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奮闘記
21、占いの結果を考える
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少しして、占いで霊力ばかりか体力もかなり消耗したことで、疲労と空腹を覚えた二人がリビングに向かうと、すでに夕食が出来上がっていた。
それだけ長い時間を占いに費やしていたということに、二人が魂消ていると、亜紀から食卓につくように言われ、席につく。
夕食を終えた二人は、一度それぞれの部屋に戻った。
だが、五分としないうちに、月美は護にあてがわれた部屋を訪れ、会話をしながら時間をつぶす。
眠気と時間を忘れて会話を続けていたのだが、ふと、護は自分の視界が暗闇になっていることに気づく。
そこが夢殿だということに気づくまで、それほど時間はかからなかった。
「そうか……あのあと、すぐに寝ちまったのか……」
いつの間にか、夢殿に来てしまった護はそう呟いて、ならば現の世界で隣にいるのは誰なんだろうか、と疑問を持ってしまった。
会話を続けている途中で来てしまったということは、現実の世界では自分の隣に月美がいる可能性が高い。
仮に、月美が起きているのなら、話の途中で寝こけてしまったことにふくれっ面をしながら、毛布をかけるなりしてから、自分の部屋に戻っただろう。
――まぁ、一緒に寝落ちしてたなら、白桜たちが衝立なり荷物なりでバリケードを作ってくれてるだろうから、間違いは起きないはずだけど
使鬼たちがそうしてくれていると信じて疑っていないので、何か間違いが起こることはない。
ないとは思っているのだが、世の中にはあらぬ誤解というものが存在する。
別に月美と同室したくないというわけではない。
だが、まだ男女の仲になっていないのに周囲に誤解され、月美に不快な想いを抱かせることだけは避けたいと思っている。
――って、いまはそれを気にしている場合じゃないな
そこまで考えてしまったが、今はそれどころではないことを思い出し、護は改めて周囲を見渡した。
星が無いことから、どうやらここは、いつも自分が夢渡りで渡ってくる夢ではないらしい。
護は眼を閉じ、耳をすませ、意識を研ぎ澄ました。
すると、ぴちゃん、ぴちゃんと水のはねる音が響いてくることに気づく。
「……水、ということは……」
護は眠りに落ちる前に占っていたことを思い出した。
流れない水のある場所、そこに何者かが術をかけ、そこから自分たちのいる世界に人々を呼び込む。
その世界で何をするのか、護はその「何」にあたる部分の答えをつぶやく。
「引き込んで人を食らう、か」
あくまで、最悪の事態ではあるが、気分のいいものではない。
湧きあがる不快感を押し殺し、護は閉じていた眼を開き、あたりを見渡す。
だが、視界にはただ無明の闇が広がっているだけだった。
――妖の干渉を直接受けてる場所だからか……ん?あれは
ふと、視線を前にやるとそこには四肢を折り、うずくまっている牛がいた。
いや、牛ではない。その顔は人間のものだ。
――牛の体に人の顔……件か!
