目立たないでと言われても

みつば

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番外編 五条遥 2

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*******
(五条遥 6歳)

今日は久しぶりに響也に会う日だ。しかも今日はあの『みなとくん』も来るらしい。遥の心は幼いながらにひそかな闘志で燃えていた。


見覚えのあるお城のような家に行き、すぐに子供部屋に連れて行かれた。
「いい子にしてるのよ」
「うん」
ドアを開けて中に入ると、響也が見知らぬ男の子といっしょに遊んでいた。遥より一回り大きい。
遥に気づいた響也が嬉しそうに手を振る。

「はるくん!こっちー」
響也の笑顔に遥はすぐすっとんでいく。
「はるくん、みなとくんだよ」
ニコニコと湊人を紹介する響也を見て、遥のウキウキした気持ちはすっかり萎んでしまった。メラッと湧き上がった気持ちそのまま湊人を睨みつけた。
しかしすぐびっくりして目を見開いた。
「おめめがあおい」
「きれいでしょー」
嬉しそうな響也にもやもやした。
「へんだよ」
遥からしたら目は黒いもので、確かに青い瞳は奇異にうつった。ただそれ以上にきれいだとも思っていた。しかしそれを素直に認めるのもしゃくで、ついつい変だと言ってしまったのだ。

「なんでそんなこというの!!!」
誤算だったのは遥のセリフを聞いた響也が想像の倍以上起こり出したことだ。遥は悲しくなって特に思っていないことをすぐに言い返してしまう。
「だって、へんだよ。あおいの」
「へんじゃないもん!きれいだもん!」

2人の言い争いはヒートアップして、ついに響也の振り回した手がパチンと遥に当たる。遥もすかさず叩き返す。ついには2人とも泣き出してしまった。響也は泣いたまま部屋を飛び出してしまう。遥は部屋に残ったままグズグズヒックヒックしていたが、ふともう1人の存在を思い出した。
自分のことで喧嘩をしているのに、湊人はそれを放置して1人積み木で遊んでいたのだ。
湊人はしばらく黙々と遊んでいたが、遥の視線に気が付き、手を止めて遥に顔を向けた。

「なあに?」
「なんでおこらないの?」
「なんでってなんで?」
「ぼくへんだっていったのに」
「ぼくじぶんのおめめすきだから、はるかくんがなにいってもきにしない」
湊人本人はさもつまらないことかのように言った。遥はつまらないことで響也を怒らせてしまったことを残念に思った。

「はるかくんはごめんねっていいにいかないの?」
遥は謝りたかったが、響也がまだ怒っているのかと思うと動けなかった。
「まだおこってるかも」
「だいじょうぶだよ。ぼくもいっしょにいってあげる」

***

遥はよくわからなかった。気づけば敵の湊人と手をつないでいっしょに歩いている。
湊人の方が大きいから遥が抵抗するとずるずると引きずられてしまう。遥は大人しくついていった。


響也はすぐに見つかった。子供部屋をでてすぐの階段に座っていた。
「きょうちゃん」
「みなとくん!」
湊人の声でパッと顔をあげたが、隣に遥がいるのを見ると途端に顔をしかめる。トットットッと走って来て遥と湊人が繋いだ手を離そうとする。

「きょうちゃん、ごめんねは?」
「だって、はるくんがみなとくんのことへんっていった」
「きょうちゃんがさきにぶったんだよ」
グヌヌと唸ったあと、響也は小さな声で言った。
「はるくん、ごめんね」
「ほら、はるくんも」
「………ぼくもごめんね」
「ふふ、じゃあさんにんであそぼー」

湊人は繋いでいない方の手を響也と繋いで歩き出した。


***


結局遥は響也と仲良くなるどころか、響也には敵認定されてしまったようだ。響也は遥と会うたびに湊人にくっいてたまに睨んできた。

また、さらに遥にショックを与えたのは小学校入学だった。響也とは小学校が同じだったのだが、久しぶりに会った響也は男の子の制服を着ていた。

「きょうちゃん、おんなのこじゃないの?」
「ぼくはおとこのこだもん!!!」
「ぼく……」
今まで響也は自分のことを名前で呼んでいたし、フリルの付いた服を着ていることが多かったので、完全に女の子だと思っていたのだ。
勝手に勘違いをしていただけなのだが、遥はとてもショックだった。冗談抜きで3日寝込んだ。そして治って学校に来るくらいには遥も頑なになっていて、2人の仲はそれ以上良くならなかった。



********

あんなのは黒歴史だ。

風紀室に戻りながら遥は思う。


幼い頃を思い出すと、この苦い記憶が蘇る。ちなみに可愛らしい『きょうちゃん』は響也にとっても黒歴史らしく、遥と響也がこの頃を語ることはない。


「戻った」

おかえりなさい、と声をかけてくる風紀委員たちの横を通って副委員長の席につく。

「おかえり、遥」
生徒総会以来湊人は風紀室で仕事をするようになった。
「あれ?なんかいつもより不機嫌だな。何かあったのか?」
「別に何もない」
「ふーん」


自分も、響也もあの頃とは似ても似つかない。変わらないのは湊人だけだ。ただ腐れ縁というべきか、これからも2人の近くにはなんだかんだ自分がいるのだろう。
そんな予感だけだ。
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