有無を言わせないようなその言い方に、俺は彼女の言葉を反芻する。

「つがい? ……番か?」

俺の回答に満足したように少し胸を張ってアリヤは言う。

「ええ。人間は夫婦とか夫妻って表現するんだったかしら?」

なるほど。
そう言う意味か。
俺は答える。

「断る。アラクネのいい男を見つけるんだな」

その方が彼女も幸せだろう。
あれ?でもアラクネの雄って聞いたことねえな?
そう思って居ると脇から伸びた糸があっという間に出口を塞いだ。

……ん?

「おい。なんで出口塞いだ?」
「番になるって言うまで帰さない」
「それは脅迫だろ……」
「ね、いいでしょ?」
「断る」

断固たる決意でそう答える俺にアリヤは「えー」なんて抗議の声を上げてから続ける。

「いいじゃない。狩りはあたしがするし。あなたは巣で待ってればいいのよ? まあ子供が出来たら、お世話してもらうけど」

……いかん。ちょっと魅力的だ。
だが彼女の言葉にひっかかった。

「……待て、子供だと?」

俺の問いに、アリヤは意外な質問だとでも言うように答える。

「アラクネは雌しか居ないの。気に入った雄の子種で子供を作るの♡」

心なしか媚びるような態度でそう言うアリヤに俺は思う。
あっ、そっかあ。人間の雄を狙うのってそれも理由だったりするのかなあ?

「……でも、お前の言う狩りって、人間相手なんだろ? さすがに共食いはなあ」
「あなたが嫌って言うなら牛でも豚でも鶏でも、なんでも狩ってきてあげる」

先ほどまでとは打って変わってニコニコしながらアリヤは言う。

「……」

どうしよう。ぶっちゃけめちゃくちゃ魅力的だ。
要はこいつ。もう俺は働かなくて良いと言っている。
家で待ってれば飯が出てくる。
そもそも今働いてるのも生きるためだ。衣食住をそろえるためだ。
少なくとも食に困らなければ死ぬことはないだろう。
なにより煩わしい人付き合いも回避できる。
俺はアリヤに尋ねる。

「お前らは、人間を食わなくても生きていけるのか?」
「そりゃ、まあ。人間だって、肉だけじゃなくて野菜や果物、穀物を食べるでしょ?あたしもまだ食べたことないし」

その言葉に決心がつく。

「人間を食わないって言うなら、考えてやってもいい」

人間を食ったことがなくて、今後も食わなくて済むんだったら、その方がいい。少なくとも俺にとっては都合がいい。

俺のその言葉にアリヤは目に見えて表情を明るくした。

「良いわよ! 約束してあげる!」

その表情に、嘘は見えない。
俺はそんな彼女に満足して背を向けた。

「そうか。じゃあ俺は帰る」

そんな俺に背後からアリヤは言う、

「ちょっと話が違うわよ!?」
「いや、いきなり結婚はちょっと。まずはお友達からで」
「それ脈ないやつじゃない!?」
「お前らにもそう言う概念あるのね」
「でも、出口は塞いでるわよ」

アリヤの言うとおり洞窟の入り口は彼女の糸で塞がれていた。
……気にしていなかったがこの糸はどこから出てるんだ?
まあ良いか。
俺は少し集中し、自分の右手に魔力を集め糸に手のひらを向ける。
そして詠唱する。

「フィガール・アン・ヒュリオ・プロメティア」

直後俺の右手の平から火球が発生し、その糸を焼き払った。
じゃあ、そういうことで。
そして洞窟を出ようとした時。

「あら、すごい雨」

アリヤの言うとおり、洞窟の外は酷い雨だった。

「……」
「止むまでゆっくりしていけば?」

アリヤの言葉に、俺は大人しく頷いた。

・・・

どうせ雨が止むまで帰れないしということで、暇つぶしにアリヤと話でもすることにした。

「ふうん? じゃあ、元々お前の生まれはこの辺じゃないんだな」
「そうねえ。あたし達は縄張り意識が高いから、一人前になって最初にやることは自分の狩り場を見つけることなの。この辺に来たのは最近よ。あの山の向こうで生まれたの」

