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第1章~第6章 総集編
第2章 奴隷商人 Ⅳ (第27~37話)
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第2章 地中海編
奴隷商人 Ⅳ
第27話 コルビタ船、紀元前46年
第28話 航海時のお食事、紀元前46年
第29話 クレオパトラ7世の妹、紀元前46年
第30話 ヤッファ(テルアビブ)
第31話 ハレムなんて中学高校一貫教育の女子校の経営と同じだよ
第32話 イシス
第33話 クレオパトラの儀式
第34話 シナイ半島沖合
第35話 純粋知性体
第36話 クレオパトラと純粋知性体
第37話 もう一体のスフィンクス
第1章 フェニキア
奴隷商人 Ⅰ
第1話 極超新星爆発
第2話 純粋知性体
第3話 奴隷市場1、奴隷市場ホール、紀元前47年
第4話 奴隷市場2、絵美の奴隷売買成立、紀元前47年
第5話 奴隷市場3、コーカサスの女、紀元前47年
第6話 ムラーの荘園、ムラーの家、紀元前47年
第7話 アヌビスとの戦闘、紀元前47年
第8話(1) エミーの初体験、紀元前47年
第8話(2) クリエンテス、紀元前47年
奴隷商人 Ⅱ
第9話 古代ローマのブラジリアンワックス、紀元前47年
第10話 アヌビスの解剖、紀元前47年
第11話 窓ガラスがない!、紀元前47年
第12話 エジプトから盗んできたパピルスの文書、紀元前47年
第13話 古代ローマの不潔さ、紀元前47年
第14話 古代ローマの媚薬『シルフィウム』、紀元前47年
第15話 ジュリアとソフィアと、紀元前63年
第16話 見破られた!、紀元前50年
第17話 ピティアス、紀元前47年
奴隷商人 Ⅲ
第18話 ペトラとアイリス、紀元前47年
第19話 知性体ベータのプローブユニット、紀元前50年
第20話 このドスケベのコーカサス女め!、紀元前46年
第21話 アイリスの三年前の回想、紀元前46年
◯ポンペイウス軍の海賊討伐とローマの暦の数え方
●第三期ポエニ戦争とそれに続く東地中海のヘレニズム国家との戦争
●ポンペイウス軍の海賊討伐
●人さらい
●説教
第22話 人さらい、紀元前46年
第23話 シーザー暗号、紀元前46年
第24話 合体技超能力の訓練、紀元前46年
第25話 クレオパトラと戦争する気?、紀元前46年
第26話 両性具有、紀元前46年
第2章 地中海編
奴隷商人 Ⅳ
第27話 コルビタ船
ムラーがピティアスの船を改修したから見に行こう、と言った。
エジプトにはピティアスの商船(実は海賊船)で行くのだが、船で行くのは気が進まない。真水がないじゃない!海水で体を洗うとカイカイになってお肌に悪いでしょう?トイレはどうするのよ?海に飛び込んでするの?小さい方はいいけど、立ち泳ぎで大きい方なんてできないわ。かといって、陸路で行っても途中の宿とか、不潔そうじゃない?
歴史ロマンとか太古の世界とか、そんな小説とかマンガが20世紀にあったが、お便所の話とかお風呂の話とか、誰も書かないのはなぜなの?『そうぞうりょく』の欠如よ!
いいこと?21世紀の小説家!マンガ作家!紀元前にはケツを拭く紙はないんだからね!古代ローマでケツを拭くのは、ウンコをこそぎとる木のへらとみんなで使う海綿スポンジなのよ!・・・興奮してしまった!
そう言えば、歴史書で、オクタヴィアヌス軍とクレオパトラ/アントニウス連合軍が闘ったアクティウムの海戦で、クレオパトラはエジプトの艦隊の旗艦に乗船していたけど、彼女、お風呂やトイレはどうしていたんだろう?
なんて思っていると、エミーが、ああら、20世紀のか弱いお嬢さんはどうしようもないわね。私なんか、黒海東岸のアディゲ人の村から拐われてきて、ピティアスの船とは比べ物にならない小さな船で二週間も航海してフェニキアに来たんですからね!
おしっこ、ウンコ、だって?そんなもん、海賊が見ている前で、その前で、木の桶よ、桶!桶にまたがってしたわよ!その桶を自分で海水で洗ってたわよ!真水を使えるのは、数日に1回、港に寄港したときだけ。
私は族長の娘で巫女長で処女だから、奴隷の売値が下がるので手をつけられなかったけど、他の拐われた女たちは、海賊にバカスカ犯されてたわ!絵美さん、お嬢様、贅沢言うんじゃないわ!と絡まれた。
まあ、確かに。20世紀にフェリーで優雅に船旅を楽しむわけじゃない。エジプトには戦闘に行くのだし。諦めよう。
私たちがエミーの体の中で言い合いをしている内に、港に停泊してるピティアスの船に着いた。エジプトには二隻で行くという。私(たち)、アイリス、ソフィア、ジュリアの他に、14、15才の奴隷女を4人、侍女として連れて行くとソフィアが決めた。この侍女たちは、アレキサンドリアにおいていく。さすがに戦闘させられない。
この子たちに私たちの下の世話をさせようというの?この世界に来た最初の時みたいに、トイレで用を足している時、この子たちが私の前でかしずいて、私のあそこをこの子たちに拭かせるの?あ~、勘弁して!そんなことをさせて、古代の女たち、よく平気だわ。日本の平安朝も江戸時代もそうだったのかしら?
波止場に係留されているピティアスの船は、ムラーが半分出して買ったそうだ。そこそこでかい。60メートルくらいあるだろう。この港で一番でかい船だ。
今から17年前の紀元前63年、私も知性体もまだここにいない時、第三次ミトリダテス戦争の頃、ハリカルナッソス近辺を拠点にしていたギリシャ系海賊頭目のピティオスは、ポンペイウスの軍団に蹴散らされて、命からがらここに逃げてきて、若かったムラーに一網打尽にされたそうだ。その時は、配下も八人に減っていた。今は50人ほどに増えていて、拐ってきた女どもに子供も産ませているそうだ。
ムラーはピティアスに一家の土地の小さな半島に隠れ家を与えて、黒海東岸との交易と奴隷収集をピティアスに頼んだのだ。あまり奴隷貿易には熱心ではなかったムラーは、ビールの原料のカラハナソウ(唐花草、ホップ)をカフカス地方から集めさせたり、ムラーがワインを蒸留して作った火酒(ブランディー)を交換品として運ばせたりした。
もちろん、海賊だから、黒海東岸のコーカサス人の村から女も拐ってきた。エミーの村には来なかったらしいが、エミーを拐った海賊と似たようなことをしているんだろう。海賊は好きじゃない。でも、今回は戦力として、ピティアスの手下もいるので、仕方がないわね。
ピティアスの船は、紀元前の今頃の世界でよく使われるコルビタ船だ。当時、ローマ帝国の領土の港を行き来していたポピュラーなデザインの船で、戦闘艦としても使われる。
コルビタ船は、2本マストで船体は西洋梨の形をしている。船尾へいくほど中が広くなる構造をしている。最も大きいコルビタ船は、乗客とともにワインやとうもろこしなど千トンもの積荷を運ぶことができ、遠くはインドまで航海していた。ローマの話に出てくるガレー船とはちょっと違う。
西洋梨のお尻の部分にはキャビンがある。エジプト行きの女どもが乗る一隻の船のキャビンは増築したのだそうだ。
「増築?」
「そうだ。天井を高くした。部屋も増やした。絵美/エミーやアイリスが使うからな」
「それはそれはご親切に!」
「どうせ、20世紀女に、おしっこやウンコ、入浴のことで毎日文句を言われるのが目に見えているからな」
「20世紀女で悪うございましたね!好きでこの世界に来たんじゃありませんからね!」
タラップを登って甲板に出た。確かにキャビンが高い。キャビンの屋根にデパートの量り売りの味噌樽みたいなタンクがある。蓋はガラス製の円錐形だ。いち段さがって、もうひとつ、さらにもうひとつ。三段になっている。あれは何?
「ありゃあ、円錐形ガラスの蓋が太陽光を通して、中の海水を蒸発させ、蓋の内側についた水蒸気が液化して、次のタンクに落ちる。それがもう一回。最後のタンクには真水がたまる仕組みだ。一番上の海水タンクは、お前らの便所にパイプが通っている。木で20世紀の洋式便器みたいなのを作らせた。タンクからの海水で、洗い落とし式で海に垂れ流しだが、水洗トイレってわけだ。二段目のタンクから真水をひいてきて水栓をつけたので、ケツを真水で洗浄できる。シャワーも作ったから、真水で体を洗える。どうだ?これでおしっことかウンコ、入浴のことで俺に文句を言うなよ、20世紀女!」
「ああ、ムラー、感激だわ!愛してる!絵美、なんでもしちゃう!」
「なんでもか?そうだな、だったら、今晩辺り、お前とアイリスで俺のをしゃぶってくれ。それで、アイリスに教えろ。フェラが下手だ。歯を立てやがる!」
「お下品な!」
横で聞いていたアイリスが「絵美様、フェラって、男性のあれを女性が舐めてお口に含む、ってことですか?私、下手なんですか?今晩、教えてください。ムラー様のを精一杯お舐めいたします!」こ、小娘!エジプト王家のクレオパトラの異母妹が、昼間っから『フェラ』とか『舐める』とか、大声で言うんじゃない!エミーがゲラゲラ笑うので、じゃあ、あんたが今晩、小娘に教えておやり、と答えた。頭の中で。
死んだ時に27才の日本人犯罪心理専攻学生よりも、元々の体の持ち主の蛮族の19才の娘の方がセックスは好きなのだ。しょうがない。
船を一通り検分した。一緒についてきたソフィアとジュリア、侍女たちは、トイレ・バス設備に感激している。まあ、紀元前の船舶設備では最高級だろう。
早速、ソフィアとジュリアが部屋割りを決めている。私/エミーとアイリスの部屋の続き部屋は彼女たちの部屋!とか決められる。航海していて、夜、ジュリアが忍んでくるのかい?アイリスを含めて、4P(5P?)のレズになるじゃないか!まあ、慣れた。20世紀じゃあるまいし、古代ローマはなんでもありだ。
第28話 航海時のお食事
私たちの乗船する船は、ベタな名前のアフロダイテ号と言った。(ちなみに、今は絵美は寝てる。知性体に睡眠の必要はないんだが、毎日数時間寝る習慣が絵美にはある)もう一隻はアルテミス号。ピティアスのネーミング力がわかるぜ。
船乗りは女性の乗員をひどく嫌う。拐ってきた女は別。だってね、昨日も絵美がごねたように、おしっこだ、ウンコだ、お風呂だ、さらに生理だ、というので、手間がかかる。男性なら、ふなばたからチンコ出してすりゃあいいし、便所が汚ければ海に飛び込んでクソすりゃあいいのだ。
しかし、今回は、アフロダイテ号と同じく、アルテミス号にも海水蒸留設備っていうの?あれを設置して、便所もシャワーも工夫したので、女性のやっかいな問題もクリアなのだ。さらに、原油から灯油が出来たので、ムラーが灯油バーナーなんてものを作った。
海賊共は最初、使い方がわからなかったんだけど、だんだん、薪ストーブで料理を作るよりも数倍便利じゃん!というのが理解できて、好評だ。灯油のコックを捻って閉じれば火が消える。薪ストーブは海水をかけないと消火できない。木造船で火災は一番注意しないといけないことだ。時化の海でも調理ができる灯油バーナーは便利この上ない。
今回、私(たち)、アイリス、ソフィア、ジュリア、侍女4人はアフロダイテ号に乗り込む。船長はムラー。ピティアスは、部下の配分を考えて、アフロダイテ号に手下/水兵27名、自分が船長のアルテミス号に33名を配置した。女8名も帆の上げ下げ、甲板掃除を手伝えということだ。もちろん、料理も。
絵美が言う後世のコロンブスとかマゼランの航海じゃああるまいし、敗血症になるようなことはない。フェニキアからエジプトは地中海一の沿岸航路だもん。だけど、今は、紀元前46年(私は紀元前65年生まれだそうだ。キリストってのも産まれていないのに絵美やムラーはこの紀元前という言葉をよく使う。なんなの?)、まだまだ、地中海と言えども、ポセイドンや海の怪物が跋扈していると信じている船乗り・民衆が多い。
後世の木造船と違い、船の剛性も弱く、羅針儀もなく(今回、ムラーが作ったけど)、三角帆じゃないので逆風だと進めない船なので、油断はできないってこと。フェニキアからエジプトに向かう船がイスパニアやカルタゴに嵐で流されたなんてのも珍しいことじゃない。下手をするとヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)からおっかない外洋に出てしまう。
食料は大事よね、せめておいしい食事を取らないと、と絵美が言う。アイリスが丘の家の森にピティアスの手下を連れて行って、イノシシを狩ってきた。ポン、ポンと念動力でイノシシをぶち殺す。手下がそれを見て、アイリスを拝跪するんだ。バカバカしい。たかが、念動力なのに。それで、かなりのイノシシを狩った。それを捌いて、丘の家の女が塩漬け豚にして木の樽に詰めた。塩をキツめにして、ソーセージやサラミも作らせる。
航海の最初なら低温殺菌していないフェタチーズでもいいかあ、とか絵美は言って、オリーブオイルと香草に漬けたチーズも用意させた。最初にそれを食って、その後は、塩分強めのペコリーノ・ロマーノだね、とチーズのブロックを数百キロ買った。オリーブ、インドのアーモンド、イランのピスタチオ、ペルシャのくるみも仕入れた。ビタミン不足は注意しなきゃと言う。ビタミンってなんだよ?
籾殻のついたリゾット用の米、小麦も仕入れる。後世の20世紀の小説家や漫画家は、まさか船の上で籾すり、精米、小麦粉挽きをしているとは思わないでしょうね、バカね、と絵美は言う。当たり前じゃねえか?精米した米とか小麦粉を持っていったら、1週間で虫がわいちまうよ。古代ローマじゃ常識だよ!
絵美が、私やアイリス、ソフィア、ジュリアに聞いて、船の上で何ができるか、メニューを作りましょうとか抜かす。あるもの食えばいいじゃねえか?まあ、仕方ねえ、作った。
● 豆入りプルス(小麦のかゆ)
● 全粒粉、自然酵母で作った丸いパン
● ポタージュスープ
● 豚のゆで肉
● 豚のもも肉や頭の串焼き
● オリーブ
● ソーセージ・サラミ
● 豚肉団子
● 魚肉団子
● フェタチーズ/ペコリーノ・ロマーノ
● ナッツ
● 乾燥フィグ(イチジク)/アプリコット/デーツ(ナツメヤシの実)/レーズン
これで十分だろ?と言ったが、鶏肉・卵がない!とか言う。途中の港で仕入れりゃいいだろ?まさか、船の上で鶏を飼うつもりじゃないだろうね?・・・絵美は鶏舎を作らせやがる!この20世紀女め!で、メニューを追加。
● 鶏肉
● オムレツ
● フレンチトースト
● TKG
● お刺身
絵美にフレンチトーストってなんだ?と聞いたら説明した。あら、この時代にはないのかしらね?とか抜かす。じゃあよ、このTKGは?え?卵かけご飯?そんな野蛮なもの、誰も食わねえよ。お前だけだよ、と言ったら怒っていた。世界中で、生卵を炊いたご飯にかけて食うなんて民族はいねえ!腹壊すだろう?オサシミってのも生の魚を魚醤につけて食うんだと。マリネか?それは料理か?コーカサスじゃあ、そんなもの食わん!
これで終わりと思ったら、今度は、寝転がって手づかみで食うのは野蛮だと抜かしやがる。
あのな、どこの民族が手以外で物を食うんだ?骨付きラム肉は、骨をつかんで食らいつくのがうまいんだよ!骨は床に落とす。それは奴隷が掃除する。それの何が悪いってんだ?あら?脂ぎった骨を木製の床に落として、床が脂まみれになったら滑るじゃないの!と言う。確かに一理はある。
テーブルと椅子を作らせて、床にボルトで固定した。あのな、バールなんかじゃ、立って食う。この時代、寝転がって食うか、立って食うかだ。椅子に座って食ったら消化に悪いだろ?
さらに、絵美は、フォークとナイフ、スプーンという金属製の器具を作らせた。こんな物騒なもので食って、食事の際に、ぶっ殺されたらどうすんだ?と聞いたが、ブンメイジンはこれで食べるのよとか言いやがる。ヤツだけ特別に『お箸』なんてのもレバノン杉で作らせた。私はこんな木の枝で物を食うのはイヤだ!
第29話 クレオパトラ7世の妹
う~、船酔いだ。これ、変でしょ?と思う。エミーが意識の前面に出ると船酔いなんてしない。私が出ると船酔いする。同じ体で、なんで違うの?アイリスが「絵美様、船酔いですか?お休みになられた方が・・・いっそのこと、エミー様が出てきた方がいいのでは?」と言う。たまに、意識の前面に出たいけど、出るたびに船酔いじゃあなあ。
アフロダイテ号、アルテミス号は、20世紀で言うベイルートの北のムラーの港から出港して、ゆるゆると進んだ。沖に出ず、沿岸をつたいながら、日暮れには港に入る。夜の航海は紀元前では禁物だ。今は、ハイファの港を後にして、テルアビブに向かっている。アレキサンドリアまでの航路の4分の1といったところだ。
並走しているアルテミス号の甲板から、ピティアスが手を振って水平線の方を指した。ムラーが望遠鏡でそちらの方を見た。「おい、野郎ども、同業者がガレー船できやがったぞ。こっちがコルビタ船なんで、商船だと思って襲ってくるかもしれんぞ。迎撃準備しろ!」と怒鳴る。
ソフィアとジュリアが駆け寄ってきて「絵美様、戦闘服に着替えましょう!」という。え~、あれ?ドロンジョ服?イヤだぁ~!エミーが、船酔いだし、戦闘なんだから、交代しろよと言う。え~、あんなの、念動力で一発じゃないの?
「ムラー、念動力であんなの一発で撃沈できるわよ!」とムラーに聞いた。
「絵美、そんなもんを見せたら、これから噂が立つかもしれないじゃないか?隠密でエジプトを襲撃するのに、バレたら元も子もないぜ。たかが、海賊船、別に、ピティアスたちにまかせりゃいい」と言う。「それより、お前、船酔いだろう?エミーに代われ!」と言われた。わかりましたよ。ハイ、交代。
ワハハ、出たぞ!とエミーが言う。「さあ、アイリス、戦闘服に着替えよう!」こいつ、自分でドロンジョ服を作って気に入っているもんだからって。あれは恥ずかしいでしょ?時代考証を考えてよ!と思う。
着替えた。私じゃない。エミーが、だ。あ~あ、股間のウサギの毛皮がまたついてる。ムズムズする。これって、意識、五感って遮断できないものかしらね?エミーが感じると私も感じる。逆も同じ。エミー、こら!戦闘でアドレナリンが出るのはいいけど、フェロモン、振りまいてるでしょ?あ~、こいつ、あそこがジンジンして、ちょっと逝ってる。蛮族の娘め!戦闘でエクスタシーを感じるのはお止めなさい!
ゴチャゴチャうるさいなあ、と言われた。わかりました。戦闘は任せました。好きにおやりなさいな。
ドロンジョが4人、甲板に立った。長身のエチオピア女の漆黒のソフィア。ちょっと中背のエミー(と私)。小柄なエジプト娘のアイリスとギリシャ娘のジュリア。デコボコじゃないの?なんなの?丘の家の森の訓練に参加したピティアスの手下は驚かないが、港で新規に雇った水兵は唖然として見ている。そりゃ、そうよね。
アイリスが侍女4人にキャビンに隠れていなさい、と命じた。エジプト王家の娘なのに細かい気遣いができる子だわ。クレオパトラ7世を抹殺したら、この子がエジプト王女になればいいのにね?
あら?でも、そうなると、クレオパトラはシーザーと子供を作らず、シーザーの死後、アクティウムの海戦で、オクタウィアヌス軍とクレオパトラ/アントニウス連合軍が闘わないことになる。それって、後世の歴史の改変でしょ?ムラーの言うクレオパトラを殺すというのはそういうことよね?このパラドックスはどうするのかしら?
待てよ?アイリスが言っていたじゃない?クレオパトラ7世は両性具有だって。両性具有って、妊娠できるものなの?受胎能力があるの?そもそも、7世が子供ができないなら、なぜ、私の覚えている歴史では、7世はシーザーとの子供を作れたの?既に、ベータがプローブを残して140年、そして、アルファのプローブと私が来て1年で、歴史が改変されたの?だったら、なぜ、私はまだ存在しているんだろう?なぜ??
