奴隷商人 (旧)(紀元前47年の物語①)

✿モンテ✣クリスト✿

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第1章 フェニキア

第16話 見破られた!

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 見破られた!

 私はガバッと起き上がった。失敗した。驚いた素振りを示したら、認めたようなものじゃないの!

「ソフィア、ジュリア、お前たちは、なぜ、そんなとんでもないことを思いつくの?私が二人って、そんなことがあるわけがないでしょうに!」

 ソフィアとジュリアも起き上がって、私の正面に座った。二人で顔を見合わせる。

 ソフィアが「エミー様、私がおかしいな、と思った最初は、旦那様と話される時、別の言葉でお話しされていたからです。私もジュリアも多少はコーカサス語がわかります。それで、コーカサス語で奥様が話される時、旦那様は奥様を諭されるように説明するようにお話しなされます。まるで、年下の女の子に話されるように。ところが、私がわからないまったく別の言葉で奥様が旦那様にお話なされる時、奥様は旦那様と対等というのでしょうか、何でも知っているような素振りでお話されます。旦那様も奥様にご相談されるようにお話されます。そして、別の不思議な言葉で話される奥様の時、奥様は私たちの知らない知識を持っているように思われました」と言う。

「私もそう感じました。私は誰にも言っていませんが、ソフィアが言うことと同じことを思いました」とジュリアが言う。「今、私たちとしている間、奥様は、同じ体なのに、まるで、まるで・・・え~、違う人間のようなそぶりをなされて、コーカサス語を話す方?その人は、まるで、まるで・・・その体に見合った幼い女の子のような振る舞いをなされて、私たちのなすがままに体を委ねていました。仕草も多少乱暴で・・・でも、知らない言葉を話す方の奥様が出てくると、私たちをなぶって、自信と威厳をもって、私たちをコントロールなさった。これでは、まるで、同じ体にもうひとりの人間が入っているとしか、私には思えないのです」

 あ~、バレちゃったね。どうするの?絵美?とエミーが聞く。どうしようかなあ。ムラーにこの時間に相談するわけにもいかない。変にウソをついても、彼女らの感じたことを説明するような話ができるわけじゃない。えい、しょうがない。

「ソフィア、ジュリア、わかりました。あなた方の言う通り、私は二人います。今の私は『絵美』、もう一人は『エミー』です。もともとは、私の体は、ムラー様があなた方に説明した通りのアディゲ人の族長の娘『エミー』のものです。18歳の巫女長でした。エミーは、海賊にさらわれ、ここフェニキアに奴隷として売りに出されたのです。奴隷市場で売りに出されたその時、私はムラー様によって、この体に入りました」

「奥様、旦那様がどうやったら、絵美様をエミー様の体に入れられるのですか?」とソフィア。
「私は・・・この世界の人間ではありません。今から二千年後の人間なのです」
「二千年・・・エジプトのギザの大ピラミッドが作られたのが、今から二千年前ですから、そのぐらい先の時間から絵美様は旅をされてきた、ということでございましょうか?」とジュリアが言う。

 なるほど。20世紀の女性に同じような話をしても信じる訳がない。だが、この紀元前47年からさらに二千年遡った歴史がここにはあるんだ。それに、この神話と神が存在していることを信じる人々だから、20世紀のような教育が邪魔をして、教えられていないこと、自分の知らない科学的な現象を信じようとしない人々よりもすんなり理解するわけなんだ。

「ジュリアの言う通り、今から二千年前のピラミッドと同じく、今から二千年後の時代から私は旅してきました。ただね、二人とも信じられないでしょうが、この世界とほとんど同じ別の世界から私は来たの」
「奥様、絵美様、それはこのお皿の世界と同じお皿がもう一ひとつあると言うことでございますか?」とソフィアが聞いた。

 え?絵美?何?何をイメージしたの?えええ?この世界、宇宙?ユニバース?何?あんたのイメージは、この世界は球じゃない!丸いの!なぜ、下にいる人間は落ちないの?重力?え?何?頭の中でエミーがクエスチョンマークを連発するので、後で説明してあげると言った。

 そうか、古代のメソポタミア神話では、世界は平らな円盤状で大洋に浮いている。今から3~4百年前、ヘロドトスやプラトン、アリストテレスが地球球体説を唱え、百年ぐらい前に地動説もギリシャ人が説明したが、エミーが言うように、球体だったら、下の人間はなぜ虚空に落ちない?ということをうまく説明できなかったから、庶民の間では、古代のメソポタミアの話のまま、世界は平たいと思われているんだ。これは面倒だから平たいままにしておこう。

「そうよ、ソフィア。お前が想像するのと少々違うけれど、この世界と別の、ほとんど同じ世界があって、私はその世界の二千年後から来たのよ」
「・・・あの・・・お、奥様は、神、なのですか?」
「いいえ、ジュリア、私は神ではありません。神が、お前になぶられてアンアンするもんですか」
「絵美様は、神そのものでないとすると、大神ゼウスの人間の女性との落とし胤なのですか?」

 絵美、絵美、ここで念動力でベットを宙に浮かせたらウッケル~。

 やれやれ。エミー、あんたね、日本語で思考する時、どこで私の記憶を読んだのか知らないけど、まるで、私の時代のヤンキーみたいになってるわ。

 え?ヤンキー?どれどれ?ええ?未来では、髪の毛を染めたり、こんなお化粧するんだ?もったいない。せっかくの黒髪をパツキンにしちゃって!あら?じゃあ、私も憧れの黒髪に染められるのね!

 いや、今、余計なことを脳内で考えるんじゃない!黙ってなさい!

 ハァイ!

 私がエミーと話して黙っていたので、彼女たちは私がゼウスの落とし胤のヘラクレスみたいな半神だと思い込んだらしい。正座してひれ伏して、私を拝んだ。止めて欲しい!

「二人とも、私を拝まないで、いつものようにして頂戴!」
「絵美様、わたくしたち、このことは誰にも言いません。天地神明にかけてお誓いいたします。わたくしたちに神罰などお与えくださらないで下さい。わたくしたちは、生涯、あなた様の下僕としてお使えいたします」
「・・・わかりました。ソフィア、ジュリア、私もこの世界に疎いのです。私/エミーを守ってくださいね」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします」とまた拝まれた。
「普段どおりに振る舞って頂戴。くれぐれも他言無用ですよ」
「ハハア」

 一件落着ね、絵美とエミーが言う。まいったな。ムラーにどう言おうかしら?そういえば、ソフィアとジュリアは、ムラーも私と同じ存在と思うのかしらね?

「ムラー様には私から説明いたします。ムラー様に余計なことを言わないこと。普段どおりに接して下さい」
「わかりました」
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