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第1話 そもそもの前提として、転生するのって罪悪感湧かない?
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ここは死者の集う天国、の一部署で『転生課』と呼ばれています。
主な業務は不慮の事故で死んだ人間を異世界に転生させたりすること。
物語の冒頭にあるような例のアレですね。最近は省略されがちですが。
元社畜で人生に疲れた方に第二の人生を提供したり、ニートで社会的な生活を送れなかった人たちに世界を救ってもらったり、そんな感じで異世界も救われ魂も救済する一挙両得なサイクル。
しかし、目を輝かせて素直に喜んでくれる人や、素直に状況を受け入れてくれる人間は一部だけ。誰しもが人生の主役と言いますが、実際に物語の主人公になれる、と言われて果たしてどれだけの人がそれを選ぶでしょうか?
「そんなわけで、貴方の転生したい世界を選んでいただきます。なるべくご期待に沿えるように提案しますのでよろしくお願いしますね!」
精一杯可愛らしいリアクションと明るさを心掛け、テンション高めで対応するのが基本。死んだばかりで混乱している魂さんは非常にデリケートです。
「あ、これ夢だわ」と思わせる位の非現実な状況の方がリラックスして対話できますよね。
本日の彷徨える魂は日本人男性の田中さん(37歳・独身)です。ある程度メンタルケアを済ませた後で、ここが死後の世界であること、これから転生先を選んでもらうことなどを説明します。
「転生とか別にいいよ。特に生まれ変わりたいとか思わないし。と言うか、元の世界で生き返らせてくれ」
「それはルール上不可になってるんですよ」
既にご遺体は火葬済みです。
「じゃあ普通に元の世界に転生するのは」
「それもちょっと難しいんですよね。諸々の事情が……」
この辺りは大人の都合というやつです。なんでそうなっているのかは私たち下級神にもよく知らされていません。上級神様の決めたルールに則って対応を決めていくだけです。神の世界は人間社会よりも階級にうるさく、ルールに厳しくなっています。
「ていうかぁ、なんで選択式? 普通に対話抜きで勝手に選ばれて転生させるのがデフォじゃねぇの」
「そこはほら、人権問題とか女神の品格とかが問われる時代で。人間からの尊敬や畏怖が薄れると神々の力って弱化しちゃうんですよ。特に人間の魂との対話の多い担当って最近はコンプライアンスとかに厳しいもので、上の方から可能な限り本人のご希望を聞くよう命じられているんです」
その結果、下級神に諸々の大量の業務が発生したりするわけですが、お上がそんな些末なことは気にされませんよね。
「低姿勢の女神ってなんか夢が壊れるわー。もっと堂々としてて傲慢に高笑いするくらいのが俺の好みよ」
「そうは言われましても」
一部の派手な神ばかりが目立っていますが、大多数の一般神は割と目立たずひっそりと仕事をしています。無駄に高圧的に出て、後々上からお叱りを受けるのも困ります。強い権限も持たされていないので対話をする相手に舐められることもしばしば。
それでも仕事は仕事、ということで話を先に進めていきます。
「それじゃあ定番の冒険活劇系ファンタジー世界なんてどうでしょう? もちろんステータスやスキルありでレベルアップもお手軽ですよ」
とりあえず現代日本人なら喜ぶ転生先ナンバーワンを提案しました。
しかし、田中さん、いきなり渋い顔をなされて首を横に振ります。
「いやさ、ステータスとかもうマジ見るだけで疲れる。ゲームさんざんやりまくってると、数字見るだけでお腹いっぱい。それでも義務的にパロメータ上げて行ってだ、ある程度成長した段階で気づくわけよ。これに費やした大量の時間を別のことに使っていればって。自分の人生におけるゲームプレイ時間とかネット接続時間表示されたら普通に死ねるやつ。察してくれよ」
あー、現世でやり尽くしたタイプの方でした。いまどきは無料のゲームとか山ほどありますし、複数のソシャゲを掛け持ちする人も多いですからね。
「そう言わないで、経験値取得自動化チート系もありますよ?」
「んーでもなぁ。一度楽を覚えると余計何かやるのが面倒になるんだよなぁ。それまでやってきた行為があまりに無駄に感じるというか、世の中のすべてに飽きてくるっていうか。ただ眺めるだけならどっか風景でも眺めるわ」
「そういう人はゲームやるより旅行とか行った方が良さそうですね」
典型的なゲーム疲れですね。加えて仕事でPCを使う業務をしていたりすると余計疲労が蓄積していくもんです。
「行きたい行きたいって思ってて、いつの間にか年取っていく気力がなくってるやつね。はぁ、今から思えば、子どもの頃に親に連れてってもらう旅行とか本当ありがたかったんやね、ってなるよなぁ。修学旅行とか懐かしい。温泉行きたいけど実際にかかる宿泊料金とか旅行費用見てやる気が失せるやつ。それに今の時代それどころじゃないしなぁ」
ため息をつかれてしまいました。
「まぁ、色々ありますが旅行って行けば大抵楽しい物じゃないですか。転生だって案外すぐ馴染んじゃいますよ、きっと」
「気持ちの問題だよ。おっさんになるとこれまでの経験から無意識に面倒なことを避けようとするの。小説だってある程度筋書きわかってないと読む気になれないの」
「うーん、そんなお疲れ気味の貴方にオススメの辺境開拓系スローライフはどうでしょう?」
「それ一番しんどいやつじゃん! 田舎で暮らしたい都会人かよ。遊牧生活舐めんなゴラ、大体現代日本人が転生していきなり馴染めるか。そもそも屠殺とかできねぇし、お腹弱いんで動物の乳とか無理。それに虫とか病原菌とか、諸々衣食住とかで常に忙しいやつー」
「まぁ旅行すら面倒くさいって人には厳しいですね」
「あとさぁ、異世界転生でスローライフって基本スローじゃねぇだろガチでよぉ。水洗トイレもシャワーもないんだぜ? まず環境整えるところから始めねぇといけないじゃねぇか。あとさ、ほら外敵からの脅威とか、そもそもが貧しい生活に家族親戚関係諸々、商売を軌道に乗せるにはコネやコミュ力だって必要。転生したからって何事にも積極的になれる奴ばっかりじゃねぇっての」
「まぁそこは本人の適性次第ですね」
「ていうかぁ、そもそもの前提としてー、転生するのって罪悪感湧かない? 良く知らないご両親の元にいきなり前世日本人のおっさんが転生してくるわけよ。それが結婚数年目の若夫婦とかだった日にはさぁ。自分より年下の両親に世話されてってメンタル的に辛いわ。それに生まれ変わるっていうけども、本来その世界に生まれるはずだった赤ん坊の魂はどうなってんの? って思っちゃうんだよね。普通に可哀想やん。よくわからんおっさんに居場所をスコーンと奪われるのって」
「それを言い出すと老衰で亡くなった人が転生した場合、大抵前世・ご老人ですからねぇ。難しく考えない方がよろしいのでは」
転生にまつわる諸問題はデリケートすぎるので安易にコメントできませんね。
フィクションの世界なら「設定による」で済みますけど。
「ていうか、まず他人と暮らすとか無理。食生活も習慣も何もかもが違う人と一から関係を築いていってそれが何十年も続くんだろ? あとどんな親のところに生まれるかもわからない。現実的に考えたら不幸な生い立ちに生まれ変わる可能性だって結構なもんだろ。スローライフにしたって何の苦労もなく生活すること自体ないってわかるよ。一番暇な時期な学生だって勉強とか将来の事とか周りからのストレスだって多いし。生きるって常に戦いよ?」
「ふえええ、一度語りはじめると話がとことん逸れていくやつー」
「昔はおっさんの愚痴とかうぜぇの一言だったけど、自分が年取るとこういうことを平気で言っちゃうようになるのも凹むわ」
テンションがじんわりと下がってしまいました。
とりあえず話を軌道修正させます。
細かいことばかり考えてもいてもキリがありません。
人間与えられた武器だけで戦っていくしかないのです。
実際にやってみればそれなりにどうにかなる場合だって多いでしょう。
あまりにも楽観的で無責任、この世の地獄を知らないと言われればそれまでですが。
主な業務は不慮の事故で死んだ人間を異世界に転生させたりすること。
物語の冒頭にあるような例のアレですね。最近は省略されがちですが。
元社畜で人生に疲れた方に第二の人生を提供したり、ニートで社会的な生活を送れなかった人たちに世界を救ってもらったり、そんな感じで異世界も救われ魂も救済する一挙両得なサイクル。
しかし、目を輝かせて素直に喜んでくれる人や、素直に状況を受け入れてくれる人間は一部だけ。誰しもが人生の主役と言いますが、実際に物語の主人公になれる、と言われて果たしてどれだけの人がそれを選ぶでしょうか?