ムラーに聞かないと。
ドロンジョ4人がボウガンを構えた。エミー(私)とソフィアがフルサイズで金属の矢。アイリスとジュリアが連射式クロスボウと木製の矢だ。敵の海賊のガレー船は2隻。両舷の櫂が規則的に水面を打って、ものすごい速力で近づいてくる。ムラーもピティアスも迎撃するつもりなのか、帆を降ろさせて、こっちは止まっている。
ガレー船の甲板で、海賊がロープを準備している。鉄鍵のフックが先端についていて、それでこちらの舷側にひっかけて接舷して乗り込むつもりだろう。もう、100メートルほどの距離だ。ソフィアがボウガンを構える。彼女のは、他のより重ね板ばねを二枚足して、編み合わせたワイヤーの弦を強くしている。セットするのに力がいるが、飛距離が他のより長い。
ガレー船が60メートルくらいに近づいてきて、ソフィアが矢を放った。甲板で接舷フックを準備している海賊の胸を貫いた。もう、次の矢をつがえている。速い。さらに、船が近づいた。エミーもアイリスもジュリアも矢を放つ。エミーのは指揮を取っている海賊に命中した。アイリスとジュリアは、ガレー船後部で舵を取っている海賊を蜂の巣にした。
ピティアスの手下どももボウガンを打ち込む。敵は、別の男が舵をとって、船を横付けにしようとしている。引っ掛けフックがこちらの舷側にかかった。こちらもフックでガレー船を引き寄せる。私たちのコルタナ船の甲板はガレー船のよりも2メートルほど高い。
ピティアスの手下が舷側を乗り越えて、ガレー船になだれ込む。こうなると、近接戦闘になって、ボウガンで味方を撃たないとも限らない。なるほど。戦闘って、距離によって戦術を変えるんだわ、と思った。
エミーのやつ、ボウガンを捨てて、ツーハンドの手斧を構えた。おいおい、向こうに乗り込むのか?止めて欲しい。ピティアスの手下に任せりゃいいじゃないか?エミーがジュリアに侍女を守ってろと怒鳴る。ジュリアが、え~、と言ってふくれる。まあ、しょうがないわね。侍女たち、可哀想だもん。
エミーとソフィアが舷側を乗り越えて、ガレー船に飛び移った。アイリスも続く。ソフィアは半月刀と鞭を振り回している。アイリスは甲板を転げ回ってボウガンで敵を撃っている。速射式だから、連射できるのだ。
エミーは手斧で海賊の首をちょん切り回る。この蛮族のコーカサス娘!まったく、血に飢えた女豹だ。手斧の血を舐めている。私にもヘモグロビンの味がわかった。舐めるんじゃない!舐めるのはムラーのチンコだけにしろよ!
エミー、指揮官の一人が我を忘れて殺しまくってどうするの!回りを見なさい!ムラーは何しているの?とエミーに言う。エミーがアフロダイテ号の甲板を見上げた。ムラーはボウガンを構えていた。撃った。飛んでいく矢の先をみると、海賊の頭目らしいヤツの胸に矢が突き立った。なるほどね、指揮官は冷静にしてないとダメなんだよ、わかった、エミー?
あっという間に海賊を制圧した。こっちも海賊だけどね。ソフィアがキャビンに入っていった。エミーとアイリスも続いた。キャビンの中には、女が6人いた。怯えている。そりゃあ、血の垂れた半月刀と手斧とボウガンを持ったドロンジョ三人が部屋に入ってきたんだから当たり前だ。こいつらも拐われてきたんだろう。あ~あ、また女が増えたよ。
6人は、5人がギリシャ系のようだ。残る一人はエジプト人の美少女。16才くらいだろうか?ギリシャ系はうなだれている。エジプトの小娘は、私たちを睨んでいる。
エミーが、ソフィア、こいつら連れて行っておくれ、まあ、ピティアスの手下も女日照りだから、あいつらにあげようぜという。エミー、それ、ひどいでしょ!絵美、何言っているんだ?こっちは侍女を入れて女8人だけど、ピティアスの手下は私たちに手をだせねえじゃねえか?可哀想だろう?こいつらはやつらの戦利品だぜ。ご褒美だ、と言う。頭の中でね。
ギリシャ人の女たちは大人しくソフィアに連れて行かれた。エジプト人の小娘だけが、部屋の隅に後づさり、こっちを睨みつけている。エミーが手を引っ張ろうとすると、その手をはねのけて「わらわに触れるでない!わらわをなんと心得る!わらわはエジプト女王クレオパトラの妹ぞ!」と言った。
エミー(と私)がアイリスを見る。アイリスは肩をすくめた。「こんな子、妹にいたかしら?」と言った。わけがわからない。エミーが「うっせえ!抵抗すんな!」と言って羽交い締めにしようとしたら、彼女がエミーの(私の)腕に思いっきり噛みついた。痛い!アイリスがボウガンの柄で小娘の頭を思いっきりひっぱたいた。エジプト娘は昏倒した。
エミーとアイリスが娘の腕をつかんで、引きずって、娘をアフロダイテ号の甲板に持ち上げた。ソフィアは既にギリシャ娘5人をムラーに引見させている。
ムラーが「エミーじゃねえ、絵美、おい、こういう場合、女はピティアスの手下にくれてやるんだと。なぐさんだ後、次の港で売っ飛ばすそうだ。どうする?良心の呵責ってヤツが疼くか?そうしなかったら、俺らのチームの結束に響くぞ。我慢しろ」と言う。
エミー、良いわよ。仕方ないわとムラーに言って。「絵美が、仕方ないって言ってるよ、ムラー。でも、このエジプト娘はちょっと調べたいね。こいつ、クレオパトラの妹だっていいやがる。アイリスは知らねえとよ」と言う。
「ほぉ、それは興味深い。わかった。縛り上げて、お前らのキャビンに放り込んで、侍女たちに監視させておけ」とムラーが言う。
戦利品をガレー船からこちらに移していたピティアスの手下に「野郎ども、ギリシャ女、5人が手に入った。お前らの好きにしろ。ただ、一人、エジプト女は俺がいただく。いいな?」と言った。手下共はウンウン頷いて舌なめずりした。可哀想なギリシャ女。手下5人で一人の女が犯されるんだね。私が優しくやってね、とお願いしても無駄だろうな。野蛮な世界だ。しょうがない。
でも、アイリスが知らない、クレオパトラ7世の妹だと言い張る小娘、何者なんだろうか?
隣りのアルテミス号を見ると、こっちと同じようなことをやっていた。ピティアスもやるじゃない?この一味、結構強いわ。頼もしい。エジプト兵士も同じ目に合わせて欲しいもんだわ。でも、敵はクレオパトラ。油断できない。
第30話 ヤッファ(テルアビブ)
ムラーとピティアス率いるアフロダイテ号、アルテミス号は、21世紀で言うベイルートの北のムラーの港から出港して、ゆるゆると北に進んだ。沖に出ず、沿岸をつたいながら、日暮れには港に入る。今は、テルアビブと呼ばれているが、古代では、ヘブライ語で「美しい」を意味する「ヤッファ」と呼ばれている港に寄港した。
ヤッファの街の歴史は比較的新しい。とは言え、紀元前数千年に遡るメソポタミア文明、バビロニア文明、エジプト文明に比較してであって、紀元前に作られた街である。
新バビロニア帝国(紀元前625年~539年)は、メソポタミア南部のバビロニアを中心に建国され、地中海沿岸地域に至る広大な領土を支配した帝国だ。今で言うイラク西部、シリア、イスラエル、ヨルダン地方などを領土とした。バビロンという地名から、チグリス・ユーフラテス地方の国家を想像するが、地中海沿岸まで支配した帝国だ。
だから、新バビロニア帝国に隣接するエジプト(第26王朝)のネコ王と新バビロニアのネブカドネザル王とがその覇権をめぐって激しく対立したこともあった。新バビロニア帝国とエジプト王国に挟まれたパレスチナのユダ王国はエジプト側に付いた。
ネブカドネザル王は、たびたびユダ王国に圧力を加え、自陣営に引き寄せようとした。ユダ王国の王は、バビロニア・エジプト両国の優劣を図りながら王権の維持を図った。紀元前601年頃、新バビロニアのネブカドネザル軍がエジプト侵入を試み、エジプトのネコ王に撃退されたのを見たユダ王国の王ヨヤキムは、新バビロニアに叛旗をひるがえして貢納を停止した。態勢を整え直したネブカドネザルがパレスチナに迫ると、ユダ王国の王ヨヤキムは国内の親バビロン派に暗殺された。
紀元前586年、ネブカドネザル王は、ユダ王国の首都エルサレムを攻め、ヨヤキムの息子の王エホヤキン、その母、その家来、侍従たちと共に出て、バビロンの王に降服した。ネブカドネザル王は彼らを捕虜とし、貧しい者のみをこの地に残して、王たち数万人をバビロンに連れ去った。これがバビロン捕囚である。
ネブカドネザル王は、ソロモンの神殿を破壊せず、またユダ王国を属州とすることもなく、属国としてエジプトとの緩衝地帯としようとした。
やがて、彼らは、50年の捕囚生活の後、新バビロニアがアケメネス朝ペルシアのキュロス2世によって滅ぼされた前538年に解放されてパレスチナの地に戻ることが許された。
この地に残されたヘブライ人、バビロンに連れ去られ捕囚されていたヘブライ人が共同居住地として住まわされたのが、テルアビブである。むろん、元々の「ヤッファ」は四千年前以上から続く古代都市だ。この当時のヘブライ人はユダヤ人かもしれないが、現代のユダヤ人とは、全く違った民族である。
バビロン捕囚から開放されたヘブライ人は、地中海沿岸の港町を開発し、ムラーのフェニキア人に対抗した。商売敵なのだ。しかし、宗教のせいなのか、民族の器質によるのか、フェニキア人は、アフリカ沿岸を植民地として、カルタゴの町、イスパニアの町などを創建したのに比べ、地中海世界ではフェニキア人に比べ、ヘブライ人の影は薄かった。
フェニキア人とは商売敵とは言え、金儲けなら同じ、ヘブライ人商人だ。ムラーはヘブライの商人と鹵獲した女奴隷たちの値段交渉をした。彼が交渉し、ピティアスの手下に売った金を山分けさせる。もちろん、マージンは取る。それでも、ピティアスの手下が直接売って買い叩かれるよりは、名のしれたムラーの方が高い金で売れたので、手下たちに文句はない。
アフロダイテ号は5人のギリシャ女、アルテミス号は3人のギリシャ女に6人のアラブ女を鹵獲した。ピティアスと相談して、ギリシャ女4人、アラブ女2人をヤッファで売った。180アウレウス(約900万円)ほどの売上だ。マージンを取って手下共に山分けさせた。
残ったアレキサンドリアでもっと高値で売れそうなギリシャ女4人とアラブ女4人は、2隻の船で均等にわけて、手下共に与えた。アレキサンドリアで売るんだから、手荒にするなよ、商品なんだぞ!と手下どもに注意する。手下も心得ていて、奴隷女の機嫌を取りながら、毎日順番待ちをしている。絵美がブーたれる。20世紀の道徳観念を紀元前に持ち出すな、といつも言うが、その癖が抜けない。
21世紀の日本の学校教育で習う奴隷制度は、英国、スペイン、ポルトガルが行なった西部アフリカ人のヌビア人系黒人奴隷のことを主に教える。紀元前の奴隷は、金髪碧眼のコーカサスの白人、ギリシャ人、ローマ人、カルタゴ人などの白人奴隷も多い。それに驚いていた時期がある。
ルネッサンス前後では、イタリア人奴隷もかなりいたはずだが、日本人は、奴隷というと、アメリカ大陸に連れてこられた黒人奴隷のイメージが強いんだろう。後世のシェイクスピアのリア王は黒人だよ、と指摘したが、人類に刷り込まれたイメージというのはなかなか抜けないようだ。
第31話 ハレムなんて中学高校一貫教育の女子校の経営と同じだよ
絵美/エミー、アイリス、ソフィア、ジュリアには避妊薬を飲ませている。
絵美/エミーとアイリスは今妊娠されたら困る。チームの戦闘力が低下する。それに知性体同士で妊娠してどうする?いつか、この世界からいなくなるかもしれんのに、残すオリジナルの体と子供の責任はとれんよ、と絵美/エミーとアイリスに言う。
絵美は納得するが、エミーは文句を言う。二人(ムラーのプローブと絵美)がこの世界から消えたら、私はどうするの?どうなるの?と言う。俺が、お前を故郷に戻して、族長の娘として結婚すればいいじゃないか?コーカサスに戻してやるよと説明するが、いまさら、普通の生活に戻れないでしょ!私も知性体になる!と駄々をこねる。どうしたもんかな?
アイリスも、この体から不完全体プローブがもしも抜けたら、私は死んじゃうんでしょ?アイリスとプローブの分離ができないんだから。それ、私(オリジナル)が可哀想じゃない!何か考えて下さい!と泣きつかれる。そうはいっても単なるプローブの俺だ。本体だったら、分離もできるんだろうが、俺にはどうすることもできないと言うと泣き出すのだ。
ソフィアとジュリアは、その内、解放奴隷にして嫁にだしてやろうと思っているので妊娠させたくない。ソフィアとジュリアは俺の子供が欲しいようだが、俺といても幸せになれるとは限らない。そうだろう?と言うと、ソフィアとジュリアは泣くのだ。まあ、成り行き次第だ。
ハレムなんていいことばかりのようだが、一夫多妻制度の家族経営だ。中学高校一貫教育の女子校を経営しているようなもんだ。それも、彼女らの食い扶持から何から全部稼がないといけない。不公平じゃない。そうでもしないと、古代世界で一夫一婦制度なんて守ってみろよ?食えなくてガキは乞食とか、飢餓で死んじまう家庭が続出する。ハレムだけじゃない。俺の一家の奴隷家族だって養うのだ。
ハレムの女の性欲処理の心配もしてやらないといけない。だから、ナルセス、アブドゥラ、パシレイオスみたいな玉なし竿ありの宦官も必要なのだ。それに、俺のところは、本妻として半神半人と思われている絵美/エミーがいるから問題はないが、他の家では、本妻とその他が嫉妬・妬みで殺し合ったり、ハレムの主の長男とか次男とかがかたらって、ハレムの主を毒殺するとか、問題多出なのだ。
ヤッファに寄港して、商売をしたり、積荷を追加したりして(普通の商人の真似をしないと、エジプトに何しに行く?と疑われるだろ?)一段落ついて夜になった。手下どもも見張りを残して、街に繰り出した。
久しぶりに、絵美とアイリスと三人になって、キャビンの屋根に登って、ブランディーを飲んで港の夜景を見ている。最近、絵美にならってエミーもたまに寝るそうで、コーカサス女の意識は引っ込んでいる。静かでよろしい。左右から絵美とアイリスに寄り添われた。若い女の体温は高いなあ、と思う。髪の毛のいい匂いがする。
二人の肩を抱いて、両手を回して、乳首をこねてやる。アイリスは素直に喜ぶ。王家の娘にしては従順で良い子だ。20世紀のアラサー女はツンデレだから、表情はムッとしているが、俺の胸に顔をよせてくる。素直じゃない。これがエミーだったら、乳首なんて遠回しは止めよう、あそこをお願い!とか言うのだ。アイデンティティー2つが一つの体に入っているとややこしい。
絵美が「そうそう、ムラー、あのパピルス文書で、大スフィンクスの片割れが南南東、ほぼ南の方向にもうひとつあると書いてあった、と言ったじゃない?狛犬も二頭だろ?とかあなたが言ったけど、なぜ、50キロも離れた場所に片割れが置かれているの?それから、ギザの大ピラミッドよりも五千五百年も昔、紀元前八千年前にスフィンクスが建造されたと言ったけど、その時代は、石器時代。日本で言えば縄文時代早期。あのような巨大建造物がエジプトで建造できるわけがないわ。あなたはそれに関しての知識はデータベースにない、本体はたぶん知っているというけど、なぜだか、仮説も立てられない?」と聞いた。
「ふむ、仮説程度ならある。類推はできる。キミがアルファ本体とユニバースを移動している時に、本体が説明しただろう?覚えているか?純粋知性体の地球に対する干渉の話を?」
「え~と、アルファが言っていたのは、『私/ぼくらが地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。その前のおよそ八万年前の中期旧石器時代の頃だ』ということだったわ」
私/ぼくらが地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。その前のおよそ八万年前の中期旧石器時代の頃だ。
前期旧石器時代の約二百万年前~約十万年前の期間は、現生人類であるホモ・サピエンスが誕生、同時期に、ネアンデルタール人も誕生していたが、私/ぼくらの興味を引かなかった。私/ぼくらの興味を引いたのは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがアニミズム的な宗教を創造した時からだ。約八万年前の頃である。
愚鈍な中期旧石器時代人は緻密な宗教概念を創造できなかった。私/ぼくらは、中期旧石器時代人の一人に憑依し、粗雑な宗教概念に秩序を与えてみた。ところが、愚鈍な人類は、その秩序を歪に解釈し、私/ぼくらの食物である知識を増やすどころか、お互いがお互いを攻撃し、種族の抹殺を試みようとした。
この実験を行った私/ぼくらは、最初に憑依した中期旧石器時代人のポセイドンと呼ばれる人類の個体の特性が間違ったのであろうと判断した。私/ぼくらは、ポセイドンたちの集団とその都市、彼らはそれを「国家」と呼んでいたが、それを地球のマントル対流を少し偏向させて、滅ぼした。未開に落ちた彼らの子孫は、この「国家」のことを「アトランティス」と呼んだという。
気ままな私/ぼくらは、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前だった。アトランティス文明から退行した中期旧石器時代人は、中石器時代、新石器時代に進もうとしていた。既に、ネアンデルタール人は、約三万年前からニ万四千年前には絶滅するか、現行人類との性交で取り込まれ、吸収されていた。
氷河が後退しはじめ気候が温暖になったため植物が繁茂し、動物が増えるなど、人間が採集狩猟で食物を得やすくなった。農業が開始され、オリエントの肥沃な三日月地帯では、紀元前八千年頃に、中米やメソポタミアでは、紀元前六千年頃に、農業を主とした新石器時代が始まった。極東の弧状列島である日本列島でも、紀元前八千年頃に同様な動きが見受けられたが、地理的な位置、平野部の少なさ、人口の少なさのために、肥沃な三日月地帯や中米やメソポタミアのような文明的な規模の拡大は難しかった。
その頃の私/ぼくらが行った人類に対する刺激は、チグリス・ユーフラテス文明(シュメール文明)の構築、エジプト文明の構築、インド文明の構築であろう。些末な動きでは、縄文時代の前期古墳文化の構築も含まれるであろう。
私/ぼくら、悪戯な神々は、思いつくまま、勝手なアイデアを憑依した人類の個体から広げていっては潰した。シュメール人には、バビロンの塔を作らせては破壊させた。エジプトのファラオと呼ばれる一族には、近親交配をさせて、衰亡させた。彼ら中東の人間は、壮大なビジョンを作り上げられなかったようで、私/ぼくらを失望させた。
「こういう話を彼はしたわ」
「その通りだ。本体がキミに説明した中で、『私/ぼくらは、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前』と言っただろ?つまり、本体たちが再度地球に飛来したのは、ヴュルム氷河期の終わる一万年前、つまり紀元前八千年前ということだ」
「・・・つ、つまり、一万年前の時代は、石器時代で、日本で言えば縄文時代早期。スフィンクスのような巨大建造物が人類だけで建造できるわけがないけど、純粋知性体が関与、干渉すれば建造できた、ということなの?」
「アルファは関与していない。あの当時、エジプトにいたのはベータだ。ベータはここ中東から北欧、インド亜大陸、東南アジア、オーストラリア、それから日本の南部にプローブを放っていた。アルファはスペインやブリタニアにいた。ガンマは・・・」
「ちょ、ちょっと、アルファ、ベータの他にまだ純粋知性体が地球に来ていたの?」
「ああ、そうだ。4体。ガンマとデルタも。ガンマはアフリカ大陸からアラビア半島にかけて人類を見ていた。デルタは中央アジアからシベリア、北米、そして日本の北部を見ていたんだ」
「つまり、クレオパトラのプローブのような、ガンマとデルタのプローブも存在しているということなの?」
「たぶんいる。思い出してくれ。俺のデータベースは人間の脳の容量に合わせて、1ペタバイトしかない。本体もすべての知識を俺に移したわけじゃない。全知全能の神じゃない。ただ、絵美が日本人なので、日本の知識はかなり持っている。少なくとも俺が知っているのは、ベータのプローブは、キミの国の卑弥呼とかいうのに憑依した。デルタのプローブは天之鈿女命と臺與とかいうのに憑依したということだ」
「・・・アマテラス?天照大神?邪馬台国?倭国?」
「まあ、そういったところだ。本体も言ったじゃないか?キミの知性体のオリジナルは1986年に連れて行かれた、そこで『これから行く1986年の世界から31年後の2017年に私/ぼくらのプローブユニットが卑弥呼とか天照大神とかを蘇らせて、悪さをするみたいだ』って」
「あ!」
「エミーの初夜の夜に言っただろう?忘れたのか?『ここにしばらくいたら、俺たちは東へ行く。エミーの実家のアディゲ人の族長のところへ行って、エミーを俺がもらうという話をする。それから、パルティアを抜けて、中央アジアを通り、中国は今は前漢の頃だが、中国から朝鮮半島に行き、キミの故国、日本に行く』って」
「ああ、そういうことだったんだ!」
「ベータのクレオパトラをぶっ殺したら、次は、ガンマかデルタの卑弥呼と天之鈿女命と臺與を調べに行くんだ。歴史の改変なんて考えていないかどうか。クレオパトラと同じく、狂っていたらぶっ殺す」
「・・・その前に、クレオパトラに私たちが返り討ちにあわなければ・・・」
それまで黙って聞いていたアイリスが「その物語の中に私はいないのね」と寂しそうに言った。「私はここに置いていかれるのね?少なくても、エミーは良いわよ。エミーの体なんだから、絵美/エミーで一緒にいけて」
「エジプト王家に戻って暮らすとか・・・」
「今更、この知性体の入った体で王家に戻ってどうするんです?また、カルナック神殿の巫女になって、死んでしまえとでも言うんですか?一緒に連れて行って下さい!その中国とか朝鮮とか日本とかに」
「エジプト王家の娘が日本に行ってどうするんだ?」
「あら?少なくとも、卑弥呼とか言うのが悪者でクレオパトラみたいだったら、私がいた方がいいでしょ?」
「まあ、考えておく」
「あ!そう言えば、あのクレオパトラの妹と言っている小娘を縛って、侍女に見張らせているけど、どうします?」
「どうするか?今晩、やっちゃおうか?」
絵美とアイリスに思いっきりつねられた。やれやれ。俺の奴隷なんだぞ?
