【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

文字の大きさ
12 / 215
【本編】

8.逃げ出す護衛騎士 Side.セドリック

しおりを挟む
翌朝、目が覚めると隣にいるはずのアルフレッドの姿はどこにもなかった。
まさかと思い外に控えていた警護の騎士に尋ねると、小一時間ほど前に怒りを露にしながら部屋に戻ったと言われた。
これはマズい。
下手をしたら逃げられるのではないかと思い、すぐさまその姿を探すことにした。
このまま逃げられたら目も当てられないではないか。
そしてまずはアルフレッドに与えられた部屋へと足を向ける。
けれどそこにアルフレッドの姿は既になく、近くにいた者に話を聞くとどうやらアルメリア姫の元へと向かったらしいことが分かった。
良くも悪くも真面目な性格で良かった。
俺は急いで彼女の元にいるであろうアルフレッドの元へと向かうが、こちらの気配を察知して逃げられても困るなと思い、ドアが近づくにつれ徐々に気配を消していき辿り着く頃には完全に気配を遮断していた。
これならきっと気づかれずに近づくことができるはず。
そして中へと足を踏み入れ耳に飛び込んできたのは激高したような声と言葉だった。

「ふざけないでください!俺は今後一切身代わりなんてしませんからね?!次からは誰か侍女でも行かせてください!」

正直冗談でもそんなことは言わないで欲しかった。
昨日あんなにも愛し合ったというのに酷い言い草だ。

「アル…何をつれないことを言っている?」

だからこちらに気づいていないのをいいことにそのまま背後を取り、逃げられないようにと捕獲した。
気づいていなかったからかアルフレッドはビクッと身を震わせたが、やはり気配を消して近づいたのは正解だったようだ。
まるで今にも逃げだしそうな空気を醸し出している。

(逃がすものか……)

「初夜に来たのは他の誰でもないお前だろう?アル。だからお前が俺の花嫁だ。侍女など宛がわれても抱くはずがない」
「セ、セドリック王子?」
「何かな?アル」
「俺はあくまでも姫の護衛騎士なので、愛人や性欲処理係ではないとこの際言わせて頂きたい」
「ああ、なるほど?」

そういうことか────。
確かに挙式の時に正妃として認められたのはここにいるアルメリア王女だ。
それならば実際問題こんな勘違いをするのもわからないではない。
けれどどちらかと言うとアルメリア王女はただのおまけで、アルフレッドこそが本命と言えるのだが……。

(そういうことなら……)

「わかって頂けましたか?」
「ああ、勿論。────アルメリア王女……」
「はい!」

逃げられないよう速やかに場を整えればいいだけの話だ。
愛人や性欲処理係でなく、周知できるような立場を用意すればいいのだろう?

「姫の代わりに初夜に来たのはここにいるアルフレッドに間違いはないな?」
「は、はいっ!間違いございません!」
「では…アルフレッドを俺の妃にするのになんの異存もあるまいな?」
「ございません!」
「では今この瞬間からアルフレッドは俺の側妃として扱うように」
「はいっ!喜んでーっ!」

それを聞いたアルフレッドは絶句していたが、我に返るとすぐさま断りを入れてきた。
曰く、そんな馬鹿な話があるかということらしい。
けれど逃げようとする方が悪いのだ。
悪いが外堀はすぐさま埋めさせてもらうぞ?

(絶対に逃げられないようにな)

そしてニヤリと笑って俺はすぐさま父の元へと向かい側妃認定をもぎ取ってくると、おしゃべりな侍女達へと指示を出し王宮全体に噂を広めるよう動かした。

(これでいい…)

そんな風にほくそ笑み、今夜文句を言いに来るであろうアルフレッドの姿を思い描きながら夜を待った。


***


昨日に引き続きコンコンとドアをノックする音がする。
けれど気配を探ってすぐに相手が求めている者ではないと察してしまった。

「…入れ」

案の定やってきたのはアルフレッドではなく、その主であるアルメリア王女だった。
まさかとは思うがアルフレッドを押しのけてやってきたのではないだろうなと思わず威圧を放ってしまう。

「ひっ…!」

それを受けた姫はたちまち蒼白になりその場へとへたり込みそうになった。

「…どうしてお前が来た?」
「し、仕方がなかったんです!お許しください!」

そしてとうとう耐えきれなくなったのか、床に伏すようにしながら謝罪と言い訳を口にし始める。

「ア、アルフレッドが義務は果たして子を作れと言いまして、そうしないとここから出ていくと…!」

どうやら姫がここに来たのはアルフレッドの指示だったらしい。
そういうことなら威圧しても仕方がない。
状況を把握するためにも一先ず話を聞くことにする。

(とは言え子を為せとはまた…随分なことを)

俺にこの女を抱けと言うなんてとどうしても不満は溜まってしまう。

「子ができればおとなしく側室に収まると?」

それならば我慢して抱かなくはないが……。

「い、いえっ!そこまでは……。ひっ…!」

(違うのか?ならばどういう了見だ?)

思わず抑えていた殺気が顔を出し、姫がブルブルと震えながら説明を始める。

「お許しください!アルフレッドはかの有名なゴッドハルトの英雄の片腕だった男でして、私にはどう足掻いても説得できそうになかったのです!」

(ゴッドハルトの英雄の片腕…だと?)

その英雄の話なら自分でも知っている。
あの腐った国を救った英雄トルセン。
そして彼の傍らにはいつも一人の男がいると評判だった。
剣豪アルフレッド────そうか。そうだったのか。
アルフレッドと言う名はありふれた名前だからこそ失念していた。
まさかこんなところで姫の護衛などというあり得ない立場に収まっていたなどと…思いつくはずもない。

「ははっ…!なるほどな。それなら納得だ」
「…………」

それならば暗部が手玉に取られるのもわからなくはないし、おとなしくここに留まるなどという安易な選択もしはしないだろう。
逃げようと思えばいつでも逃げられるほどの実力を持った男。それがアルフレッドと言う男なのだ。

「では姫。これからについて話し合うとしようか…」
「……は、はい」

さて、そんな男をどうやってここに置き続けようか?
現状姫の護衛騎士であることから考えてもこの姫の使いようによっては引き続きここに居てもらえるはずではあるが…。それには何の保証もない。
機嫌を損ねず、且つ絡めとって逃げられないようにしておくにはどう仕掛けるのが一番だろう?
それを考えるだけでも生まれてからずっと退屈だった日々が色鮮やかに変わっていくように感じられた。

「ああ、わくわくするな」
「左様ですか」

姫にはこんな俺の心境など全くわかるはずがないだろう。

「知っているか?あの男につけた俺の暗部達は皆気づかぬ間にしてやられたのだ」
「…それはとんだご無礼を」
「いや。怒っているわけではない。寧ろ他の護衛騎士達は全く気付いていないのにあの男だけは別格だと思っていたのだ。だからこそ先日完全に気配を断って近づいてみたんだが……」

(あの時の反応は最高だったな)

ついその時を思い出し頬が緩んでしまう。
逃げようとする獲物を追いかけたくなるのは男の性とでもいうのだろうか?
誰もが恐れる自分の前でも安易におもねることのないあの男が俺はたまらなく欲しかった。

「あの男をこの手に入れる日が待ち遠しいな」
「……頑張ってくださいませ」

そしてそもそもの義務と言うこととアルフレッドが望むのならばと些事はさっさと片付け、姫と明日以降は絶対にアルフレッドをここにと誓い合ったのだった。


しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...