件は人面の獣という奇妙な姿でありながら、人語を話すことができるとされる妖。
その最大の特徴は、近いうちに起きる災いを予言し、その予言を発した数日後に衰弱死するというものだ。
そして、その予言は必ず当たると言われている。
その件が、うつろな瞳をまっすぐに向け、護に向かって言葉を放った。
「……お前は、これから人と妖の一線を越える。そして、その一線を越えるとき、お前は死を迎える」
『お前』というのは誰を指しているのか、それがわからないほど、護はおろかではない。
件が誰のことについての予言をしているのか、すでにわかりきっている。
ふと、護は自分に予言を告げる件の顔を見て。
――あぁ……なんて、悲し気な顔してんだよ、こいつは
件という妖は自身が望もうと望まなかろうと、予言を放ち、その予言の通りの災いを呼びこむ妖。
それが、この妖の宿命であり本質だ。
それを言ってしまえば元も子もないのだが、これから起きる災いを知っていて、それを回避させることができないという苦しさを常に抱えている。
その苦しさゆえの顔なのだろう。
そう思ってしまった瞬間、護の視界には、使わせてもらっている部屋の壁が映っていた。
夢から覚めたばかりとはいえ、いやに意識がはっきりしている。
おそらく、目を閉じてから、ほんの数秒であの夢殿に招かれたのだろう。
護は床に寝ころび、夢殿での出来事を思い返した。
「……人と、妖の一線……」
件から自分に向けて放たれた予言を口の中で反復し、護は自分の目元を片腕で覆った。
気づいていなかったわけでない。
土御門家の人間は宗家も分家も隔てることなく、そして力の大小はあれども妖としての力を持っており、護は最も強くその力を受け継いでいると言われている。
――「一線を越える」っていうのは、たぶんその力が目覚めることを指すんだろうな……
それもかなり危険な形、あるいは命の危険がある場面で。
そこまで推察した護は、目に光を宿らせてつぶやいた。
「……けど、死ぬわけには、いかないんでな。お前の予言は絶対実現させない」
実現させるわけには、いかない。
この想いを告げるまで、なにより月美を悲しませないために。
そう心に決めた護だったが。
「そういえば……」
確認しなければならない重要なことがあったことを思い出し、周囲を見まわした。
自分の右側に、どこから取り出したのだろうか、衝立が置かれていることに気づく。
それを見ただけで、何の意図があってそれがそこにあるのか推察することはたやすかった。
衝立の向こうでは月美が眠っているのだろう。
耳を澄ませば、自分のものとは違う寝息が聞こえるため、それは確定的だ。
この衝立を用意したのは、自分が連れてきた使鬼であることも理解したのだが、一つだけ、懸念があった。
「あいつら、亜妃さんや賢祐さんにちゃんと伝えてくれたんだろうか……」
優秀ではあるが、その本性は狐。
人をからかうという点では、狸同様に厄介な存在だ。
もっとも厄介なのは仮にも主であるはずの護すら、からかいの対象として見ている節があること。
自分の使鬼たちの性格を熟知している護は、そのことを思い出すと少し心配になってきた。
――明日、俺は一体どんな風に亜妃さんと友護さんにからかわれるんだろ……
そのことを考えると少しばかり憂鬱になり、護は横になってそっとため息をついた。
それだけ長い時間を占いに費やしていたということに、二人が魂消ていると、亜紀から食卓につくように言われ、席につく。
夕食を終えた二人は、一度それぞれの部屋に戻った。
だが、五分としないうちに、月美は護にあてがわれた部屋を訪れ、会話をしながら時間をつぶす。
眠気と時間を忘れて会話を続けていたのだが、ふと、護は自分の視界が暗闇になっていることに気づく。
そこが夢殿だということに気づくまで、それほど時間はかからなかった。
「そうか……あのあと、すぐに寝ちまったのか……」
いつの間にか、夢殿に来てしまった護はそう呟いて、ならば現の世界で隣にいるのは誰なんだろうか、と疑問を持ってしまった。
会話を続けている途中で来てしまったということは、現実の世界では自分の隣に月美がいる可能性が高い。
仮に、月美が起きているのなら、話の途中で寝こけてしまったことにふくれっ面をしながら、毛布をかけるなりしてから、自分の部屋に戻っただろう。
――まぁ、一緒に寝落ちしてたなら、白桜たちが衝立なり荷物なりでバリケードを作ってくれてるだろうから、間違いは起きないはずだけど
使鬼たちがそうしてくれていると信じて疑っていないので、何か間違いが起こることはない。
ないとは思っているのだが、世の中にはあらぬ誤解というものが存在する。
別に月美と同室したくないというわけではない。
だが、まだ男女の仲になっていないのに周囲に誤解され、月美に不快な想いを抱かせることだけは避けたいと思っている。
――って、いまはそれを気にしている場合じゃないな
そこまで考えてしまったが、今はそれどころではないことを思い出し、護は改めて周囲を見渡した。
星が無いことから、どうやらここは、いつも自分が夢渡りで渡ってくる夢ではないらしい。
護は眼を閉じ、耳をすませ、意識を研ぎ澄ました。
すると、ぴちゃん、ぴちゃんと水のはねる音が響いてくることに気づく。
「……水、ということは……」
護は眠りに落ちる前に占っていたことを思い出した。
流れない水のある場所、そこに何者かが術をかけ、そこから自分たちのいる世界に人々を呼び込む。
その世界で何をするのか、護はその「何」にあたる部分の答えをつぶやく。
「引き込んで人を食らう、か」
あくまで、最悪の事態ではあるが、気分のいいものではない。
湧きあがる不快感を押し殺し、護は閉じていた眼を開き、あたりを見渡す。
だが、視界にはただ無明の闇が広がっているだけだった。
――妖の干渉を直接受けてる場所だからか……ん?あれは
ふと、視線を前にやるとそこには四肢を折り、うずくまっている牛がいた。
いや、牛ではない。その顔は人間のものだ。
――牛の体に人の顔……件か!
