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第一章
6.5 開花
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その様子を、柳さくらはビルの屋上から見届けていた。
さくらはしばらく唖然とその光景を見送って。
ぼとりと、燃える右腕が落ちてきた時。
さくらは叫んだ。
「なんで、なんでよ!わたしは、あなたのために今までずっと頑張ってきたのに!どうして邪魔するの!どうしてあなたの方が強いの!?」
頭を抱え、声を荒げる。
ロアノスとつながる光の鎖が彼女の感情を表すように激しく明滅する。
叩きつけるような絶叫。
ぼたぼたと、地面を濡らす涙。
そうして一頻り喚いたあと、さくらは天を仰いだ。
月光を背にした、悪魔とアサヒを見た。
そうして、ハッとした。
そうか。やっと気づいた。
任せちゃダメなんだ。
わたしがやらなきゃダメなんだ
わたしがやらなきゃダメなんだ。
わたしがやらなきゃ、ダメなんだ。
ロアノスは斬り落とされた腕を抑え、苦痛に顔を歪めている。
わたしが、やるんだ。
さくらには、どうすればいいのか、感覚で分かった。
今までの雑魚狩りとそれを通した“お勉強”によって、さくらは魔力を操る感覚を理解していた。
自分のものではない魔力が、自分の中に入る感覚を。
自分のものではない魔力を、自分の中に入れる感覚を。
理解してしまっていた。
つまり、普段とは逆。
渡すのではなく、“奪う”。
「さくら…?」
ロアノスは、自身から力が抜けていく感覚を覚えた。
腕の鞭がボロボロと崩れ落ち、尾が消え、そして翼が消えた。
飛行能力を失ったロアノスはなすすべなく墜落する。
突然のことに反応できずにロアノスはさくらの目の前に背中から落ちた。
痛みに悶え、そして目を開けた時、ロアノスとさくらの目がばっちりと遭った。
奪うという感覚も、さくらは理解していた。
それはつながっているロアノスを通じて何度も味わった感触だった。
ロアノスの体が、青い炎に包まれ始める。
「なんだ、なんだこれは!?」
狼狽え、声を上げるロアノスはしかし、その体を少しずつ炎へと変えていく。
青い炎は悪魔が“体”を保てなくなった時に発生するものだ。
それは本来、首輪が破壊された時。
首輪の力によって仮初の肉体を現世にとどめている悪魔たちは、首輪を破壊された時、魔力の塊へと還る。
そしてそのまま霧散する。
言うなれば、この青い炎も魔力である。
そして魔力を必要以上に溜めることも、生成することもできないため、それを“人間”に任せ、“鎖”を通して供給を行っている。
魔力そのものとも言える悪魔を、それを現世に留める首輪を保持したまま、魔力を移動できる鎖を通じて、“人間”が受け取ったらどうなるか。
「こんなのしらない、知らないぞ!?」
喚き、転がるロアノスに対して、さくらは優しく笑いかける。
「大丈夫だよロアノス。あとは“わたしが全部やるから”」
その言葉とともに、ロアノスの全身は青い炎と化す。
首輪のついた青い炎は鎖を伝い。
その炎は、さくらを包んだ。
一際大きくなる炎。
そしてその炎の中心にいるさくらに、ひとりでに首輪が巻き付いた。
・・・
炎に包まれるさくらを、四ノ宮朝陽とヨルは呆然と眺めていた。
「な、なに、何が起きてんの?」
「さあ、なにが起きるかな…?」
振るえるアサヒに目を向けず、ヨルは炎から目を逸らさない。
そして、
「アサヒくん!離れて!」
その言葉と共に背のアサヒを引き剥がした。
突然のその行動にアサヒが抗議の声を上げる前に。
ズドン、と。
まるで木の幹のような何かが、炎から突き出て、ヨルを跳ね飛ばした。
「は…?」
吹き飛ぶヨルに、アサヒは思わず声を漏らし、そして、炎に目を向ける。
青い炎が掻き消える。
そこにいたのは、少女だった。
角を生やし、翼を生やし、尾を生やし、首輪をした、少女。
その肌は青白く、パーカーだったものは体と同化しているようで、その表面は鎧のように幾重にも茨が巻きついていた。
その目が開かれる。