あの山、とアリヤが指さすのは洞窟の入り口からも見える立派な山だ。
ここからでも頂上が見えるのでかなり遠くの山なのだが、それを見て俺は言う。

「あの山って、もしかしてあのトルモ山のことか? 神聖国の領地じゃねえか。どおりでこの辺りで見たことねえ訳だ」

俺が少しばかり興奮してそう言うとアリヤはおかしそうに笑って言った。

「まあ結構大変だったわね。一緒に旅してた姉妹達もみんなやられちゃったし」
「やられたって?」

俺が聞き返すと、アリヤは何でもないことのように言う。

「言葉通りよ。何回か人間に襲われてるからその時にね。大体返り討ちにしてきたけど、寝込みを襲われたり、化け物みたいに強い奴がいたりね」

その言葉に俺は考える。
神聖国では未だ獣人差別が強いと聞く。
人間至上主義とでも言うべきか、人間は神の遣いだという教えがあるそうな。
そんな環境で育った人間に見つかったというのであれば、それは彼女の口ぶり以上に大変な思いをしてきたのだろう。
俺は思わず言った。

「……そりゃ、すまなかったな」

俺の言葉にアリヤは不思議そうに首を傾げる。

「……なんでシルヴァンが謝るの?」
「いや知らない奴とはいえ、一応同じ人間がやったことだから」

同族が迷惑をかけたんだ。謝罪するものだろう。
そう思っての発言だったが彼女にとって不思議だったのは底ではないらしい。
アリヤは言う。

「そうじゃなくて、人間が、あたし達を殺すことを、なんで謝るの?」

その言葉に、俺は確信を突かれた気がした。
そうだ。
だって俺は獣を殺したって謝ったりなんかしないのに。
どうして今謝ったんだ?

首を捻る俺をおかしそうに笑って、アリヤは言う。

「ねえ。せっかくだしあなたの話を聞かせてよ。人間の生活ってどんな感じなの?」

その言葉に、俺は思考を戻す。
そして答えた。

「別に、おまえらと変わんないと思うけどな。人間だってお前らと同じ動物だ。獲物を狩って、腹を満たして、寝床で寝る」

そうだ。
おんなじだ。彼女たちと俺たちで何が違う。
するとアリヤは感心したように言う。

「人間の群れって賢いわよねえ」
「文化の話か? 生きていくってことよりも、その社会で生活するための教育があるからなあ。でもまあ群れで生きてくためのルールが厳格で細かいだけだよ」
「不思議なのは獣人とかも一緒に生活してることかしらね。あたしたちを襲ってきた人間の集団の中には獣人も居たわ。山を越えた辺りからだけどね」

彼女の言葉に俺は答える。

「さっきも言ったとおり、その社会で生きていくためのルールがあるから。それさえ守ってれば共生は難しいことじゃない」

神聖国みたいな例外もあるが、大抵は獣人だろうがエルフだろうがルールさえ守っていれば仲間はずれにされることもない。俺が依頼の説明を受けたギルドの職員だってエルフだしな。

俺の言葉にアリヤは、

「ふーん?そういうもんなの?」

なんて、わかったんだかわからないんだか曖昧な相槌を打った。
俺はそんな彼女に苦笑する。

「ま、群れで生活しないんじゃその辺はよくわかんないか」

そこで一つ腹の虫が鳴いた。
なんともタイミングのいいやつだ。

「お腹すいた?」
「ちょっとな」

ここに連れられてから何も食べていない。
腹も空く頃だ。
するとアリヤは、

「待ってて、今ご飯持ってくるから」

そう言って洞窟の奥の方に向かっていった。
明かりが届かない奥で彼女が何をしているのかは見えない。
しかし少しの後、彼女はすぐに戻ってきた。
そして満面の笑みで手にしたそれを俺に差し出した。

「はい」

俺は答えた。

「はいじゃないが」

俺の言葉にアリヤは首を傾げる。

「あら? ネジュミはお嫌い?」

彼女の言葉の通り、彼女の手には死んだネズミがぶら下がっていた。
死んで日は経っていないようで、腐敗臭はない。
その様子から、血抜きも済んでいるようには見える。
しかし俺は彼女に言う。