件は人面の獣という奇妙な姿でありながら、人語を話すことができるとされる妖。
その最大の特徴は、近いうちに起きる災いを予言し、その予言を発した数日後に衰弱死するというものだ。
そして、その予言は必ず当たると言われている。
その件が、うつろな瞳をまっすぐに向け、護に向かって言葉を放った。
「……お前は、これから人と妖の一線を越える。そして、その一線を越えるとき、お前は死を迎える」
『お前』というのは誰を指しているのか、それがわからないほど、護はおろかではない。
件が誰のことについての予言をしているのか、すでにわかりきっている。
ふと、護は自分に予言を告げる件の顔を見て。
――あぁ……なんて、悲し気な顔してんだよ、こいつは
件という妖は自身が望もうと望まなかろうと、予言を放ち、その予言の通りの災いを呼びこむ妖。
それが、この妖の宿命であり本質だ。
それを言ってしまえば元も子もないのだが、これから起きる災いを知っていて、それを回避させることができないという苦しさを常に抱えている。
その苦しさゆえの顔なのだろう。
そう思ってしまった瞬間、護の視界には、使わせてもらっている部屋の壁が映っていた。
夢から覚めたばかりとはいえ、いやに意識がはっきりしている。
おそらく、目を閉じてから、ほんの数秒であの夢殿に招かれたのだろう。
護は床に寝ころび、夢殿での出来事を思い返した。
「……人と、妖の一線……」
件から自分に向けて放たれた予言を口の中で反復し、護は自分の目元を片腕で覆った。
気づいていなかったわけでない。
土御門家の人間は宗家も分家も隔てることなく、そして力の大小はあれども妖としての力を持っており、護は最も強くその力を受け継いでいると言われている。
――「一線を越える」っていうのは、たぶんその力が目覚めることを指すんだろうな……
それもかなり危険な形、あるいは命の危険がある場面で。
そこまで推察した護は、目に光を宿らせてつぶやいた。
「……けど、死ぬわけには、いかないんでな。お前の予言は絶対実現させない」
実現させるわけには、いかない。
この想いを告げるまで、なにより月美を悲しませないために。
そう心に決めた護だったが。
「そういえば……」
確認しなければならない重要なことがあったことを思い出し、周囲を見まわした。
自分の右側に、どこから取り出したのだろうか、衝立が置かれていることに気づく。
それを見ただけで、何の意図があってそれがそこにあるのか推察することはたやすかった。
衝立の向こうでは月美が眠っているのだろう。
耳を澄ませば、自分のものとは違う寝息が聞こえるため、それは確定的だ。
この衝立を用意したのは、自分が連れてきた使鬼であることも理解したのだが、一つだけ、懸念があった。
「あいつら、亜妃さんや賢祐さんにちゃんと伝えてくれたんだろうか……」
優秀ではあるが、その本性は狐。
人をからかうという点では、狸同様に厄介な存在だ。
もっとも厄介なのは仮にも主であるはずの護すら、からかいの対象として見ている節があること。
自分の使鬼たちの性格を熟知している護は、そのことを思い出すと少し心配になってきた。
――明日、俺は一体どんな風に亜妃さんと友護さんにからかわれるんだろ……
そのことを考えると少しばかり憂鬱になり、護は横になってそっとため息をついた。
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