「そんなわけで、貴方の転生したい世界を選んでいただきます。なるべくご期待に沿えるように提案しますのでよろしくお願いしますね!」
精一杯可愛らしいリアクションと明るさを心掛け、テンション高めで対応するのが基本。死んだばかりで混乱している魂さんは非常にデリケートです。
「あ、これ夢だわ」と思わせる位の非現実な状況の方がリラックスして対話できますよね。
本日の彷徨える魂は日本人男性の田中さん(37歳・独身)です。ある程度メンタルケアを済ませた後で、ここが死後の世界であること、これから転生先を選んでもらうことなどを説明します。
「転生とか別にいいよ。特に生まれ変わりたいとか思わないし。と言うか、元の世界で生き返らせてくれ」
「それはルール上不可になってるんですよ」
既にご遺体は火葬済みです。
「じゃあ普通に元の世界に転生するのは」
「それもちょっと難しいんですよね。諸々の事情が……」
この辺りは大人の都合というやつです。なんでそうなっているのかは私たち下級神にもよく知らされていません。上級神様の決めたルールに則って対応を決めていくだけです。神の世界は人間社会よりも階級にうるさく、ルールに厳しくなっています。
「ていうかぁ、なんで選択式? 普通に対話抜きで勝手に選ばれて転生させるのがデフォじゃねぇの」
「そこはほら、人権問題とか女神の品格とかが問われる時代で。人間からの尊敬や畏怖が薄れると神々の力って弱化しちゃうんですよ。特に人間の魂との対話の多い担当って最近はコンプライアンスとかに厳しいもので、上の方から可能な限り本人のご希望を聞くよう命じられているんです」
その結果、下級神に諸々の大量の業務が発生したりするわけですが、お上がそんな些末なことは気にされませんよね。
「低姿勢の女神ってなんか夢が壊れるわー。もっと堂々としてて傲慢に高笑いするくらいのが俺の好みよ」
「そうは言われましても」
一部の派手な神ばかりが目立っていますが、大多数の一般神は割と目立たずひっそりと仕事をしています。無駄に高圧的に出て、後々上からお叱りを受けるのも困ります。強い権限も持たされていないので対話をする相手に舐められることもしばしば。
それでも仕事は仕事、ということで話を先に進めていきます。
「それじゃあ定番の冒険活劇系ファンタジー世界なんてどうでしょう? もちろんステータスやスキルありでレベルアップもお手軽ですよ」
とりあえず現代日本人なら喜ぶ転生先ナンバーワンを提案しました。
しかし、田中さん、いきなり渋い顔をなされて首を横に振ります。
「いやさ、ステータスとかもうマジ見るだけで疲れる。ゲームさんざんやりまくってると、数字見るだけでお腹いっぱい。それでも義務的にパロメータ上げて行ってだ、ある程度成長した段階で気づくわけよ。これに費やした大量の時間を別のことに使っていればって。自分の人生におけるゲームプレイ時間とかネット接続時間表示されたら普通に死ねるやつ。察してくれよ」
あー、現世でやり尽くしたタイプの方でした。いまどきは無料のゲームとか山ほどありますし、複数のソシャゲを掛け持ちする人も多いですからね。
「そう言わないで、経験値取得自動化チート系もありますよ?」
「んーでもなぁ。一度楽を覚えると余計何かやるのが面倒になるんだよなぁ。それまでやってきた行為があまりに無駄に感じるというか、世の中のすべてに飽きてくるっていうか。ただ眺めるだけならどっか風景でも眺めるわ」
「そういう人はゲームやるより旅行とか行った方が良さそうですね」
