上 下
183 / 196
5章

9話目 前編 王の集まり

しおりを挟む
「お、お嬢様……?なぜ……」

 すると蹴り飛ばされた女が困惑した様子でなんとか起き上がる。
 対してアリアは何も言わず、ただ彼女を冷たい目で見下ろしていた。

「私は……このお屋敷の、あなた方のことを想って――」
「それが結果的にワタクシたちを貶めることでもですか?ずいぶん大層な考えをお持ちですわね」
「そ、そんなつ――」
「『そんなつもりはなかった』などと仰るわけじゃありませんわよね?あなたの行動は最悪ワタクシたち家族をも貶める行為だというのに。もしそうならあなたの思慮の浅さを軽蔑しますわ」

 アリアからそう言い放たれた護衛の女は肩を落として落胆する。
 そしてアリアは王国騎士の男の目の前に立ち、高身長の彼との身長差を気にせずに胸を張って見上げて睨む。

「で、ワタクシの大切なヤタさんとそのお仲間をどうするおつもりで?」
「あなたは……」
「アリルティア・フランシスですわ」

 不機嫌な言い方で名乗るアリアに対し、王国騎士の男は深々と頭を下げる。

「これはフランシスの長女様。どうやら少々誤解があるようですが、私たちは彼らと戦う気はありませんので……」
「それはあんたらの目的次第だがな」

 俺が割り込むようにそう言うと、王国騎士の奴らがざわつき始める。

「ヤタ?」

 ララが怪訝な顔で俺を見る。

「平和がどうとか言ってた男が珍しく喧嘩を売ってるにゃ」
「やかましいよ。いや、だっていきなり襲ってきた奴の仲間をそう簡単に信じられないだろ。戦う気がないって言っときながら大人しくララを引き渡せっていうんだったら応じないし、必要ならあんたらと戦う気ではいるぞ」

 そりゃあ、平和でいられるならそれに越したことはない。だけど仲間を犠牲にして成り立つ平和なんて後味が悪いだけだ。
 だったら俺は戦う道を選ぶ。

「たしかに私たちは魔族である彼女を保護するために来ました。なので危害を加える真似はしませんが……もし信用できないようでしたら皆様もご一緒に、というのはどうでしょう?」

 男からそう言われ、ララに視線を向ける。
 彼女も俺を見ていたので目が合う。念の為にこっちも手を打っておくか。

「わかった、そうさせてもらうわ。それじゃ、ここまで案内してくれてありがとうな、ガカン。ほい、案内料」
「えっ、旦那……?」

 俺の意図に気付いていないガカンへ念話をする。

【ガカン、ここは話を合わせて別々に動くことにする。なんだか胡散臭いからな】
【なるほど、何かあったら外から助けろってことですね?流石旦那】
【いいや違う、ただ俺たちの物を持っててほしいんだ。それとレチアとイクナとも一緒に居てくれ。彼女たちとは念話ができないからフォローも頼む】
【旦那たち二人で行く気ですかい?……わかりやした!】

 ガカンはすぐに理解してくれる。
 仮にこれが罠だったとして、全員が行って人質に取られるのだけは回避したいからな。

「それじゃあレチアさん、イクナちゃん、あっしらは屋敷に戻りますかね」
「えっ……」

 事情を知らないレチアはガカンにそう言われながら手を引かれて戸惑うが、彼と俺の顔を交互に見ると何かを察したように落ち着いた。

「わかったにゃ。イクナ、一緒に来るにゃよ」
「ン?……ワカッタ!」

 流石はレチアだ。
 ここで俺と別れることを直接言ってしまったらイクナは嫌だと言う可能性が高かったのだが、それを隠しつつこの場から離れさせた。
 事情は後でガカンから聞くだろうし、とりあえずは任せてもいいだろう。
 マカは……何も言わずともガカンたちについて行った。少し振り返り舌出しウインクなんてあざと可愛いことをして。

「……それじゃあ行こうか」
「物分りが良くて助かります。ではこちらへ」

 この選択が間違っていないこと、もしくは杞憂であることを祈るとするか……

――――

 ……ということでまぁ、一日中馬車に乗ってこの国の首都に連れて来られたわけなのですが。

「ま、こうなるわな……」

 乗っていた馬車から入り口で俺たちは降ろされ、王国騎士に囲まれながら町中を徒歩で進んでいた。

「すまんな、貴族や商人でない限り馬車で中に入ることはできないんだ。王城まで見世物となるが我慢してくれ」
「しかしここまで見られるとはな。奇異から嫌悪なものまであらゆる視線を向けられるな」
「……その中の嫌悪な目が時折、俺にも向けられるのだが。目か?目が腐ってるからなんですか?」

 目が腐ってるのとコイツらに連行されてるのが相まって犯罪者と間違えられてたりする?何それ職務質問受けた時より泣きそう。

「お疲れ様です団長!後ろの者は……犯罪者ですか?」

 そして城の前で警備をしているであろう兵士にも目を見てそう言われてしまう。
 アレだよね、騎士に囲まれてるからそう言ってるだけだよね?二人いる兵士の二人共が俺を二度見三度見してきたけど俺の目を見て言ってないよね?
 一応その後に魔族であるララの存在に気付いて騒ぎ出されたが、王国騎士さんの説明により通してもらえることとなった。
 ……もうここまでくるとここに来たことを後悔したくなる。
 そしてとうとう城内にまで案内され、いかにも王様がいますって感じの大きな扉の前までやってきてしまった。

「……そういや、ここまで来て言うのもアレかもしれないけど、王様は俺たちをどうしたいんだ?こうやってわざわざ連れて来て公開処刑ってことはないよな?縛られてないわけだし」
「さぁ……王命は『見つけ次第連れて来い』だけだったから知らないな。だけどもし王が君たちの処刑を望むなら、私たちは君たちと戦わなきゃいけないだろうね」

 そう言う王国騎士団長さんの口は一応笑っているが、その表情からは何も読み取れなかった。
 「戦わなきゃいけない」などと遠慮気味に言ってても、きっとコイツは躊躇無く俺たちを殺しに来るだろう。
 憂鬱だ……とにかく目の前で処刑するのを見たいサイコパスでないことを祈るしかない。
 そう思いながら兵士たちが開ける扉の向こうを真っ直ぐに見据えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...