「食わなくはないけど生はさすがに」

アリヤはまた俺の言葉に首を傾げた。

「ナマ?」

その反応に俺は思った。

「……やっぱり番になるってのは無理かもな」
「なんでよ!?」
「いや、飯用意してくれるってこれ生で出てくるってことだろ? ちょっとなら良いかもだけど病気になっちゃうよ」

さすがに毎食生の獣は無理だ。
つうか切羽詰まってなければ一食でも嫌だ。

俺の言葉にアリヤは頬を膨らませる。

「じゃあどうすんのよ」

どうって言われても。
皮剥いで、モツ抜いて、火を通せば食えるかな?
しかし俺は自分の今の装備を鑑みて肩を落とす。

「せめて俺の鞄があればなあ」

気が抜けてすっかり忘れていたがここは外で、俺は誘拐されたんだった。
着の身着のままじゃ下準備も難しいか。
そう思っていると、アリヤは言う。

「あるわよ?」
「は?」

俺の返事が早いかアリヤは洞窟の奥に向かい、こちらに何かを投げてよこした。
それは確かに、俺の荷物だった。
弓も矢もある。
戻ってきたアリヤは言う。

「あんたの荷物は全部持ってきたから」

悪びれない様子のアリヤに、俺は思わず悪態をついた。

「……お前最初から監禁するつもりだったな?」

それから弓に目を向ける。
それに気付いたアリヤは、試すように言う。

「撃つ?」

俺はその言葉を鼻で笑った。

「今更?」

アリヤは愉快そうに、「ふふっ」と笑う。

それから
ずいと距離を詰めてくる。
蜘蛛の下半身を踏まえて、彼女の身長は俺よりも大きい。
そんな彼女が目と鼻の先まで近寄ってきて、俺を見下ろす。
すると足を折り、俺と目線を合わせるとそのまま体をすり寄せてきた。

そんな彼女の突然の行動に俺は思わず声を上げる。

「おいなんだ急にすり寄ってくんな」

アリヤは愉快そうに笑う。

「怖くないの?」
「怖えよ!何考えてんだてめえ!?」
「うっふっふ。何かしらねえ」

そうしてぎゅうと、人間の腕で俺に抱きついてきた。
思わず体を強ばらせる俺に、アリヤは言う。

「あたし、おかしいらしいの」

呆気にとられる俺に、彼女は腕の力を強くして、続ける。

「一人は、寂しい」

その言葉に、俺は体の力を抜いた。
それから目の前の彼女を安心させようとしてつい、その頭を撫でる。
そして、言った。

「……わからなくはないよ」

肩越しに、彼女のおかしそうな笑い声が聞こえる。

「あなたも、やっぱり変わってるわね」
「失礼な」
「あたし、アラクネよ?」
「友達だろ?」
「……ねえ、やっぱ番になってよ」
「もうちょっと考えさせて」
「いつまで?」
「……雨が止むまで、かな」

・・・

「まさか一週間雨が止まないとはなあ」

晴れ晴れとした外を眺めながら、俺は思いきり伸びをする。
そんな俺に、口を尖らせながらアリヤが言う。

「ねえ、やっぱりダメなの?」
「さすがにこの洞窟で一生は無理だ」

笑って答える俺にぶーぶーと言いながらアリヤは言う。

「じゃあ、せめて子種だけでも」
「いやだよ。お前絶対そのまま俺のこと監禁するだろ」
「そ、そんなことないけど?」
「おう、目ぇ見て言えや」

一週間この洞窟で過ごしたわけだが、意外なことにアリヤが俺の寝込みを襲ってくることはなかった。
途中体が痛いとごねた俺に糸で作った寝床まで用意してくれた彼女には感謝しかない。
洞窟から一歩外に出て、俺は彼女に言った。

「ま、精々俺以外の人間に見つかって狩られないように慎重に生きていくことだな」

アリヤは拗ねたように鼻を鳴らして言った。

「あなたこそ、あたし以外のアラクネに食われたら許さないからね」
「ピンポイント過ぎない?」

・・・

俺は曖昧な記憶と地形の目算を頼りに森を歩き、なんとかタルタ村に戻ってきた。
村長は大層驚いた様子で俺を出迎えてくれた。

「おお!ご無事でしたか!」
「ああ、ひょっとしてご心配おかけしましたか?」
「ええそりゃあ、宴の夜に行方不明になるものですから……」

まあ、そりゃそうだよな。
なんせ一週間だ。荷物がなくなってるとはいえまさか徒歩でこの村を出るとは思わないだろうな。なにか会ったと考えるのが自然だ。
村長は続ける。

