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【ミラルカ旅行】

154.ミラルカ旅行⑱ Side.レオナルド

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翌朝、早速アルメリアに声を掛けてユーフェミア王女と話してみたい旨を伝えてみた。
昨日の今日で元気ですねとゲッソリした顔で言われたけど、そこはロキが上手くやってくれたしと笑顔で言ったら、『そうやって甘く考えてると、いつか痛い目を見ますよ』と釘を刺された。
そんなに心配しなくてもいいのに。

取り敢えずアルメリアは午後のお茶の席を設けてくれるようにこの後ユーフェミア王女に話をしてくれるらしいので、そちらは任せて一人で朝食の席へ。
昨日までミーシャ嬢と一緒だったから一人で食べるのはなんだか味気ない。

(オーガストでも誘えば良かったな…)

そう思っていたら、スッとテーブルに手が乗せられた。
誰だろうと顔を上げたらそこにはセドリック王子が立っていて一気に血の気が引いてしまう。
だって見上げたその目はどこまでも冷たくて、殺気のこもったものだったから────。

「レオナルド皇子。わかっていると思うが、帰るまでもうこちらを巻き込むようなことは一切するな」
「は…はひ……」

(ど…どどど、どうしよう?!)

半端ない殺気と威圧に襲われて勝手に身体がカタカタと震えだす。

「昨日はロキの顔を立ててやったに過ぎない。あまり調子に乗っているとワイバーンに逆さ吊りでブルーグレイまで連れて行ってやるからよく考えて動くことだ」

(ブ、ブルーグレイまでって三日以上逆さ吊りにしてやるぞってこと?!死ぬ!死ぬから!!)

それは死体を持ち帰って晒してやると言ったも同然の言葉だった。
仮に生き残ってても絶対に無事には帰してもらえない気がする。
ここにきてやっとアルメリアの言った言葉がストンと腑に落ちた気がする。
セドリック王子は本当に冷酷な王子なのだ。
いくらロキが取り成してくれたとは言え、軽々しく許してもらえたなんて思う方がどうかしていた。
俺にだって非はあったのだから、きちんとこちらから礼を尽くして謝るべきだったのだ。
俺はそう思い至り、慌ててその場で席を立ってロキ仕込みの土下座をして精一杯の謝罪を入れた。

「大変、申し訳ありませんでした!!」
「わかればいい」

そう言いながらもセドリック王子に思いっきり背中を踏まれてしまう。
どうやら相当怒っているらしい。
でも、それにしても酷い。
ドスッと踏まれたせいでグフッと息が詰まったし、そのままグリグリ痛いほど踏み躙られたから、絶対に痣になってると思う。
ロキの踏み方の方が愛情があってもっと踏まれたくなるし好きだなと、思わず現実逃避してしまうくらいには辛かった。
その後無事に許してもらえたけど、殺気を撒き散らしながら踏まれるのは本気で怖かったし、二度と踏まれたくはない。

「うぅ…ロキに踏まれたい。ロキの踏み方の方が絶対優しい。結構容赦なく酷かったけど、あの絶妙な踏み加減が懐かしい。それにロキは声が優しいから言うこと聞きたくなるし、やる気だってでるし、ちゃんと素直に反省だってする気になるし…」

そうしてブツブツ言いながら朝食をつついていたら横からため息が聞こえてきた。
今度は誰だろうと思ってそっと顔を上げたらそこには何故かユーフェミア王女が立っていた。

「ユーフェミア王女…」
「レオナルド殿下。もしや被虐趣味が?」
「いやいやいや?!」
「でも今……」
「違うから!ロキは特別だから!」
「やっぱり……」
「全然違うよ?!ロキは優しく言い聞かせるように絶妙な加減で踏んでくれるんだから!痛いはずなのに痛気持ちよくて、もっと踏んで欲しくなるっていうかっ!えっと、そう!愛がこもってるんだ!だから俺は被虐趣味なんじゃなくてロキにだけ踏まれたいんだ…!」

なんだか言えば言う程残念感が漂うけど、ロキをセドリック王子と一緒にはして欲しくなかった。
大事な大親友をあんな人でなしと一緒にして欲しくはない。

「コホン。それで?何か俺に用でも?」
「いえ。先程アルメリア姫からレオナルド殿下が私と話したいと言っていたとお伺いしたものですから」
「え?!あ、そ、そうなんだ。でも、今じゃなくても…」
「いいえ。ミーシャ嬢のお姿がないのも気になっておりましたし…」
「あ…」

それを聞いて、俺は少し悩んでからどうぞと向かいの席を勧めた。
それから一連の話をしたら呆れたように溜息を吐かれてしまう。

「レオナルド皇子」
「はい」
「正直残念過ぎますわ」

ユーフェミア王女がグサッと思い切り言葉を突き刺してくる。

「そ、そうは言ってもどうしようもなかったし…!」
「そこは最初の段階で彼女にきちんとお二方を紹介して、失礼がないようにと誘導すべきでした」
「あ……」

今更ながらそんな当たり前のことを失念していたことに気づいて蒼白になってしまう。

「彼女が可哀想なことになったのは自業自得の面を差し引いてもレオナルド皇子に責任はあると思いますわ」

だからセドリック王子に釘を刺された上で踏まれたのではと言われてしまった。
それは確かにそうかもしれない。
それを指摘されたことと、先程の場面を見られていたという事実に羞恥が湧きおこり居た堪れなくなってしまったけど、ユーフェミア王女は特に気にせず言葉を続けてきた。

「殺されなかっただけ温情が頂けて良かったと言うことですね。ロキ陛下の顔を立てたと仰っていましたし、余程上手く取り成してくださったのでしょう」
「…………」
「本当に…それほど上手く立ち回れるロキ陛下に、私も一度お会いしてみたいものです」

そう言った彼女はどこか憂いを含んだように見えて、何かあったのかなと思った。

「ユーフェミア王女?」
「……なんでもありませんわ」

そう言いつつも彼女らしからぬ様子に少し気になって、どうしようかなと思案する。

「その…もし何か悩みがあるなら聞くだけならいくらでも聞くよ?ほら!身内以外に話した方が案外話しやすかったりするかもしれないし!俺で良かったら話してみて!」
「はぁ…。レオナルド皇子は本当に大らかなお方ですね」

(それって悩みがなくていいですねってこと?!)

能天気と言われたようで地味に凹むんだけど…。

「ですがお心遣いだけ有難く頂いておきます」

そう言って微笑んでくれたユーフェミア王女には隙が無くて、何となく悔しく思った。
何と言うか一瞬で仮面をかぶられてしまったような気になってしまったからだ。

「ちなみに午後からお話ししたいという件は、このミーシャ嬢の件に関してのことでしょうか?」

けれど確認するようにそう言われて俺は慌ててそれを否定する。

「違うよ!その…婚約の話が持ち上がったのに、ユーフェミア王女とはよく考えたらきちんと話したことがなかったと思って…」
「そうですか」

そう言いながらなんでもどうぞと促されたけど、なんだろう?
すっごく壁があって話し辛い。
色々質問をしたらちゃんと全部に対して丁寧な答えが返ってくるんだけど、何と言うか物凄く一方通行な感じ。
卆なく返ってくる答えに皇妃として申し分のない女性だとは思うけど、結局踏み込ませてもらえないから距離がある。
これじゃあ絶対に結婚しても上手くいくとは思えなかった。

(やっぱりダメだ……)

どうしようもなく彼女とは合いそうにないと思えてならない。
もっと本音で語れる相手の方が絶対にいいと思う。

「はぁ…ロキに会ってズバズバ言われたいなぁ……」

ロキはいつだって素の自分を晒して俺に接してくれる。
裏表がない分わかりやすいし、俺としてもその分接しやすいのだ。
なんだったらロキみたいなお嫁さんが欲しかった。
だからついそうやって溢してしまったんだけど、これが何故か彼女の気を引いたらしかった。