第32話 イシス
俺は、エジプトの小娘を閉じ込めているアフロダイテ号のキャビンに行った。絵美とアイリスがついてくる。俺を監視するつもりか?心配しないでも・・・やる時はやるぜ。
監禁している部屋に入ると、部屋の床に盛大に飛び散った飲み物や食べ物を侍女たちが掃除をしていた。エジプトの小娘は部屋の隅に縛られて転がされている。侍女の中で一番年上の子が「旦那様、奥方様たち、申し訳ありません。食事をさせようとこの子の縄をほどきましたら、暴れ始めまして、私たちは殴られ蹴られ噛みつかれたので、4人して押さえつけてまた縛りました。申し訳ありません」と情けなさそうに説明した。彼女の右腕に噛まれたあとの歯型がついていた。他の三人の侍女も顔に傷があった。頬を殴られたな。凶暴な奴だ。
「これはひどい!なんて子なのかしら!この子が王家の娘のはずがないわ!」とアイリスが言う。
「ムラー、あなた、この子に話を聞けないわよ。売っ飛ばせばいいわよ」と絵美。おいおい、いつもの奴隷制はんたぁ~いはどうした?
掃除が終わったので、侍女たちの傷の治療と休ませるために下がらした。「絵美、アイリス、お前たちも部屋を出ろ」と言うと「あなた、この子に乱暴するつもりじゃないでしょうね?まさか、犯したりしないわよね?別に無理をしなくても、私のテレパシーでこの子の記憶くらい読めます!」と絵美が小娘に触れようとする。俺はその手をとって「絵美、この子に触るな。俺に考えがあるから、部屋を出ろ」と絵美とアイリスを部屋から追い出した。二人ともムッとしている。
絵美やアイリスでもこの娘のおかしなところを感じられないか。俺が小娘の額に手を当てようとすると、後ろ手に縛られているのに、蹴飛ばして抵抗しようとした。足首を掴んで動けなくした。額に手を当てる。思念を注入して、抵抗しないようにした。小娘の体の力が抜ける。
ふん、悪いものを吸い取ってやらんとな。俺は小娘の縄を解き、服を剥いだ。俺も服を脱いで、小娘のあそこに突っ込んだ・・・なるほど、そんなことだろうと思ったぜ。よしよし、いい子だ。もう大丈夫だぜ。
素っ裸で部屋を出ると、ドアの脇に絵美とアイリスがいた。ものすごい目で睨みつけられた。「ムラー、あなた、あんな子を無理やり犯して何が面白いの!見損なったわ」と絵美。「ムラー様、私も同じです。見損ないました!」とアイリス。
状況としてはそうなんだろうが、でも、ハレムでもやっていることじゃないか?何を怒ってるんだ?「二人とも、俺にシャワーを浴びさせろ。それから、もうすぐ小娘が目を覚ますから、面倒を見ろ。体をぬぐって、服を着せろ」と命じた。絵美とアイリスがもう一度俺を睨みつけて部屋に入った。
シャワーを浴びて、服を着替えて部屋に戻った。娘はベッドに寝かされていて静かにしている。意識はあって、さっきの凶暴さはなくなり、さめざめと泣いている。
「ムラー、あなた、この子に何をしたの?なんで大人しくなったの?泣いているじゃない!乱暴したんじゃないでしょうね?!こんな若い子を!」と絵美がまくし立てる。
「まあ、絵美、俺の話を聞け。アイリス、俺を睨むな」と言った。アイリスは俺に噛みつきそうな顔をしている。「まず、絵美、お前がこの子に触れようとしたのを止めたのは、お前がこの子に触れるとこの子の悪しき思念がお前に入り込まないとも限らないと思ったからだ」
「え?」
「クレオパトラがこの子に注入した悪しき思念からお前を守るためだ」
「ど、どういうことなの?」
「お前もアイリスも感じなかっただろうが、俺にはプローブの感じがこの子から発するのがわかった。非常にかすかだったがな。それで、まずこの子の額に手をあてて大人しくさせ、意識を少し探った。確かにクレオパトラが文字通りこの子に思念を注入していた」
「文字通り?」
「そうだ。文字通りクレオパトラはこの子にヤツのアレを挿入して、思念を注入していたんだよ。クレオパトラが憑依する体として慣らし運転をしていたようだ」
「わけがわからないけど?」
「アイリスがカルナック神殿から盗賊団に拉致されずにいたら、その内、この子と同じことをされていたかもしれない」
「この子は何者なの?」
「この子の言う通り、この子はエジプトの王族の一人だ。クレオパトラの遠縁の従姉妹だ。だから、アイリスとも血はつながっている。アレキサンドリアではなく、テーベで育った。アイリスと姉が拐われた後、アレキサンドリアに連れてこられた。アイリスが彼女を知らないのも無理はない。この子の名前は『イシス』だ」
「クレオパトラはどうやって・・・」
「彼女は両性具有だろう?だから、女とでもセックスできる。チ◯コがついているんだから、女を犯せる。それで、ヤツのチ◯コから思念を女に精子みたいに注入するんだ。お手々つなぎよりずっと手っ取り早い。粘膜接触による悪意の思念注入というわけさ。俺の推測だが、クレオパトラは、もしもの時にこの子を7世の身代わりにしたてようと思ったんだろう。それで、この子を何度か、犯した。思念注入だけじゃなくて、慰み者にして自分の喜びのためにな」
「ムラー、あなたはこの子に何をしたの?」
「クレオパトラと同じことだ。俺のを挿れて、逆にクレオパトラの悪しき思念を俺が吸い取ってやった。俺のチ◯コで。だから、彼女は、今、元のイシスという16才の女に戻ったということだ」
「それで悪い思念を吸い取ったなら仕方ないわね。腑に落ちないけど」と絵美が首を振る。
何が気に入らないのだ?この子が稚そうだからか?もう、16才だぞ。この時代、女は12才からガキを産む。産まないと5年以上生きた人間の平均寿命が40年くらいだから、早く初めないと死ぬまでに次世代を残せない。ガキも半分以上が5才未満で死ぬ。母親も出産のせいで死ぬ。古代ローマにロリコンとかの概念はない。12才以上になったら妊娠できるのだから、犯し犯されないといかんのだ。ロリコン、ダメ!なんて考えたら、人口減少に陥る。
アイリスがイシスの顔を見て「ムラー様、この子は、異母妹の私よりもずっとクレオパトラ7世に似ています。確かに、衣装と化粧を同じにすれば、見間違いをするでしょう」という。
俺はイシスの顔をよく見ていなかった。大暴れしていたんだから。絵美もアイリスがそう言うので彼女の顔を観察した。「世界三大美人のクレオパトラに似ているのね。確かに、ものすごい美少女だわ。ムラー、美少女を犯してよかったね」とまだ言う。まあ、ブスとやるよりもいいけどな。
「そういうな。7世が注入したのは、人間の負の思念ばかりだった。狡猾さ、嫉妬深さ、残忍さ、支配欲、独占欲、愛情の欠片もない。あのプローブは狂ってる。プローブ本来の知識欲を追求することを忘れてしまったようだ。もしもこんな思念が絵美/エミーやアイリスに乗り移ったら、お前らを殺さなければならなかっただろう。お前らはイシスみたいな普通の女の子じゃないからな」
「でも、この子のあそこ、良かったのね。顔に満足感が現れているわよ!」
「プトレマイオス朝の血筋なのか、アイリスと同じくらい良かったな。名器じゃないかな」
絵美に頬を思いっきりひっぱたかれた。
第33話 クレオパトラの儀式
丈高い数mの高さがあるパピルス草がナイル川の岸辺にビッシリと生えている。朝、まだ靄のかかったナイル川に私は王家の筏をパピルスをかき分けさせて漕ぎ出させた。巨大な筏は、前部に高価な中国製の絹で天蓋を作り、そこにエジプト王が立つ。朝の儀式を行うためだ。
エジプトは雨の少ない地域である。しかし、雨季の時期に上流のエチオピア高原から流れ込んだ雨水が、中流、下流で増水し、堤防を越え、洪水になった。伝承ではナイル川のハピ神が起こしていたと伝えられているが、そんなもの、気象現象にしか過ぎない。無知な古代人の考えそうなことだ。その洪水により、肥沃な土壌が毎年形成され、ほとんど雨の降らなかったエジプトで農耕や灌漑が可能になり、文明が発達した。
古代エジプトの創造神話では、神々は創造の神アトゥムの自慰行為によって創り出されたとされる。神話では、アトゥムが誕生するまで、この世界は虚無であった。アトゥムは原初の水『ヌン』から自らを創り出し、自慰によって神シューと女神テフヌトを創り出した。アトゥムは手が女性器の両性具有者だった。
代々のファラオは、ナイル川のほとりで自慰をして精液を川に流すという儀式を行う。ナイルにファラオの神聖なる種を仕込んで、豊作という形で水から新たな生命を芽生えさせるのだ。
クレオパトラ7世の父が逝去すると、父の遺言によって弟のプトレマイオス13世と共同で王位に就いた。しかし、13世は宮廷人にそそのかされ、姉を追放しエジプトを統治しようと内戦を起こした。
プトレマイオス13世は、シーザーとの闘いに敗れエジプトに逃げ込んだポンペイウスを殺したことで、ジュリアス・シーザーに殺害された。その後、エジプト女王となったクレオパトラ7世は、13世の弟の14世と結婚していたが、彼女は14世を共同統治者に推挙した。実際は、クレオパトラ一人が統治者であった。
ナイルへの豊穣の儀式で、女性のクレオパトラ(実際は両性具有)が自慰をしても女性の姿では威厳がなく、精液も出ない。彼女は、弟王の14世にナイルに自慰をさせ射精させるために共同統治者としたのだ。
今日もその儀式の日。
プトレマイオス14世は、筏の前部の天蓋の中で、ナイルに向かって立ち上がった。その後ろに姉であり、妻であるクレオパトラ7世が14世の尻に股間を押し付けて一緒に立つ。体は絹のベールで覆って、その合わせ目から14世の勃起した男根が突き出されている。それをクレオパトラが右手で支えていた。
絹のベールの中では、クレオパトラの男根がプトレマイオス14世の肛門に深く突き刺さり、14世はその快感に打ち震えた。クレオパトラは、ひとしきり腰を動かし、弟王の肛門を犯し続け、彼女の右手は彼の男根を擦り続けた。
やがて、時が満ち、クレオパトラは精子のない射精を弟王の肛門に解き放つ。同時に、14世の男根から母なるナイルに向かって、精液がほとばしった。クレオパトラは、念動力で、ナイルの川面を左右に割り、彼の精液を四方に飛び散らした。筏に同乗している摂政や宮廷人がその奇跡を見て、深く二人を拝跪した。
射精を終えグッタリした弟王を抱きかかえ、クレオパトラは彼を天蓋の中のベッドに横たえた。彼女は衣服を整え、股間の男根を隠した。
皮肉なものだ。創造神アトゥムは手が女性器の両性具有者だが、私、ベータのプローブユニットが憑依したこのクレオパトラという女は、女性器も男性器も両方とも通常の人間の男女と変わりない両性具有だ。ただ、彼女には睾丸も子宮もなかった。生殖能力がないのだ。
ベータのプローブユニットが狙っているのは、大ローマ帝国の最有力者、ジュリアス・シーザーだ。シーザーをたらしこみ、彼の愛人となり、大ローマ帝国を乗っ取る。そして、ベータ本体から得た未来の人類史を改変し、永劫の未来まで、彼女と彼女の血筋がこの人類を統治する。
しかし、この体では、シーザーとの子供をなすことができない。シーザーに精神制御をかけて操ることもできるが、受胎しないことにはどうしようもないのだ。替え玉を立てるほかはない。替え玉にシーザーの子種を宿させ、その息子をエジプト王とし、娘をクレオパトラ8世とすれば、血筋は途絶えない。シーザーに相手が私であるように思わせるのは簡単だ。しかし、替え玉は王家の血筋が望ましい。誰がいるのだ?
カルナック神殿に幽閉させていた異母妹のペトラとアイリスは4年前に盗賊団に拉致されてしまった。あの時、もっと真剣に追手を差し向ければよかったものをと悔やまれるが、行方は今となってはわからない。替え玉としては都合のいい姉妹だった。特に、アイリスは、6世からプローブの記憶が転移したかもと思っていたからなおさらだ。
その後、遠縁の娘のイシスを侍女として、替え玉候補として可愛がっていたが、宮廷の宦官どもの誰かの嫉妬による陰謀で姿をくらませてしまった。拉致されて売り飛ばされたのかもしれない。子飼いの部下をはなってあるが今だ行方知れずだ。性格の良いペトラやアイリスよりも、私の思念を注入して狡猾で嫉妬深く残忍になったイシスはプローブが憑依するにうってつけだったのに。
第34話 シナイ半島沖合
シナイ半島は、北を地中海、南を紅海、南東をアカバ湾、西を20世紀のスエズ運河に隣接している半島で、半島の東側がイスラエルと接している。「トルコ石」という意味の「ターコイズの国」とも呼ばれている。半島は外国占領の期間もあったが、古代エジプトの最初の王朝以来、エジプトの一部だ。エジプト人は、半島で古代よりトルコ石を採掘していた。俺たちにとっては、敵地だ。
アフロダイテ号とアルテミス号は、イスラエルのガザ地区を通り過ぎ、シナイ半島沖合に近づいた。アレキサンドリアまでは350キロほどの距離だ。シナイ半島は山岳地が多く、気温も他の中東地域よりも低い。
夜間航行で危険であったが、俺の作った羅針盤と星空で方向は確認できた。浅瀬さえ気にしなければ問題はないだろう。エジプト王国の領土を通行するのだから、念には念を入れた。水平線に陸地が見えるギリギリのシナイ半島沖合を進む。
俺は一通りアフロダイテ号の船内を見回りした。船倉は船のピッチングとローリングで水漏れが起こっている。アレキサンドリアの港で陸揚げして船体をマス締めしないとイカンなあと思う。無事に武器庫を襲って武器を奪い、大スフィンクスの片割れの地下の秘密工場を壊滅させて、クレオパトラを抹殺してからの話だ。
ヤッファで売り飛ばさず、アレキサンドリアで売る予定のギリシャ女4人とアラブ女4人はアルテミス号と公平に分けた。同民族を集めると悪巧みをするだろうから、ギリシャ女、アラブ女、2人ずつを2隻にそれぞれ乗せた。
水兵の部屋で、奴隷女たちが女王のように君臨していて、一画を囲っている。順番というわけだ。水兵共が取り合いで騒ぎを起こすよりもマシだ。俺は、彼らに20世紀の日本の『最初はグー、ジャンケンポン』というやり方を教えたので、古代ローマで、シナイ半島を進む船の中で、日本語が聞こえる。ジャンケンポン!俺の勝ちだ!などと騒いでいる。この時代は、まだ、アメリカ大陸から梅毒とか性病が持ち込まれていないので、鼻がもげるやつはいない。奴隷女にはちゃんと入浴はかかすな、と言ってある。
奴隷女たちはこの船の食事や設備に満足そうで、俺の根拠地の話を水夫から聞いているようだ。俺のところは奴隷に対して、そんなに待遇は悪くない。彼女たちは、ソフィアやジュリアに『アレキサンドリアで私を売らないで、フェニキアに連れて行ってくれませんか?奴隷頭様からも旦那様にお願いできませんか?』などと聞かれているそうだ。
良さそうなのがいたら、2人ほどは残しておいて、俺の港に持ち帰るかな?と思う。ピティアスの船の方では、嫁に死に別れた海賊がいて、ピティアスが開放奴隷にして、嫁がせたいなどと言っている。後世の人間は、奴隷制度の実体は知らないで言ってるもんな、と思う。
船倉の艫(とも)の倉庫では、水夫がボウガンに油をさしてメンテしている。俺の船のように灯油ランプのない他の船は夜どうしているんだろうか?