「それに狩人殿が居なくなったあの夜、アラクネの姿を見たと言う者が。アラクネに誘拐でもされたのかと」

俺はぎょっとした。
あの馬鹿思いっきり見られてるじゃねえか。
俺は動揺を気取られないようにすました顔で言う。

「いやいや、この辺りでちょっと野暮用がありまして」
「そ、そうですか。では、アラクネはやはり気のせいだったと」

村長の言葉に俺は何度も首肯した。
すると村長はまたなんとも困った様子で唸り出す。

「では、彼らには悪いことをしてしまったな」
「彼ら?」
「いやあ、あなたが連れ去られたということで、アラクネの討伐依頼を出したのです。すぐに二人組の冒険者が来てくださいましてな。その様子では入れ違いになったご様子ですが」

・・・

俺は来た道を全力で走っていた。
村長の話では、その冒険者は剣を持った人間の男と斧を持った獣人だったという。
そんな二人組。心当たりしかない。
しかしあの二人がこんな村の依頼なんか受けるのか。
疑問に思いながらもアリヤの元へと向かう。
せめて見つかる前なら良いが。

しかし俺の願いも虚しく、既に両者は接触していた。
洞窟を出て目の前にある開けた草原で、剣を手にした人間の男と斧を手にした獣人の男が並んでいる。
その前には、洞窟を背に殺気立ったアラクネ。

俺は弓に矢をつがえ、全力で叫んだ。

「全員動くな!!」

その言葉に獣人のヴェリオと人間のコステロがこちらを向いた。
そして俺の姿を認めたヴェリオが吠える。

「ああ!? シルヴァン、てめえ無事だったのか」

俺は、二人に矢を向けながら、少しずつ近づく。

「ヴェリオ、コステロ。何も言わずにここを去れ。そしてアラクネは居なかったと報告しろ」

俺の言葉にヴェリオが眉を顰めた。

「!? なに言ってやがる! 目の前に獲物が居るのに、見逃せってのか!?」

アリヤが、その言葉に反応する。
それに気付いたヴェリオが、目を細めて言った。

「さてはおめえ、……アラクネにたぶらかされちまったのか?」

軽蔑を含んだその言葉に、コステロが愉快そうに吹き出した。

「ぷはっ!? おいおい笑わせんなよ! いくら人間の女に相手にされないからってそれはねえだろ」

コステロの言葉を気にせず、俺は二人とアリヤと等間隔になる位置に陣取った。
たぶらかされた、か。
あながち間違いじゃないかもしれない。
俺は、ヴェリオに言う。

「頼む」

ヴェリオは間髪入れずに答えた。

「断る」

俺は叫ぶ。

「殺す理由がねえだろうが!」

その言葉を呼び水に、ヴェリオが声を荒げた。

「あるだろうが!こっちは依頼でやってんだ!」
「俺たちがやるのは害獣の始末だ! 人殺しじゃねえ! こいつはもう人間を襲わないと約束させた!」
「だからなんだ!? そんな口約束信じるのかてめえは!?」
「じゃあなんでお前らは無傷なんだよ!?」

