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第42話:路④
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返事の声から一拍遅れてバトンが動き出す。
煙を吐く足場が結構な速さで上に遠ざかっていくのを見て、安堵する。
かなり早い、これなら下まですぐ着くだろう。
右腕の下で生徒の体が震えている。
温もりと、強い震えが伝わってくる、かすれた呼吸も。
声をかけようとした、途端。
爆音がひびいた。
見上げると、先ほどの足場から炎が上がっている。
目に入ったのは、天井へ一直線に駆け上る炎。
天井から垂れ下がっていた幕に引火した火が、水草を模した手作りの幕をなめて巨大な龍のように空へ登っていく、
すさまじい速さで天井に到達したそれはぶどう棚を横に這うように拡がる、
吊られていた大きな置物が目の前を掠めて下に落ちていく。
全ては一瞬のこと、
大きな物音に目を見張った直後、
バトンが停止した。
「ぐ!」
短い悲鳴が下から響き、
いきなり体が前へつんのめる。
足を預けた2本のバトンが突如静止して、上体だけが下へ降りていく。
生徒の手がバトンから離れ体が下へ落ちかかるのを右手でとっさに捕まえると、今度は左腕を預けていたバトンが急に止まり、また体勢が崩れる。
「ひ……! 落ち」
バトンから手が離れ、なかばパニックを起こした生徒を急いで引き寄せる。
前のめりのまま左手でバトンを抑えながら下を見ると、まだ三階程度の高さの場所。
制御盤の脇に生徒会長が膝をつき、近くに壊れた魚の吊り物が割れ散らばっているのが見えた。
直撃したのか……!?
駄目だ、もうここで飛び降りよう。
一刻も早く下にいって容態を確認しなければ…!
こいつを抱えて降り、俺が下になればいい。
引き寄せた腕の中で生徒は震えて、祈る姿勢をとり、さきほどから何がしか呟き続けていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
「バチ、だ。
バチだよ。
ぼくが、僕が、
呪いなんてしんじて、
バカなことしたから、
神様が……」
生徒を抱えた手で強くゆさぶった。
「後にしろ!
飛び降りるぞ。
足から降りるようにしろ!頭と背骨を守れ」
その時、下で会長が起き上がるのが見えた。
胸の奥に安堵が拡がるのを感じながら声をかける。
「おい、バトンは動かすなよ!ここから飛び降りるぞ!」
天井に火がまわっているのなら正常な機器の制御は望めない。
何にせよここで降りるしかない。
「ひぃ……!でも、ここ、まだ高い…!」
悲鳴の生徒に構わず飛び降りる体勢を整えようとバトンの隙間を開け足を入れたところで、上から感じた落下物の気配。
顔を上げると巨大な魚影が頭上に迫っていた。
俺達からは距離があるが、バトンに直撃する位置。
――――飛び降りるか!? いや、飛び降りた後に、バトンで跳ねた像が割れて頭上から降りかかってくるかもしれない……!
「バトンにしがみつけ!」
落ちるなよ!という続きの言葉は間に合わず、衝撃で足場が大きく跳ねて揺れた。
生徒を抱えて揺れる足場に踏みとどまると、眼下に炎の赤がパァッと広がるのが見えた。
マットの上に先ほどバトンに直撃した吊り物であるらしいクジラの像が鎮座し、その上で後から落ちてきたらしい布がさかんに炎を上げていた。
駄目だ、
真下には降りられない、
斜め方向に飛ば、
------------------そこで、突如足元が傾いて、
次の瞬間、空に投げ出されていた。
ワイヤーが、切れたか…!?
先に落下した生徒を捕まえて、腹に抱きつくようにして抱え、俺の足が先に地上に着くよう空中で体を捻る。
くそ……何とかなれ、
異世界が何だってんだ、南無三!!
煙を吐く足場が結構な速さで上に遠ざかっていくのを見て、安堵する。
かなり早い、これなら下まですぐ着くだろう。
右腕の下で生徒の体が震えている。
温もりと、強い震えが伝わってくる、かすれた呼吸も。
声をかけようとした、途端。
爆音がひびいた。
見上げると、先ほどの足場から炎が上がっている。
目に入ったのは、天井へ一直線に駆け上る炎。
天井から垂れ下がっていた幕に引火した火が、水草を模した手作りの幕をなめて巨大な龍のように空へ登っていく、
すさまじい速さで天井に到達したそれはぶどう棚を横に這うように拡がる、
吊られていた大きな置物が目の前を掠めて下に落ちていく。
全ては一瞬のこと、
大きな物音に目を見張った直後、
バトンが停止した。
「ぐ!」
短い悲鳴が下から響き、
いきなり体が前へつんのめる。
足を預けた2本のバトンが突如静止して、上体だけが下へ降りていく。
生徒の手がバトンから離れ体が下へ落ちかかるのを右手でとっさに捕まえると、今度は左腕を預けていたバトンが急に止まり、また体勢が崩れる。
「ひ……! 落ち」
バトンから手が離れ、なかばパニックを起こした生徒を急いで引き寄せる。
前のめりのまま左手でバトンを抑えながら下を見ると、まだ三階程度の高さの場所。
制御盤の脇に生徒会長が膝をつき、近くに壊れた魚の吊り物が割れ散らばっているのが見えた。
直撃したのか……!?
駄目だ、もうここで飛び降りよう。
一刻も早く下にいって容態を確認しなければ…!
こいつを抱えて降り、俺が下になればいい。
引き寄せた腕の中で生徒は震えて、祈る姿勢をとり、さきほどから何がしか呟き続けていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
「バチ、だ。
バチだよ。
ぼくが、僕が、
呪いなんてしんじて、
バカなことしたから、
神様が……」
生徒を抱えた手で強くゆさぶった。
「後にしろ!
飛び降りるぞ。
足から降りるようにしろ!頭と背骨を守れ」
その時、下で会長が起き上がるのが見えた。
胸の奥に安堵が拡がるのを感じながら声をかける。
「おい、バトンは動かすなよ!ここから飛び降りるぞ!」
天井に火がまわっているのなら正常な機器の制御は望めない。
何にせよここで降りるしかない。
「ひぃ……!でも、ここ、まだ高い…!」
悲鳴の生徒に構わず飛び降りる体勢を整えようとバトンの隙間を開け足を入れたところで、上から感じた落下物の気配。
顔を上げると巨大な魚影が頭上に迫っていた。
俺達からは距離があるが、バトンに直撃する位置。
――――飛び降りるか!? いや、飛び降りた後に、バトンで跳ねた像が割れて頭上から降りかかってくるかもしれない……!
「バトンにしがみつけ!」
落ちるなよ!という続きの言葉は間に合わず、衝撃で足場が大きく跳ねて揺れた。
生徒を抱えて揺れる足場に踏みとどまると、眼下に炎の赤がパァッと広がるのが見えた。
マットの上に先ほどバトンに直撃した吊り物であるらしいクジラの像が鎮座し、その上で後から落ちてきたらしい布がさかんに炎を上げていた。
駄目だ、
真下には降りられない、
斜め方向に飛ば、
------------------そこで、突如足元が傾いて、
次の瞬間、空に投げ出されていた。
ワイヤーが、切れたか…!?
先に落下した生徒を捕まえて、腹に抱きつくようにして抱え、俺の足が先に地上に着くよう空中で体を捻る。
くそ……何とかなれ、
異世界が何だってんだ、南無三!!
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