10 / 21
歪みの章
崩壊の音
しおりを挟むシュシュは5才になった。
魔法も感情の制御も上手くなり、外で元気に遊ぶだけでなく屋内で一人で本を読めるようにもなった。今日もシュシュはすくすくと愛らしく育っている。
が、あの日以来俺以外の人間を恐れるようになった。
俺以外がシュシュをどう見ているのかを幼いながらに理解しているように思う。
現に荷運びの人間が柵付近に来ると、俺の傍から離れなくなる。
『英才教育』の一環で、常に魔法で周囲を探索する事を教えると難なくそれができてしまったのだ。
大人になってもできる人が少ないこの魔法を、5才にして完璧に使用できるシュシュは天才だ!
*****
その日も、いつもと変わらない朝になるはずだった。
日の出と共に目覚め、森で魔物を狩り、畑の野菜で朝食の準備をする。
まだ寝たいとグズるシュシュを起こして着替えさせて、一緒の卓で朝食を取る。そんな、変わらない朝になるはずだった。
いつも通りシュシュを着替えさせていると、急に王宮の現暗部の長である、父に呼び出されたのだ。
仕事の日以外で、初めてシュシュを独りにしてしまった。
呼び出された場所は、王宮。
王宮に着くやいなや、父ペール・アンラジェはメイドに視線だけで命令し、俺を風呂で磨き上げて上位貴族らしい服装へと着替えさせた。
身綺麗になった俺を引き連れ、ペールは王宮の謁見の間に入る。
謁見の間の正面奥には空席の玉座が2つと、サイドに少し小さめの玉座が置かれていた。
俺とペールは空の玉座前に膝を付き、頭を垂れる。
衣擦れの音と硬い靴底の音が聞こえ、ギシリと玉座に座る音が聞こえた。
「おもてをあげよ」
荘厳な声がかかり、俺とペールは頭を上げた。
正面玉座には、金髪金眼ではあるが、シュシュが大人になったら彼のようになるだろうと思える美貌を持ったエフォンドレ王国の現王陛下アムレット・アンペールが、隣の玉座には傾国の微笑を浮かべた銀髪青眼の王妃エルール・アンペールが座していた。
そしてサイドには……金髪青眼をきたシュシュ、いや、ロイ・アンペールが尊大に座っていた。
アムレット陛下は俺の姿を確認すると、ゆっくりと口を開く。
「シヤン・アンラジェを、第1王子であるロイ・アンペールの侍従に任ずる」
そう王陛下から勅命を下された。
*****
勅命後、明日明朝から俺はロイの居住している皇子宮へ住み込みで従事する命が下された。
ルーペは用が済んだとばかりに俺を置いて行ってしまったが、既に皇子宮に従事している者から荷物を取りに塔へ向かうことが許された。
「シヤン、おかえり!」
重い足取りのまま塔に帰ると、シュシュは俺に正面から抱き着いてきた。それを優しく受け止め、その場で包み込むように抱きしめ返した。
─あぁ、離したくない…
公式本通りに進むなら、シュシュが7才になるまで一緒に居られると思っていた。
2人で生活してきた、2人だけの小さな箱庭。この場所にあと2年…彼は独りでこの塔に置いていかれる事になる。
彼に伝えなければ…もう帰って来れないと。
「……シュシュ、あのね」
俺はシュシュを抱きしめたまま、王命が下った事を伝える。
「……え?」
俺がもう塔で一緒に住めない事を伝えると、シュシュは驚愕に目を見開き、小さく首を横に振った。
「…嫌だよ…シヤン、ねぇやだ…」
俺を離すまいと、力いっぱいに服を掴む。
俺は何も答えてあげられず、シュシュの肩に顔を埋めて更に強く抱きしめた。
「っ…なんで…」
シュシュの顔は見えないが、震えた泣きそうな声が俺の心をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
─どうして、俺はシュシュを泣かせてるんだ?
なんで、シュシュと一緒に居られない?
シュシュは俺と居たいと思ってくれているのに
俺もシュシュと一緒に在りたいと願っているのに─
俺のぐちゃぐちゃの心が、1つの最適解を見つけてしまった。
「…シュシュ、少しの間だけ…待っててくれるかい?必ず…また一緒に暮らせるようにするから…」
─誓ったんだ。シュシュの笑顔を守る為ならどんな事もするって
13
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しております
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる