BL世界に迷い込んだ人、死を賭し風紀を取り締まる(旧:オリジナルBLでよくある設定の世界に迷い込んだ人の話)

とりのようこ

文字の大きさ
44 / 45

第42話:路④

しおりを挟む
 返事の声から一拍遅れてバトンが動き出す。
 煙を吐く足場が結構な速さで上に遠ざかっていくのを見て、安堵する。

 かなり早い、これなら下まですぐ着くだろう。
 右腕の下で生徒の体が震えている。
 温もりと、強い震えが伝わってくる、かすれた呼吸も。

 声をかけようとした、途端。
 

 爆音がひびいた。
 見上げると、先ほどの足場から炎が上がっている。


 目に入ったのは、天井へ一直線に駆け上る炎。

 天井から垂れ下がっていた幕に引火した火が、水草を模した手作りの幕をなめて巨大な龍のように空へ登っていく、
 すさまじい速さで天井に到達したそれはぶどう棚を横に這うように拡がる、
 吊られていた大きな置物が目の前を掠めて下に落ちていく。
 
 全ては一瞬のこと、 

 大きな物音に目を見張った直後、
 バトンが停止した。

「ぐ!」
 
 短い悲鳴が下から響き、
 いきなり体が前へつんのめる。

 足を預けた2本のバトンが突如静止して、上体だけが下へ降りていく。
  
 生徒の手がバトンから離れ体が下へ落ちかかるのを右手でとっさに捕まえると、今度は左腕を預けていたバトンが急に止まり、また体勢が崩れる。

「ひ……! 落ち」

 バトンから手が離れ、なかばパニックを起こした生徒を急いで引き寄せる。
 前のめりのまま左手でバトンを抑えながら下を見ると、まだ三階程度の高さの場所。

 制御盤の脇に生徒会長が膝をつき、近くに壊れた魚の吊り物が割れ散らばっているのが見えた。
 直撃したのか……!?  

 駄目だ、もうここで飛び降りよう。
 一刻も早く下にいって容態を確認しなければ…!
 
 こいつを抱えて降り、俺が下になればいい。
 引き寄せた腕の中で生徒は震えて、祈る姿勢をとり、さきほどから何がしか呟き続けていた。
 
「ごめんなさい、ごめんなさい。」

「バチ、だ。
 バチだよ。
 ぼくが、僕が、
 呪いなんてしんじて、
 バカなことしたから、
 神様が……」

 生徒を抱えた手で強くゆさぶった。

「後にしろ!
 飛び降りるぞ。
 足から降りるようにしろ!頭と背骨を守れ」

 その時、下で会長が起き上がるのが見えた。
 胸の奥に安堵が拡がるのを感じながら声をかける。

「おい、バトンは動かすなよ!ここから飛び降りるぞ!」
 
 天井に火がまわっているのなら正常な機器の制御は望めない。
 何にせよここで降りるしかない。

「ひぃ……!でも、ここ、まだ高い…!」

 悲鳴の生徒に構わず飛び降りる体勢を整えようとバトンの隙間を開け足を入れたところで、上から感じた落下物の気配。
 顔を上げると巨大な魚影が頭上に迫っていた。

 俺達からは距離があるが、バトンに直撃する位置。
 ――――飛び降りるか!? いや、飛び降りた後に、バトンで跳ねた像が割れて頭上から降りかかってくるかもしれない……!

 「バトンにしがみつけ!」

 落ちるなよ!という続きの言葉は間に合わず、衝撃で足場が大きく跳ねて揺れた。
 生徒を抱えて揺れる足場に踏みとどまると、眼下に炎の赤がパァッと広がるのが見えた。

 マットの上に先ほどバトンに直撃した吊り物であるらしいクジラの像が鎮座し、その上で後から落ちてきたらしい布がさかんに炎を上げていた。

 駄目だ、
 真下には降りられない、
 斜め方向に飛ば、

 ------------------そこで、突如足元が傾いて、

 次の瞬間、空に投げ出されていた。
 
 ワイヤーが、切れたか…!?

 先に落下した生徒を捕まえて、腹に抱きつくようにして抱え、俺の足が先に地上に着くよう空中で体を捻る。
 

 くそ……何とかなれ、
 異世界が何だってんだ、南無三!!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...