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【ダレス視点】

5.※火遊びの終わり

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【Side.弟王子】

「本当に兄上はぼんやりしてるよな」

宰相の息子ノルディックはああ見えて物凄く腹黒でやり手なんだ。
兄と関係を持った翌日にはもう動き出してたんだぞ?
王宮内のことにも異様に詳しいし、政敵の弱みなんてあっという間に握りまくっていた。
斯くいう俺だって…。

「ブラウン殿下。物は相談なんですけど、結婚したら子供を一人養子にもらえませんか?」

ヒラヒラと俺の弱みをひけらかしながらにっこり満面の笑みでそう宣う将来の宰相は悪魔そのもの。
まあ俺としても自分の子が兄の次に王になるなら有りではあるけどさ。

(兄上もとんでもないのに捕まったな)

当時はそんなことを思ったものだ。
でも────兄上が君と別れるつもりっぽいけど大丈夫?とさっき言ってやった時の顔はかなりの見物だったな。
愕然としたあんな彼の表情は想像したこともなかった。
いつも余裕たっぷりの奴がそんな風になるなんてちょっと笑える。

さて、無事に捕まえることはできただろうか?

そんな事を考えながら俺はそっと兄が去って行った方向を見遣ったのだった。


***


【Side.ダレス】

城に帰って弟のところで資金を受け取ったはずなのに、どうして俺は自室でノルに抱かれてるんだろう?

「あ…ぁあっ、んっ!」

もう二度と抱いてもらえないと思っていただけに、こんな風に抱かれたら離れられなくなってしまうじゃないかと泣きたくなった。

「ダリィ…っ」
「あ…ノル、ノルっ!」

これが本当に最後かと思うと切な過ぎてたまらない。
もう最後だし、本当の気持ちをいっそ告げてしまおうか?
それともやっぱり黙って旅に出てしまうのが一番だろうか?

「や…っ!そこ、弱いのにぃ…!」
「こんなに俺で感じるくせに…どうしてっ…!」

そうしてノルは俺の中に注ぎながら吐息さえ貪るように深く口づけ、しっかりと抱きしめてきた。

「あ…ああっ…ノル…っ、好き…好き…だ…っ」

だから思わず気持ちが溢れてしまって、勝手に口からそんな言葉がこぼれ落ちてしまう。

「ダ、ダリィ?」
「うぅ…。今日で終わるんだってわかってるけど…俺、火遊びなんかじゃなく…お前が…本当に…うっ…」

俺達は本来ゲーム内の攻略対象者同士で、こんな風に抱き合う関係なんかじゃないはずだった。
火遊びだから許された関係だったんだと思う。
卒業したらもうゲームなんて関係なくなるだろうし、ノルだって婚約者と結婚するだろう。
だから俺は失恋決定なんだ。
なのに涙は次から次へと溢れて全然止まってくれない。

「ノル…最後に抱いてもらえてよかった」

それでも俺は気持ちを押し殺してそう口にしたのに、何故か次の瞬間ノルから唇を塞がれていた。

「ん…んぅ?」
「ダリィ…ゴメン。でも良かった。嬉しい」
「ん…え?」
「最後になんてさせないし、するつもりもない。何も心配はいらないから」
「ノル?」

ノルがさっきまでのどこか必死さを滲ませた空気を緩和させ、幸せそうに笑いながら俺に言ってくる。

「お前のために政敵の弱みはこの一年半で全部握ったし、外堀だって全部埋めといた。だから、別れるなんて考える必要はない。安心して俺と一緒になってほしい」
「…………え?」

正直言われている意味が全く分からなかった。

「え?でもノル…婚約者は?」
「ミーナ嬢のことか?とっくに婚約は解消して条件のいい男と引き合わせて再婚約させておいたけど?」

サラリとそんなことを言われて俺は戸惑うことしかできない。

「で、でも俺…」
「カトリーヌ嬢の方も手を回して婚約解消手続きは既にしてもらってるから。ただ、何故か本人が話を聞きたがらないってご両親が困っていたな」

しかもそんなことまで言われて思わず首を傾げてしまった。

「…?でも俺、今日帰り際に公衆の面前で彼女から婚約破棄を突きつけられたけど?」
「…………詳しく聞こうか?」

そうしてノルは一度俺から身を離し、腕枕をしてくれながら話の先を促してきたから、俺は帰ってくる直前の出来事について詳細に話してみたんだけど…。

「あり得ないな…」

公衆の面前でダリィに恥をかかせるなんてとノルは怒りの形相でポツリと溢し、何やら思考に耽っていた。

「うん。でも俺、別にショックでもなんでもなかったんだ」
「え?」
「俺、婚約破棄よりノルとの関係が終わることの方がずっと辛くて…早く旅に出ないとって帰ってきたんだけど…」

そのタイミングでノルに捕まったんだよなと思ってたらそのまま引き寄せられて抱きしめられてしまう。

「そうか。悪かった。手放す気が全くなかったからすっかり言い忘れてたんだけど…不安にさせたな」
「ノル…」
「もうこれからはずっと一緒だから。ダリィ、俺と一緒に居てくれるか?」
「ノ、ノル…」

これって夢じゃないよなと思いながらギュッと抱き着くとノルの温もりがじわじわと伝わってくる。

「俺…ノルとずっと一緒に居たい」
「うん」
「ノル…俺が第一王子じゃなくても傍に居てくれるか?」

将来の王と宰相じゃなくなってもノルは俺の傍に居てくれるだろうか?

「ダリィ?」
「俺、ノルと一緒になれるなら、この後すぐにでも王位継承権返上してくる!」

王になったらどうしても後継者が必要になるはずだし、この先結婚しろってうるさく言われるだろうから先手必勝で先に継承権を放棄してしまおう。
そう思って言ったのに、ノルの方はびっくりしたような顔になったかと思うと一気に破顔して何度も俺にキスをしてきてしまった。

「ダリィ。そんなに俺が好きなんて嬉しい!」

そして真っ直ぐに俺を見ながら『愛してる』って言ってくれたんだ。
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