ひと通り回って、俺のキャビンに戻った。アイリスとイシスがいた。
「絵美はいないのか?」とアイリスに聞く。
「絵美様は、キャビンの屋根だと思います。星でも見ているんでしょう。夕食の後、見かけません。でも、旦那様は、絵美様、絵美様ばっかり。私をお構いしてくれません。フェラもジュリアに習ってうまくなりましたのに。イシスにも教えているんですよ。旦那様は、エジプト王家の女がお嫌いなのかしら?いかがでございましょう?私とイシス、従姉妹同士のエジプト王家の女を抱くのは?ご奉仕いたしますのに。二人で舐めてしゃぶって、旦那様をお喜ばせできますけど」
「アイリス、サカリがついたか?俺は毎晩はできん。しない。種付け馬じゃねえんだ。明日にしてくれ。それよりも、アレキサンドリアの秘密の武器庫の地図は書いたのか?」
「冷たいんですね、旦那様は。私、旦那さまとしかできませんのに。ええ、地図ですね。出来ましたよ」
アイリスが羊の皮で作った巻物をテーブルの上に拡げた。武器庫は、アレキサンドリアの市街地から西南西50キロのタップ・オシリス・マグナ神殿の地下にあるという。四方が高い城壁で囲われていて、中にポツンと神殿がある。その神殿の地下が武器庫だ。
紀元前280年から270年の間に、プトレマイオス2世によって建設された。プルタルコスによると、神殿はオシリスの墓を表している。皮肉なことに、歴史が変わっていなければ、クレオパトラとアントニウスはこの神殿に埋葬されるはずなのだ。
アイリスによれば、神殿の城壁から500メートルほど離れたところに、神殿に忍び込める地下道の入り口があるという。そこは、エジプト王国の兵士が十数名警備しており、地下道のところどころに半神半獣が数頭隠れ潜んでいるという。
俺の書斎を襲ったジャッカル頭のアヌビス、トキの頭の知恵の神トート、隼の頭の守護神ホルスなどがいるという。彼女はクレオパトラに連れられて、クレオパトラが自慢げに神殿の警備の様子を説明するのを聞いていたという。「アイリス、特に、ホルスは私の上出来の生き物。人間が百人かかってきても皆殺しにできるわ」とクレオパトラは言ったという。アイリスは、念動力で頭のコントロールユニットを吹き飛ばせればいいですが、たぶん、体が半分なくなっても向かってくるんじゃないでしょうか?という。
「それに、旦那様、王国の兵士も半神半獣も、銃とレールガンで武装しています。奇襲をかけて、彼らの武器を強奪しませんと、ボウガンだけでは心もとないです。地下道は砂岩でできていますので、エネルギー波などは使えません。ビームですかね?だから、旦那様、絵美様、私が全力の念動力を使うと地下道が崩落します」と言う。やっかいなことだ。
「武器のスケッチは書いたか?手下共に事前に教えておかないといけない」
「これです。武器庫の配置図と保管場所、携帯式レールガンの銃、火薬を使った銃、レーザー銃、高性能爆薬と信管です。銃は、基本的に右側側面にセーフティーロックがあります。オート、セミオート、単射の切り替えスイッチ。レールガンは、左側にカウンターがあります。20連発で充電しないといけません。充電時間は10分」
「ふ~ん、バッテリーの充電器は?」
「ウラニウム電池なので、充電器は必要ありません」
「紀元前46年でよく作れたな?」
「クレオパトラ1世の時代、紀元前190年から140年かけて開発しているんですもの。これくらいは製造できます」
「後で、手下に説明しておこう。じゃあ、俺は絵美を探しに行く」
「私とイシスをほっておいて・・・」と17才の小娘に恨みがましく見上げられた。色気づきやがって。
「お前とイシスは明日だ、明日。絵美に睨まれなければな・・・」
「わかりました・・・自分でなぐさめます・・・」やれやれ。
キャビンの屋根にのぼると、絵美が船の艫の方に座っている。肩が震えていた。なんだ、泣いてんのか?俺はもってきた毛布を彼女にかけてやって、隣に座った。
「おい、泣き虫!泣いてんのか?」
「泣いちゃ悪い?二千年も離れて、別の宇宙で、古代の船に乗っている自分が可哀想だと思って、泣いちゃ悪い?」
「気持ちはわかるよ」
「あなたにわかるわけないでしょ?知性体のプローブにわかるわけがない」
「想像くらいはできるぜ」
「なんで、アルファは、第2ユニバースで、私を死んだままほっておいてくれなかったんだろう?」
「そりゃあ、絵美になんらかの役目があるからだぜ。俺にはデータがないけどな」
「ちくしょう!それに別の体よ!別の体に封じ込められているんだから!」
「ここには森絵美は存在しないんだから、しょうがないだろ?」
「私のクローンだって、この世界の1986年で、神宮寺奈々の体にいるんでしょ?でも、あっちはいいわよ。同じ日本人で、同じ時代の友だちの体なんだから、まだ、救われるわ」
「・・・あのな、もしも、第4に戻れて、絵美の死ぬ直前で、狙撃を阻止できたら、少なくとも第4では絵美は生きていることになるかもな」
「そんなことできるわけないでしょ?そんなことをしたら、歴史が改変されるわよ」
「可能性の話だけだ。期待しないでくれ。俺もできるだけのことをしてやるから」
「あ~あ」
「おい、ベッドに行こう。抱いてやるよ」
「ムラー、あなた、女を慰めるのにそれだけしか思いつかないの?」
「じゃあ、止めるか?」
「・・・いいわよ、抱いてよ。無茶苦茶にしてよ!いつもエミーにやるみたいに乱暴にして犯してよ」
「お望みとあらば・・・」
お望みだったので、さんざんにいたぶってやった。20世紀の憎まれ口ばかり言う女がだんだんツンデレが増して、どんどん可愛くなってくる。
さんざんいたぶって、アンアン泣かせた。それで、横に転がって、絵美の頭を抱いてやる。俺の胸に顔をうずめてスンスンしている。面白い。絵美が前面に立つのと、エミーとでは、同じ体なのに感度が違う。コーカサス娘より、絵美の方が感度が高い。もし、オリジナルの絵美の体が抱けたら面白いのにな。無理な話だ。彼女が存在するのは、第1と第3、第4ユニバースなんだから。第2では彼女は死んでいる。
俺は絵美に「さて、お仕事の時間だぜ」と言った。「なによ、もぉ。いい感じなのに」とやっこさんは答えた。
「いいか、俺の血を採血しろ。そうだな、毎晩、500cc程度でいいだろう。手動の遠心分離機がある。それで、採血した血を分離して、血清を作れ。カルシウム化合物と血清分離促進基材は準備した。消毒した試験管につめて保管しておけ。アイリスに持たせろ。試験管を封蝋して、熱湯消毒すれば数日は持つだろう」
「急に何?あなたの血清で何をしようというの?」
「いいか、黙ってやれ。それで、これだ」とガラス製の注射器と長尺の針を見せた。
「なんなの?この針、やけに長いわ」
「いいか、これから、武器庫に突入する。半神半獣が武器を持っている。俺、おまえ、アイリス、ソフィアたち、ピティアスと手下で、手足をぶっ飛ばされるやつも出てくる。その時、アイリスに言って、俺の血清をこの注射器で吸引して、心臓に打ち込むんだ。心臓に届くように針は長くしてある」
「それで、どうなるのよ?」
「まあ、見てのお楽しみだ」
「わけ、わかんない!」
「いいから。言ったとおりにするんだぞ、絵美。アイリスかお前がやれ。躊躇するなよ。心臓だからな」
第35話 純粋知性体
純粋知性体
「純粋知性体(Pure Intelligence)」は、知性だけの存在であり、物理的な形状を持たない。肉体を持たず物質・精神レベルの瞬間構築、瞬間移動が可能である。人間に憑依したり、気象を支配したり、人形やロボットに入り込んでコントロールしたりして、それらを通して人間との接触を持つ。
また形を持たないため、インターネットや夢などの場にも侵入できる。しかし、人間などに憑依して、物理的な形状を持った途端、「純粋知性体」はその人間や物の制約を受ける。また、その人間や物の知識を取り込んで、その知識に影響を受けるのである。
例えるなら、シリコンチップに依存しない、完全自立自動データ収集型のAIプログラムをイメージしてもいいかもしれない。AIなどと言うと「純粋知性体」の怒りを買うかもしれないが。知性だけで存在し、知識収集を目的として独立した意思を持つなど、そう、神のような存在と思ってもいいだろう。もちろん、人類のイメージするような擬人化された人類の倫理観を具現化した神などとは似ても似つかない存在だが。
「純粋知性体」は、単一のユニバースのみならず、マルチバース間をブラックホールとホワイトホールを結ぶワームホールで行き来している。そして、彼らは複数存在している。どのような過程なのか、人間には知るよしもないが、宇宙の生命体の中で、肉体を捨て去り、「純粋知性体」に昇格する種族や個体がいる。そのため、「純粋知性体」と言っても、その力は、「純粋知性体」の個体間でバラツキがある。
また、時間軸も自由に行き来かう。「純粋知性体」の目的はひとつ。全宇宙的な知識の収集である。知識の収集という目的のための彼ら独自の倫理観で宇宙を彷徨っている。人間的な善悪では計れず、いたずら好きな神にも似たものである。
彼ら同士の関係は希薄である。関係としては、収集した知識の物々交換か、力ある「純粋知性体」が弱い「純粋知性体」を吸収することくらいだ。マルチバースの知性を持った生物種は、薄く広く存在しているため、一つの惑星や恒星、恒星系に複数の彼らが飛来することがよくある。例えば、地球のように。ただし、複数の彼らが飛来したとしても、彼ら同士が共闘することはない。知識の物々交換か、彼らの吸収以外、彼らは別個に行動する。
「純粋知性体」の個体は、情報収集のためにプローブユニットを本体から分裂させて複数個、放つことがある。興味の薄れた惑星、恒星、恒星系などにプローブユニットを放置しておき、他の惑星、恒星、恒星系に移る。
「純粋知性体」のプローブユニットは、力こそ本体ほどではないが、本体と相似の存在である。惑星、恒星、恒星系の生物種の知能レベルでは、本体の膨大なデータ量を維持できないため、プローブユニットのデータ量は、その生物種の知能に合わせて縮小してある。
人間で言えば、人間の脳全体の記憶容量は1ペタバイト程度でしかない。そのため、プローブユニットのデータ量も1ペタバイト以下で本体から放出されるのだ。本体が再度その惑星、恒星、恒星系に戻った時、プローブユニットは情報伝達のために本体に吸収される。
たまに、本体は、プローブユニットの存在を忘れてしまうことがある。忘れ去られたプローブユニットは、それでも、情報収集を止めず、或いは、本体が行っていたように、惑星、恒星、恒星系の生物種に干渉して、情報を生物種に創造させることもある。
4つのユニバース
マルチバース(多元並行宇宙)は可能性のある複数の宇宙の集合である。多元宇宙はすべての存在を含み、そこには、われわれが一貫して経験している歴史的な宇宙に加え、空間、時間、物質、およびエネルギーの全体と、そして、それらを記述する異なる物理法則および物理定数なども含まれる。
そういう無限に存在する宇宙の中で、空間、時間、物質、エネルギーの全体、それらを記述する物理法則および物理定数が非常に似通った宇宙が隣接し並行して存在していた。
ブラックホールに飲み込まれたものが、ホワイトホールへ向かって移動する際に通るトンネルのような領域のことをワームホールと言う。実際に、物質がブラックホールに飲み込まれたら、ブラックホールの潮汐力によって引き伸ばされる。ブラックホールに近づきすぎた恒星でさえ、その強大な潮汐力によって引き裂かれてバラバラになり、ブラックホールに呑み込まれてしまう。もちろん、生物が生き延びられることはない。その生物のデータを除いては。
ブラックホールに飲み込まれたものが、同じ宇宙(ユニバース)にあるホワイトホールから出てくることもあるが、多元宇宙(マルチバース)世界の別の宇宙(ユニバース)にあるホワイトホールからも出てくるものもある。
なぜか、多元宇宙(マルチバース)は、ブラックホールとホワイトホールの物質のやり取りによって、物質の総和を保ち、均衡しているようだ。そして、やり取りされるものは、物質だけではない。データもやり取りされているのだ。生物のデータすらも。
人類の数え方で、1950年代頃、地球星系、銀河系からはるか離れた星系で、極中性子星の巨大爆発が生じた。それにより、宇宙の物理定数が変わってしまった。ほんの光速のコンマ以下の数値だったが、それでこのユニバース(この時点でも他に無数のユニバースが存在した)は1つから4つに分岐した。
純粋知性体の飛来、1万年前
純粋知性体が地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。中期旧石器時代の頃だ。
地球にやってきた純粋知性体は4個体だった。仮に彼らを、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタとしよう。
前期旧石器時代の約二百万年前~約十万年前の期間は、現生人類であるホモ・サピエンスが誕生、同時期に、ネアンデルタール人も誕生していたが、彼らの興味を引かなかった。彼らの興味を引いたのは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがアニミズム的な宗教を創造した時からだ。約八万年前の頃である。
愚鈍な中期旧石器時代人は緻密な宗教概念を創造できなかった。「純粋知性体」は、中期旧石器時代人の一人に憑依し、粗雑な宗教概念に秩序を与えてみた。ところが、愚鈍な人類は、その秩序を歪に解釈し、「純粋知性体」の食物の知識を増やすどころか、お互いがお互いを攻撃し、種族の抹殺を試みようとした。
この実験を行った「純粋知性体」は、最初に憑依した中期旧石器時代人のポセイドンと呼ばれる人類の個体の特性が間違ったのであろうと判断した。「純粋知性体」は、彼らの集団とその都市、彼らはそれを「国家」と呼んでいたが、それを地球のマントル対流を少し偏向させて、滅ぼした。未開に落ちた彼らの子孫は、この「国家」のことを「アトランティス」と呼んだという。
気ままな「純粋知性体」は、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前だった。「アトランティス」文明から退行した中期旧石器時代人は、中石器時代、新石器時代に進もうとしていた。既に、ネアンデルタール人は、約三万年前からニ万四千年前には絶滅するか、現行人類との性交で取り込まれ、吸収されていた。
氷河が後退しはじめ気候が温暖になったため植物が繁茂し、動物が増えるなど、人間が採集狩猟で食物を得やすくなった。農業が開始され、オリエントの肥沃な三日月地帯では、紀元前八千年頃に、中米やメソポタミアでは、紀元前六千年頃に、農業を主とした新石器時代が始まった。
極東の弧状列島である日本列島でも、紀元前八千年頃に同様な動きが見受けられたが、地理的な位置、平野部の少なさ、人口の少なさのために、肥沃な三日月地帯や中米やメソポタミアのような文明的な規模の拡大は難しかった。
その頃の彼ら「純粋知性体」が行った人類に対する刺激は、チグリス・ユーフラテス文明(シュメール文明)の構築、エジプト文明の構築、インド文明の構築であろう。些末な動きでは、縄文時代の前期古墳文化の構築も含まれるであろう。
彼ら「純粋知性体」、悪戯な神々は、思いつくまま、勝手なアイデアを憑依した人類の個体から広げていっては潰した。シュメール人には、バビロンの塔を作らせては破壊させた。エジプトのファラオと呼ばれる一族には、近親交配をさせて、衰亡させた。彼ら中東の人間は、壮大なビジョンを作り上げられなかったようで、「純粋知性体」を失望させた。
インド文明はまだマシだった。彼ら「純粋知性体」を最上級の神とさせて、彼ら「純粋知性体」が名乗るビシュヌ神という存在が、アバターとして、現世に下級神として降臨する、というビジョンは彼ら「純粋知性体」を多少は満足させた。ヴィシュヌの第九番目のアバターとした仏陀という人類は、なかなかのものだった。むろん、仏陀は、「純粋知性体」のプローブユニットが憑依した存在だったのだが。
極東の弧状列島でも、小規模ながら彼ら「純粋知性体」は実験をしていた。卑弥呼と呼ばれる少女にプローブユニットを憑依させ、勝手な予言を乱発させた。「天」と称する一族に、試しに弧状列島の統治をさせた。八つの頭を持つ大蛇を実体化させたり、九尾の狐を実体化させたりした。
第36話 クレオパトラと純粋知性体
《クレオパトラと純粋知性体》》
紀元前190年頃、再度地球に飛来した純粋知性体ベータは、地球の諸地域に複数のプローブユニットを放ち、再度人類に干渉し始めた。エジプトでは、クレオパトラ1世にプローブを憑依させた。このプローブは、代々のクレオパトラに140年もの間、引き継がれていった。
●クレオパトラ1世、紀元前204年頃 - 紀元前176年
夫、プトレマイオス5世エピファネス
●クレオパトラ2世、紀元前185年頃 - 紀元前116年
夫、プトレマイオス6世フィロメトル
●クレオパトラ3世、紀元前161年 - 紀元前101年
夫、プトレマイオス8世フュスコン(3世は彼の姪)
●クレオパトラ4世、? - 紀元前112年、母は3世
夫、プトレマイオス9世ラテュロス(4世は彼の妹)
●クレオパトラ5世、? - 紀元前69年、母は3世
夫、プトレマイオス9世ラテュロス(5世は彼の妹)
●クレオパトラ6世、不明
夫、不明
●クレオパトラ7世、紀元前69年 - 紀元前30年8月12日
夫、プトレマイオス13世、プトレマイオス14世(7世は彼の姉)
また、数万年前からアルファ、ベータ、ガンマ、デルタが放出したプローブも人類の人体に退行して生き残っているものもいた。長年、人類に憑依し続けたため、人類の肉体的属性に影響を受け、本来の知識探究という目的を忘れてしまっていた。ブッダやモーゼスに憑依していたプローブは彼らの死とともに消滅した。
クレオパトラにプローブを放出したベータ本体は、地球を離れて、別の星系に移動していった。この時点で、純粋知性体本体のアルファ、ベータ、ガンマ、デルタは地球にいない。残っているのは、彼らのプローブユニットだけだった。
ベータ本体と離れたプローブユニットは、代々のクレオパトラの中で変質していった。狂い始めていた。近親相姦を繰り返し、DNAが変質していった彼女らに影響を受けたのだろう。
未来の分岐した第4ユニバースにいた純粋知性体のアルファは、この元々のユニバースの変貌の萌芽に気づいた。彼?彼女?それは、第4ユニバースで発見した人類の女性が死亡した時に、彼女の思念を知性体化して、紀元前47年の地球に連れてきた。アルファは、プローブを放ち、プローブはフェニキアの奴隷商人のムラーに憑依した。人類の女性の知性体は、コーカサス人女性に憑依させた。
アルファの意図は、せっかく、1950年頃から遊んでいる第1から第4までの将来の分岐したユニバース4つが、狂ったベータのプローブの活動で変質することを防ぐことである。むろん、変わったところでアルファにとって痛くも痒くもないことだが、お楽しみの機会をたかがベータの狂ったプローブによって奪われるのが癪に触ったのだ。
アルファはベータが嫌いだった。純粋知性体になる前の太古の昔から、ベータの種族は虫が好かなかったのだ。アルファの先祖が酸素呼吸系種族で、ベータが塩素呼吸系種族だったことも原因なのだろう。
第37話 もう一体のスフィンクス
ギザ、紀元前八千年
ヴュルム氷期が終わりかけ、地球が温暖化していくと思われた時、21世紀から12,785年前のある日、巨大な火球がはるか北方を西から東に動いていた。轟音を発して彗星の尾のような噴煙を残して、火球は北の空に消えていく。
現代クローヴィス彗星と呼ばれるこの火球は直径が4キロほどもあったろう。6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の直径が16キロ程もあったと言われるので、それよりも遥かに小さい彗星であったが、十分に地球の生命の大部分を絶滅に追いやる大きさだった。ただし、進入角度が異なったので、大量絶滅は起こらなかった。
中生代に衝突した小惑星は考え得る最悪の角度(鋭角)で地球に突入したため、大気圏の摩擦で分裂もせず、ひと塊で地球に激突したが、このクローヴィス彗星は北極上空で浅い角度(鈍角)で大気圏に突入した。その突入の入射角は、12度ほどで、大気圏上層部をバウンドしながら進み、その摩擦熱と圧力により数多くの直径数百メートルほどの小片となって、地球に降り注いだ。
そのため、中生代に衝突した小惑星がユカタン半島一箇所に爆心を持ったのに較べ、爆心は数十箇所に及び、北米、グリーンランド、ヨーロッパ、北アフリカという広範囲に広がったが、一つ一つの破壊規模は小さくなった。
ある小片、小片と言っても1キロくらいの直径の彗星の破片は、現代のアメリカの五大湖周辺に衝突した。その頃の五大湖は、一つの巨大な氷湖を形成していて、氷河の重みと地殻との摩擦で、底部は数兆トンの真水になっていた。それが氷河によって押し止められていたのだが、彗星の衝突で真水の地底湖が決壊し、数兆トンの湖水が大西洋に一気に流れ込んだ。
巨大な津波が大西洋を渡り、ヨーロッパ、北アフリカを襲った。塩分濃度の非常に低い津波は、数百メートルの高さで地中海に流れ込んだ。
もしも、古代ギリシアの哲学者プラトンが著書『ティマイオス』と『クリティアス』の中で記述した伝説上の島、そこに繁栄したとされる帝国であるアトランティスがあったとしたら、北米大陸の氷湖の決壊によって一瞬の内に海底に沈んだであろう。
北米には、彗星の破片が広範囲に衝突し、ブリヤート人を祖先に持つアメリカ先住民の部族が形作った石器文化をも壊滅させた。
衝突により巻き起こった粉塵は大気をおおい、その頃、現代よりも8℃ほど低かった地球平均気温をさらに7.7℃低下させた。最終氷期のヴュルム氷期と同じ気候が起こったのである。
地球が粉塵で覆われる暗い状態は十数年続いた。12,785年前から11,600年前まで1,200年間続くヤンガードリアス期の始まりであった。
地球の寒冷化は、彗星の衝突範囲から考えると大西洋沿岸の方が太平洋沿岸よりもひどかった。しかし、太平洋沿岸も少なからず急激に寒冷化した。
やがて、1,200年間続いたヤンガードリアス期が終わり、クローヴィス彗星の影響を脱した地球は、間氷期の温暖化に移っていった。そして、1万年前に純粋知性体たちが再び地球に飛来した。
ベータの優れた演算能力は、1万年前のその時点だけではなく、1万年後もその先も地球環境をシミュレートできた。エジプトの地形もそうだ。そして、1万年前の海水面から、数十メートル海面が上昇する未来も見て取れた。
人類の歴史学者のほとんどは、地球物理学にも気候学にも地理学にもうとい。彼らは、古代の歴史を現代の海岸線、気候で考えがちである。あまり知性があるとは思えない。
ベータは、将来のためにエジプトに指標となるモニュメントを残しておこうと思った。そのモニュメントの地下に容易に工業生産が開始できるスペースも確保しようと思った。もちろん、工業生産設備は数千年経過すると腐食して使い物にならないだろう。しかし、スペースさえあれば、先進的な生産が可能であることがわかっていた。
ベータは、当時の人間のアニミズム信仰の対象の半神半獣を選んだ。大スフィンクスである。場所は、一体目はギザ台地にした。ナイルの大三角州が海面上昇で後退したとしても水没しない場所だ。さらに、もう一体を50キロ離れた場所に設置した。工事は、プローブで操られた古代エジプト人に行わせた。その技術はプローブを引き上げれば失われてしまうものだが、まだ人類に与えるのは早計だとベータは考えた。
紀元前190年頃は、共和制ローマが地中海の覇権を握りつつあるときだった。もちろん、この時代だから、近代的な工業生産力はまったくない。しかし、クレオパトラ1世は、いちから始める必要はなかった。紀元前八千年前に、純粋知性体のベータは、エジプトに後世で役に立つように、工業生産の基盤を残していったからだ。
彼女は、ベータが八千年前に残していってくれた、ギザ台地の大スフィンクスから50キロ離れた砂に埋れたもう一体のスフィンクスを探し、その地下にある工業生産のスペースを発見した。
それでも、工業生産を始めるには、時間がかかった。1世の短い寿命では完成できない。ベータのプローブは、代々のクレオパトラを使い、少しずつ技術を進展させていった。原油を生成し、発電設備を設置し、金属やプラスチックを生産した。クレオパトラ5世の頃には、半導体も製造できるようになった。
そして、クレオパトラ7世の治世の時、3Dプリンターが作れるようになって、大ローマ帝国をも侵略できる人造生物の半神半獣が製造できるようになった。
奴隷商人 Ⅳ
第27話 コルビタ船、紀元前46年
第28話 航海時のお食事、紀元前46年
第29話 クレオパトラ7世の妹、紀元前46年
第30話 ヤッファ(テルアビブ)
第31話 ハレムなんて中学高校一貫教育の女子校の経営と同じだよ
第32話 イシス
第33話 クレオパトラの儀式
第34話 シナイ半島沖合
第35話 純粋知性体
第36話 クレオパトラと純粋知性体
第37話 もう一体のスフィンクス
第1章 フェニキア
奴隷商人 Ⅰ
第1話 極超新星爆発
第2話 純粋知性体
第3話 奴隷市場1、奴隷市場ホール、紀元前47年
第4話 奴隷市場2、絵美の奴隷売買成立、紀元前47年
第5話 奴隷市場3、コーカサスの女、紀元前47年
第6話 ムラーの荘園、ムラーの家、紀元前47年
第7話 アヌビスとの戦闘、紀元前47年
第8話(1) エミーの初体験、紀元前47年
第8話(2) クリエンテス、紀元前47年
奴隷商人 Ⅱ
第9話 古代ローマのブラジリアンワックス、紀元前47年
第10話 アヌビスの解剖、紀元前47年
第11話 窓ガラスがない!、紀元前47年
第12話 エジプトから盗んできたパピルスの文書、紀元前47年
第13話 古代ローマの不潔さ、紀元前47年
第14話 古代ローマの媚薬『シルフィウム』、紀元前47年
第15話 ジュリアとソフィアと、紀元前63年
第16話 見破られた!、紀元前50年
第17話 ピティアス、紀元前47年
奴隷商人 Ⅲ
第18話 ペトラとアイリス、紀元前47年
第19話 知性体ベータのプローブユニット、紀元前50年
第20話 このドスケベのコーカサス女め!、紀元前46年
第21話 アイリスの三年前の回想、紀元前46年
◯ポンペイウス軍の海賊討伐とローマの暦の数え方
●第三期ポエニ戦争とそれに続く東地中海のヘレニズム国家との戦争
●ポンペイウス軍の海賊討伐
●人さらい
●説教
第22話 人さらい、紀元前46年
第23話 シーザー暗号、紀元前46年
第24話 合体技超能力の訓練、紀元前46年
第25話 クレオパトラと戦争する気?、紀元前46年
第26話 両性具有、紀元前46年
第2章 地中海編
奴隷商人 Ⅳ
第27話 コルビタ船
ムラーがピティアスの船を改修したから見に行こう、と言った。
エジプトにはピティアスの商船(実は海賊船)で行くのだが、船で行くのは気が進まない。真水がないじゃない!海水で体を洗うとカイカイになってお肌に悪いでしょう?トイレはどうするのよ?海に飛び込んでするの?小さい方はいいけど、立ち泳ぎで大きい方なんてできないわ。かといって、陸路で行っても途中の宿とか、不潔そうじゃない?
