飽くまで悪魔です

ごったに

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第一章

2.5 開花予報

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正午過ぎの休日の駅前を、大学生のような男と、それより少し年下くらいの高校生くらいの女の子が歩いている。
男は、自身の横を歩く少女に尋ねる。

「どうしたんだい、サクラ。そんな浮かない顔をして」

少女、柳さくらは男の方に目を向けず、俯きながら言う。

「どうしよう。どうしよう。アサヒさんが、アサヒさんが盗られちゃう……!」

怯えるように言うサクラを見て、困ったように眉を下げ男は言う。

「盗られる、なんて。それは穏やかじゃないねえ」
「あの女、何? なんなの? シノちゃん、あんな奴がいるなんて一言も言ってなかったのに」

サクラは、まるで自分の世界に没頭しているかのように、ぶつぶつと呟きを続ける。

「あの女ねえ」

男は、サクラの呟きに出てきた“あの女”を思い返す。
それから、恐らくあの女、と言うのは、先程の、スーパーの店員に縋り寄っていた女のことだろうとあたりをつけた。
そして、あの店員がサクラが懸想する“アサヒ”であろうことも。

「サクラ」
「なあに、

サクラにロアノスと呼ばれたその男は、まるで彼女の気持ちに寄り添うように、ポツリと言う。

「あの女が邪魔なんだね」

瞬間、サクラは驚いたように、まるで我が意を得たりと言いた気に、ロアノスに向き直った。

「そう、そうなの! 邪魔なの!」

そんなサクラの様子に笑いそうになりながら、ロアノスは尋ねる。

「消してやりたい?」
「そう! 消して、」

サクラは、途中まで言葉にしてから、それからはたと思い当たったかのように、言葉を止める。

「………………消すって?」

真意を尋ねるサクラを気にも留めず、ロアノスは続ける。

「なんだ。それならそうと言ってくれれば良かったのに」

まるで、かのように振る舞うロアノスに、

「え……?」

サクラの足が止まる。
それに気付き、ロアノスも少し進んだところで足を止め、そしてサクラに向き直って続けた。

「でも、ダメだね。あの時、あの場所じゃ、ちょっと目立ってしまっただろうし。何より」
「そうだよ。アサヒさんが見てる前でそんなはしたないことできないから」

言い訳のように続けるサクラにロアノスが笑う。

「そうだね。じゃあ」

背の低いサクラにあわせるように、顔を寄せ、告げる。

「彼が見ていなければいいよね?」

ロアノスと、サクラの目が合う。
少しばかり二人の間に沈黙が流れ、口を開いたのは、サクラだった。

「そう、そうだね。そうだよね。見られてないなら問題ないよね」

そのサクラの言葉に、ロアノスは満足そうに、導くように、サクラに尋ねる。

「じゃあどうしようか?」

問われたサクラは少し考える。それから、

「……夜」

思い出したように、ポツリと呟いた。

「“あの時間”なら、好きにしちゃっていいよね? 誰にも邪魔されないよね?」
とてもいい考えだ、とでも言いたげに嬉しそうに聞くサクラ。
ロアノスは「そうだね」と首肯する。そして、笑って、サクラに問いかける。

「で、か?」

「どうって」

ロアノスの言葉に、サクラは一度止まって。
それからなんともなしに、口にした。

「消しちゃおう」

ロアノスが、満足そうに笑う。

「うん。それがいい。それがいいよ。だってそうだよね? アサヒさん、困ってたよね? 今度は、今度は私が助けてあげるの。困ってるアサヒさんを助けてあげるの」

自分に言い聞かせるように呟くサクラを見ながら、ロアノスは答える。

「そうだね、じゃあ。それまでに」
「うん。わかってる。お家に帰って“勉強”しなくちゃね」

言うが早いか、サクラは帰路を急ぐように、駅の改札に向かって駆けだした。

「うん。サクラはいい子だね」

駅が作り出す日陰に入っていく彼女の背中を見ながら、楽しそうにロアノスは漏らす。

「本当、いい子だねえ」

昼の太陽がロアノスのチョーカーの金具に反射し、キラリと光った。
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