「レオナルド皇子から見てロキ陛下はどんな方ですか?」
「え?ロキ?すっごく話しやすくて知れば知るほど面白くてつい頼っちゃう最高の大親友かな?」
「何が切っ掛けで親しくなったんです?」
「ああ、国際会議の時だよ。あの時も実はセドリック王子を怒らせてしまって、殺されるって戦々恐々としててさ。ロキとはその時はまだ一度も面識はなかったけど、カリン陛下の方は知ってたし、なんとか親友になって助けてもらおうと思って無理矢理呼び出して仲良くなったんだ。結果的にロキのお陰でセドリック王子の怒りは治ったから、本当に頼って良かったって思ったな~」

懐かしいと思いながら笑顔で話したら、何故かユーフェミア王女にドン引きされた。

「ロキ陛下が物凄くお人好しでお優しい方だと言うのが今の話だけでよくわかりましたわ」
「あ、わかる?!ロキって口でなんだかんだと酷いこと言っても結局見捨てるようなことはしないんだよね。しかもきっちり躾けてセドリック王子への謝罪法を教えてくれて…本当に有難いよ」
「そうですね。大事になさった方が良いと思いますわ。貴方にとって誰よりも貴重な方だと思いますので」
「うんうん。でもああ見えてちょっと自分のことにはおおざっぱでさ、自分を大事にしないところがあるから心配なんだよ」
「あら。そうなんですか?」
「そうそう。特にシャイナー陛下とかがさ────」

そんな感じで話しているうちに何故か場の雰囲気が和んで、ちょっとだけ二人の間にあった壁が薄くなった気がする。
気づけば結構な時間が経っていて、最後は和やかに別れられたし、また午後のお茶の席でとも言ってもらうことができた。
これはちょっといい傾向ではないだろうか?
午後のお茶にはアルメリアも同席してくれる予定だし、更に色々話ができるような気がしてきた。


***


午後になり俺はユーフェミア王女とアルメリアが待つ庭園へと足を運ぶ。
一応ユーフェミア王女が気に入っていた『孤高の王子』が咲く場所にテーブルを用意したから、話題に困ったらその話でもしようと思っていた。
それから茶を飲み、お菓子を勧めながら彼女とじっくり話してみた。
特に今回の婚約をどう思っているのかということも含めて、突っ込んだ話もしてみる。
すると彼女としては国として婚約を結ぶことに関しては構わないと思っているらしい。
でも話している感じから少し気乗りしない印象を受けたからその理由も聞いておこうと話を振ったら、チラッとアルメリアを見た後姿勢を正し、それについて教えてくれた。

なんでも弟であるカール王子の代わりにユーフェミア王女が王位を継ぐ可能性が出てきたから、場合によっては嫁げなくなる可能性があるのだとか。
それは正直寝耳に水の話だった。
普通は第一王子が継ぐものなのに、カール王子はそれほどの何かをやらかしたのだろうか?
けれどそれについては俺には教える気はないようで、サラリと誤魔化されてしまった。
アルメリアは知っているようだったから、きっと親しい相手にしか話せないような内容なんだろうなと察することはできた。
とは言えこうなったら自分達の婚約もなくなる可能性が高くなると言うことで────。

(……まあしょうがないか)

単純に縁がなかったんだろうと思って、そのまま他愛のない話をしてその場は解散となった。
何だかんだとロキの話題で盛り上がったから、仲良くはなれたような気はする。

そんな中、事が起こったのは二日後の午後のことだった。


****************

※レオとロキの出会いの調教話はスピンオフの方の『閑話3.ロキ王子と俺 Side.レオナルド皇太子』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498/episode/3649232)にあるので、もし気になる方がいらっしゃいましたらそちらから見に行っていただけたらと思います。

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