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4章

8話目 前編 予兆

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「……捕まえたぞ」

 思いっ切り俺の体を貫いてくれたイクナをその瞬間に抱き締めて捕まえた。

「ッ!?ウガアァァァァッ!!」

 思わぬ反撃に驚き、その場で暴れ始める。
 その怪力を俺だけでどうにかできるか……そう思っていたのも杞憂だったようで、なんとかギリギリで押さえ込めていた。

「悪いイクナ、少し我慢しててくれ」

 そう言って暴れようとするイクナを押さえつつ、首元に噛み付いた。
 さながら吸血鬼のように。
 するとアリアたちにやった時とはとは違った不思議な感覚を覚えた。
 俺のウイルスを与えつつイクナのウイルスを吸い取るという行為が、まるで俺とイクナの血管を繋げて血液を入れ替えているような感じだ。
 体の中からどんどんと出ていき、イクナのが入ってくる……今までそんな経験などしたことがないから良い例えが思い浮かばないけれど、血液の入れ替えというのが感覚的には一番近いかもしれない。

【仮個体名「イクナ」へのウイルスの注入、抽出70%――】

 次第にイクナの抵抗する力が弱っていき、力の抜けた腕がダランと垂れ下がる。
 アナさんから終了お知らせを聞いて首筋から離れると、イクナは虚ろな目をしていた。
 ……コレ本当に大丈夫かよ?

【仮個体名「イクナ」から――したウイルスを解析――異じょ――】

 アナさんがお知らせの言葉の途中、突然ジジッとノイズのような音が混じり初め、その先が聞こえなくなってしまった。

「なん、だっ……!?」

 短い時間ではあったが、そのノイズは脳みそを直接掻き混ぜられているかのような不快さを覚え、視界が大きく揺らぐ。
 俺の胸に突き刺さりっぱなしだったイクナの腕を抜く。

「……オニィ……チャ……」

 イクナはフッと正気に戻った細目で何かを呟き、そのまま気を失って倒れてしまう。俺も立つことが難しく、その場に尻もちを付く。
 彼女の身を案じたララたちがイクナの元へ駆け寄る。

「大丈夫ですかい、旦那?顔色が悪いようですが……あいや、普通体を貫かれてその程度で済んでるのが不思議なんですけど……」

 唯一ガカンは変わらず俺を心配してくれていた。

「あ、ああ……ぐっ!?」

 ノイズは止むことなく頭の中を掻き乱し、その不快感は久しぶりに味わう痛みにも似た感じがしていた。
 どうなってるんだ……今の俺の痛覚は無くなってるんじゃないのか?

【……別のウイルスの拒絶反応による脳への異常を確認。適応を開始します】

 そのお知らせと同時に一気に頭の重さが楽になる。
 今更ではあるけれども、本当にアナさんには厄介になりっぱなしだな……

「……もう大丈夫だ、問題ない」

 顔を覗き込んでくるガカンにそう言って立ち上がる。
 しかしさっきよりも体の調子がいいのは気のせいか?軽く感じるような……

【イクナから抽出したウイルスの適応により、八咫 来瀬のLUC以外の全ステータスに+10の補正が入りました。体の一部が捕食時とは関係なく形態変化ができるようになりました】

 お、おう、マジか……+10って結構デカくねえか?

【なお、現在のステータスであれば短剣以外の武器も使用に支障がないと思われます】

 つまり俺もララみたいに大剣を振り回せるってことか?
 冒険者になる時には適正が短剣だって言われてたからその通りに使ってたけど、他の武器も使えるオールラウンダーとか格好良くない?
 まぁ、俺が格好良くなるイメージなんてこれっぽっちも湧かないんだけど。

「……そういえばイクナは?」
「へい、今は眠っています。ただ……たまに体が震えたり跳ねたりしてララさんたちが心配しています」
「そうか……」

 問題ない……とまでは言えないけれど、さっきの様子を見る限り元に戻るはずだ。
 もしかしたらイクナの中でも俺みたいに拒絶反応が起きてるだけかもしれないし……
 ……あれ?俺はアナさんのフォローがあって元に戻ったけれど、イクナは大丈夫なのか……?

【元々八咫 来瀬の体内にあったウイルスをこちらで遠隔操作し、順応させています】

 あ、それはよかった。

「しかし……もう探索してる場合じゃないな。今日はもう帰るか」
「それがいいにゃ。ダンジョンはすぐになくなることはないからまた別の日に来ればいいにゃ」
「イクナが大丈夫なら……ね」

 俺の考えにレチアもそう言って同意し、ララは気を失っているイクナの頭を撫でながら言う。
 どちらにしろ、しばらくは安静にしておいた方がいいかもな。
 ……にしてもなんで急にイクナは暴れ始めたんだ?

【……イクナから採取したウイルスの解析結果が出ました。魔物捕食による過剰な栄養摂取したためにウイルスが大量に増殖して起きた現象だと思われます】

 あー……ってことは魔物食ったから一時的にパワーアップしたってことか?どっかの漫画にあった主人公みたいな能力だな……
 そんなことを考えながら帰ろうとしていると、戻る道から人の足跡が聞こえてくる。
 目を向けるとそこにはマルスとルフィスさんがやってきていた。
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