飽くまで悪魔です

ごったに

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第一章

4-3. 平穏に悪魔の影を見て

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そうして俺は夜のバイトをきっちりやり遂げて今はバックヤードで撤収の準備をしていた。
俺がバイトに行くと言うとヨルくんは出鼻をくじかれたようにちょっと微妙な顔をしたものの、「まあどうせやるのは夜だしね」なんて言って笑顔で送り出してくれた。
仕事着を脱ぐ俺に店長が声をかける。

「いやあ。まさか娘が四ノ宮くんの妹さんと同級生だったとはねえ」

この間ナギちゃん、もとい、さくらちゃんがお弁当を届けに来た際に少し話をしたらしく。
真昼ちゃんが仲良くしてもらっていること。
俺がその兄であるということを店長も把握したらしかった。
時計を見ればまだ一時過ぎ。
ヨルくんの話では二時半からが“本番”とのことなので、せっかくなので適当に椅子に腰を下ろす。

「ほんと、偶然ですよねえ。あー……サクラちゃん、よく家に来てたんですよ。逆に妹、真昼ちゃんも結構お宅にお邪魔しちゃってるみたいで」
「僕が会ったのは数回だけどね。あの歳にしては礼儀正しくて良い子だったから印象に残ってて。それに娘が家に呼ぶ友達なんて珍しいから」
「いやいや迷惑をおかけしてないようでなによりです。そちらこそ礼儀正しくて、良い子だと思いますよ。」

真昼ちゃんをほめる店長に、こちらもお返しとばかりに褒め返すと、店長は自分のことのように嬉しそうににやけた。
真昼ちゃんについて言えば、多分社交辞令ではないのだろう。
礼儀作法に関してはみっちり叩きこまれていたので。

真昼ちゃんとさくらちゃんは中学からの仲だ。
互いが互いの家に行くほど仲が良かったのを記憶している。
今は俺は一人暮らしなのでわからないが、今も家まで来て遊んでいるんだろうか。

そんなことを考えていると店長がこちらをじっとりと見た。

「……まさか娘に手を出したりなんかしてないよね?」

ドキリ、と心臓が跳ねる。
いや、特にやましいことはないが。
勝手にあっちが俺のこと好きだと勘違いしていただけだし。
勘違いだったし!彼氏いるみたいだったし!
…ちょっといいな、とは思ったけど。
俺は毅然とした態度で言い返すために口を開く。

「………………………………………………………………まさかあ。妹みたいなもんですよ。というか妹と同い年の、こ、子供ですよ。ぜ、ぜぜぜぜんぜんそんなことないですって」

ダメだった。
めっちゃ動揺してた。
しかし店長はそんな俺を笑う。

「はは、冗談だよ。そういうのはまだ早いだろうからね」

で、ですよね。
笑う店長に合わせて俺も笑ってみた。
多分空笑いになってる。
俺が内心で震えていると店長は笑いを収めて言う。

「……でも最近ね。娘が深夜に出歩いてるみたいなんだよ」

神妙な面持ちで語る店長はいつものの親バカの様子ではなく、子供を心配する父親の表情をしていた。

「それは、一人でですか?」
「わからない。気付いたらいなくなっていて、気付いたら帰ってきている。この間なんて夜居間で待ち構えていたんだけど。結局抜け出されちゃってて」

まあ、高校生ともなれば夜遊びしたくなる気持ちもわからなくはない。
だが、彼女がそんなことをするだろうか。
真昼ちゃんは健康優良児なので夜は九時にはぐっすりだ。
そして言っては何だがさくらちゃんに真昼ちゃん以外の友達がいるのだろうか、と思う。
では、そんな彼女がわざわざ親の目を盗んで外に出る理由なんてあるんだろうか。
店長は俺を見て言う。

「まさか、悪い男に引っかかってしまったんじゃないかと心配なんだ」
「なんで俺をみるんですか」

突っ込む俺を気にも留めず、店長は続ける。

「最近この辺りも物騒みたいでね。夜に出歩いてる子が怪我した状態で見つかるって事件が何件か起きてる。さすがにそんな事件に関わっているとは思わないけど、巻き込まれたらと思うと」

その言葉に、考える。
ドルドとの戦いを思い出す。
龍次郎との戦いを思い出す。
それは、もしかしたら。

「もし見かけたら、声かけてくれないかい」

店長の言葉に、俺はしっかり頷いてから店を出た。
その怪我人はもしかしたら悪魔が関わっているのかもしれない。
そういえばこの間、店長は悪魔の話をしていた。
娘が悪魔を信じているとか。
この件に、さくらちゃんが関わっているかは別にして。

いずれにせよ、気に留めておいた方がよさそうだ。
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