その言葉に初めてヴェリオが反応したように見えた。
対してコステロは舌打ちをする。

「話にならねえ」

剣を抜いたコステロの足下に俺は矢を放った。
二の足を踏むコステロから目を離さずに俺は矢をつがえ、二人の前に立ち塞がるように、アリヤを背にして言う。

「勘違いすんなよヴェリオ、コステロ。これは交渉じゃねえ。警告だ。“俺の友達に手を出したら撃つ”」

そして俺はアリヤに言った。

「逃げろアリヤ!!」

しかし、背後のアリヤは、

「……なんであたしが人間如き相手に逃げなきゃいけないのよ」

耐えるように、血を吐くようにそう言った。
そして続ける。

「いや、違うか。シルヴァンはちゃんと説明してるものね。ちゃんとお願いしてるもの。それなのにそれが通じないっていうなら」

そこで俺は彼女の様子に気付き、振り向く。
アリヤは威嚇するように後ろの二本足で立ち上がりその足を大きく広げ叫んだ。

「会話できないなら人間じゃないでしょ!!」
「やめろアリヤ!!」

彼女を止めるために腕を広げる。
そこに、

「邪魔すんじゃねえ“残飯漁り”が!」

興奮したコステロの声が聞こえて、振り向いた時、その剣がアリヤに向けられていることに気付いて。俺は。

「シルヴァン!?」
「あ、ああ……!? 馬鹿野郎が! お前が悪いんだぞ! アラクネなんて庇うから!!」

焦ったようなアリヤとコステロの言葉を聞いた。
俺は彼女を庇うようにその剣の前に立ち、真正面からコステロの一閃を受けていた。
走る激痛と、朦朧とする意識の中で、俺は口を開く。

