【完結】佐渡ヶ島のエレーナ少佐 (近未来戦記①)

✿モンテ✣クリスト✿

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第2章 ロシア軍停戦、北朝鮮のミサイル攻撃

第14話 藝術学院、ロシア軍本部

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 NHKの藤田アナが渋谷のNHK放送センターの報道局長とロシア軍から借りたパソコンでリモートの打合せをしている。ロシアは佐渡ヶ島のネット封鎖をかいくぐる機器を持っている。ロシア軍本部の置かれている藝術学院のミーティングルームだ。

「じゃあ、こっちと民放合同クルーの殆どがフェリーで退避せず、佐渡南岸にも退避しないで市内に残ったのか?」
「そうです。日テレの卜井ウライアナとも打合せしまして、残ったクルーは自主的な残留ということで決まりました」 

「しかし、情報筋によると、北朝鮮の核を含むミサイル攻撃があるかもしれず、その時にはガメラレーダーのある佐渡も攻撃対象になって、高高度核爆発の電磁パルス攻撃を受けるかもしれないと言われているんだよ?弾道弾か滑空弾かわからないが。滑空弾だと迎撃方法がないだろう?」
「それはロシア軍の司令官のウラジミール中佐からもその恐れがあると言われています。彼からも佐渡南岸に退避を勧められましたが、危険は承知で佐渡の現状を取材したいと申し入れまして、渋々許可されました」
「局としても責任の取りようがないんだよ」
「わかってます。残ったクルーには残留は個人の意志である旨、全員誓約書を書いてもらいました。どうせ、首都圏も北の攻撃対象なのだから、迎撃に失敗すれば同じ話、とみな言っています」
「しょうがないなあ。確かに、東京だってSM-3、PAC-3が北の核弾道ミサイルを迎撃しそこねたら、打つ手がないからなあ」

「そうですよ。むしろ、こっちはロシア軍の低高度迎撃ミサイルのS-300があるそうですから、佐渡のほうがマシかもしれません。イージス艦のSM-3は高度数百キロの大気圏外での迎撃、地上配備のPAC-3は配備位置から数十キロメートル程度の範囲内で高度十数キロメートルの上空で迎撃でしょ?ロシアのS-300はPAC-3よりも低高度での迎撃は可能とウラジミール中佐が言っておりました。S-300よりもさらに低高度の場合の迎撃兵器もあるという話です。滑空弾に関してはどうするのか、話は聞いていませんが」
「その話、まとめておいてよ。こちらも軍事評論家から話を聞いて、特集するからさ」

「一方的なロシア連邦軍東部軍管区の停戦と友軍宣言は、政府はどう扱うんです?」
「ロシア連邦政府、プーチン、モスクワのアナウンスじゃなく、極東の東部軍管区の司令官の宣言なので取り扱いに困っている。モスクワは、そんなことはない、と言っているけどな」
「仲間割れだから、認めたくないんでしょうな」
「ウラジミール中佐はなんと言っているんだ?」
「彼は、これは東部軍管区司令部、ジトコ大将の指示で、この作戦、名前を『サドガシマ作戦、Operation Sadogashima』と彼は呼んでいますが、この作戦部隊は東部軍管区司令部の指揮化にあるので、司令部の指示に従う、だから、当部隊は停戦と友軍宣言を踏襲するのみ、モスクワの話は聞いていない、ということでした」

「実際にロシア軍は友軍と言える行動を取っているのかね?」
「ハイ、佐渡分屯基地の空自の隊員八十名は全員釈放されました。現在、鈴木三佐以下十四名が分屯基地とガメラレーダーサイトでロシア軍と迎撃準備をしているようです。百田基地司令と残りの隊員は、フェリーで退避できなかった二万人の民間人をレーダーサイトからできるだけ離れた佐渡南岸への誘導をしています。フェリーはもう来ませんからね」
「空自はレーダーしかもっていないだろう?」
「今日、午後、ウラジミール中佐が望むなら、分屯基地とレーダーサイトへの車輌を手配する、取材も可能とのことです」

