見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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奮闘記

24、敵の強大さを知る

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 午後の日差しが差し始めている風森家の一室で、護は眠っていた。
 だが、周囲を衝立で四方を囲み、さらに香が焚かれているその様子は、異様としか言えない。
 四方を囲むということは空間を区切るということであり、結界を張ることと同じだ。
 また、この部屋で焚かれている伽羅《きゃら》の香は、破邪退魔の力を持っているといわれている。
 結界と破邪退魔の香を焚き上げ、霊的な防御を二重に固めている時というのは、決まって夢占いをする時だ。
 だが、今回は力の強い妖が今回の事件に絡んでいると考え、使鬼である狐たちに見張らせ、普段よりも厳重に守りを固めている。
 そんな状態で夢殿に踏み入った護は、静かに目を開けた。
 視界に飛びこんできた光景は、風森家の一室ではなく、まったく見知らぬ部屋だ。
 見知らぬ部屋の内装は、いかにも現在の若者が好みそうな様子だ。
 十中八九、行方不明になっている風間友尋《かざまともひろ》の部屋なのだろう。
 その証拠に、机に置きっぱなしになっている教科書には、彼の名前が記されている。

「うまく入れたみたいだな……さてと、どこから探したものかな」

 そうつぶやきながら部屋を観察すると、壁に一枚の呪符が貼られていることに気づく。
 それが目に入った瞬間、頭の奥がしびれ、肌が泡立つ感覚を覚える。
 護は、その感覚の正体が何であるかを知っていた。
 これは敵意や殺気を持った人間や悪意や邪気を持った妖が放つ気配と同じものだ。
 それが、本来は家や土地あるいは人を守るために使われるはずの呪符から放たれている。

「いつもより、重い……」

 額に汗を浮かべながら、護はそうつぶやく。
 夢の中でも敵意や殺気を向けられたことはあるが、せいぜいが背筋が凍るような感覚が、ほんの少しだけする程度だ。
 これを作った存在が人間だったとしても、ここまで強い殺気や邪念を符に込めることができるとは思えない。

――これ以上、ここにいるのはまずい!

 直感的にそう思い、護は眼を覚まそうと必死になった。

------------

「……っ!!はぁ……はぁ……はぁ……」

 眼を覚ますと、護は息を荒くしながら上半身を起こした。
 息が落ち着くと、今度は胸に鋭い痛みを覚える。
 服をめくり、痛みが走った場所を見ると、鋭い刃物でつけられたかのような傷があった。
 その上、傷から血が流れている。
 どうやら、事前に体に貼り付けていた止痛と治癒、しまっていた防護と退魔の符の呪力のおかげで、大してひどい傷にはならなかったようだ。
 その証拠に、用意していた符が粉々にちぎれていた。

――まさか、用意していた符としまっていた符がこんな形で役に立つとはな

 夢の中で敵意を持った妖に襲われる可能性を考慮していたために用意していたものだったが、まさかこんな結果になったとは思わなかった。
 起き上がった護は、衝立の向こうに置いてある自分の手荷物から、包帯を取り出し、止痛と治癒の符を巻き込むようにして体に巻きつけていった。

「護、その傷は?」

 作業をしていると抑揚を抑えた声が聞こえてきた。
 声がした方へ振り返ってみると、黄蓮《こうれん》と名付けた金色に近い毛並みの子狐が護に視線をむけている。
 護は再び包帯を巻きつけながら。

「……夢殿でやられた」

 と、淡々とした様子で答え、包帯を結び、服を着た。
 おそらく、無理をしなければ今日中に血は止まるだろう。
 そんな自己診断をして、護は黄蓮に向き合い、夢で見たことを話す。
 黄蓮はその話を聞いて、器用に前足を組み、唸っていた。

「妖や魔物の類が符を作ることは無いし、使うこともないだろう。普通は」
「だよなぁ……」

 護は黄蓮の意見に同意した。
 符は本来、潔斎を終えた人間が神仏の加護を言霊や記号に置き換え、それを和紙に書きうつしたものだ。
 ゆえに符からは、往々にして清浄な気が流れてくることが多い。
 しかし、護が夢で感じた気配は、敵意や殺気、怨念、憎悪といった、清浄とは言い難い、どろどろとしたものだった。
 そうなると、考えられることはただ一つ。

「その符を作った奴が、今回の黒幕ってことになるのか」
「お前もそう思うか。まぁ、そのあたりは、月美が……」

 と言いかけたところで、護はうつらうつらと船をこぎ始め、動かなくなった。

「おい、護?」

 どうしたのか、と黄蓮は護の顔を覗き込む。
 目を開ける気配はないが、呼吸は規則正しく繰り返されている。
 どうやら、眠ってしまったようだ。

『夢でできた傷や、妖によってつけられた傷は、眠りに就くことでその回復を早めることができる』

 護の言であるが、果たして本当なのか、と式神たちは疑問符を浮かべていた。
 だが、護本人が、それを体で体験しているためだろうか、それとも月美にこの傷を悟られたくないのだろうか。
 話が途中のまま、護は眠りについてしまった。

「はぁ……おいおい……」

 黄蓮は護のその様子を見て、そっとため息をつく。
 黄色い体毛をした狐は、毛布はどこにあるのやらと部屋のあちこちを見渡し、眠りこける主が風邪を引かないように気を配るのだった。
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