17 / 27
第一章
4-3. 平穏に悪魔の影を見て
しおりを挟む
そうして俺は夜のバイトをきっちりやり遂げて今はバックヤードで撤収の準備をしていた。
俺がバイトに行くと言うとヨルくんは出鼻をくじかれたようにちょっと微妙な顔をしたものの、「まあどうせやるのは夜だしね」なんて言って笑顔で送り出してくれた。
仕事着を脱ぐ俺に店長が声をかける。
「いやあ。まさか娘が四ノ宮くんの妹さんと同級生だったとはねえ」
この間ナギちゃん、もとい、さくらちゃんがお弁当を届けに来た際に少し話をしたらしく。
真昼ちゃんが仲良くしてもらっていること。
俺がその兄であるということを店長も把握したらしかった。
時計を見ればまだ一時過ぎ。
ヨルくんの話では二時半からが“本番”とのことなので、せっかくなので適当に椅子に腰を下ろす。
「ほんと、偶然ですよねえ。あー……サクラちゃん、よく家に来てたんですよ。逆に妹、真昼ちゃんも結構お宅にお邪魔しちゃってるみたいで」
「僕が会ったのは数回だけどね。あの歳にしては礼儀正しくて良い子だったから印象に残ってて。それに娘が家に呼ぶ友達なんて珍しいから」
「いやいや迷惑をおかけしてないようでなによりです。そちらこそ礼儀正しくて、良い子だと思いますよ。」
真昼ちゃんをほめる店長に、こちらもお返しとばかりに褒め返すと、店長は自分のことのように嬉しそうににやけた。
真昼ちゃんについて言えば、多分社交辞令ではないのだろう。
礼儀作法に関してはみっちり叩きこまれていたので。
真昼ちゃんとさくらちゃんは中学からの仲だ。
互いが互いの家に行くほど仲が良かったのを記憶している。
今は俺は一人暮らしなのでわからないが、今も家まで来て遊んでいるんだろうか。
そんなことを考えていると店長がこちらをじっとりと見た。
「……まさか娘に手を出したりなんかしてないよね?」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
いや、特にやましいことはないが。
勝手にあっちが俺のこと好きだと勘違いしていただけだし。
勘違いだったし!彼氏いるみたいだったし!
…ちょっといいな、とは思ったけど。
俺は毅然とした態度で言い返すために口を開く。
「………………………………………………………………まさかあ。妹みたいなもんですよ。というか妹と同い年の、こ、子供ですよ。ぜ、ぜぜぜぜんぜんそんなことないですって」
ダメだった。
めっちゃ動揺してた。
しかし店長はそんな俺を笑う。
「はは、冗談だよ。そういうのはまだ早いだろうからね」
で、ですよね。
笑う店長に合わせて俺も笑ってみた。
多分空笑いになってる。
俺が内心で震えていると店長は笑いを収めて言う。
「……でも最近ね。娘が深夜に出歩いてるみたいなんだよ」
神妙な面持ちで語る店長はいつものの親バカの様子ではなく、子供を心配する父親の表情をしていた。
「それは、一人でですか?」
「わからない。気付いたらいなくなっていて、気付いたら帰ってきている。この間なんて夜居間で待ち構えていたんだけど。結局抜け出されちゃってて」
まあ、高校生ともなれば夜遊びしたくなる気持ちもわからなくはない。
だが、彼女がそんなことをするだろうか。
真昼ちゃんは健康優良児なので夜は九時にはぐっすりだ。
そして言っては何だがさくらちゃんに真昼ちゃん以外の友達がいるのだろうか、と思う。
では、そんな彼女がわざわざ親の目を盗んで外に出る理由なんてあるんだろうか。
店長は俺を見て言う。
「まさか、悪い男に引っかかってしまったんじゃないかと心配なんだ」
「なんで俺をみるんですか」
突っ込む俺を気にも留めず、店長は続ける。
「最近この辺りも物騒みたいでね。夜に出歩いてる子が怪我した状態で見つかるって事件が何件か起きてる。さすがにそんな事件に関わっているとは思わないけど、巻き込まれたらと思うと」
その言葉に、考える。
ドルドとの戦いを思い出す。
龍次郎との戦いを思い出す。
それは、もしかしたら。
「もし見かけたら、声かけてくれないかい」
店長の言葉に、俺はしっかり頷いてから店を出た。
その怪我人はもしかしたら悪魔が関わっているのかもしれない。
そういえばこの間、店長は悪魔の話をしていた。
娘が悪魔を信じているとか。
この件に、さくらちゃんが関わっているかは別にして。
