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騒動劇
13、準備は大忙し~角が取れ始めた護~
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こだわりの強いクラスメイトの影響で、提供する菓子類にも手作りしたものを出そうという流れが生まれていたが、後出しで生徒会からの許可が下りることはまずないということから、手作り和菓子を提供する案はとん挫した。
当然出てくる不満を、クラスメイト達は内装と衣装にこだわることで発散することにしたらしい。
看板やテーブルクロス、メニュー板の制作に集中する様子からそれがうかがい知れた。
「……なんというか、よくここまで夢中になれるよな」
「ふふふ。護、それブーメランだからね?」
「なんだかんだ、土御門くんも頑張ってるし」
半眼になりながら、まるで親の敵と相対しているかのような集中力を見せているクラスメイト達の様子を眺めながらつぶやいたその言葉に、月美と佳代は苦笑しながら返してきた。
月美と佳代は現在、テーブルクロスに使う布に飾り用の刺繡を施している最中だった。
もともと興味があったのか、それとも挑戦してみたくなったのか。
いずれにしても二人とも楽しそうに取り組んでいた。
「なぁ、土御門。お前、習字得意ってほんとか?」
「あ?得意ってほどじゃねぇぞ?筆使わないことはないけど」
「だったら頼む!看板書いてくれ!!俺ら習字なんてやったことないからさぁ」
一方の護はというと、字がうまいから、という理由で看板の文字書きを頼まれていた。
陰陽師としての仕事に使う都合上、呪符や霊符を自作することが多い護にとって、看板に文字を書くことなど手慣れたことだった。
普段からその手のことは秘密にしていたのだが、どこから漏れたのか、今朝になって突然、得意だからやってくれとクラスメイト達から頼まれてしまったのだ。
普段ならば即座に断るところだが、自分たちが置かれている状況でそんなことをしてしまえば、準備に余計な時間がかかることになる。
下手をすれば、月美に分担される仕事の量が増える可能性もあり、それはそのまま月美にかかる負担が大きくなることを意味している。
それは避けなければならない、という理由を見つけて、護はその頼みを引き受けることにした。
「……ったく、いったいどこで知ったんだ……つか誰が教えやがった……」
引き受けはしたが、なぜ自分が筆を使うことがあることを知っていたのか疑問を覚えつつ、どこからその情報が漏れ出てきたのかわからず、周囲に聞こえない程度の声で文句を言いだしてしまった。
ぶつぶつと文句を言いながらも、与えられた仕事はしっかりやるという性分からか、その手が止まる回数は少なかった。
だが、すぐ近くで作業していた月美と佳代はそのつぶやきが聞こえていたらしく、同調するように首をかしげていた。
確かに、護は秘密主義であるし交友関係も狭いため、護の口から洩れるということはまず考えられない。
かといって佳代もいつものメンバー以外のメンツの前では緊張のあまり何も話せなくなってしまうし、月美は護と同じ立場であり、自分たちが術者であることを隠している。
二人から洩れた、ということも考えられない。
となると必然的に容疑者は二名に絞られるのだが、護にはすでに犯人に目星がついていた。
少なくとも容疑者の一人である明美は、護が神社の生まれであることは知っているが、どのようなことをしているのか、あるいは手伝っているのかを知らないはずだ。
一方、もう一人の容疑者は、力こそないものの護と、土御門家と同じく千年以上前から存在する陰陽術を操る一族の末裔だ。
力を使うことこそできなくとも、知識はあっておかしくない。
――野郎……次やったらただじゃすまねぇ
犯人に目星がついていた、というよりもほぼ清で間違いないとあたりを付けている護は、苛立ちを抑えながら、心中でそうつぶやき、再び作業に集中し始めた。
本当は今すぐに清の胸ぐらをつかんで色々と問い詰めたいところではあるのだろうが、今は与えられた仕事を全うすることを選んだようだ。
その様子を少し離れたところから見ていた月美は、優し気な笑みを浮かべていた。
「どしたの?」
「あ、うん……護、ようやく打ち解け始めたのかなって思って」
手が止まっていた月美の様子が気になったのか、首をかしげて問いかける佳代に、月美はそう返した。
返ってきたその言葉に、言われてみればそうかもしれない、と佳代も思った。
中学生の頃は学校が違っていたし、一年の頃はクラスが違っていたので接点が少なく、佳代は二、三か月しか護のことを見ていない。
そのため、噂でしか護の人となりを知ることができなかったのだが、耳にする情報はどれも、護がクラスメイトはおろか、教師たちからも距離を取っているということがわかるものばかりだった。
あまりに情報が少なすぎたため、不良なのではないかとか、実はその筋の人々とつながりがあったり、組の若大将であったりするのだろうか、と奇妙な妄想を繰り広げていたこともある。
体育祭で助けられた一件で、土御門護という人間の背負っている過去を月美から聞いたことで、それらの妄想は妄想にすぎず、むしろ人との距離をどう取ればいいのかわからない、不器用な性格であることを知ると、護と一緒にいることに不安を感じるようなことはなくなり、むしろなぜか親近感のようなものが湧いてきていた。
「それにしても、月美はほんとによく土御門くんのことを見てるよね?」
「へ?……ま、まぁ、うん……幼馴染でお付き合いもしてる、し?」
「ほんとにそれだけかなぁ?」
「ほ、ほんとにそれだけだよ……と、というか、佳代!わたしたちもはやく仕上げちゃおうよ!!」