「どういう取材になるか、だな。政府と取材内容を打合せしないと、機密事項もあるから、生放送とはいかない。編集しないと」
「それは日テレの卜井ウライアナとも協議して、サイトの軍担当者とすり合わせて、編集内容を決める、としてあります」
「軍担当者って誰だ?」
「ロシア軍は二日前にインタビューしたエレーナ少佐です」
「あ、あの可愛い子ちゃんか?」
「日本語も話せますし、テレビ映りもいいですからね。自衛隊の方は空自の鈴木三佐です。百田基地司令からは話は鈴木に聞いてくれ、と言われてます」

「取材自由、ということ?」
「かなり自由に取材してます。スカッドやS-300の絵も撮らせてもらいました。それで、午後まで時間が有るので、例の日本人二千人の収容されている学校を取材しても構わないと言われています。でも、何か変なんですよね。二千人の民間人、佐渡南岸に退避しないって言ってるんですよ。もう捕虜じゃないのに」
「なんだ?ストックホルム症候群*1 にでもかかったのか?」
*1 誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象
「わかりません。それも含めて取材します。自衛隊員は出払ってますので、担当はロシア軍です。両津中学に行ってみます。四百人ほど収容されているそうです。あ、迎えの車がきたようです。じゃあ、局長、午後、また連絡します」
「くれぐれも気をつけてくれ」
「了解です」

 両津中学からの迎えはタイフーンKだった。お!でかい!六輪かあ。これならクルー全員乗車できるな、と藤田は思った。日テレの卜井ウライアナも「すごい!すごい!」と喜んでいる。

 助手席から降りてきた女性が「藤田さんと卜井ウライさんはどなたでしょうか?」と聞いてきた。
「私です」と藤田が手を挙げると彼女が敬礼をして「小官はスヴェトラーナ准尉であります。両津中学の警備を担当しております」と流暢な日本語で藤田と卜井ウライに言った。

「現在、両津中学警備担当のエレーナ少佐、アデルマン大尉、アナスタシア少尉が分屯基地、レーダーサイトに派遣されておりますので、准尉の小官が担当いたします。よろしくお願い致します」とハキハキ言った。

 エレーナ少佐も可愛い子ちゃんタイプの美人だが、スヴェトラーナ准尉は本格派のロシア美人じゃん?と藤田は彼女の全身を観察した。

 卜井ウライアナが嫌な顔をしている。「藤田ちゃん、ヨダレたれそうな顔しないでよ」

「スマン・・・」
「日本人男性はパツキンに弱いのねえ」
「いや、少佐といい、ロシア軍、美人ぞろいだから・・・」
「ほら、取材しよ!」
「わ、わかった」

「准尉、この車は?ゴツくてカッコいいですね?」と卜井ウライが聞いた。

「KamAZ-63968 タイフーン-Kと言います。6×6輪駆動の装輪装甲車であります。後席は18席ありますから、撮影機材一式が運搬できると思いますが、いかがでしょうか?席は倒せます」
「十分以上です!乗り心地もよさそう。これカメラ回していいですか?」

「カメラを回す・・・ああ、撮影ということですね。構いませんとも。エレーナ少佐が『全部みせて、聞かれたことにはすべて答えてもかまわない』と指示されております」「軍事機密があるんじゃないですか?」「構いません。今や、当東部軍管区サドガシマ作戦部隊は日本国の友軍であります」

「すごいですねえ」
「単相100V、三相200Vの電源を積載させましたので、撮影機材はそちらに接続していただきます」
「手筈《てはず》万端、ってことですね。素晴らしい!え~っと、じゃあ、撮影を・・・」
「出発風景だけでどうですか?学校に到着したら、ゆっくり撮影できますわ。午後には空自分屯基地とレーダーサイトの取材もあるんでしょう?時間が押しているんで、急ぎましょう。分屯基地とサイトへの移動は学校から直接出発します」
「わかりました。ざっと撮影させて下さい」五分程で撮影は終了した。

