最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

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 開けた扉を潜るとその先には巨大な扉に見合った大広間が広がっていた。
 壁や地面が大理石のような素材で作られており、四つの柱がある以外は特殊な細工もされてないシンプルな部屋だった。

「ダンジョン内でこれほどの大部屋……まるで王でも住んでいるかのような雰囲気だな」

 ライネルが辺りを見渡してそんな感想を漏らす。
 王の居る部屋か……写実的な感想になるが俺もそんな気がしていた。
 もしここに魔物が住んでいるというのなら、通路や他の部屋で遭遇した魔物よりも驚異的な存在なのではと。
 そしてその存在を俺はすでに察知していた。

「……ハッ、天井に張り付く王とか笑いでも取りに来てるんかね?」

「え……は?」

 俺の言葉でライネルが視線を上へ向ける。
 するとそこにはまゆのような塊が複数張り付き、巨大な蜘蛛の下半身を持った女が天井から逆さの状態でこちらを見下ろしていた。
 ジルも同じように見上げてアレと目が合い恐怖して尻もちを突く。

「アラクネだと……!?」

「化け……物……!」

 ライネルとジルがそれぞれ戦慄した表情でそう呟くと、アラクネらしい名前の魔物はニヤリと笑みを浮かべる。
 そして蜘蛛が糸を出して地面へ降りるのと同じ要領でゆっくりとこちらへ近付いてきた。

「アハハハハァ~、化け物なんてひどぉい♪」

 人の体をした方がクスクスと笑ってそう言う。

「言葉を話せるのか?」

「えぇ、話せるわ。でも話せるだけ。話す気はないわ。だって……と話す人なんていないでしょ?」

 アラクネはそう言うと問答無用と言わんばかりに白い糸を飛ばしてくる。
 結局はただの魔物ってわけか。
 俺とライネルはそれを避けたが、ジルは逃げ遅れて当たってしまい、後方の壁に張り付けられてしまった。
 ジルのちょうど口から下が布のように広がった蜘蛛の糸の繊維に覆われて「ムグー!」しか言えない状態になる。
 それを見たアラクネが恍惚な表情でじゅるりと音を立てて舌なめずりをする。

「うふふ、食料をまた一つゲット♪」

「くっ……本当に俺たちを食料としか見てないんだな」

 ライネルは相手が人の形をして、さらに言葉も話せるから穏便に済ませられるという考えがあったようだ。しかしそんな雑念を捨てようと武器を構える。
 俺も戦う気ではあるが、その前にアラクネのある言葉が気になった。
 「食料をまた一つゲット」……「また」と言った。
 そして俺がさっきから感じるアラクネとは別の気配。それがあの天井に吊り下げられた繭の全てから感じられる。

「一つ質問していいか?」

「あら?さっきも言ったけど食料と話す気はないわよ?」

「お前の気分なんてどうでもいい。これまでも、そしてこれからもな」

「……は?」

 俺の挑発的な言葉に今まで恍惚な笑みを浮かべていたアラクネの表情に怒気が宿る。

「自然界は常に弱肉強食だ。今お前が壁に張り付けたやつも弱かったから捕まったわけだが……その逆ももちろん考えてるよな?」

 長い刀をアラクネに向けて突き付ける。
 それがかなり頭に来たらしく、とうとう人の形をしていた顔の口がグロテスクな虫のように大きく開き、「ギィィィィッ!」と威嚇っぽい音を鳴らす。
 完全に怒らせたみたいだ。沸点がずいぶん低いみたいだが、それだけ俺たちを下に見てたってわけだ。
 アラクネは蜘蛛の糸を大量に飛ばし、グロテスクな口からは紫色の毒々しい煙を吐き出す。
 それらは眼前まで飛んでくる……しかし俺に当たることはなく、直前で爆発して全て燃え尽きていた。

「なんだ、図星かよ?まぁ、今まで散々人を食い物にしてきたんだろ?なら今度は俺に食い物にされる番だ」

 周囲に火の玉を複数作り出す。
 それを次々と放ち、放ったらすぐ次を作って放ち、作っては放ち作っては放ち……
 途絶えることのない炎の弾をガトリングのように素早く放ち続けていた。

「ギィヤァァァァァッ!?」

 アラクネは遠距離中距離から安全に攻撃できると踏んでいたのか、予想外の攻撃を全てまともに食らって驚いた様子だった。
 もっとも、驚くだけでは済んでないようだが。
 炎の弾を食らい続けたアラクネは全身が火に包まれ、絶叫が辺りに響き渡る。
 その火が鎮火する頃にはアラクネは黒焦げになって倒れていた。

「……呆気な」

「技量だけでなく魔法にも長けていたとは……どれだけ俺を驚かせれば気が済むんだ」

 全てが終わったところでそれらを見ていたライネルが苦笑いをしながら近付いてくる。

「ご要望とあらばチビらせるくらいのもあるぜ?」

「本当にありそうだからやめてくれ……っと、そういややっぱりここには人はいなかったな」

 ライネルが周囲を見てそう言う。どうやら上の繭に気付いてないようだ。

「いるぞ。上にある繭がそうだ」

「繭が……そうか、そういうことか!」

 俺が言ってようやく気付いたようだった。俺がここに来てよかったのかもな……

「だがどうやって下ろす?天井までかなり高いぞ」

「ま、そこに関しても俺が居てよかったのかもな。ちょい行ってくる」

「行ってくるってどこに――」

 ライネルの疑問を全て聞く前に壁に向かって走り出し、垂直の壁を上る。
 そして天井に差し掛かっても尚向かい続け、その天井をも爆走気味に伝う。
 その先にいくつもある繭を拾う。

「おーい、パスするぞ!」

 俺の走りを見て間の抜けたアホ面をしていたライネルにそう呼びかけ、掴んだ繭を投げる。

「うおぉぉぉぉっとと!?」

 突然のことで驚きながらもなんとかキャッチするライネル。
 しかし他にも繭はあるので、その後もライネルに投げ続けた。

「おっ、ちょっ、あぶっ、危ねぇわ!!」

 文句を言いつつも全てキャッチアンドリリースで見事に地面へ下ろしていくライネル。
 最後の二個は投げずに両手に持って、落ちるように地面へ着地する。

「はっはっは、ナイスキャッチ」

「ナイスキャッチじゃねえっつの……んで、これどうやって剥がす?結構硬いぞ」

 不貞腐れつつも繭を扉をノックするように叩くライネル。
 そういえばジルもまだ抜け出せてないようだし、想像以上に硬質なのかもしれない。
 俺が掴んだ感覚はそうでもなかったが……
 試しにベリベリと強引に剥がしてみる。
 後ろでライネルが「普通に手で剥がしとる……」と言っているのを聞き流しつつ剥がしていると、頭部らしいものが見えてきた。
 人の、というよりは獣のように毛むくじゃらなので、ライネルのような獣人の可能性が高い。

「っ……フェイ?」

 するとライネルが鼻をスンスンと鳴らして臭いを嗅いで呟く。
 気にせず繭を破っていくと、ライオンのメスのような顔付きをした奴が出てきた。
 ライネルと似てるってことは……

「コイツが探してた相棒か?」

「……あ、ああ……フェイといって俺の相棒であり妻だ……まさかこんなところに捕らえられていたとは……」

 そう言って繭をむしり続けて上半身まで出たところでライネルが引っ張り出し、嬉しさと悲しさの入り混じった複雑な表情で彼女を抱き締めた。
 夫婦で冒険者をしているのか……
 彼の心境を推察するなら、「助けられてよかった」と「一歩間違えれば助けられなかったかもしれない」の二つがあるのだろう。

「あんたがいてくれて本当によかったよ。本当に……おかげで失わずに済んだ……」

 奥さんを抱き締めたままこちらを向かずに、今にも泣き出しそうな声で言うライネル。
 しばらく動きそうにもなかったので、今のうちに他の繭に捕らわれた生存者とついでにジルも助けておいた。
 幸い助けた中に死人は出ておらず、全員しばらくして目を覚ました。

「あの、命を助けていただきありがとうございます!主人もお世話になったようで……」

 先程フェイと紹介されたライネルの奥さんがそう言って頭を下げてきた。

「気にしなさんな、偶然巻き込まれたついでだっただけだ。……にしてもこういうダンジョンに変化が起きるなんてな。初めてのダンジョンがこれって幸先が不安になるな」

「何?これが初めてなのか?そりゃあ災難だったな」

「まぁ、俺は災難と言えるほど悲観的な状況じゃないけどな。どっちかっていうとライネルたちの方が災難だったろうし」

 ライネルの奥さん、フェイを見てそう言うとライネルも視線を彼女に向けて苦笑いを浮かべる。

「それは……たしかにな」

「本来こういう大部屋と呼ばれる場所には大人数パーティを組んで挑むのが普通なんですけど、今回のダンジョン変化で突然この場所に出されてしまったのよね。一応その場にいた人たちと徒党を組んで挑んでみたけれどダメだったわ……不幸中の幸いだったのはその場で殺されてしまった人以外は捕まっただけで食べられる前に助けられたことかしらね。改めてありがとう、カズさん」

 助けられたことに感謝を述べ、微笑んで互いに寄り添う二人。
 今あるその姿は冒険者ではなく、たしかに夫婦らしいものだった。
 そんな二人を見ていると、ポケットからバイブ音が鳴る。
 ポケットに入れていたスマホを取り出すと先程と同じく画面に文字が表示されていた。

【アップデートが完了しました。既存機能がアップグレードし、新機能が使用できるようになりましたので、あとで詳細をご覧下さい】

 ……新機能?
 電源をつけて何が変化したか見てみると、いくつかのアプリアイコンにビックリマークがついていることに気付いた。恐らく追加されたものやアップグレードされたものがそう表示されているのだろう。
 そしてその中で一番気になったのは電話のアプリだった。
 まさか電話ができるのか?
 こんな異世界に来て誰に電話ができるのか。そんな疑問を抱きつつアプリを開いてみると、そこには俺が登録した覚えの無い名前がいくつか載っており、その一つはヴェルネと書かれていた。
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