にやにやとした笑みを浮かべながら、佳代は唐突に月美にそう語りかけると、月美は頬を朱色に染めてそれ以上は何も聞かれないように、刺繡に集中し始めた。
もっとも、血が出るほど深くはなかったが、二、三回ほど針を指に刺してしまったのだが。
当然出てくる不満を、クラスメイト達は内装と衣装にこだわることで発散することにしたらしい。
看板やテーブルクロス、メニュー板の制作に集中する様子からそれがうかがい知れた。
「……なんというか、よくここまで夢中になれるよな」
「ふふふ。護、それブーメランだからね?」
「なんだかんだ、土御門くんも頑張ってるし」
半眼になりながら、まるで親の敵と相対しているかのような集中力を見せているクラスメイト達の様子を眺めながらつぶやいたその言葉に、月美と佳代は苦笑しながら返してきた。
月美と佳代は現在、テーブルクロスに使う布に飾り用の刺繡を施している最中だった。
もともと興味があったのか、それとも挑戦してみたくなったのか。
いずれにしても二人とも楽しそうに取り組んでいた。
「なぁ、土御門。お前、習字得意ってほんとか?」
「あ?得意ってほどじゃねぇぞ?筆使わないことはないけど」
「だったら頼む!看板書いてくれ!!俺ら習字なんてやったことないからさぁ」
一方の護はというと、字がうまいから、という理由で看板の文字書きを頼まれていた。
陰陽師としての仕事に使う都合上、呪符や霊符を自作することが多い護にとって、看板に文字を書くことなど手慣れたことだった。
普段からその手のことは秘密にしていたのだが、どこから漏れたのか、今朝になって突然、得意だからやってくれとクラスメイト達から頼まれてしまったのだ。
普段ならば即座に断るところだが、自分たちが置かれている状況でそんなことをしてしまえば、準備に余計な時間がかかることになる。
下手をすれば、月美に分担される仕事の量が増える可能性もあり、それはそのまま月美にかかる負担が大きくなることを意味している。
それは避けなければならない、という理由を見つけて、護はその頼みを引き受けることにした。
「……ったく、いったいどこで知ったんだ……つか誰が教えやがった……」
引き受けはしたが、なぜ自分が筆を使うことがあることを知っていたのか疑問を覚えつつ、どこからその情報が漏れ出てきたのかわからず、周囲に聞こえない程度の声で文句を言いだしてしまった。
ぶつぶつと文句を言いながらも、与えられた仕事はしっかりやるという性分からか、その手が止まる回数は少なかった。
だが、すぐ近くで作業していた月美と佳代はそのつぶやきが聞こえていたらしく、同調するように首をかしげていた。
確かに、護は秘密主義であるし交友関係も狭いため、護の口から洩れるということはまず考えられない。
かといって佳代もいつものメンバー以外のメンツの前では緊張のあまり何も話せなくなってしまうし、月美は護と同じ立場であり、自分たちが術者であることを隠している。
二人から洩れた、ということも考えられない。
となると必然的に容疑者は二名に絞られるのだが、護にはすでに犯人に目星がついていた。
少なくとも容疑者の一人である明美は、護が神社の生まれであることは知っているが、どのようなことをしているのか、あるいは手伝っているのかを知らないはずだ。
一方、もう一人の容疑者は、力こそないものの護と、土御門家と同じく千年以上前から存在する陰陽術を操る一族の末裔だ。
力を使うことこそできなくとも、知識はあっておかしくない。
――野郎……次やったらただじゃすまねぇ
犯人に目星がついていた、というよりもほぼ清で間違いないとあたりを付けている護は、苛立ちを抑えながら、心中でそうつぶやき、再び作業に集中し始めた。
本当は今すぐに清の胸ぐらをつかんで色々と問い詰めたいところではあるのだろうが、今は与えられた仕事を全うすることを選んだようだ。
その様子を少し離れたところから見ていた月美は、優し気な笑みを浮かべていた。
「どしたの?」
「あ、うん……護、ようやく打ち解け始めたのかなって思って」
手が止まっていた月美の様子が気になったのか、首をかしげて問いかける佳代に、月美はそう返した。
返ってきたその言葉に、言われてみればそうかもしれない、と佳代も思った。
中学生の頃は学校が違っていたし、一年の頃はクラスが違っていたので接点が少なく、佳代は二、三か月しか護のことを見ていない。
そのため、噂でしか護の人となりを知ることができなかったのだが、耳にする情報はどれも、護がクラスメイトはおろか、教師たちからも距離を取っているということがわかるものばかりだった。
あまりに情報が少なすぎたため、不良なのではないかとか、実はその筋の人々とつながりがあったり、組の若大将であったりするのだろうか、と奇妙な妄想を繰り広げていたこともある。
体育祭で助けられた一件で、土御門護という人間の背負っている過去を月美から聞いたことで、それらの妄想は妄想にすぎず、むしろ人との距離をどう取ればいいのかわからない、不器用な性格であることを知ると、護と一緒にいることに不安を感じるようなことはなくなり、むしろなぜか親近感のようなものが湧いてきていた。
「それにしても、月美はほんとによく土御門くんのことを見てるよね?」
「へ?……ま、まぁ、うん……幼馴染でお付き合いもしてる、し?」
「ほんとにそれだけかなぁ?」
「ほ、ほんとにそれだけだよ……と、というか、佳代!わたしたちもはやく仕上げちゃおうよ!!」
にやにやとした笑みを浮かべながら、佳代は唐突に月美にそう語りかけると、月美は頬を朱色に染めてそれ以上は何も聞かれないように、刺繡に集中し始めた。
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