典型的なゲーム疲れですね。加えて仕事でPCを使う業務をしていたりすると余計疲労が蓄積していくもんです。
「行きたい行きたいって思ってて、いつの間にか年取っていく気力がなくってるやつね。はぁ、今から思えば、子どもの頃に親に連れてってもらう旅行とか本当ありがたかったんやね、ってなるよなぁ。修学旅行とか懐かしい。温泉行きたいけど実際にかかる宿泊料金とか旅行費用見てやる気が失せるやつ。それに今の時代それどころじゃないしなぁ」
ため息をつかれてしまいました。
「まぁ、色々ありますが旅行って行けば大抵楽しい物じゃないですか。転生だって案外すぐ馴染んじゃいますよ、きっと」
「気持ちの問題だよ。おっさんになるとこれまでの経験から無意識に面倒なことを避けようとするの。小説だってある程度筋書きわかってないと読む気になれないの」
「うーん、そんなお疲れ気味の貴方にオススメの辺境開拓系スローライフはどうでしょう?」
「それ一番しんどいやつじゃん! 田舎で暮らしたい都会人かよ。遊牧生活舐めんなゴラ、大体現代日本人が転生していきなり馴染めるか。そもそも屠殺とかできねぇし、お腹弱いんで動物の乳とか無理。それに虫とか病原菌とか、諸々衣食住とかで常に忙しいやつー」
「まぁ旅行すら面倒くさいって人には厳しいですね」
「あとさぁ、異世界転生でスローライフって基本スローじゃねぇだろガチでよぉ。水洗トイレもシャワーもないんだぜ? まず環境整えるところから始めねぇといけないじゃねぇか。あとさ、ほら外敵からの脅威とか、そもそもが貧しい生活に家族親戚関係諸々、商売を軌道に乗せるにはコネやコミュ力だって必要。転生したからって何事にも積極的になれる奴ばっかりじゃねぇっての」
「まぁそこは本人の適性次第ですね」
「ていうかぁ、そもそもの前提としてー、転生するのって罪悪感湧かない? 良く知らないご両親の元にいきなり前世日本人のおっさんが転生してくるわけよ。それが結婚数年目の若夫婦とかだった日にはさぁ。自分より年下の両親に世話されてってメンタル的に辛いわ。それに生まれ変わるっていうけども、本来その世界に生まれるはずだった赤ん坊の魂はどうなってんの? って思っちゃうんだよね。普通に可哀想やん。よくわからんおっさんに居場所をスコーンと奪われるのって」
「それを言い出すと老衰で亡くなった人が転生した場合、大抵前世・ご老人ですからねぇ。難しく考えない方がよろしいのでは」
転生にまつわる諸問題はデリケートすぎるので安易にコメントできませんね。
フィクションの世界なら「設定による」で済みますけど。
「ていうか、まず他人と暮らすとか無理。食生活も習慣も何もかもが違う人と一から関係を築いていってそれが何十年も続くんだろ? あとどんな親のところに生まれるかもわからない。現実的に考えたら不幸な生い立ちに生まれ変わる可能性だって結構なもんだろ。スローライフにしたって何の苦労もなく生活すること自体ないってわかるよ。一番暇な時期な学生だって勉強とか将来の事とか周りからのストレスだって多いし。生きるって常に戦いよ?」
「ふえええ、一度語りはじめると話がとことん逸れていくやつー」
「昔はおっさんの愚痴とかうぜぇの一言だったけど、自分が年取るとこういうことを平気で言っちゃうようになるのも凹むわ」
テンションがじんわりと下がってしまいました。
とりあえず話を軌道修正させます。
細かいことばかり考えてもいてもキリがありません。
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