 後部座席で、スヴェトラーナ准尉が藤田と卜井ウライの隣に座った。「准尉、少々お伺いしてもいいですか?カメラを回していますが、生放送はいたしません。後で差し支えのある場面は編集でカットしますから安心して下さい」と藤田。「どうぞ、何でも聞いて下さい」

「まず、今回のロシアのウクライナ侵攻をどう思われていますか?」
「ハイ、まずい作戦だと思っております」
「率直なお答えで」
「だって、明確にジュネーブ条約違反を犯しているでしょう?これって・・・日本語で言うアウトですよね?我々の東部軍管区本作戦部隊は、今まで一滴の血も流しておりません。日本人のみなさんとの暴力行為もございません。欧州ロシアと我々極東ロシアは違います。ウクライナで起こっていることは欧州ロシアの統制ミスだと、こう思います」

「藤田ちゃん、これ、どう?放送は?」
「彼女に問題が出そうだからオフレコだね」と藤田。

 卜井ウライが「了解。一応撮っておきますが、准尉、放送しません。約束します」と彼女に言う。「あら?放送しても構いませんのに」「まあまあ、罰されたりしたら・・・」「エレーナ少佐もいつも言ってますよ?彼女も同じことを言うと思います」

 その頃、両津中学校では、民間人が全員集まって話していた。

「提案があるんだが、みんな、聞いてくれ」
「なんだ?」
「これからNHKと民放の取材クルーがここに来るらしい。藤田アナと卜井ウライアナも来るとさ」
「あのちょんぼくて可愛いアナウンサーか?」
「そうだ。それで、みんな取材するんだと。で、提案だども、ここで起こってること、これは話しちゃマズイ部分もあっろ?」
「そりゃあ、そうだな。校舎の中でしてることなんて、話せねえな」
「正直に言うたらロシア人の姉ちゃんたちが日本人に誤解されっろう?こんげ良うしてくれてる姉ちゃんたちに迷惑かけちゃあいけねえ」

「そうだ!こんげな竜宮城みたいな場所なんだーすけ」
「なして、島の南岸に避難しねえのか?とかも聞かれっろう」
「そりゃ、竜宮城にいるほうがいいすけな」
「だーすけ、南岸に避難しても一緒だ、友軍のロシア軍と一緒に残る、とか適当に答えようでねっか」
「賛成だ」
「おぅ、みんな賛成だな。よろしゅうお願いしますよ」



 こりゃあ、女性ばかりの警備隊っていうのもマズイじゃないか?誤解されっぞ!姉ちゃんに相談しないと。「ちょっと、提案が有るんですが」とその場で最も偉そうなロシア姉ちゃんに声をかけた。アニータ准尉とか言う名前だったか。

「あら、本間さん、なんでしょうか?」
「あのですね、これからNHKと民放の取材クルーがここに来るんですよね?」
「あと、30分くらいで到着の予定ですわ」
「それで、あの、この学校のフェンス内の警備は全員女性じゃないですか」
「そうですが?」
「それで、マスコミに取材されたら、誤解を受けると思うんですよ。だから、フェンスの外にいるロシア軍の男性兵士も中に入れたらどうですか?」
「別に現状で問題ないと思いますよぉ~」

「いや、そのですね、私たち日本人は、あなた方ロシアの女性と自由に交流してるじゃないですか?それを知られたら日本人が誤解するんじゃないかと。あなた方ロシアの女性が悪く言われるんじゃありませんか?」
「え~、そうなんですか?私たち、何か悪いことしてますか?日本人もロシア人も全員独身ですし」
「いや、あの、その、複数の男性とですね・・・我々も複数の女性と・・・」
「あら、日本人男女は結婚前に一人だけしか経験しないんですか?」
「そんなことはありません」
「じゃあ、いいじゃありませんか?お試しなんだし。相性は大事ですわ。お金をもらって売春しているわけじゃないです。隊員は自由意志で志願してここにおります。細工する必要はありませんよ。このまま見てもらいましょうよ」
「いいのかなあ。アニータ准尉、あなたはもう誰かと約束したんですか?」