歴史ロマンとか太古の世界とか、そんな小説とかマンガが20世紀にあったが、お便所の話とかお風呂の話とか、誰も書かないのはなぜなの?『そうぞうりょく』の欠如よ!
いいこと?21世紀の小説家!マンガ作家!紀元前にはケツを拭く紙はないんだからね!古代ローマでケツを拭くのは、ウンコをこそぎとる木のへらとみんなで使う海綿スポンジなのよ!・・・興奮してしまった!
そう言えば、歴史書で、オクタヴィアヌス軍とクレオパトラ/アントニウス連合軍が闘ったアクティウムの海戦で、クレオパトラはエジプトの艦隊の旗艦に乗船していたけど、彼女、お風呂やトイレはどうしていたんだろう?
なんて思っていると、エミーが、ああら、20世紀のか弱いお嬢さんはどうしようもないわね。私なんか、黒海東岸のアディゲ人の村から拐われてきて、ピティアスの船とは比べ物にならない小さな船で二週間も航海してフェニキアに来たんですからね!
おしっこ、ウンコ、だって?そんなもん、海賊が見ている前で、その前で、木の桶よ、桶!桶にまたがってしたわよ!その桶を自分で海水で洗ってたわよ!真水を使えるのは、数日に1回、港に寄港したときだけ。
私は族長の娘で巫女長で処女だから、奴隷の売値が下がるので手をつけられなかったけど、他の拐われた女たちは、海賊にバカスカ犯されてたわ!絵美さん、お嬢様、贅沢言うんじゃないわ!と絡まれた。
まあ、確かに。20世紀にフェリーで優雅に船旅を楽しむわけじゃない。エジプトには戦闘に行くのだし。諦めよう。
私たちがエミーの体の中で言い合いをしている内に、港に停泊してるピティアスの船に着いた。エジプトには二隻で行くという。私(たち)、アイリス、ソフィア、ジュリアの他に、14、15才の奴隷女を4人、侍女として連れて行くとソフィアが決めた。この侍女たちは、アレキサンドリアにおいていく。さすがに戦闘させられない。
この子たちに私たちの下の世話をさせようというの?この世界に来た最初の時みたいに、トイレで用を足している時、この子たちが私の前でかしずいて、私のあそこをこの子たちに拭かせるの?あ~、勘弁して!そんなことをさせて、古代の女たち、よく平気だわ。日本の平安朝も江戸時代もそうだったのかしら?
波止場に係留されているピティアスの船は、ムラーが半分出して買ったそうだ。そこそこでかい。60メートルくらいあるだろう。この港で一番でかい船だ。
今から17年前の紀元前63年、私も知性体もまだここにいない時、第三次ミトリダテス戦争の頃、ハリカルナッソス近辺を拠点にしていたギリシャ系海賊頭目のピティオスは、ポンペイウスの軍団に蹴散らされて、命からがらここに逃げてきて、若かったムラーに一網打尽にされたそうだ。その時は、配下も八人に減っていた。今は50人ほどに増えていて、拐ってきた女どもに子供も産ませているそうだ。
ムラーはピティアスに一家の土地の小さな半島に隠れ家を与えて、黒海東岸との交易と奴隷収集をピティアスに頼んだのだ。あまり奴隷貿易には熱心ではなかったムラーは、ビールの原料のカラハナソウ(唐花草、ホップ)をカフカス地方から集めさせたり、ムラーがワインを蒸留して作った火酒(ブランディー)を交換品として運ばせたりした。
もちろん、海賊だから、黒海東岸のコーカサス人の村から女も拐ってきた。エミーの村には来なかったらしいが、エミーを拐った海賊と似たようなことをしているんだろう。海賊は好きじゃない。でも、今回は戦力として、ピティアスの手下もいるので、仕方がないわね。
ピティアスの船は、紀元前の今頃の世界でよく使われるコルビタ船だ。当時、ローマ帝国の領土の港を行き来していたポピュラーなデザインの船で、戦闘艦としても使われる。
コルビタ船は、2本マストで船体は西洋梨の形をしている。船尾へいくほど中が広くなる構造をしている。最も大きいコルビタ船は、乗客とともにワインやとうもろこしなど千トンもの積荷を運ぶことができ、遠くはインドまで航海していた。ローマの話に出てくるガレー船とはちょっと違う。
西洋梨のお尻の部分にはキャビンがある。エジプト行きの女どもが乗る一隻の船のキャビンは増築したのだそうだ。
「増築?」
「そうだ。天井を高くした。部屋も増やした。絵美/エミーやアイリスが使うからな」
「それはそれはご親切に!」
「どうせ、20世紀女に、おしっこやウンコ、入浴のことで毎日文句を言われるのが目に見えているからな」
「20世紀女で悪うございましたね!好きでこの世界に来たんじゃありませんからね!」
タラップを登って甲板に出た。確かにキャビンが高い。キャビンの屋根にデパートの量り売りの味噌樽みたいなタンクがある。蓋はガラス製の円錐形だ。いち段さがって、もうひとつ、さらにもうひとつ。三段になっている。あれは何?
「ありゃあ、円錐形ガラスの蓋が太陽光を通して、中の海水を蒸発させ、蓋の内側についた水蒸気が液化して、次のタンクに落ちる。それがもう一回。最後のタンクには真水がたまる仕組みだ。一番上の海水タンクは、お前らの便所にパイプが通っている。木で20世紀の洋式便器みたいなのを作らせた。タンクからの海水で、洗い落とし式で海に垂れ流しだが、水洗トイレってわけだ。二段目のタンクから真水をひいてきて水栓をつけたので、ケツを真水で洗浄できる。シャワーも作ったから、真水で体を洗える。どうだ?これでおしっことかウンコ、入浴のことで俺に文句を言うなよ、20世紀女!」
「ああ、ムラー、感激だわ!愛してる!絵美、なんでもしちゃう!」
「なんでもか?そうだな、だったら、今晩辺り、お前とアイリスで俺のをしゃぶってくれ。それで、アイリスに教えろ。フェラが下手だ。歯を立てやがる!」
「お下品な!」
横で聞いていたアイリスが「絵美様、フェラって、男性のあれを女性が舐めてお口に含む、ってことですか?私、下手なんですか?今晩、教えてください。ムラー様のを精一杯お舐めいたします!」こ、小娘!エジプト王家のクレオパトラの異母妹が、昼間っから『フェラ』とか『舐める』とか、大声で言うんじゃない!エミーがゲラゲラ笑うので、じゃあ、あんたが今晩、小娘に教えておやり、と答えた。頭の中で。
死んだ時に27才の日本人犯罪心理専攻学生よりも、元々の体の持ち主の蛮族の19才の娘の方がセックスは好きなのだ。しょうがない。
船を一通り検分した。一緒についてきたソフィアとジュリア、侍女たちは、トイレ・バス設備に感激している。まあ、紀元前の船舶設備では最高級だろう。
早速、ソフィアとジュリアが部屋割りを決めている。私/エミーとアイリスの部屋の続き部屋は彼女たちの部屋!とか決められる。航海していて、夜、ジュリアが忍んでくるのかい?アイリスを含めて、4P(5P?)のレズになるじゃないか!まあ、慣れた。20世紀じゃあるまいし、古代ローマはなんでもありだ。
第28話 航海時のお食事
私たちの乗船する船は、ベタな名前のアフロダイテ号と言った。(ちなみに、今は絵美は寝てる。知性体に睡眠の必要はないんだが、毎日数時間寝る習慣が絵美にはある)もう一隻はアルテミス号。ピティアスのネーミング力がわかるぜ。
船乗りは女性の乗員をひどく嫌う。拐ってきた女は別。だってね、昨日も絵美がごねたように、おしっこだ、ウンコだ、お風呂だ、さらに生理だ、というので、手間がかかる。男性なら、ふなばたからチンコ出してすりゃあいいし、便所が汚ければ海に飛び込んでクソすりゃあいいのだ。
しかし、今回は、アフロダイテ号と同じく、アルテミス号にも海水蒸留設備っていうの?あれを設置して、便所もシャワーも工夫したので、女性のやっかいな問題もクリアなのだ。さらに、原油から灯油が出来たので、ムラーが灯油バーナーなんてものを作った。
海賊共は最初、使い方がわからなかったんだけど、だんだん、薪ストーブで料理を作るよりも数倍便利じゃん!というのが理解できて、好評だ。灯油のコックを捻って閉じれば火が消える。薪ストーブは海水をかけないと消火できない。木造船で火災は一番注意しないといけないことだ。時化の海でも調理ができる灯油バーナーは便利この上ない。
今回、私(たち)、アイリス、ソフィア、ジュリア、侍女4人はアフロダイテ号に乗り込む。船長はムラー。ピティアスは、部下の配分を考えて、アフロダイテ号に手下/水兵27名、自分が船長のアルテミス号に33名を配置した。女8名も帆の上げ下げ、甲板掃除を手伝えということだ。もちろん、料理も。
絵美が言う後世のコロンブスとかマゼランの航海じゃああるまいし、敗血症になるようなことはない。フェニキアからエジプトは地中海一の沿岸航路だもん。だけど、今は、紀元前46年(私は紀元前65年生まれだそうだ。キリストってのも産まれていないのに絵美やムラーはこの紀元前という言葉をよく使う。なんなの?)、まだまだ、地中海と言えども、ポセイドンや海の怪物が跋扈していると信じている船乗り・民衆が多い。
後世の木造船と違い、船の剛性も弱く、羅針儀もなく(今回、ムラーが作ったけど)、三角帆じゃないので逆風だと進めない船なので、油断はできないってこと。フェニキアからエジプトに向かう船がイスパニアやカルタゴに嵐で流されたなんてのも珍しいことじゃない。下手をするとヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)からおっかない外洋に出てしまう。
食料は大事よね、せめておいしい食事を取らないと、と絵美が言う。アイリスが丘の家の森にピティアスの手下を連れて行って、イノシシを狩ってきた。ポン、ポンと念動力でイノシシをぶち殺す。手下がそれを見て、アイリスを拝跪するんだ。バカバカしい。たかが、念動力なのに。それで、かなりのイノシシを狩った。それを捌いて、丘の家の女が塩漬け豚にして木の樽に詰めた。塩をキツめにして、ソーセージやサラミも作らせる。
航海の最初なら低温殺菌していないフェタチーズでもいいかあ、とか絵美は言って、オリーブオイルと香草に漬けたチーズも用意させた。最初にそれを食って、その後は、塩分強めのペコリーノ・ロマーノだね、とチーズのブロックを数百キロ買った。オリーブ、インドのアーモンド、イランのピスタチオ、ペルシャのくるみも仕入れた。ビタミン不足は注意しなきゃと言う。ビタミンってなんだよ?
籾殻のついたリゾット用の米、小麦も仕入れる。後世の20世紀の小説家や漫画家は、まさか船の上で籾すり、精米、小麦粉挽きをしているとは思わないでしょうね、バカね、と絵美は言う。当たり前じゃねえか?精米した米とか小麦粉を持っていったら、1週間で虫がわいちまうよ。古代ローマじゃ常識だよ!
絵美が、私やアイリス、ソフィア、ジュリアに聞いて、船の上で何ができるか、メニューを作りましょうとか抜かす。あるもの食えばいいじゃねえか?まあ、仕方ねえ、作った。
● 豆入りプルス(小麦のかゆ)
● 全粒粉、自然酵母で作った丸いパン
● ポタージュスープ
● 豚のゆで肉
● 豚のもも肉や頭の串焼き
● オリーブ
● ソーセージ・サラミ
● 豚肉団子
● 魚肉団子
● フェタチーズ/ペコリーノ・ロマーノ
● ナッツ
● 乾燥フィグ(イチジク)/アプリコット/デーツ(ナツメヤシの実)/レーズン
これで十分だろ?と言ったが、鶏肉・卵がない!とか言う。途中の港で仕入れりゃいいだろ?まさか、船の上で鶏を飼うつもりじゃないだろうね?・・・絵美は鶏舎を作らせやがる!この20世紀女め!で、メニューを追加。
● 鶏肉
● オムレツ
● フレンチトースト
● TKG
● お刺身
絵美にフレンチトーストってなんだ?と聞いたら説明した。あら、この時代にはないのかしらね?とか抜かす。じゃあよ、このTKGは?え?卵かけご飯?そんな野蛮なもの、誰も食わねえよ。お前だけだよ、と言ったら怒っていた。世界中で、生卵を炊いたご飯にかけて食うなんて民族はいねえ!腹壊すだろう?オサシミってのも生の魚を魚醤につけて食うんだと。マリネか?それは料理か?コーカサスじゃあ、そんなもの食わん!
これで終わりと思ったら、今度は、寝転がって手づかみで食うのは野蛮だと抜かしやがる。
あのな、どこの民族が手以外で物を食うんだ?骨付きラム肉は、骨をつかんで食らいつくのがうまいんだよ!骨は床に落とす。それは奴隷が掃除する。それの何が悪いってんだ?あら?脂ぎった骨を木製の床に落として、床が脂まみれになったら滑るじゃないの!と言う。確かに一理はある。
テーブルと椅子を作らせて、床にボルトで固定した。あのな、バールなんかじゃ、立って食う。この時代、寝転がって食うか、立って食うかだ。椅子に座って食ったら消化に悪いだろ?
さらに、絵美は、フォークとナイフ、スプーンという金属製の器具を作らせた。こんな物騒なもので食って、食事の際に、ぶっ殺されたらどうすんだ?と聞いたが、ブンメイジンはこれで食べるのよとか言いやがる。ヤツだけ特別に『お箸』なんてのもレバノン杉で作らせた。私はこんな木の枝で物を食うのはイヤだ!
第29話 クレオパトラ7世の妹
う~、船酔いだ。これ、変でしょ?と思う。エミーが意識の前面に出ると船酔いなんてしない。私が出ると船酔いする。同じ体で、なんで違うの?アイリスが「絵美様、船酔いですか?お休みになられた方が・・・いっそのこと、エミー様が出てきた方がいいのでは?」と言う。たまに、意識の前面に出たいけど、出るたびに船酔いじゃあなあ。
アフロダイテ号、アルテミス号は、20世紀で言うベイルートの北のムラーの港から出港して、ゆるゆると進んだ。沖に出ず、沿岸をつたいながら、日暮れには港に入る。夜の航海は紀元前では禁物だ。今は、ハイファの港を後にして、テルアビブに向かっている。アレキサンドリアまでの航路の4分の1といったところだ。
並走しているアルテミス号の甲板から、ピティアスが手を振って水平線の方を指した。ムラーが望遠鏡でそちらの方を見た。「おい、野郎ども、同業者がガレー船できやがったぞ。こっちがコルビタ船なんで、商船だと思って襲ってくるかもしれんぞ。迎撃準備しろ!」と怒鳴る。
ソフィアとジュリアが駆け寄ってきて「絵美様、戦闘服に着替えましょう!」という。え~、あれ?ドロンジョ服?イヤだぁ~!エミーが、船酔いだし、戦闘なんだから、交代しろよと言う。え~、あんなの、念動力で一発じゃないの?
「ムラー、念動力であんなの一発で撃沈できるわよ!」とムラーに聞いた。
「絵美、そんなもんを見せたら、これから噂が立つかもしれないじゃないか?隠密でエジプトを襲撃するのに、バレたら元も子もないぜ。たかが、海賊船、別に、ピティアスたちにまかせりゃいい」と言う。「それより、お前、船酔いだろう?エミーに代われ!」と言われた。わかりましたよ。ハイ、交代。
ワハハ、出たぞ!とエミーが言う。「さあ、アイリス、戦闘服に着替えよう!」こいつ、自分でドロンジョ服を作って気に入っているもんだからって。あれは恥ずかしいでしょ?時代考証を考えてよ!と思う。
着替えた。私じゃない。エミーが、だ。あ~あ、股間のウサギの毛皮がまたついてる。ムズムズする。これって、意識、五感って遮断できないものかしらね?エミーが感じると私も感じる。逆も同じ。エミー、こら!戦闘でアドレナリンが出るのはいいけど、フェロモン、振りまいてるでしょ?あ~、こいつ、あそこがジンジンして、ちょっと逝ってる。蛮族の娘め!戦闘でエクスタシーを感じるのはお止めなさい!
ゴチャゴチャうるさいなあ、と言われた。わかりました。戦闘は任せました。好きにおやりなさいな。
ドロンジョが4人、甲板に立った。長身のエチオピア女の漆黒のソフィア。ちょっと中背のエミー(と私)。小柄なエジプト娘のアイリスとギリシャ娘のジュリア。デコボコじゃないの?なんなの?丘の家の森の訓練に参加したピティアスの手下は驚かないが、港で新規に雇った水兵は唖然として見ている。そりゃ、そうよね。
アイリスが侍女4人にキャビンに隠れていなさい、と命じた。エジプト王家の娘なのに細かい気遣いができる子だわ。クレオパトラ7世を抹殺したら、この子がエジプト王女になればいいのにね?
あら?でも、そうなると、クレオパトラはシーザーと子供を作らず、シーザーの死後、アクティウムの海戦で、オクタウィアヌス軍とクレオパトラ/アントニウス連合軍が闘わないことになる。それって、後世の歴史の改変でしょ?ムラーの言うクレオパトラを殺すというのはそういうことよね?このパラドックスはどうするのかしら?
待てよ?アイリスが言っていたじゃない?クレオパトラ7世は両性具有だって。両性具有って、妊娠できるものなの?受胎能力があるの?そもそも、7世が子供ができないなら、なぜ、私の覚えている歴史では、7世はシーザーとの子供を作れたの?既に、ベータがプローブを残して140年、そして、アルファのプローブと私が来て1年で、歴史が改変されたの?だったら、なぜ、私はまだ存在しているんだろう?なぜ??
