【完結】俺はライバルの腕の中で啼く。

オレンジペコ

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11.なんで俺が。

俺が負けを認めたにもかかわらず、伊集院は俺が名前を呼ぶのと引き換えに俺にチャンスをくれた。
曰く、フェアじゃないからと。
流石俺がライバルと認めた男。
こういう誠実なところは好ましく思う。

そうして折角もらったチャンスを生かすべく、我慢しようと思ったのにっ!

「うぅ…っ。くそっ!お前、絶対練習しただろう?!」

絶対に前回より上手かった気がする。
とてもじゃないが全く我慢できなかった。

(屈辱だ!)

でもライバルだって練習すると言うのを考えていなかった俺が悪い。
こうして切磋琢磨し合うのがそもそもライバルというものなんだから。

「次は負けないから、覚悟しておけよ!誉!」

そう宣言したら伊集院はちょっと驚いた顔になったものの、すぐに破顔して『勿論だ。知臣』と言ってきた。


***


一週間が終わり土曜日になった。
土日は基本部活だ。
そこでは相も変わらず伊集院と顔を合わせるんだが…。

「有馬。この後後輩達と飯に行くけど、一緒に行かないか?」

相変わらず爽やかに誘ってくる伊集院。
一度も頷いたことはないのに、何故誘う?

「行かない」
「でももうすぐ引退するんだし、一回くらい一緒に行かないか?」

いつもならすんなり引き下がるくせに何故か今日に限ってそんな風に重ねて誘ってきた。
しかも余計なことまで言うものだから後輩達が騒ぎ出すし、正直言ってうんざりしてしまう。

「有馬先輩!引退するなんて聞いてません!やめないでください!」
「そうですよ!まだまだ教えてほしいこと、沢山あるのに」
「伊集院先輩も有馬先輩がいないと張り合いがなくなるじゃないですか」

そんな風に引き留められ、やめるなら食事くらい付き合って欲しいと散々言われてしまった。
なんで俺がこんな目に。

(伊集院め!)

ギロッと睨んだら『まあまあ』と宥められ、『一回くらいいいだろう?』とまた誘われてしまう。
これは退く気がないなと思ったから、一回だけの約束で付き合うことに。
これには後輩達も大喜びだ。
俺なんていてもいなくてもどっちでもいいだろうに。

ちなみにてっきり食堂に行くのだと思ったら外に出るらしい。
学園にあるリムジンは数台あって、それぞれ専属の運転手がいる。
もちろん予約制なんだが、部活がある日は大体伊集院が予約を入れているらしい。
だから皆でそれに乗り込んで、外食へと出掛けた。
当然だが移動中もあれこれ話を振られて面倒臭い。
ただ、ちょっと心配そうに見当違いなことを言われたから、その点だけは否定しておいた。

「やっぱり生徒会の二人が出てこないせいですか?」
「え?」
「ああ、それで有馬先輩に負担がいって引退を?」
「いや、違うぞ?」
「誤魔化さなくていいですよ。今先生達の方でもちょっと問題じゃないかって言われてるんですから。不信任で解任になるのも時間の問題だと思います」

『本当にあの二人、信じられませんよね』と大ブーイングだ。
とは言え実際は難しいだろう。
9月には新役員の立候補が始まるし、そこから選挙があって9月中には次期生徒会メンバーは決定する。
10月にある文化祭を通して仕事を引き継いだらほぼ現生徒会は解散だ。
その際に手渡す引継ぎ資料も大体もうできているからスムーズにバトンタッチはできるはず。

「あ、着きましたよ!」

そう言って連れてこられたのは大型複合施設だった。
俺は滅多に来ないけど、まあついでだし本屋にくらい寄れたら寄りたい。
ここの本屋はデカイから。

そんなことを考えているうちに店に着いたようだ。
場所は和食バイキングの店だった。
きっと皆が自分の好みで好きなだけ食べれるようにだろう。
和食というのも俺的には嬉しいポイントだった。
洋食の場合は揚げ物が多くて胸焼けすることがあるが、和食ならまず大丈夫。
俺は笑顔で皿を手に取った。


***


【Side.伊集院 誉】

これまで何度も部活帰りに声を掛け続けてきたにもかかわらず、一度も付き合ってくれた試しがなかった有馬。
そんな有馬が、今日初めて首を縦に振ってくれた。
俺がどれだけ嬉しかったか、きっと有馬はわかっていないだろう。
折角だから有馬の好みを把握したい。
今後のデートの参考にするためにもしっかり今日という日の幸運を生かさないと。
そんな思いで和食バイキングへと連れて行った。
早速さり気なく好みをリサーチ。
なるほど。あっさりした味付けの方が好みのようだ。
実に有馬らしく健康的なチョイス。
その後、テーブルで後輩を交えて話をすると、揚げ物系は胸焼けするから、洋食よりこういう和食の方が好みとのこと。
良かった。ここにして。

ついでに後輩が休日の過ごし方やら好きな音楽や映画、趣味なんかも聞いてくれたから、俺は意図せず有馬の好みを知ることができた。
それによると今はミステリー小説の『サーカス団』シリーズにハマっているんだとか。
ツイてる。
それなら俺もこの間面白そうだなと一冊手に取ったばかりだ。
サーカス団が行く先々の街で事件に巻き込まれて団長が事件を解決していくシリーズもの。
折角だし、この後本屋でさり気なく既刊のものをチェックしてみよう。
少しでも有馬の好みは知っておきたいし。

そんなことを考えながら今日は良い休日だなと喜んでいたら、こんなところで聞きたくなかったその声が耳へと飛び込んできた。

「あ、会長と副会長だ!」


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