 ちょっと彼女は照れて「あの、土屋さんにプロポーズされまして・・・」

「え?土屋ちゃん?」
「そうなんです。それで『YES』とお答えしました。結婚して一緒に有機野菜を作ろうと言われまして。私、元はウクライナの出身で、農家の出ですので、日本で農業に従事できるなんて、夢みたいですわ」
「佐渡ヶ島も適齢期の女性は少ないし、農家に嫁ぐ日本人女性も少ないですから。でもこんな短期間で、実際、三日しか経っていないんですよ」 

「結婚なんて、かなりの部分、男女とも打算の産物でしょう?結婚してからでもなんとか摺合せできますよ。おまけに、日本人男性です。優しい。ロシア人と違います」
「なるほど」
「本間さんは?」
「え?私?私はまだ・・・」
「聞いてますよ、部隊の子たちから。三人ほど交流されたって。でも、その子たちと合いませんでした?」
「いやぁ、誰がいいか、迷っちゃいまして。それに国際結婚になるんで、ちょっと躊躇しました」
「まあ、ロシア人も日本人も女性の持ち物は一緒ですよ。サイズは違うかもしれませんが。それに、お尻も大きくて、みんな安産型。バカスカ、子供を産めますよ」

 本間が校庭で話している内に、取材クルーを乗せたタイフーンKが校庭に入ってきた。「もう遅いな・・・」と本間は思った。 

 テレビでお馴染みの藤田アナと卜井ウライアナがトラックから降りてきた。スヴェトラーナ准尉も一緒だった。

 あ!スヴェトラーナちゃんだ。彼女、よかったなあ。少し背が高いのが難点だけど、体の相性が良かった。あのすすり泣くのが最高だ。彼女にプロポーズしたらOKしてくれるかな?他の日本人でライバルがいるんだろうか?彼女に聞いてみようかな?でもなあ、三人も経験した俺が、スヴェトラーナに何人としたんだ?なんて聞けないもんなあ・・・早く決めないと、手遅れになっちゃうかなあ? 

 スヴェトラーナがその場にいたアニータに「NHKと民放の取材スタッフのみなさんよ。こちらアニータ准尉です。こちらは藤田アナと卜井ウライアナ。アニータ、お暇?」と聞いた。

「今、別に用事はないわ」
「じゃあ、二人で分かれて、取材のお相手をしてくれない?」
「いいわよ。どうしましょ?」
「そうねえ、私が校内の案内をするから、アニータは周辺の装備の案内をしてくれない?」
「いいわよ。少佐の指示通り、みんなみせちゃっていいのね?」
「スカッドのハリボテもS-400も構わないわ。外のミサイル部隊に説明してやって。少佐の指示だからかまわないって」
「了解」 

 スヴェトラーナとアニータは英語で会話していたので、藤田も卜井ウライも会話の内容はわかった。藤田が「スヴェトラーナ准尉、今、『スカッドのハリボテ』とか『S-400』とか言わなかった?」と彼女に聞いた。「ええ、そうですけど?」 

「ちょっと、待ってくださいよ。この学校周辺に配備されたスカッドはハリボテなんですか?」と卜井ウライ

「ハイ、ハリボテ。中身なし。弾頭なし。推進燃料なし。飛びません。だって、ジュネーブ条約違反なんて言われちゃいけませんもの。日本人の方々を人間の盾にしてる、なんて言われたく有りませんわ」
「自衛隊と在日米軍がピンポイント爆撃を計画して中断したのに・・・」
「爆撃されても爆発しません。本物のスカッドは、藝術学院の本部と佐渡高校の2ヶ所だけ。しかも通常弾頭。核はここには持ち込んでおりません。藝術学院の本部と佐渡高校にはロシア人兵士しかおりません。日本人の方を収容している五校にはハリボテを配置いたしました。それに、停戦前だったら、ピンポイントはS-400で迎撃できますもの。米軍のスタンダードミサイル級のスペックですから。同時六ヶ所迎撃可能です」

「あの、配備されているのは、S-300Vじゃないんですか?」と藤田。
「それは欺瞞情報を流しましたから。見かけもS-300っぽくて、合成開口衛星写真じゃ区別できないように偽装しました。軍事作戦ですもの。騙し騙されってことですわ」

「まいったなあ。卜井ウライちゃん、これは放送、どうしようか?」
「これは政府と自衛隊に聞かないとわかんないわよ」
「まあ、いいや。カメラは回しといたから」

 スヴェトラーナが「藤田アナ、確かにこの情報はオフレコがいいと思います」と言った。「特に、S-400他迎撃兵器の情報は、マスコミで報道されますと、北朝鮮と人民解放軍北部戦区を利することになります。彼らは佐渡ヶ島攻撃も計画していますから。彼らの弾道ミサイル、滑空ミサイルへの迎撃内容は秘密にしないと」

「確かに、こんな話、視聴者の殆どはチンプンカンプンだし、軍事評論家や芸人が余計なことをいうだけだ。奴らのギャラを増やしてやる必要もない」と藤田。「私だって、S-300と400で何が違うのか、わからないわよ」と卜井ウライ。 

 ボーっと本間はそばに突っ立っていて話を聞いていたが、スヴェトラーナが気づいた。「あら、本間さん、お元気?昨晩はどうも」などと取材関係なしに話しかけてくる。

「スヴェトラーナ准尉、取材中!」と本間。
「あら、別にかまわないんじゃないですか?藤田アナ、卜井ウライアナ、こちら本間さん。教員をなさっているんですよ」 

 卜井ウライが「あ、ちょうどいいですね。日本人の方にお聞きしたいことがありますから。准尉、お知り合いですか?」

「ええ、仲良くさせていただいてます」
「仲良く?」
「あら、卜井ウライさん、男女の仲ですもの・・・」とスヴェトラーナ。
「え?あの、それって?」
「ここに収容されている日本人の方と、非番の・・・あのピンクのリボンを肩章につけている兵士がいるでしょ?任務についていない兵士は、自由に交流していい、という軍管区からの指示があります。それで、私と本間さんは昨晩も・・・」
「えええ?どういうこと?」 

 スヴェトラーナは、軍管区、エレーナ少佐からの指示を詳しく卜井ウライ、藤田に説明した。「ちょ、ちょっと待ってください。ということは、ここの四百名の民間人の方と、二百名の女性兵士の方は?」と卜井ウライ

「ハイ、自由に交流いたしました。ね?本間さん。私、日本人の教員の妻になるのって好きですわ。どうかしら?私、大柄な女だけど・・・」
「スヴェトラーナ准尉、今そんなこと、今、・・・」
「あら、隠すことないじゃない?」 

「スヴェトラーナ准尉、あの、男性四百名と女性二百名ですから・・・」口をあんぐり開けて卜井ウライが聞く。
「ええ、お試しですもの。体の相性確認付き集団見合いみたいなものですから」
「複数人・・・とですか?」
「あら、卜井ウライアナ、日本では結婚前に婚前交渉しないとか、結婚する男女は一人しか経験しないとかの風習とか法律があるんですか?卜井ウライアナもそうなんですか?」
「いや、そういうわけでは・・・」
「だったら、いいじゃありませんか?戦時ですが、兵士も非番ですし、何しても自由、罰則なしと言われていますので」

 卜井ウライが藤田の袖を引いて脇に寄った。「藤田ちゃん、これはどうするの?この話?」
「・・・これは・・・き、極めてプライベートなことだから・・・」
「夕刊紙や週刊誌が好きそうなネタね?」
「NHKでは報道できないと思う」
「民放も同じよ!」
「オフレコばっかの取材だな・・・」 

 スヴェトラーナと本間もヒソヒソなにか話していた。

 それで、本間が「藤田さん、卜井ウライさん、ありがとうございます」と二人に言う。

「ハ、ハイ?」と卜井ウライ
「私も迷っていたんですよ。でも、今お二人と話させていただいて、私も決心がつきました。スヴェトラーナにプロポーズいたしまして、答えがイエスでした。私たち、結婚いたします」
「はぁ・・・」 
「お、おめでとうございます・・・って、これもオフレコかぁ」と藤田。
「まいったわね。オフレコのオンパレード。食い物の話とかだったらいいのに・・・」と卜井ウライ

 それを聞いたスヴェトラーナ准尉が「そうであれば、日本人の方と私たちのキャンティーンを見学しますか?ランチも近いので、準備は整っていますよ」
「あ!それだ!食レポなら問題ない、放映できる!」 

 彼らは一番左の大きなテントに入っていった。まだ、昼食時間よりも早いので、あまり人はいない。「卜井ウライアナ、ロシア料理と日本料理を取り混ぜて、私たちの兵士が作っています」
「あ!いい!」
「どうですかね?お口に合いますかね?試食なされば?」 

 テントの奥にホテルのビュッフェのようなステンレスパンが並んでいて、温かい食事ができるようになっている。女性兵士数名が給仕している。スヴェトラーナが藤田と卜井ウライをビュッフェに案内する。二人にプラスチックのビュッフェプレートを渡した。

「あら、日本語で料理の説明がしてある」と料理の前に置いてあるプラスチックの名札を見て卜井ウライ。「エレーナ少佐のご指示です。訳のわからないものを食べさせられないでしょ?と言われました」

「ええ~、ボルシチ!ピロシキ!カーシャ!ビーフストロガノフ!あと、わかんない料理でいっぱい!」
卜井ウライアナ、どうぞたくさん召し上がれ」
「じゃあ、遠慮なく・・・」

「これで、テレビで放送できる絵がとれる。助かった」と藤田。一同はたくさん盛ったプレートを持って席についた。卜井ウライは山盛り。本間も同席した。「あら、おいしい。ボルシチ、うまい!」と卜井ウライ。「ロシア料理にはスープは欠かせませんもの」とスヴェトラーナ。

「ミリメシかと思ってましたよ」と藤田が言う。

「いいえ、作戦立案の時に、エレーナ少佐が『日本人の胃袋を掴まないとだめ!』って言われて、手作りに決まりました。日本食もみんな習ったんですよ」
「寿司、うまいですよ」と藤田。
「食材は、市内で調達して、ちゃんとお支払いをしています。略奪なんてしたら銃殺よ、と少佐が言われまして」

「少佐はよくわかっているようですね?日本語もうまいし。スヴェトラーナ准尉も大変お上手です」
「この部隊では二番目です。日本語検定でN1を取得してます。でも少佐にはかないません」
「確かに、顔を見ないと、日本人の女性と話しているのかと思いますよ」

「だって、半分、日本人ですもの」
「え?」
「お母様が日本人です。エレーナ・冴子、ジトコですわ。ミドルネームはお母様のお名前」
「えええ?そんな話聞いてません・・・ジトコ?え?ジトコ?」
「あら、それもご存知ない?お父様は司令官のジトコ大将ですわ」

卜井ウライちゃん、これはスクープだね?」
「少佐にお聞きして、それで良ければ報道しちゃいましょ。しっかし、司令官の娘が最前線に出るの?」

 スヴェトラーナ准尉が「一部の作戦立案は少佐が行いました。でも、ここの運用、この女性兵士の計画は、大将が立案されました。私は意図がどうにもわかりかねますが。少佐もわからない、って言われてまして。戦時にロシア人の戦争花嫁つくってどうすんの?と。でも、それで、私も本間さんと・・・」 

「おかしな作戦なのはわかりますよ。少佐に会ったらもっと聞かないと。まだまだ、いろいろなことが隠されているんでしょう」と藤田。
「作戦の前から、北朝鮮と人民解放軍北部戦区の暴走はわかっていたみたいです。北京を無視した行動ですね」
「日本政府も日本国民も、今までの考えを改めないといけませんね」
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