ムラーに聞かないと。
ドロンジョ4人がボウガンを構えた。エミー(私)とソフィアがフルサイズで金属の矢。アイリスとジュリアが連射式クロスボウと木製の矢だ。敵の海賊のガレー船は2隻。両舷の櫂が規則的に水面を打って、ものすごい速力で近づいてくる。ムラーもピティアスも迎撃するつもりなのか、帆を降ろさせて、こっちは止まっている。
ガレー船の甲板で、海賊がロープを準備している。鉄鍵のフックが先端についていて、それでこちらの舷側にひっかけて接舷して乗り込むつもりだろう。もう、100メートルほどの距離だ。ソフィアがボウガンを構える。彼女のは、他のより重ね板ばねを二枚足して、編み合わせたワイヤーの弦を強くしている。セットするのに力がいるが、飛距離が他のより長い。
ガレー船が60メートルくらいに近づいてきて、ソフィアが矢を放った。甲板で接舷フックを準備している海賊の胸を貫いた。もう、次の矢をつがえている。速い。さらに、船が近づいた。エミーもアイリスもジュリアも矢を放つ。エミーのは指揮を取っている海賊に命中した。アイリスとジュリアは、ガレー船後部で舵を取っている海賊を蜂の巣にした。
ピティアスの手下どももボウガンを打ち込む。敵は、別の男が舵をとって、船を横付けにしようとしている。引っ掛けフックがこちらの舷側にかかった。こちらもフックでガレー船を引き寄せる。私たちのコルタナ船の甲板はガレー船のよりも2メートルほど高い。
ピティアスの手下が舷側を乗り越えて、ガレー船になだれ込む。こうなると、近接戦闘になって、ボウガンで味方を撃たないとも限らない。なるほど。戦闘って、距離によって戦術を変えるんだわ、と思った。
エミーのやつ、ボウガンを捨てて、ツーハンドの手斧を構えた。おいおい、向こうに乗り込むのか?止めて欲しい。ピティアスの手下に任せりゃいいじゃないか?エミーがジュリアに侍女を守ってろと怒鳴る。ジュリアが、え~、と言ってふくれる。まあ、しょうがないわね。侍女たち、可哀想だもん。
エミーとソフィアが舷側を乗り越えて、ガレー船に飛び移った。アイリスも続く。ソフィアは半月刀と鞭を振り回している。アイリスは甲板を転げ回ってボウガンで敵を撃っている。速射式だから、連射できるのだ。
エミーは手斧で海賊の首をちょん切り回る。この蛮族のコーカサス娘!まったく、血に飢えた女豹だ。手斧の血を舐めている。私にもヘモグロビンの味がわかった。舐めるんじゃない!舐めるのはムラーのチンコだけにしろよ!
エミー、指揮官の一人が我を忘れて殺しまくってどうするの!回りを見なさい!ムラーは何しているの?とエミーに言う。エミーがアフロダイテ号の甲板を見上げた。ムラーはボウガンを構えていた。撃った。飛んでいく矢の先をみると、海賊の頭目らしいヤツの胸に矢が突き立った。なるほどね、指揮官は冷静にしてないとダメなんだよ、わかった、エミー?
あっという間に海賊を制圧した。こっちも海賊だけどね。ソフィアがキャビンに入っていった。エミーとアイリスも続いた。キャビンの中には、女が6人いた。怯えている。そりゃあ、血の垂れた半月刀と手斧とボウガンを持ったドロンジョ三人が部屋に入ってきたんだから当たり前だ。こいつらも拐われてきたんだろう。あ~あ、また女が増えたよ。
6人は、5人がギリシャ系のようだ。残る一人はエジプト人の美少女。16才くらいだろうか?ギリシャ系はうなだれている。エジプトの小娘は、私たちを睨んでいる。
エミーが、ソフィア、こいつら連れて行っておくれ、まあ、ピティアスの手下も女日照りだから、あいつらにあげようぜという。エミー、それ、ひどいでしょ!絵美、何言っているんだ?こっちは侍女を入れて女8人だけど、ピティアスの手下は私たちに手をだせねえじゃねえか?可哀想だろう?こいつらはやつらの戦利品だぜ。ご褒美だ、と言う。頭の中でね。
ギリシャ人の女たちは大人しくソフィアに連れて行かれた。エジプト人の小娘だけが、部屋の隅に後づさり、こっちを睨みつけている。エミーが手を引っ張ろうとすると、その手をはねのけて「わらわに触れるでない!わらわをなんと心得る!わらわはエジプト女王クレオパトラの妹ぞ!」と言った。
エミー(と私)がアイリスを見る。アイリスは肩をすくめた。「こんな子、妹にいたかしら?」と言った。わけがわからない。エミーが「うっせえ!抵抗すんな!」と言って羽交い締めにしようとしたら、彼女がエミーの(私の)腕に思いっきり噛みついた。痛い!アイリスがボウガンの柄で小娘の頭を思いっきりひっぱたいた。エジプト娘は昏倒した。
エミーとアイリスが娘の腕をつかんで、引きずって、娘をアフロダイテ号の甲板に持ち上げた。ソフィアは既にギリシャ娘5人をムラーに引見させている。
ムラーが「エミーじゃねえ、絵美、おい、こういう場合、女はピティアスの手下にくれてやるんだと。なぐさんだ後、次の港で売っ飛ばすそうだ。どうする?良心の呵責ってヤツが疼くか?そうしなかったら、俺らのチームの結束に響くぞ。我慢しろ」と言う。
エミー、良いわよ。仕方ないわとムラーに言って。「絵美が、仕方ないって言ってるよ、ムラー。でも、このエジプト娘はちょっと調べたいね。こいつ、クレオパトラの妹だっていいやがる。アイリスは知らねえとよ」と言う。
「ほぉ、それは興味深い。わかった。縛り上げて、お前らのキャビンに放り込んで、侍女たちに監視させておけ」とムラーが言う。
戦利品をガレー船からこちらに移していたピティアスの手下に「野郎ども、ギリシャ女、5人が手に入った。お前らの好きにしろ。ただ、一人、エジプト女は俺がいただく。いいな?」と言った。手下共はウンウン頷いて舌なめずりした。可哀想なギリシャ女。手下5人で一人の女が犯されるんだね。私が優しくやってね、とお願いしても無駄だろうな。野蛮な世界だ。しょうがない。
でも、アイリスが知らない、クレオパトラ7世の妹だと言い張る小娘、何者なんだろうか?
隣りのアルテミス号を見ると、こっちと同じようなことをやっていた。ピティアスもやるじゃない?この一味、結構強いわ。頼もしい。エジプト兵士も同じ目に合わせて欲しいもんだわ。でも、敵はクレオパトラ。油断できない。
第30話 ヤッファ(テルアビブ)
ムラーとピティアス率いるアフロダイテ号、アルテミス号は、21世紀で言うベイルートの北のムラーの港から出港して、ゆるゆると北に進んだ。沖に出ず、沿岸をつたいながら、日暮れには港に入る。今は、テルアビブと呼ばれているが、古代では、ヘブライ語で「美しい」を意味する「ヤッファ」と呼ばれている港に寄港した。
ヤッファの街の歴史は比較的新しい。とは言え、紀元前数千年に遡るメソポタミア文明、バビロニア文明、エジプト文明に比較してであって、紀元前に作られた街である。
新バビロニア帝国(紀元前625年~539年)は、メソポタミア南部のバビロニアを中心に建国され、地中海沿岸地域に至る広大な領土を支配した帝国だ。今で言うイラク西部、シリア、イスラエル、ヨルダン地方などを領土とした。バビロンという地名から、チグリス・ユーフラテス地方の国家を想像するが、地中海沿岸まで支配した帝国だ。
だから、新バビロニア帝国に隣接するエジプト(第26王朝)のネコ王と新バビロニアのネブカドネザル王とがその覇権をめぐって激しく対立したこともあった。新バビロニア帝国とエジプト王国に挟まれたパレスチナのユダ王国はエジプト側に付いた。
ネブカドネザル王は、たびたびユダ王国に圧力を加え、自陣営に引き寄せようとした。ユダ王国の王は、バビロニア・エジプト両国の優劣を図りながら王権の維持を図った。紀元前601年頃、新バビロニアのネブカドネザル軍がエジプト侵入を試み、エジプトのネコ王に撃退されたのを見たユダ王国の王ヨヤキムは、新バビロニアに叛旗をひるがえして貢納を停止した。態勢を整え直したネブカドネザルがパレスチナに迫ると、ユダ王国の王ヨヤキムは国内の親バビロン派に暗殺された。
紀元前586年、ネブカドネザル王は、ユダ王国の首都エルサレムを攻め、ヨヤキムの息子の王エホヤキン、その母、その家来、侍従たちと共に出て、バビロンの王に降服した。ネブカドネザル王は彼らを捕虜とし、貧しい者のみをこの地に残して、王たち数万人をバビロンに連れ去った。これがバビロン捕囚である。
ネブカドネザル王は、ソロモンの神殿を破壊せず、またユダ王国を属州とすることもなく、属国としてエジプトとの緩衝地帯としようとした。
やがて、彼らは、50年の捕囚生活の後、新バビロニアがアケメネス朝ペルシアのキュロス2世によって滅ぼされた前538年に解放されてパレスチナの地に戻ることが許された。
この地に残されたヘブライ人、バビロンに連れ去られ捕囚されていたヘブライ人が共同居住地として住まわされたのが、テルアビブである。むろん、元々の「ヤッファ」は四千年前以上から続く古代都市だ。この当時のヘブライ人はユダヤ人かもしれないが、現代のユダヤ人とは、全く違った民族である。
バビロン捕囚から開放されたヘブライ人は、地中海沿岸の港町を開発し、ムラーのフェニキア人に対抗した。商売敵なのだ。しかし、宗教のせいなのか、民族の器質によるのか、フェニキア人は、アフリカ沿岸を植民地として、カルタゴの町、イスパニアの町などを創建したのに比べ、地中海世界ではフェニキア人に比べ、ヘブライ人の影は薄かった。
フェニキア人とは商売敵とは言え、金儲けなら同じ、ヘブライ人商人だ。ムラーはヘブライの商人と鹵獲した女奴隷たちの値段交渉をした。彼が交渉し、ピティアスの手下に売った金を山分けさせる。もちろん、マージンは取る。それでも、ピティアスの手下が直接売って買い叩かれるよりは、名のしれたムラーの方が高い金で売れたので、手下たちに文句はない。
アフロダイテ号は5人のギリシャ女、アルテミス号は3人のギリシャ女に6人のアラブ女を鹵獲した。ピティアスと相談して、ギリシャ女4人、アラブ女2人をヤッファで売った。180アウレウス(約900万円)ほどの売上だ。マージンを取って手下共に山分けさせた。
残ったアレキサンドリアでもっと高値で売れそうなギリシャ女4人とアラブ女4人は、2隻の船で均等にわけて、手下共に与えた。アレキサンドリアで売るんだから、手荒にするなよ、商品なんだぞ!と手下どもに注意する。手下も心得ていて、奴隷女の機嫌を取りながら、毎日順番待ちをしている。絵美がブーたれる。20世紀の道徳観念を紀元前に持ち出すな、といつも言うが、その癖が抜けない。
21世紀の日本の学校教育で習う奴隷制度は、英国、スペイン、ポルトガルが行なった西部アフリカ人のヌビア人系黒人奴隷のことを主に教える。紀元前の奴隷は、金髪碧眼のコーカサスの白人、ギリシャ人、ローマ人、カルタゴ人などの白人奴隷も多い。それに驚いていた時期がある。
ルネッサンス前後では、イタリア人奴隷もかなりいたはずだが、日本人は、奴隷というと、アメリカ大陸に連れてこられた黒人奴隷のイメージが強いんだろう。後世のシェイクスピアのリア王は黒人だよ、と指摘したが、人類に刷り込まれたイメージというのはなかなか抜けないようだ。
第31話 ハレムなんて中学高校一貫教育の女子校の経営と同じだよ
絵美/エミー、アイリス、ソフィア、ジュリアには避妊薬を飲ませている。
絵美/エミーとアイリスは今妊娠されたら困る。チームの戦闘力が低下する。それに知性体同士で妊娠してどうする?いつか、この世界からいなくなるかもしれんのに、残すオリジナルの体と子供の責任はとれんよ、と絵美/エミーとアイリスに言う。
絵美は納得するが、エミーは文句を言う。二人(ムラーのプローブと絵美)がこの世界から消えたら、私はどうするの?どうなるの?と言う。俺が、お前を故郷に戻して、族長の娘として結婚すればいいじゃないか?コーカサスに戻してやるよと説明するが、いまさら、普通の生活に戻れないでしょ!私も知性体になる!と駄々をこねる。どうしたもんかな?
アイリスも、この体から不完全体プローブがもしも抜けたら、私は死んじゃうんでしょ?アイリスとプローブの分離ができないんだから。それ、私(オリジナル)が可哀想じゃない!何か考えて下さい!と泣きつかれる。そうはいっても単なるプローブの俺だ。本体だったら、分離もできるんだろうが、俺にはどうすることもできないと言うと泣き出すのだ。
ソフィアとジュリアは、その内、解放奴隷にして嫁にだしてやろうと思っているので妊娠させたくない。ソフィアとジュリアは俺の子供が欲しいようだが、俺といても幸せになれるとは限らない。そうだろう?と言うと、ソフィアとジュリアは泣くのだ。まあ、成り行き次第だ。
ハレムなんていいことばかりのようだが、一夫多妻制度の家族経営だ。中学高校一貫教育の女子校を経営しているようなもんだ。それも、彼女らの食い扶持から何から全部稼がないといけない。不公平じゃない。そうでもしないと、古代世界で一夫一婦制度なんて守ってみろよ?食えなくてガキは乞食とか、飢餓で死んじまう家庭が続出する。ハレムだけじゃない。俺の一家の奴隷家族だって養うのだ。
ハレムの女の性欲処理の心配もしてやらないといけない。だから、ナルセス、アブドゥラ、パシレイオスみたいな玉なし竿ありの宦官も必要なのだ。それに、俺のところは、本妻として半神半人と思われている絵美/エミーがいるから問題はないが、他の家では、本妻とその他が嫉妬・妬みで殺し合ったり、ハレムの主の長男とか次男とかがかたらって、ハレムの主を毒殺するとか、問題多出なのだ。
ヤッファに寄港して、商売をしたり、積荷を追加したりして(普通の商人の真似をしないと、エジプトに何しに行く?と疑われるだろ?)一段落ついて夜になった。手下どもも見張りを残して、街に繰り出した。
久しぶりに、絵美とアイリスと三人になって、キャビンの屋根に登って、ブランディーを飲んで港の夜景を見ている。最近、絵美にならってエミーもたまに寝るそうで、コーカサス女の意識は引っ込んでいる。静かでよろしい。左右から絵美とアイリスに寄り添われた。若い女の体温は高いなあ、と思う。髪の毛のいい匂いがする。
二人の肩を抱いて、両手を回して、乳首をこねてやる。アイリスは素直に喜ぶ。王家の娘にしては従順で良い子だ。20世紀のアラサー女はツンデレだから、表情はムッとしているが、俺の胸に顔をよせてくる。素直じゃない。これがエミーだったら、乳首なんて遠回しは止めよう、あそこをお願い!とか言うのだ。アイデンティティー2つが一つの体に入っているとややこしい。
絵美が「そうそう、ムラー、あのパピルス文書で、大スフィンクスの片割れが南南東、ほぼ南の方向にもうひとつあると書いてあった、と言ったじゃない?狛犬も二頭だろ?とかあなたが言ったけど、なぜ、50キロも離れた場所に片割れが置かれているの?それから、ギザの大ピラミッドよりも五千五百年も昔、紀元前八千年前にスフィンクスが建造されたと言ったけど、その時代は、石器時代。日本で言えば縄文時代早期。あのような巨大建造物がエジプトで建造できるわけがないわ。あなたはそれに関しての知識はデータベースにない、本体はたぶん知っているというけど、なぜだか、仮説も立てられない?」と聞いた。
「ふむ、仮説程度ならある。類推はできる。キミがアルファ本体とユニバースを移動している時に、本体が説明しただろう?覚えているか?純粋知性体の地球に対する干渉の話を?」
「え~と、アルファが言っていたのは、『私/ぼくらが地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。その前のおよそ八万年前の中期旧石器時代の頃だ』ということだったわ」
私/ぼくらが地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。その前のおよそ八万年前の中期旧石器時代の頃だ。
前期旧石器時代の約二百万年前~約十万年前の期間は、現生人類であるホモ・サピエンスが誕生、同時期に、ネアンデルタール人も誕生していたが、私/ぼくらの興味を引かなかった。私/ぼくらの興味を引いたのは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがアニミズム的な宗教を創造した時からだ。約八万年前の頃である。
愚鈍な中期旧石器時代人は緻密な宗教概念を創造できなかった。私/ぼくらは、中期旧石器時代人の一人に憑依し、粗雑な宗教概念に秩序を与えてみた。ところが、愚鈍な人類は、その秩序を歪に解釈し、私/ぼくらの食物である知識を増やすどころか、お互いがお互いを攻撃し、種族の抹殺を試みようとした。
この実験を行った私/ぼくらは、最初に憑依した中期旧石器時代人のポセイドンと呼ばれる人類の個体の特性が間違ったのであろうと判断した。私/ぼくらは、ポセイドンたちの集団とその都市、彼らはそれを「国家」と呼んでいたが、それを地球のマントル対流を少し偏向させて、滅ぼした。未開に落ちた彼らの子孫は、この「国家」のことを「アトランティス」と呼んだという。
気ままな私/ぼくらは、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前だった。アトランティス文明から退行した中期旧石器時代人は、中石器時代、新石器時代に進もうとしていた。既に、ネアンデルタール人は、約三万年前からニ万四千年前には絶滅するか、現行人類との性交で取り込まれ、吸収されていた。
氷河が後退しはじめ気候が温暖になったため植物が繁茂し、動物が増えるなど、人間が採集狩猟で食物を得やすくなった。農業が開始され、オリエントの肥沃な三日月地帯では、紀元前八千年頃に、中米やメソポタミアでは、紀元前六千年頃に、農業を主とした新石器時代が始まった。極東の弧状列島である日本列島でも、紀元前八千年頃に同様な動きが見受けられたが、地理的な位置、平野部の少なさ、人口の少なさのために、肥沃な三日月地帯や中米やメソポタミアのような文明的な規模の拡大は難しかった。
その頃の私/ぼくらが行った人類に対する刺激は、チグリス・ユーフラテス文明(シュメール文明)の構築、エジプト文明の構築、インド文明の構築であろう。些末な動きでは、縄文時代の前期古墳文化の構築も含まれるであろう。
私/ぼくら、悪戯な神々は、思いつくまま、勝手なアイデアを憑依した人類の個体から広げていっては潰した。シュメール人には、バビロンの塔を作らせては破壊させた。エジプトのファラオと呼ばれる一族には、近親交配をさせて、衰亡させた。彼ら中東の人間は、壮大なビジョンを作り上げられなかったようで、私/ぼくらを失望させた。
「こういう話を彼はしたわ」
「その通りだ。本体がキミに説明した中で、『私/ぼくらは、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前』と言っただろ?つまり、本体たちが再度地球に飛来したのは、ヴュルム氷河期の終わる一万年前、つまり紀元前八千年前ということだ」
「・・・つ、つまり、一万年前の時代は、石器時代で、日本で言えば縄文時代早期。スフィンクスのような巨大建造物が人類だけで建造できるわけがないけど、純粋知性体が関与、干渉すれば建造できた、ということなの?」
「アルファは関与していない。あの当時、エジプトにいたのはベータだ。ベータはここ中東から北欧、インド亜大陸、東南アジア、オーストラリア、それから日本の南部にプローブを放っていた。アルファはスペインやブリタニアにいた。ガンマは・・・」
「ちょ、ちょっと、アルファ、ベータの他にまだ純粋知性体が地球に来ていたの?」
「ああ、そうだ。4体。ガンマとデルタも。ガンマはアフリカ大陸からアラビア半島にかけて人類を見ていた。デルタは中央アジアからシベリア、北米、そして日本の北部を見ていたんだ」
「つまり、クレオパトラのプローブのような、ガンマとデルタのプローブも存在しているということなの?」
「たぶんいる。思い出してくれ。俺のデータベースは人間の脳の容量に合わせて、1ペタバイトしかない。本体もすべての知識を俺に移したわけじゃない。全知全能の神じゃない。ただ、絵美が日本人なので、日本の知識はかなり持っている。少なくとも俺が知っているのは、ベータのプローブは、キミの国の卑弥呼とかいうのに憑依した。デルタのプローブは天之鈿女命と臺與とかいうのに憑依したということだ」
「・・・アマテラス?天照大神?邪馬台国?倭国?」
「まあ、そういったところだ。本体も言ったじゃないか?キミの知性体のオリジナルは1986年に連れて行かれた、そこで『これから行く1986年の世界から31年後の2017年に私/ぼくらのプローブユニットが卑弥呼とか天照大神とかを蘇らせて、悪さをするみたいだ』って」
「あ!」
「エミーの初夜の夜に言っただろう?忘れたのか?『ここにしばらくいたら、俺たちは東へ行く。エミーの実家のアディゲ人の族長のところへ行って、エミーを俺がもらうという話をする。それから、パルティアを抜けて、中央アジアを通り、中国は今は前漢の頃だが、中国から朝鮮半島に行き、キミの故国、日本に行く』って」
「ああ、そういうことだったんだ!」
「ベータのクレオパトラをぶっ殺したら、次は、ガンマかデルタの卑弥呼と天之鈿女命と臺與を調べに行くんだ。歴史の改変なんて考えていないかどうか。クレオパトラと同じく、狂っていたらぶっ殺す」
「・・・その前に、クレオパトラに私たちが返り討ちにあわなければ・・・」
それまで黙って聞いていたアイリスが「その物語の中に私はいないのね」と寂しそうに言った。「私はここに置いていかれるのね?少なくても、エミーは良いわよ。エミーの体なんだから、絵美/エミーで一緒にいけて」
「エジプト王家に戻って暮らすとか・・・」
「今更、この知性体の入った体で王家に戻ってどうするんです?また、カルナック神殿の巫女になって、死んでしまえとでも言うんですか?一緒に連れて行って下さい!その中国とか朝鮮とか日本とかに」
「エジプト王家の娘が日本に行ってどうするんだ?」
「あら?少なくとも、卑弥呼とか言うのが悪者でクレオパトラみたいだったら、私がいた方がいいでしょ?」
「まあ、考えておく」
「あ!そう言えば、あのクレオパトラの妹と言っている小娘を縛って、侍女に見張らせているけど、どうします?」
「どうするか?今晩、やっちゃおうか?」
絵美とアイリスに思いっきりつねられた。やれやれ。俺の奴隷なんだぞ?
第32話 イシス
俺は、エジプトの小娘を閉じ込めているアフロダイテ号のキャビンに行った。絵美とアイリスがついてくる。俺を監視するつもりか?心配しないでも・・・やる時はやるぜ。
監禁している部屋に入ると、部屋の床に盛大に飛び散った飲み物や食べ物を侍女たちが掃除をしていた。エジプトの小娘は部屋の隅に縛られて転がされている。侍女の中で一番年上の子が「旦那様、奥方様たち、申し訳ありません。食事をさせようとこの子の縄をほどきましたら、暴れ始めまして、私たちは殴られ蹴られ噛みつかれたので、4人して押さえつけてまた縛りました。申し訳ありません」と情けなさそうに説明した。彼女の右腕に噛まれたあとの歯型がついていた。他の三人の侍女も顔に傷があった。頬を殴られたな。凶暴な奴だ。
「これはひどい!なんて子なのかしら!この子が王家の娘のはずがないわ!」とアイリスが言う。
「ムラー、あなた、この子に話を聞けないわよ。売っ飛ばせばいいわよ」と絵美。おいおい、いつもの奴隷制はんたぁ~いはどうした?
掃除が終わったので、侍女たちの傷の治療と休ませるために下がらした。「絵美、アイリス、お前たちも部屋を出ろ」と言うと「あなた、この子に乱暴するつもりじゃないでしょうね?まさか、犯したりしないわよね?別に無理をしなくても、私のテレパシーでこの子の記憶くらい読めます!」と絵美が小娘に触れようとする。俺はその手をとって「絵美、この子に触るな。俺に考えがあるから、部屋を出ろ」と絵美とアイリスを部屋から追い出した。二人ともムッとしている。
絵美やアイリスでもこの娘のおかしなところを感じられないか。俺が小娘の額に手を当てようとすると、後ろ手に縛られているのに、蹴飛ばして抵抗しようとした。足首を掴んで動けなくした。額に手を当てる。思念を注入して、抵抗しないようにした。小娘の体の力が抜ける。
ふん、悪いものを吸い取ってやらんとな。俺は小娘の縄を解き、服を剥いだ。俺も服を脱いで、小娘のあそこに突っ込んだ・・・なるほど、そんなことだろうと思ったぜ。よしよし、いい子だ。もう大丈夫だぜ。
素っ裸で部屋を出ると、ドアの脇に絵美とアイリスがいた。ものすごい目で睨みつけられた。「ムラー、あなた、あんな子を無理やり犯して何が面白いの!見損なったわ」と絵美。「ムラー様、私も同じです。見損ないました!」とアイリス。
状況としてはそうなんだろうが、でも、ハレムでもやっていることじゃないか?何を怒ってるんだ?「二人とも、俺にシャワーを浴びさせろ。それから、もうすぐ小娘が目を覚ますから、面倒を見ろ。体をぬぐって、服を着せろ」と命じた。絵美とアイリスがもう一度俺を睨みつけて部屋に入った。
シャワーを浴びて、服を着替えて部屋に戻った。娘はベッドに寝かされていて静かにしている。意識はあって、さっきの凶暴さはなくなり、さめざめと泣いている。
「ムラー、あなた、この子に何をしたの?なんで大人しくなったの?泣いているじゃない!乱暴したんじゃないでしょうね?!こんな若い子を!」と絵美がまくし立てる。
「まあ、絵美、俺の話を聞け。アイリス、俺を睨むな」と言った。アイリスは俺に噛みつきそうな顔をしている。「まず、絵美、お前がこの子に触れようとしたのを止めたのは、お前がこの子に触れるとこの子の悪しき思念がお前に入り込まないとも限らないと思ったからだ」
「え?」
「クレオパトラがこの子に注入した悪しき思念からお前を守るためだ」
「ど、どういうことなの?」
「お前もアイリスも感じなかっただろうが、俺にはプローブの感じがこの子から発するのがわかった。非常にかすかだったがな。それで、まずこの子の額に手をあてて大人しくさせ、意識を少し探った。確かにクレオパトラが文字通りこの子に思念を注入していた」
「文字通り?」
「そうだ。文字通りクレオパトラはこの子にヤツのアレを挿入して、思念を注入していたんだよ。クレオパトラが憑依する体として慣らし運転をしていたようだ」
「わけがわからないけど?」
「アイリスがカルナック神殿から盗賊団に拉致されずにいたら、その内、この子と同じことをされていたかもしれない」
「この子は何者なの?」
「この子の言う通り、この子はエジプトの王族の一人だ。クレオパトラの遠縁の従姉妹だ。だから、アイリスとも血はつながっている。アレキサンドリアではなく、テーベで育った。アイリスと姉が拐われた後、アレキサンドリアに連れてこられた。アイリスが彼女を知らないのも無理はない。この子の名前は『イシス』だ」
「クレオパトラはどうやって・・・」
「彼女は両性具有だろう?だから、女とでもセックスできる。チ◯コがついているんだから、女を犯せる。それで、ヤツのチ◯コから思念を女に精子みたいに注入するんだ。お手々つなぎよりずっと手っ取り早い。粘膜接触による悪意の思念注入というわけさ。俺の推測だが、クレオパトラは、もしもの時にこの子を7世の身代わりにしたてようと思ったんだろう。それで、この子を何度か、犯した。思念注入だけじゃなくて、慰み者にして自分の喜びのためにな」
「ムラー、あなたはこの子に何をしたの?」
「クレオパトラと同じことだ。俺のを挿れて、逆にクレオパトラの悪しき思念を俺が吸い取ってやった。俺のチ◯コで。だから、彼女は、今、元のイシスという16才の女に戻ったということだ」
「それで悪い思念を吸い取ったなら仕方ないわね。腑に落ちないけど」と絵美が首を振る。
何が気に入らないのだ?この子が稚そうだからか?もう、16才だぞ。この時代、女は12才からガキを産む。産まないと5年以上生きた人間の平均寿命が40年くらいだから、早く初めないと死ぬまでに次世代を残せない。ガキも半分以上が5才未満で死ぬ。母親も出産のせいで死ぬ。古代ローマにロリコンとかの概念はない。12才以上になったら妊娠できるのだから、犯し犯されないといかんのだ。ロリコン、ダメ!なんて考えたら、人口減少に陥る。
アイリスがイシスの顔を見て「ムラー様、この子は、異母妹の私よりもずっとクレオパトラ7世に似ています。確かに、衣装と化粧を同じにすれば、見間違いをするでしょう」という。
俺はイシスの顔をよく見ていなかった。大暴れしていたんだから。絵美もアイリスがそう言うので彼女の顔を観察した。「世界三大美人のクレオパトラに似ているのね。確かに、ものすごい美少女だわ。ムラー、美少女を犯してよかったね」とまだ言う。まあ、ブスとやるよりもいいけどな。
「そういうな。7世が注入したのは、人間の負の思念ばかりだった。狡猾さ、嫉妬深さ、残忍さ、支配欲、独占欲、愛情の欠片もない。あのプローブは狂ってる。プローブ本来の知識欲を追求することを忘れてしまったようだ。もしもこんな思念が絵美/エミーやアイリスに乗り移ったら、お前らを殺さなければならなかっただろう。お前らはイシスみたいな普通の女の子じゃないからな」
「でも、この子のあそこ、良かったのね。顔に満足感が現れているわよ!」
「プトレマイオス朝の血筋なのか、アイリスと同じくらい良かったな。名器じゃないかな」
絵美に頬を思いっきりひっぱたかれた。
第33話 クレオパトラの儀式
丈高い数mの高さがあるパピルス草がナイル川の岸辺にビッシリと生えている。朝、まだ靄のかかったナイル川に私は王家の筏をパピルスをかき分けさせて漕ぎ出させた。巨大な筏は、前部に高価な中国製の絹で天蓋を作り、そこにエジプト王が立つ。朝の儀式を行うためだ。
エジプトは雨の少ない地域である。しかし、雨季の時期に上流のエチオピア高原から流れ込んだ雨水が、中流、下流で増水し、堤防を越え、洪水になった。伝承ではナイル川のハピ神が起こしていたと伝えられているが、そんなもの、気象現象にしか過ぎない。無知な古代人の考えそうなことだ。その洪水により、肥沃な土壌が毎年形成され、ほとんど雨の降らなかったエジプトで農耕や灌漑が可能になり、文明が発達した。
古代エジプトの創造神話では、神々は創造の神アトゥムの自慰行為によって創り出されたとされる。神話では、アトゥムが誕生するまで、この世界は虚無であった。アトゥムは原初の水『ヌン』から自らを創り出し、自慰によって神シューと女神テフヌトを創り出した。アトゥムは手が女性器の両性具有者だった。
代々のファラオは、ナイル川のほとりで自慰をして精液を川に流すという儀式を行う。ナイルにファラオの神聖なる種を仕込んで、豊作という形で水から新たな生命を芽生えさせるのだ。
クレオパトラ7世の父が逝去すると、父の遺言によって弟のプトレマイオス13世と共同で王位に就いた。しかし、13世は宮廷人にそそのかされ、姉を追放しエジプトを統治しようと内戦を起こした。
プトレマイオス13世は、シーザーとの闘いに敗れエジプトに逃げ込んだポンペイウスを殺したことで、ジュリアス・シーザーに殺害された。その後、エジプト女王となったクレオパトラ7世は、13世の弟の14世と結婚していたが、彼女は14世を共同統治者に推挙した。実際は、クレオパトラ一人が統治者であった。
ナイルへの豊穣の儀式で、女性のクレオパトラ(実際は両性具有)が自慰をしても女性の姿では威厳がなく、精液も出ない。彼女は、弟王の14世にナイルに自慰をさせ射精させるために共同統治者としたのだ。
今日もその儀式の日。
プトレマイオス14世は、筏の前部の天蓋の中で、ナイルに向かって立ち上がった。その後ろに姉であり、妻であるクレオパトラ7世が14世の尻に股間を押し付けて一緒に立つ。体は絹のベールで覆って、その合わせ目から14世の勃起した男根が突き出されている。それをクレオパトラが右手で支えていた。
絹のベールの中では、クレオパトラの男根がプトレマイオス14世の肛門に深く突き刺さり、14世はその快感に打ち震えた。クレオパトラは、ひとしきり腰を動かし、弟王の肛門を犯し続け、彼女の右手は彼の男根を擦り続けた。
やがて、時が満ち、クレオパトラは精子のない射精を弟王の肛門に解き放つ。同時に、14世の男根から母なるナイルに向かって、精液がほとばしった。クレオパトラは、念動力で、ナイルの川面を左右に割り、彼の精液を四方に飛び散らした。筏に同乗している摂政や宮廷人がその奇跡を見て、深く二人を拝跪した。
射精を終えグッタリした弟王を抱きかかえ、クレオパトラは彼を天蓋の中のベッドに横たえた。彼女は衣服を整え、股間の男根を隠した。
皮肉なものだ。創造神アトゥムは手が女性器の両性具有者だが、私、ベータのプローブユニットが憑依したこのクレオパトラという女は、女性器も男性器も両方とも通常の人間の男女と変わりない両性具有だ。ただ、彼女には睾丸も子宮もなかった。生殖能力がないのだ。
ベータのプローブユニットが狙っているのは、大ローマ帝国の最有力者、ジュリアス・シーザーだ。シーザーをたらしこみ、彼の愛人となり、大ローマ帝国を乗っ取る。そして、ベータ本体から得た未来の人類史を改変し、永劫の未来まで、彼女と彼女の血筋がこの人類を統治する。
しかし、この体では、シーザーとの子供をなすことができない。シーザーに精神制御をかけて操ることもできるが、受胎しないことにはどうしようもないのだ。替え玉を立てるほかはない。替え玉にシーザーの子種を宿させ、その息子をエジプト王とし、娘をクレオパトラ8世とすれば、血筋は途絶えない。シーザーに相手が私であるように思わせるのは簡単だ。しかし、替え玉は王家の血筋が望ましい。誰がいるのだ?
カルナック神殿に幽閉させていた異母妹のペトラとアイリスは4年前に盗賊団に拉致されてしまった。あの時、もっと真剣に追手を差し向ければよかったものをと悔やまれるが、行方は今となってはわからない。替え玉としては都合のいい姉妹だった。特に、アイリスは、6世からプローブの記憶が転移したかもと思っていたからなおさらだ。
その後、遠縁の娘のイシスを侍女として、替え玉候補として可愛がっていたが、宮廷の宦官どもの誰かの嫉妬による陰謀で姿をくらませてしまった。拉致されて売り飛ばされたのかもしれない。子飼いの部下をはなってあるが今だ行方知れずだ。性格の良いペトラやアイリスよりも、私の思念を注入して狡猾で嫉妬深く残忍になったイシスはプローブが憑依するにうってつけだったのに。
第34話 シナイ半島沖合
シナイ半島は、北を地中海、南を紅海、南東をアカバ湾、西を20世紀のスエズ運河に隣接している半島で、半島の東側がイスラエルと接している。「トルコ石」という意味の「ターコイズの国」とも呼ばれている。半島は外国占領の期間もあったが、古代エジプトの最初の王朝以来、エジプトの一部だ。エジプト人は、半島で古代よりトルコ石を採掘していた。俺たちにとっては、敵地だ。
アフロダイテ号とアルテミス号は、イスラエルのガザ地区を通り過ぎ、シナイ半島沖合に近づいた。アレキサンドリアまでは350キロほどの距離だ。シナイ半島は山岳地が多く、気温も他の中東地域よりも低い。
夜間航行で危険であったが、俺の作った羅針盤と星空で方向は確認できた。浅瀬さえ気にしなければ問題はないだろう。エジプト王国の領土を通行するのだから、念には念を入れた。水平線に陸地が見えるギリギリのシナイ半島沖合を進む。
俺は一通りアフロダイテ号の船内を見回りした。船倉は船のピッチングとローリングで水漏れが起こっている。アレキサンドリアの港で陸揚げして船体をマス締めしないとイカンなあと思う。無事に武器庫を襲って武器を奪い、大スフィンクスの片割れの地下の秘密工場を壊滅させて、クレオパトラを抹殺してからの話だ。
ヤッファで売り飛ばさず、アレキサンドリアで売る予定のギリシャ女4人とアラブ女4人はアルテミス号と公平に分けた。同民族を集めると悪巧みをするだろうから、ギリシャ女、アラブ女、2人ずつを2隻にそれぞれ乗せた。
水兵の部屋で、奴隷女たちが女王のように君臨していて、一画を囲っている。順番というわけだ。水兵共が取り合いで騒ぎを起こすよりもマシだ。俺は、彼らに20世紀の日本の『最初はグー、ジャンケンポン』というやり方を教えたので、古代ローマで、シナイ半島を進む船の中で、日本語が聞こえる。ジャンケンポン!俺の勝ちだ!などと騒いでいる。この時代は、まだ、アメリカ大陸から梅毒とか性病が持ち込まれていないので、鼻がもげるやつはいない。奴隷女にはちゃんと入浴はかかすな、と言ってある。
奴隷女たちはこの船の食事や設備に満足そうで、俺の根拠地の話を水夫から聞いているようだ。俺のところは奴隷に対して、そんなに待遇は悪くない。彼女たちは、ソフィアやジュリアに『アレキサンドリアで私を売らないで、フェニキアに連れて行ってくれませんか?奴隷頭様からも旦那様にお願いできませんか?』などと聞かれているそうだ。
良さそうなのがいたら、2人ほどは残しておいて、俺の港に持ち帰るかな?と思う。ピティアスの船の方では、嫁に死に別れた海賊がいて、ピティアスが開放奴隷にして、嫁がせたいなどと言っている。後世の人間は、奴隷制度の実体は知らないで言ってるもんな、と思う。
船倉の艫(とも)の倉庫では、水夫がボウガンに油をさしてメンテしている。俺の船のように灯油ランプのない他の船は夜どうしているんだろうか?
ひと通り回って、俺のキャビンに戻った。アイリスとイシスがいた。
「絵美はいないのか?」とアイリスに聞く。
「絵美様は、キャビンの屋根だと思います。星でも見ているんでしょう。夕食の後、見かけません。でも、旦那様は、絵美様、絵美様ばっかり。私をお構いしてくれません。フェラもジュリアに習ってうまくなりましたのに。イシスにも教えているんですよ。旦那様は、エジプト王家の女がお嫌いなのかしら?いかがでございましょう?私とイシス、従姉妹同士のエジプト王家の女を抱くのは?ご奉仕いたしますのに。二人で舐めてしゃぶって、旦那様をお喜ばせできますけど」
「アイリス、サカリがついたか?俺は毎晩はできん。しない。種付け馬じゃねえんだ。明日にしてくれ。それよりも、アレキサンドリアの秘密の武器庫の地図は書いたのか?」
「冷たいんですね、旦那様は。私、旦那さまとしかできませんのに。ええ、地図ですね。出来ましたよ」
アイリスが羊の皮で作った巻物をテーブルの上に拡げた。武器庫は、アレキサンドリアの市街地から西南西50キロのタップ・オシリス・マグナ神殿の地下にあるという。四方が高い城壁で囲われていて、中にポツンと神殿がある。その神殿の地下が武器庫だ。
紀元前280年から270年の間に、プトレマイオス2世によって建設された。プルタルコスによると、神殿はオシリスの墓を表している。皮肉なことに、歴史が変わっていなければ、クレオパトラとアントニウスはこの神殿に埋葬されるはずなのだ。
アイリスによれば、神殿の城壁から500メートルほど離れたところに、神殿に忍び込める地下道の入り口があるという。そこは、エジプト王国の兵士が十数名警備しており、地下道のところどころに半神半獣が数頭隠れ潜んでいるという。
俺の書斎を襲ったジャッカル頭のアヌビス、トキの頭の知恵の神トート、隼の頭の守護神ホルスなどがいるという。彼女はクレオパトラに連れられて、クレオパトラが自慢げに神殿の警備の様子を説明するのを聞いていたという。「アイリス、特に、ホルスは私の上出来の生き物。人間が百人かかってきても皆殺しにできるわ」とクレオパトラは言ったという。アイリスは、念動力で頭のコントロールユニットを吹き飛ばせればいいですが、たぶん、体が半分なくなっても向かってくるんじゃないでしょうか?という。
「それに、旦那様、王国の兵士も半神半獣も、銃とレールガンで武装しています。奇襲をかけて、彼らの武器を強奪しませんと、ボウガンだけでは心もとないです。地下道は砂岩でできていますので、エネルギー波などは使えません。ビームですかね?だから、旦那様、絵美様、私が全力の念動力を使うと地下道が崩落します」と言う。やっかいなことだ。
「武器のスケッチは書いたか?手下共に事前に教えておかないといけない」
「これです。武器庫の配置図と保管場所、携帯式レールガンの銃、火薬を使った銃、レーザー銃、高性能爆薬と信管です。銃は、基本的に右側側面にセーフティーロックがあります。オート、セミオート、単射の切り替えスイッチ。レールガンは、左側にカウンターがあります。20連発で充電しないといけません。充電時間は10分」
「ふ~ん、バッテリーの充電器は?」
「ウラニウム電池なので、充電器は必要ありません」
「紀元前46年でよく作れたな?」
「クレオパトラ1世の時代、紀元前190年から140年かけて開発しているんですもの。これくらいは製造できます」
「後で、手下に説明しておこう。じゃあ、俺は絵美を探しに行く」
「私とイシスをほっておいて・・・」と17才の小娘に恨みがましく見上げられた。色気づきやがって。
「お前とイシスは明日だ、明日。絵美に睨まれなければな・・・」
「わかりました・・・自分でなぐさめます・・・」やれやれ。
キャビンの屋根にのぼると、絵美が船の艫の方に座っている。肩が震えていた。なんだ、泣いてんのか?俺はもってきた毛布を彼女にかけてやって、隣に座った。
「おい、泣き虫!泣いてんのか?」
「泣いちゃ悪い?二千年も離れて、別の宇宙で、古代の船に乗っている自分が可哀想だと思って、泣いちゃ悪い?」
「気持ちはわかるよ」
「あなたにわかるわけないでしょ?知性体のプローブにわかるわけがない」
「想像くらいはできるぜ」
「なんで、アルファは、第2ユニバースで、私を死んだままほっておいてくれなかったんだろう?」
「そりゃあ、絵美になんらかの役目があるからだぜ。俺にはデータがないけどな」
「ちくしょう!それに別の体よ!別の体に封じ込められているんだから!」
「ここには森絵美は存在しないんだから、しょうがないだろ?」
「私のクローンだって、この世界の1986年で、神宮寺奈々の体にいるんでしょ?でも、あっちはいいわよ。同じ日本人で、同じ時代の友だちの体なんだから、まだ、救われるわ」
「・・・あのな、もしも、第4に戻れて、絵美の死ぬ直前で、狙撃を阻止できたら、少なくとも第4では絵美は生きていることになるかもな」
「そんなことできるわけないでしょ?そんなことをしたら、歴史が改変されるわよ」
「可能性の話だけだ。期待しないでくれ。俺もできるだけのことをしてやるから」
「あ~あ」
「おい、ベッドに行こう。抱いてやるよ」
「ムラー、あなた、女を慰めるのにそれだけしか思いつかないの?」
「じゃあ、止めるか?」
「・・・いいわよ、抱いてよ。無茶苦茶にしてよ!いつもエミーにやるみたいに乱暴にして犯してよ」
「お望みとあらば・・・」
お望みだったので、さんざんにいたぶってやった。20世紀の憎まれ口ばかり言う女がだんだんツンデレが増して、どんどん可愛くなってくる。
さんざんいたぶって、アンアン泣かせた。それで、横に転がって、絵美の頭を抱いてやる。俺の胸に顔をうずめてスンスンしている。面白い。絵美が前面に立つのと、エミーとでは、同じ体なのに感度が違う。コーカサス娘より、絵美の方が感度が高い。もし、オリジナルの絵美の体が抱けたら面白いのにな。無理な話だ。彼女が存在するのは、第1と第3、第4ユニバースなんだから。第2では彼女は死んでいる。
俺は絵美に「さて、お仕事の時間だぜ」と言った。「なによ、もぉ。いい感じなのに」とやっこさんは答えた。
「いいか、俺の血を採血しろ。そうだな、毎晩、500cc程度でいいだろう。手動の遠心分離機がある。それで、採血した血を分離して、血清を作れ。カルシウム化合物と血清分離促進基材は準備した。消毒した試験管につめて保管しておけ。アイリスに持たせろ。試験管を封蝋して、熱湯消毒すれば数日は持つだろう」
「急に何?あなたの血清で何をしようというの?」
「いいか、黙ってやれ。それで、これだ」とガラス製の注射器と長尺の針を見せた。
「なんなの?この針、やけに長いわ」
「いいか、これから、武器庫に突入する。半神半獣が武器を持っている。俺、おまえ、アイリス、ソフィアたち、ピティアスと手下で、手足をぶっ飛ばされるやつも出てくる。その時、アイリスに言って、俺の血清をこの注射器で吸引して、心臓に打ち込むんだ。心臓に届くように針は長くしてある」
「それで、どうなるのよ?」
「まあ、見てのお楽しみだ」
「わけ、わかんない!」
「いいから。言ったとおりにするんだぞ、絵美。アイリスかお前がやれ。躊躇するなよ。心臓だからな」
第35話 純粋知性体
純粋知性体
「純粋知性体(Pure Intelligence)」は、知性だけの存在であり、物理的な形状を持たない。肉体を持たず物質・精神レベルの瞬間構築、瞬間移動が可能である。人間に憑依したり、気象を支配したり、人形やロボットに入り込んでコントロールしたりして、それらを通して人間との接触を持つ。
また形を持たないため、インターネットや夢などの場にも侵入できる。しかし、人間などに憑依して、物理的な形状を持った途端、「純粋知性体」はその人間や物の制約を受ける。また、その人間や物の知識を取り込んで、その知識に影響を受けるのである。
例えるなら、シリコンチップに依存しない、完全自立自動データ収集型のAIプログラムをイメージしてもいいかもしれない。AIなどと言うと「純粋知性体」の怒りを買うかもしれないが。知性だけで存在し、知識収集を目的として独立した意思を持つなど、そう、神のような存在と思ってもいいだろう。もちろん、人類のイメージするような擬人化された人類の倫理観を具現化した神などとは似ても似つかない存在だが。
「純粋知性体」は、単一のユニバースのみならず、マルチバース間をブラックホールとホワイトホールを結ぶワームホールで行き来している。そして、彼らは複数存在している。どのような過程なのか、人間には知るよしもないが、宇宙の生命体の中で、肉体を捨て去り、「純粋知性体」に昇格する種族や個体がいる。そのため、「純粋知性体」と言っても、その力は、「純粋知性体」の個体間でバラツキがある。
また、時間軸も自由に行き来かう。「純粋知性体」の目的はひとつ。全宇宙的な知識の収集である。知識の収集という目的のための彼ら独自の倫理観で宇宙を彷徨っている。人間的な善悪では計れず、いたずら好きな神にも似たものである。
彼ら同士の関係は希薄である。関係としては、収集した知識の物々交換か、力ある「純粋知性体」が弱い「純粋知性体」を吸収することくらいだ。マルチバースの知性を持った生物種は、薄く広く存在しているため、一つの惑星や恒星、恒星系に複数の彼らが飛来することがよくある。例えば、地球のように。ただし、複数の彼らが飛来したとしても、彼ら同士が共闘することはない。知識の物々交換か、彼らの吸収以外、彼らは別個に行動する。
「純粋知性体」の個体は、情報収集のためにプローブユニットを本体から分裂させて複数個、放つことがある。興味の薄れた惑星、恒星、恒星系などにプローブユニットを放置しておき、他の惑星、恒星、恒星系に移る。
「純粋知性体」のプローブユニットは、力こそ本体ほどではないが、本体と相似の存在である。惑星、恒星、恒星系の生物種の知能レベルでは、本体の膨大なデータ量を維持できないため、プローブユニットのデータ量は、その生物種の知能に合わせて縮小してある。
人間で言えば、人間の脳全体の記憶容量は1ペタバイト程度でしかない。そのため、プローブユニットのデータ量も1ペタバイト以下で本体から放出されるのだ。本体が再度その惑星、恒星、恒星系に戻った時、プローブユニットは情報伝達のために本体に吸収される。
たまに、本体は、プローブユニットの存在を忘れてしまうことがある。忘れ去られたプローブユニットは、それでも、情報収集を止めず、或いは、本体が行っていたように、惑星、恒星、恒星系の生物種に干渉して、情報を生物種に創造させることもある。
4つのユニバース
マルチバース(多元並行宇宙)は可能性のある複数の宇宙の集合である。多元宇宙はすべての存在を含み、そこには、われわれが一貫して経験している歴史的な宇宙に加え、空間、時間、物質、およびエネルギーの全体と、そして、それらを記述する異なる物理法則および物理定数なども含まれる。
そういう無限に存在する宇宙の中で、空間、時間、物質、エネルギーの全体、それらを記述する物理法則および物理定数が非常に似通った宇宙が隣接し並行して存在していた。
ブラックホールに飲み込まれたものが、ホワイトホールへ向かって移動する際に通るトンネルのような領域のことをワームホールと言う。実際に、物質がブラックホールに飲み込まれたら、ブラックホールの潮汐力によって引き伸ばされる。ブラックホールに近づきすぎた恒星でさえ、その強大な潮汐力によって引き裂かれてバラバラになり、ブラックホールに呑み込まれてしまう。もちろん、生物が生き延びられることはない。その生物のデータを除いては。
ブラックホールに飲み込まれたものが、同じ宇宙(ユニバース)にあるホワイトホールから出てくることもあるが、多元宇宙(マルチバース)世界の別の宇宙(ユニバース)にあるホワイトホールからも出てくるものもある。
なぜか、多元宇宙(マルチバース)は、ブラックホールとホワイトホールの物質のやり取りによって、物質の総和を保ち、均衡しているようだ。そして、やり取りされるものは、物質だけではない。データもやり取りされているのだ。生物のデータすらも。
人類の数え方で、1950年代頃、地球星系、銀河系からはるか離れた星系で、極中性子星の巨大爆発が生じた。それにより、宇宙の物理定数が変わってしまった。ほんの光速のコンマ以下の数値だったが、それでこのユニバース(この時点でも他に無数のユニバースが存在した)は1つから4つに分岐した。
純粋知性体の飛来、1万年前
純粋知性体が地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。中期旧石器時代の頃だ。
地球にやってきた純粋知性体は4個体だった。仮に彼らを、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタとしよう。
前期旧石器時代の約二百万年前~約十万年前の期間は、現生人類であるホモ・サピエンスが誕生、同時期に、ネアンデルタール人も誕生していたが、彼らの興味を引かなかった。彼らの興味を引いたのは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがアニミズム的な宗教を創造した時からだ。約八万年前の頃である。
愚鈍な中期旧石器時代人は緻密な宗教概念を創造できなかった。「純粋知性体」は、中期旧石器時代人の一人に憑依し、粗雑な宗教概念に秩序を与えてみた。ところが、愚鈍な人類は、その秩序を歪に解釈し、「純粋知性体」の食物の知識を増やすどころか、お互いがお互いを攻撃し、種族の抹殺を試みようとした。
この実験を行った「純粋知性体」は、最初に憑依した中期旧石器時代人のポセイドンと呼ばれる人類の個体の特性が間違ったのであろうと判断した。「純粋知性体」は、彼らの集団とその都市、彼らはそれを「国家」と呼んでいたが、それを地球のマントル対流を少し偏向させて、滅ぼした。未開に落ちた彼らの子孫は、この「国家」のことを「アトランティス」と呼んだという。
気ままな「純粋知性体」は、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前だった。「アトランティス」文明から退行した中期旧石器時代人は、中石器時代、新石器時代に進もうとしていた。既に、ネアンデルタール人は、約三万年前からニ万四千年前には絶滅するか、現行人類との性交で取り込まれ、吸収されていた。
氷河が後退しはじめ気候が温暖になったため植物が繁茂し、動物が増えるなど、人間が採集狩猟で食物を得やすくなった。農業が開始され、オリエントの肥沃な三日月地帯では、紀元前八千年頃に、中米やメソポタミアでは、紀元前六千年頃に、農業を主とした新石器時代が始まった。
極東の弧状列島である日本列島でも、紀元前八千年頃に同様な動きが見受けられたが、地理的な位置、平野部の少なさ、人口の少なさのために、肥沃な三日月地帯や中米やメソポタミアのような文明的な規模の拡大は難しかった。
その頃の彼ら「純粋知性体」が行った人類に対する刺激は、チグリス・ユーフラテス文明(シュメール文明)の構築、エジプト文明の構築、インド文明の構築であろう。些末な動きでは、縄文時代の前期古墳文化の構築も含まれるであろう。
彼ら「純粋知性体」、悪戯な神々は、思いつくまま、勝手なアイデアを憑依した人類の個体から広げていっては潰した。シュメール人には、バビロンの塔を作らせては破壊させた。エジプトのファラオと呼ばれる一族には、近親交配をさせて、衰亡させた。彼ら中東の人間は、壮大なビジョンを作り上げられなかったようで、「純粋知性体」を失望させた。
インド文明はまだマシだった。彼ら「純粋知性体」を最上級の神とさせて、彼ら「純粋知性体」が名乗るビシュヌ神という存在が、アバターとして、現世に下級神として降臨する、というビジョンは彼ら「純粋知性体」を多少は満足させた。ヴィシュヌの第九番目のアバターとした仏陀という人類は、なかなかのものだった。むろん、仏陀は、「純粋知性体」のプローブユニットが憑依した存在だったのだが。
極東の弧状列島でも、小規模ながら彼ら「純粋知性体」は実験をしていた。卑弥呼と呼ばれる少女にプローブユニットを憑依させ、勝手な予言を乱発させた。「天」と称する一族に、試しに弧状列島の統治をさせた。八つの頭を持つ大蛇を実体化させたり、九尾の狐を実体化させたりした。
第36話 クレオパトラと純粋知性体
《クレオパトラと純粋知性体》》
紀元前190年頃、再度地球に飛来した純粋知性体ベータは、地球の諸地域に複数のプローブユニットを放ち、再度人類に干渉し始めた。エジプトでは、クレオパトラ1世にプローブを憑依させた。このプローブは、代々のクレオパトラに140年もの間、引き継がれていった。
●クレオパトラ1世、紀元前204年頃 - 紀元前176年
夫、プトレマイオス5世エピファネス
●クレオパトラ2世、紀元前185年頃 - 紀元前116年
夫、プトレマイオス6世フィロメトル
●クレオパトラ3世、紀元前161年 - 紀元前101年
夫、プトレマイオス8世フュスコン(3世は彼の姪)
●クレオパトラ4世、? - 紀元前112年、母は3世
夫、プトレマイオス9世ラテュロス(4世は彼の妹)
●クレオパトラ5世、? - 紀元前69年、母は3世
夫、プトレマイオス9世ラテュロス(5世は彼の妹)
●クレオパトラ6世、不明
夫、不明
●クレオパトラ7世、紀元前69年 - 紀元前30年8月12日
夫、プトレマイオス13世、プトレマイオス14世(7世は彼の姉)
また、数万年前からアルファ、ベータ、ガンマ、デルタが放出したプローブも人類の人体に退行して生き残っているものもいた。長年、人類に憑依し続けたため、人類の肉体的属性に影響を受け、本来の知識探究という目的を忘れてしまっていた。ブッダやモーゼスに憑依していたプローブは彼らの死とともに消滅した。
クレオパトラにプローブを放出したベータ本体は、地球を離れて、別の星系に移動していった。この時点で、純粋知性体本体のアルファ、ベータ、ガンマ、デルタは地球にいない。残っているのは、彼らのプローブユニットだけだった。
ベータ本体と離れたプローブユニットは、代々のクレオパトラの中で変質していった。狂い始めていた。近親相姦を繰り返し、DNAが変質していった彼女らに影響を受けたのだろう。
未来の分岐した第4ユニバースにいた純粋知性体のアルファは、この元々のユニバースの変貌の萌芽に気づいた。彼?彼女?それは、第4ユニバースで発見した人類の女性が死亡した時に、彼女の思念を知性体化して、紀元前47年の地球に連れてきた。アルファは、プローブを放ち、プローブはフェニキアの奴隷商人のムラーに憑依した。人類の女性の知性体は、コーカサス人女性に憑依させた。
アルファの意図は、せっかく、1950年頃から遊んでいる第1から第4までの将来の分岐したユニバース4つが、狂ったベータのプローブの活動で変質することを防ぐことである。むろん、変わったところでアルファにとって痛くも痒くもないことだが、お楽しみの機会をたかがベータの狂ったプローブによって奪われるのが癪に触ったのだ。
アルファはベータが嫌いだった。純粋知性体になる前の太古の昔から、ベータの種族は虫が好かなかったのだ。アルファの先祖が酸素呼吸系種族で、ベータが塩素呼吸系種族だったことも原因なのだろう。
第37話 もう一体のスフィンクス
ギザ、紀元前八千年
ヴュルム氷期が終わりかけ、地球が温暖化していくと思われた時、21世紀から12,785年前のある日、巨大な火球がはるか北方を西から東に動いていた。轟音を発して彗星の尾のような噴煙を残して、火球は北の空に消えていく。
現代クローヴィス彗星と呼ばれるこの火球は直径が4キロほどもあったろう。6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の直径が16キロ程もあったと言われるので、それよりも遥かに小さい彗星であったが、十分に地球の生命の大部分を絶滅に追いやる大きさだった。ただし、進入角度が異なったので、大量絶滅は起こらなかった。
中生代に衝突した小惑星は考え得る最悪の角度(鋭角)で地球に突入したため、大気圏の摩擦で分裂もせず、ひと塊で地球に激突したが、このクローヴィス彗星は北極上空で浅い角度(鈍角)で大気圏に突入した。その突入の入射角は、12度ほどで、大気圏上層部をバウンドしながら進み、その摩擦熱と圧力により数多くの直径数百メートルほどの小片となって、地球に降り注いだ。
そのため、中生代に衝突した小惑星がユカタン半島一箇所に爆心を持ったのに較べ、爆心は数十箇所に及び、北米、グリーンランド、ヨーロッパ、北アフリカという広範囲に広がったが、一つ一つの破壊規模は小さくなった。
ある小片、小片と言っても1キロくらいの直径の彗星の破片は、現代のアメリカの五大湖周辺に衝突した。その頃の五大湖は、一つの巨大な氷湖を形成していて、氷河の重みと地殻との摩擦で、底部は数兆トンの真水になっていた。それが氷河によって押し止められていたのだが、彗星の衝突で真水の地底湖が決壊し、数兆トンの湖水が大西洋に一気に流れ込んだ。
巨大な津波が大西洋を渡り、ヨーロッパ、北アフリカを襲った。塩分濃度の非常に低い津波は、数百メートルの高さで地中海に流れ込んだ。
もしも、古代ギリシアの哲学者プラトンが著書『ティマイオス』と『クリティアス』の中で記述した伝説上の島、そこに繁栄したとされる帝国であるアトランティスがあったとしたら、北米大陸の氷湖の決壊によって一瞬の内に海底に沈んだであろう。
北米には、彗星の破片が広範囲に衝突し、ブリヤート人を祖先に持つアメリカ先住民の部族が形作った石器文化をも壊滅させた。
衝突により巻き起こった粉塵は大気をおおい、その頃、現代よりも8℃ほど低かった地球平均気温をさらに7.7℃低下させた。最終氷期のヴュルム氷期と同じ気候が起こったのである。
地球が粉塵で覆われる暗い状態は十数年続いた。12,785年前から11,600年前まで1,200年間続くヤンガードリアス期の始まりであった。
地球の寒冷化は、彗星の衝突範囲から考えると大西洋沿岸の方が太平洋沿岸よりもひどかった。しかし、太平洋沿岸も少なからず急激に寒冷化した。
やがて、1,200年間続いたヤンガードリアス期が終わり、クローヴィス彗星の影響を脱した地球は、間氷期の温暖化に移っていった。そして、1万年前に純粋知性体たちが再び地球に飛来した。
ベータの優れた演算能力は、1万年前のその時点だけではなく、1万年後もその先も地球環境をシミュレートできた。エジプトの地形もそうだ。そして、1万年前の海水面から、数十メートル海面が上昇する未来も見て取れた。
人類の歴史学者のほとんどは、地球物理学にも気候学にも地理学にもうとい。彼らは、古代の歴史を現代の海岸線、気候で考えがちである。あまり知性があるとは思えない。
ベータは、将来のためにエジプトに指標となるモニュメントを残しておこうと思った。そのモニュメントの地下に容易に工業生産が開始できるスペースも確保しようと思った。もちろん、工業生産設備は数千年経過すると腐食して使い物にならないだろう。しかし、スペースさえあれば、先進的な生産が可能であることがわかっていた。
ベータは、当時の人間のアニミズム信仰の対象の半神半獣を選んだ。大スフィンクスである。場所は、一体目はギザ台地にした。ナイルの大三角州が海面上昇で後退したとしても水没しない場所だ。さらに、もう一体を50キロ離れた場所に設置した。工事は、プローブで操られた古代エジプト人に行わせた。その技術はプローブを引き上げれば失われてしまうものだが、まだ人類に与えるのは早計だとベータは考えた。
紀元前190年頃は、共和制ローマが地中海の覇権を握りつつあるときだった。もちろん、この時代だから、近代的な工業生産力はまったくない。しかし、クレオパトラ1世は、いちから始める必要はなかった。紀元前八千年前に、純粋知性体のベータは、エジプトに後世で役に立つように、工業生産の基盤を残していったからだ。
彼女は、ベータが八千年前に残していってくれた、ギザ台地の大スフィンクスから50キロ離れた砂に埋れたもう一体のスフィンクスを探し、その地下にある工業生産のスペースを発見した。
それでも、工業生産を始めるには、時間がかかった。1世の短い寿命では完成できない。ベータのプローブは、代々のクレオパトラを使い、少しずつ技術を進展させていった。原油を生成し、発電設備を設置し、金属やプラスチックを生産した。クレオパトラ5世の頃には、半導体も製造できるようになった。
そして、クレオパトラ7世の治世の時、3Dプリンターが作れるようになって、大ローマ帝国をも侵略できる人造生物の半神半獣が製造できるようになった。
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