黒く濁った、黄色い眼光がアサヒを射抜く。
少女は、言う。
「さあ、次はわたしが相手ですよ、アサヒさん」
さくらはしばらく唖然とその光景を見送って。
ぼとりと、燃える右腕が落ちてきた時。
さくらは叫んだ。
「なんで、なんでよ!わたしは、あなたのために今までずっと頑張ってきたのに!どうして邪魔するの!どうしてあなたの方が強いの!?」
頭を抱え、声を荒げる。
ロアノスとつながる光の鎖が彼女の感情を表すように激しく明滅する。
叩きつけるような絶叫。
ぼたぼたと、地面を濡らす涙。
そうして一頻り喚いたあと、さくらは天を仰いだ。
月光を背にした、悪魔とアサヒを見た。
そうして、ハッとした。
そうか。やっと気づいた。
任せちゃダメなんだ。
わたしがやらなきゃダメなんだ
わたしがやらなきゃダメなんだ。
わたしがやらなきゃ、ダメなんだ。
ロアノスは斬り落とされた腕を抑え、苦痛に顔を歪めている。
わたしが、やるんだ。
さくらには、どうすればいいのか、感覚で分かった。
今までの雑魚狩りとそれを通した“お勉強”によって、さくらは魔力を操る感覚を理解していた。
自分のものではない魔力が、自分の中に入る感覚を。
自分のものではない魔力を、自分の中に入れる感覚を。
理解してしまっていた。
つまり、普段とは逆。
渡すのではなく、“奪う”。
「さくら…?」
ロアノスは、自身から力が抜けていく感覚を覚えた。
腕の鞭がボロボロと崩れ落ち、尾が消え、そして翼が消えた。
飛行能力を失ったロアノスはなすすべなく墜落する。
突然のことに反応できずにロアノスはさくらの目の前に背中から落ちた。
痛みに悶え、そして目を開けた時、ロアノスとさくらの目がばっちりと遭った。
奪うという感覚も、さくらは理解していた。
それはつながっているロアノスを通じて何度も味わった感触だった。
ロアノスの体が、青い炎に包まれ始める。
「なんだ、なんだこれは!?」
狼狽え、声を上げるロアノスはしかし、その体を少しずつ炎へと変えていく。
青い炎は悪魔が“体”を保てなくなった時に発生するものだ。
それは本来、首輪が破壊された時。
首輪の力によって仮初の肉体を現世にとどめている悪魔たちは、首輪を破壊された時、魔力の塊へと還る。
そしてそのまま霧散する。
言うなれば、この青い炎も魔力である。
そして魔力を必要以上に溜めることも、生成することもできないため、それを“人間”に任せ、“鎖”を通して供給を行っている。
魔力そのものとも言える悪魔を、それを現世に留める首輪を保持したまま、魔力を移動できる鎖を通じて、“人間”が受け取ったらどうなるか。
「こんなのしらない、知らないぞ!?」
喚き、転がるロアノスに対して、さくらは優しく笑いかける。
「大丈夫だよロアノス。あとは“わたしが全部やるから”」
その言葉とともに、ロアノスの全身は青い炎と化す。
首輪のついた青い炎は鎖を伝い。
その炎は、さくらを包んだ。
一際大きくなる炎。
そしてその炎の中心にいるさくらに、ひとりでに首輪が巻き付いた。
・・・
炎に包まれるさくらを、四ノ宮朝陽とヨルは呆然と眺めていた。
「な、なに、何が起きてんの?」
「さあ、なにが起きるかな…?」
振るえるアサヒに目を向けず、ヨルは炎から目を逸らさない。
そして、
「アサヒくん!離れて!」
その言葉と共に背のアサヒを引き剥がした。
突然のその行動にアサヒが抗議の声を上げる前に。
ズドン、と。
まるで木の幹のような何かが、炎から突き出て、ヨルを跳ね飛ばした。
「は…?」
吹き飛ぶヨルに、アサヒは思わず声を漏らし、そして、炎に目を向ける。
青い炎が掻き消える。
そこにいたのは、少女だった。
角を生やし、翼を生やし、尾を生やし、首輪をした、少女。
その肌は青白く、パーカーだったものは体と同化しているようで、その表面は鎧のように幾重にも茨が巻きついていた。
その目が開かれる。
黒く濁った、黄色い眼光がアサヒを射抜く。
少女は、言う。
「さあ、次はわたしが相手ですよ、アサヒさん」
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