「ああ、俺が、悪い。だから、この子に、手を出すな」

それだけ言って、俺は力尽きた。

「……馬鹿野郎が!!」

震えたような声色のヴェリオの罵倒が耳に残った。

・・・
目を覚ますと見慣れない天井だった。

「ここは?」

つい漏らした言葉に、

「おう、やっと目ぇ覚めたか」

なんて返事が聞こえる。
それは知っている声だった。

「ヴェリオ? 痛ぇ……!?」

起き上がろうとした際に走った痛みで、堪らずまた寝台に倒れ込む。

「あったりめえだろお前。もう一歩ずれてたら胴が半分になってたぞ」

呆れたように言うヴェリオの言葉で俺は思い出す。
ああ。そう言えば俺はアリヤを庇ってコステロにバッサリやられたんだったな。
よく無事だったな俺。
そして気付く。

「アリヤは……?」
「……あの“蜘蛛女”か? あいつは」

・・・

ヴェリオに肩を借りて外に出ると、そこには地に伏せ、槍を持った村の若い衆に囲まれたアリヤがいた。

「アリヤ!!」

俺が声をかけると、アリヤは目を見開き、

「シルヴァン……!!」

まるで泣きそうな顔で、俺を呼ぶのだった。
そこに、村長がゆっくりとこちらに寄ってくる。
悠々と俺の前に立ち、さて、と切り出して言う。

「説明を、していただけますかな? 狩人殿」

・・・

俺は村長に、彼女のことを包み隠さず伝えた。
それが、俺の責任だと思ったからだ。
そして、彼女と交わした約束も。

そこで村長は顎を撫でながら言う。

「ふむ。ではこのアラクネは、人間に害はなさないと?」
「ああ」
「それは、誰が担保するのですかな?」
「俺が」

俺の言葉に村長は眉を上げる。

「あなたのような一介の冒険者が、何を、どう保証するのですか」
「……それは」

確かに、俺がそう言ったところで信頼も何もない。
村のみんなを納得させることは出来ない。
俺はアリヤに目を向ける。

「シルヴァン! あ、あたしは」

アリヤは、泣きそうな顔で何かを訴えようとしていた。
その様子を見て、俺は村長に向きなおり、答えた。

「俺が、監視します」
「監視?」

聞き返す村長に、俺は首肯する。

「一日中、そばでこいつを監視し続けます。絶対に、村のみんなに手出しはさせません」
「……そうですか」

村長は空を仰ぎ「ふむ」と唸ってから続ける。

「あなたは、それで良いのですね?」

俺は村長の目をまっすぐ見据えて、答えた。

「はい」
「そうですか」

村長は小さく息を吐いて、村の若い衆に向き直った。

「いいでしょう。みな槍を下げろ」
「シルヴァン!!」

向けられた槍が下げられた直後、アリヤは俺に駆け寄ってくる。
そして俺に抱きつこうとして、なんとか踏みとどまった。

「よかった目を覚まして……!! 本当に……」

涙を流す彼女に俺は呆れて言う。

「お前、なんで村まで来てんだよ」

狙われてるってわかったのに、どうしてわざわざ来てしまったのか。
そう思っていると、黙っていたヴェリオが口を開いた。

「お前をこの村まで運んだのは彼女だ」

呆気にとられる俺を気にせず、ヴェリオは続ける。

「糸でお前の傷を固定し、村人に“頭を下げて”治療を懇願した。お前の治療が終われば自分はどうなってもいいと」
「いやいや、アラクネの話なんか、誰が信じたんだよ」

怪訝な俺にヴェリオは顔を向け、言った。

「俺だ」

その言葉に俺はギョッとする。

「……あんたが?」
「おいおいなんだその目は」

心外だとでも言うようにヴェリオは続けた。

「あのアラクネが、人間の見よう見まねで頭まで下げたんだぞ。人間を見下しているアラクネがだ」

そしてニヒルに笑って言う。

「そもそもお前が言ったんだろうが、その蜘蛛女は友達だってな。嘘だったのか?」

俺は答えた。

「いや、嘘じゃない」
「ならいいだろ」

なるほど。
俺はどうやらこの男のことを誤解していたらしい。
これはまあ、コステロみたいなチンピラが従うのもわかる。
随分男気のある人じゃないか。
そこまで考えてはたと気付いた。

「そういや、コステロは?」
「あいつは先に街に報告に戻らせた。この森に、“人に害をなすアラクネ”なんざ居なかったとな」

しれっと言うヴェリオに俺は尋ねる。

「いいのか?」

ヴェリオはこちらを見ずに笑って言う。

「いいからこうなってんだろうが」
「なんで」
「なんで、か」

ヴェリオは俺の問いに少しだけ黙って、そして答えた。

「俺は獣人だからな」

その言葉にどういう思いを込めたのか、俺にはわからなかった。
ただヴェリオにとって、何かがあったのだろうということはわかった。

そこに村長がひょっこり顔を出す。

「しかし狩人殿、あなたその怪我ではしばらくこの村を離れられないでしょう。そうなると彼女をどう見張るというのですか」
「それは」

確かに。
早速約束を反故にしてしまいかねない。
最悪洞窟まであいつに担いでいってもらうしかないか?
だけどそれじゃ監視は出来ねえよなあ。
頭を悩ます俺に、村長は微笑みながら言う。

「……そこでひとつ相談なのですが」

・・・

タルタ村。
客人用としてあてがわれた小屋の縁側で俺は精力的に動き回る彼女を遠くから眺めていた。

彼女は悠々とした足取りで村長の下に向かい、言う。

「村長! 周辺の警邏終わったわよ! ついでに悪さしそうな獣も狩っておいたわ」

そんなアリヤの報告をニコニコと笑って聞きながら村長は言った。

「おお、さすがですなアリヤ殿。そういえば今村の大工が少し人手を求めてましてなあ」

アリヤは頷く。

「ティージャンのところね。わかったわ、後で手伝いに行く」
「助かりますぞ」
「いいのよ。村に置かせてもらってるんだから」

嬉しそうににこにこ笑うアリヤを眺めながら、俺は思わず口にした。

「あのじじい、ほんとやり手なんだなあ」

アリヤが村に来たあの日。
村長からの提案は、村の雑事をアリヤに手伝わせるというものだった。
そうすれば俺は無理に村を出ないで済み、アリヤも信頼を得ることが出来ると。
アリヤは村長のその要望に二つ返事で了承した。
なんでも俺が許されるなら何でもすると。
聞いているこっちが恥ずかしくなることを言うものだから、俺は何も言えなかった。
最初は慣れない様子だったアリヤだが、次第に仕事に慣れていき、最初は怖がっていた村人達も今ではすっかり彼女を頼りにしている。
そんな様子を笑ってみている爺が一人。
一人勝ちか?
いや、みんな楽しそうだから、これでいいのかもな。
そんなことをぼんやり考えていると気付けば目の前にアリヤが居た。

「ちょ、ちょっとシルヴァン! ダメじゃないちゃんと寝てなきゃ!」

慌てた様子の彼女に俺は思わず笑う。

「もう一ヶ月だぞ。さすがになまる」

そう。
あれからもう一ヶ月も経ったのだ。
傷もほとんど治ったし、そりゃあみんなもアリヤに慣れるというものだ。
しかしアリヤは俺の言葉を聞かずに困った様子で言う。

「いいから寝てなさい。ご飯食べた?」

その言葉に俺は答える。

「ああアンナさん……村長の娘さんが用意してくれた」

そこでアリヤの眉がピクリと動いた。

「……へえ。ふーん。あなたああいう娘がタイプなんだ」

なじるようなそのものいいに、思わず眉を顰める。

「なんでそうなるんだ」
「アンナも……あたしの男に色目使うなんて。今度“お話”しなくちゃ」
「いやいつ俺がお前の男になったよ」

ぶつぶつぼやく彼女に思わずつっこむと、彼女は言う。

「村長は、“夫婦”は同じ家に住むって言ってたわ。ならあたし達は夫婦ということじゃない?」
「逆ぅ……。一緒に住んでるからじゃないよ」

俺の言葉にアリヤは首を傾げ腕を組む。

「そうなの? 人間の文化は難しいわね……」

すっかり角が取れた様子の彼女がおかしくてつい笑ってしまう。
そして言う。

「それよりお前、さっき手伝い頼まれてたろ」
「そうだったわ!」

アリヤは慌ただしく離れていく。
そうして、こちらに振り返って言った。

「夜ご飯は一緒に食べるわよ!」
「はいはい」
「絶対だからね!」

そうしてあっという間に見えなくなった。
すると入れ替わるように村長が俺の隣に腰掛けた。

「いやはや。アリヤ殿が来てからもうひと月ですか。早いもんですなあ」

茶を啜る村長に、俺は尋ねる。

「ご迷惑かけてませんか?」
「まさか。人より強く、真面目で良い方ですよ。息子が独身だったら嫁に欲しいくらいです」

その大げさな物言いに、俺は苦笑する。

「いやいやアラクネですよ?」

そんな俺の言葉に村長は意外そうに眉を上げた。

「この村には亜人もいますが?」
「いや、まあ、それはそうなんですけど」

村長は、気にせず続けた。

「森で暮らしていた彼女のことは知りませんが。今の彼女は、我々人間と何が違いましょうか。体のつくりこそ違いますが、共に飯を食らい、共に生きている」
「そうですね」

それは、村長の言うとおりだった。
彼女は、人間を襲わない。
それどころか村の人々を助け、共に暮らしている。
彼女を害獣扱いするものはこの村にはもう居ないだろう。
村長は機嫌良さそうに笑う。

「出来ればずっとこの村にいて欲しいくらいですが」

その言葉に、俺は考える。

「……それは、どうなんでしょうね。アラクネを匿っている村なんてしれたらみんながどうなるか」

村長はそれを聞いて愉快げに笑った。

「あなたが保証してくださるのでしょう?」
「……そうでした」

村長はまた一口茶を啜るとほっと一息はいた。
そして改めて言う。

「少なくとも、この村には“人を食らう蜘蛛の化け物アラクネ”などおりません。言うなれば“蜘蛛の亜人アルケニー”でしょうか」

それを聞いて、俺は思わず笑った。

「ああ、良いですね、それ」

村のみんなに囲まれて、笑う彼女を思い返して、俺は言う。

「すごくいい」

村長はそんな俺を見てまたいつものように愉快げに笑う。

「村の女衆が手伝いますから子育てに困ることもないと思いますぞ」
「なんの話ですか!?」
「おや、違いましたかな?」

そうしていると、少し遠くから見慣れた顔が近づいてくるのが見えた。

「おう元気かシルヴァン」
「ヴェリオ。何しに?」

ヴェリオは機嫌良さそうにからから笑って言う。

「依頼で近くまで来たんでな。御者に無理言って寄ってもらった」
「そうか」
「そろそろ傷も癒えたろう? 街には戻らないのか?」

ヴェリオの言葉にギョッとして俺はつい隣の村長に目を向ける。
村長はただ愉快そうに笑っているだけだった。
俺は冷や汗を垂らしながらヴェリオに答える。

「いや、アリヤを置いてはいけないだろ」

ヴェリオは不思議そうな顔をして、

「連れてくればいい」

なんて当然のことのように言うのだった。

「そんな無茶な」
「ギルドもお前の安否を心配している。顔くらいは見せてやれ」

そう言われても。
そもそもあの街にもギルドにも愛着はなかったしなあ。
そう思うとこの男がことあるごとに絡んでくるのが不思議に思い、つい口にした。

「なんで構うんだよ」

ヴェリオは気にした様子もなく、さらりと言う。

「“惚れた女のために体を張れる男“を気に入ったからだ。俺はもうお前を”残飯漁り“とは呼ばんし呼ばせん」

その発言に引っかかった俺は聞き返した。

「惚れた女?」

ヴェリオは意外そうに目を丸くした。

「違うのか?」
「そういうんじゃないよ」

俺がそう答えるとヴェリオは「なるほどなあ」とよくわからない相槌を打って言う。

「まあ、種族が違う結婚生活は文化の違いで大変だろうからな。しっかり話し合うといい」
「いやだから違うって」

俺の言葉をただの照れ隠しと受け取っているのかヴェリオは取り合わずに笑いながら言う。

「そうか? なら気をつけることだな。あんな純粋で器量のいい女はそういない。男にもてないわけないからな」
「なにそれ初耳なんだけど」

・・・

夜。
アリヤは宣言通り俺の小屋に顔を出して、料理を振る舞ってくれた。
木皿によそったシチューをすくって俺に差し出す。

「はい、あーん」

まるで子供でも相手にしているかのようなその態度に俺は笑う。

「いやもう体動くから」
「いいから。あーん」

頑なにスプーンを差し出す彼女に根負けして、俺は一口食べた。
そして、つい目を見開く。
そんな俺の反応に満足したのかにやにやしてアリヤは言う。

「おいしい?」
「うん」

いや、ほんとに美味い。
なんだこいつ。
いつの間に料理なんて覚えたんだ。
そう思ってるとアリヤは大きく息を吐いて言う。

「よかった。アンナに教えてもらったんだけど、あなたの口に合うかわからなかったから」
「そ、そうか」

そんな彼女の表情に、ついドキッとしてしまう。

俺は昼のヴェリオの話を思い出した。
純粋で器量のいい女、ね。
確かに見た目は美人だ。
それに精力的に人のために働ける。頼み事に嫌な顔しない。
礼儀も覚えた。
そして美味い飯も作れる。
……あれ?欠点ないな?

「なあアリヤ」
「なあに」

機嫌良さそうににこにこ笑うアリヤに、俺は尋ねる。

「前に言ってた、番になりたいって話。あれ本気?」
「……」

その瞬間、彼女から表情が抜け落ちた。
彼女は静かに食卓を片付けると、ずいと俺に体を寄せる。

「アリヤさん?」
「シルヴァンが悪いんだよ……。シルヴァンにその気がないなら諦めようと思ってたのに……」

蜘蛛の下半身を踏まえて、彼女の身長は俺よりも大きい。
そんな彼女が目と鼻の先まで近寄ってきて、俺を見下ろす。
すると足を折り、俺と目線を合わせるとそのまま体をすり寄せてきた。

「アリヤさん!?」

思わず声を上げる俺をおかしそうに笑って、アリヤは言う。

「あなたを洞窟に連れて行ったあの日ね。あたし、生まれて初めて自分の名前を名乗ったの。そして家族以外に初めて名前を呼ばれたの。初めてだったの」

ぎゅうと、両腕で俺を抱きしめて、

「今ではみんながあたしの名前を呼んでくれる。でも、それはきっとあなたに会えたからだから」

俺の耳元に顔を埋めて、

「ね。シルヴァン。あたし、良い奥さんになるから」

囁くように、彼女は言った。


「幸せな家族になろうね」


・・・・
・・・
・・

このタルタって街は蜘蛛の亜人アルケニーの始祖とも呼べる夫婦が暮らしていたらしいよ。
もう何百年も前の話らしいけど。
でも街の伝承ではとても夫婦仲が良くて、当時の村人達からも慕われていたみたい。
ちなみにこの街で子宝祈願がされているのもその夫婦にあやかって出来た風習らしいね。
つまりその夫婦が、周りが羨むくらい家族円満で、子だくさんだったってこと。

蜘蛛の亜人 了
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