いずれにせよ、気に留めておいた方がよさそうだ。
俺がバイトに行くと言うとヨルくんは出鼻をくじかれたようにちょっと微妙な顔をしたものの、「まあどうせやるのは夜だしね」なんて言って笑顔で送り出してくれた。
仕事着を脱ぐ俺に店長が声をかける。
「いやあ。まさか娘が四ノ宮くんの妹さんと同級生だったとはねえ」
この間ナギちゃん、もとい、さくらちゃんがお弁当を届けに来た際に少し話をしたらしく。
真昼ちゃんが仲良くしてもらっていること。
俺がその兄であるということを店長も把握したらしかった。
時計を見ればまだ一時過ぎ。
ヨルくんの話では二時半からが“本番”とのことなので、せっかくなので適当に椅子に腰を下ろす。
「ほんと、偶然ですよねえ。あー……サクラちゃん、よく家に来てたんですよ。逆に妹、真昼ちゃんも結構お宅にお邪魔しちゃってるみたいで」
「僕が会ったのは数回だけどね。あの歳にしては礼儀正しくて良い子だったから印象に残ってて。それに娘が家に呼ぶ友達なんて珍しいから」
「いやいや迷惑をおかけしてないようでなによりです。そちらこそ礼儀正しくて、良い子だと思いますよ。」
真昼ちゃんをほめる店長に、こちらもお返しとばかりに褒め返すと、店長は自分のことのように嬉しそうににやけた。
真昼ちゃんについて言えば、多分社交辞令ではないのだろう。
礼儀作法に関してはみっちり叩きこまれていたので。
真昼ちゃんとさくらちゃんは中学からの仲だ。
互いが互いの家に行くほど仲が良かったのを記憶している。
今は俺は一人暮らしなのでわからないが、今も家まで来て遊んでいるんだろうか。
そんなことを考えていると店長がこちらをじっとりと見た。
「……まさか娘に手を出したりなんかしてないよね?」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
いや、特にやましいことはないが。
勝手にあっちが俺のこと好きだと勘違いしていただけだし。
勘違いだったし!彼氏いるみたいだったし!
…ちょっといいな、とは思ったけど。
俺は毅然とした態度で言い返すために口を開く。
「………………………………………………………………まさかあ。妹みたいなもんですよ。というか妹と同い年の、こ、子供ですよ。ぜ、ぜぜぜぜんぜんそんなことないですって」
ダメだった。
めっちゃ動揺してた。
しかし店長はそんな俺を笑う。
「はは、冗談だよ。そういうのはまだ早いだろうからね」
で、ですよね。
笑う店長に合わせて俺も笑ってみた。
多分空笑いになってる。
俺が内心で震えていると店長は笑いを収めて言う。
「……でも最近ね。娘が深夜に出歩いてるみたいなんだよ」
神妙な面持ちで語る店長はいつものの親バカの様子ではなく、子供を心配する父親の表情をしていた。
「それは、一人でですか?」
「わからない。気付いたらいなくなっていて、気付いたら帰ってきている。この間なんて夜居間で待ち構えていたんだけど。結局抜け出されちゃってて」
まあ、高校生ともなれば夜遊びしたくなる気持ちもわからなくはない。
だが、彼女がそんなことをするだろうか。
真昼ちゃんは健康優良児なので夜は九時にはぐっすりだ。
そして言っては何だがさくらちゃんに真昼ちゃん以外の友達がいるのだろうか、と思う。
では、そんな彼女がわざわざ親の目を盗んで外に出る理由なんてあるんだろうか。
店長は俺を見て言う。
「まさか、悪い男に引っかかってしまったんじゃないかと心配なんだ」
「なんで俺をみるんですか」
突っ込む俺を気にも留めず、店長は続ける。
「最近この辺りも物騒みたいでね。夜に出歩いてる子が怪我した状態で見つかるって事件が何件か起きてる。さすがにそんな事件に関わっているとは思わないけど、巻き込まれたらと思うと」
その言葉に、考える。
ドルドとの戦いを思い出す。
龍次郎との戦いを思い出す。
それは、もしかしたら。
「もし見かけたら、声かけてくれないかい」
店長の言葉に、俺はしっかり頷いてから店を出た。
その怪我人はもしかしたら悪魔が関わっているのかもしれない。
そういえばこの間、店長は悪魔の話をしていた。
娘が悪魔を信じているとか。
この件に、さくらちゃんが関わっているかは別にして。
いずれにせよ、気に留めておいた方がよさそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる