重たい愛は如何ですか〜狂愛侍従と王子様〜

なつや

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歪みの章

崩壊の音

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 シュシュは5才になった。
 魔法も感情の制御も上手くなり、外で元気に遊ぶだけでなく屋内で一人で本を読めるようにもなった。今日もシュシュはすくすくと愛らしく育っている。
 が、あの日以来俺以外の人間を恐れるようになった。
 俺以外がシュシュをどう見ているのかを幼いながらに理解しているように思う。

 現に荷運びの人間が柵付近に来ると、俺の傍から離れなくなる。
『英才教育』の一環で、常に魔法で周囲を探索する事を教えると難なくそれができてしまったのだ。
 大人になってもできる人が少ないこの魔法を、5才にして完璧に使用できるシュシュは天才だ!

 *****

 その日も、いつもと変わらない朝になるはずだった。
 日の出と共に目覚め、森で魔物を狩り、畑の野菜で朝食の準備をする。
 まだ寝たいとグズるシュシュを起こして着替えさせて、一緒の卓で朝食を取る。そんな、変わらない朝になるはずだった。

 いつも通りシュシュを着替えさせていると、急に王宮の現暗部の長である、父に呼び出されたのだ。
 仕事の日以外で、初めてシュシュを独りにしてしまった。

 呼び出された場所は、王宮。

 王宮に着くやいなや、父ペール・アンラジェはメイドに視線だけで命令し、俺を風呂で磨き上げて上位貴族らしい服装へと着替えさせた。

 身綺麗になった俺を引き連れ、ペールは王宮の謁見の間に入る。
 謁見の間の正面奥には空席の玉座が2つと、サイドに少し小さめの玉座が置かれていた。
 俺とペールは空の玉座前に膝を付き、頭を垂れる。

 衣擦れの音と硬い靴底の音が聞こえ、ギシリと玉座に座る音が聞こえた。

「おもてをあげよ」

 荘厳な声がかかり、俺とペールは頭を上げた。
 正面玉座には、金髪金眼ではあるが、シュシュが大人になったら彼のようになるだろうと思える美貌を持ったエフォンドレ王国の現王陛下アムレット・アンペールが、隣の玉座には傾国の微笑を浮かべた銀髪青眼の王妃エルール・アンペールが座していた。
 そしてサイドには……金髪青眼をきたシュシュ、いや、ロイ・アンペールが尊大に座っていた。

 アムレット陛下は俺の姿を確認すると、ゆっくりと口を開く。

「シヤン・アンラジェを、第1王子であるロイ・アンペールの侍従に任ずる」

 そう王陛下から勅命を下された。

 *****

 勅命後、明日明朝から俺はロイの居住している皇子宮へ住み込みで従事する命が下された。

 ルーペは用が済んだとばかりに俺を置いて行ってしまったが、既に皇子宮に従事している者から荷物を取りに塔へ向かうことが許された。


「シヤン、おかえり!」

 重い足取りのまま塔に帰ると、シュシュは俺に正面から抱き着いてきた。それを優しく受け止め、その場で包み込むように抱きしめ返した。

 ─あぁ、離したくない…

 公式本通りに進むなら、シュシュが7才になるまで一緒に居られると思っていた。
 2人で生活してきた、2人だけの小さな箱庭。この場所にあと2年…彼は独りでこの塔に置いていかれる事になる。

 彼に伝えなければ…もう帰って来れないと。

「……シュシュ、あのね」
 俺はシュシュを抱きしめたまま、王命が下った事を伝える。

「……え?」

 俺がもう塔で一緒に住めない事を伝えると、シュシュは驚愕に目を見開き、小さく首を横に振った。

「…嫌だよ…シヤン、ねぇやだ…」
 俺を離すまいと、力いっぱいに服を掴む。
 俺は何も答えてあげられず、シュシュの肩に顔を埋めて更に強く抱きしめた。

「っ…なんで…」
 シュシュの顔は見えないが、震えた泣きそうな声が俺の心をぐちゃぐちゃに掻き乱す。

 ─どうして、俺はシュシュを泣かせてるんだ?

 なんで、シュシュと一緒に居られない?

 シュシュは俺と居たいと思ってくれているのに

 俺もシュシュと一緒に在りたいと願っているのに─

 俺のぐちゃぐちゃの心が、1つの最適解を見つけてしまった。

「…シュシュ、少しの間だけ…待っててくれるかい?必ず…また一緒に暮らせるようにするから…」

 ─誓ったんだ。シュシュの笑顔を守る為ならどんな事もするって
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