【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

文字の大きさ
205 / 215
【亡国からの刺客】

187.逃げたくなった俺

しおりを挟む
ガタゴトガタゴト馬車が疾走する。
一体どこへ向かっているんだろう?
意識が浮上してまず真っ先に考えたのはそんなことだった。

俺は現在手足を縛られ猿轡をされた状態で床に寝かされ、どこかへと運ばれている最中らしい。
目が覚めた途端犯されていたら悲惨だったが、どうやらそんな目に合うことなく普通に攫われたようだ。
この状況に少しだけホッとした。

そして次に気になったのは愛剣の存在だった。
馬車内に人の気配がないのを確認し、そっと目を開いて周囲を確認してみる。

(ない…)

当然と言えば当然かもしれないが、愛剣は馬車内のどこにもなかった。
きっと男達に奪われたんだろう。
最悪だ。

(俺の馬鹿!!)

剣を奪われたことが物凄くショックで、深追いし過ぎた自分を恨みたくなる。

(剣が俺の傍らにないなんてあり得ない!!)

半身を捥がれたようなこの不安な気持ちはきっと誰にもわかってはもらえないだろう。
それだけ剣は常に俺と共にあったのだから。

そして何よりも奪われた物が物だけにショックは大きい。
以前の愛剣もまだ所持してはいるが、今の剣はトルセンから結婚祝いに貰ったもので、セドと既に幾度も打ち合ってすっかり手に馴染んでいるし、何よりセドから貰った剣飾りもついている俺にとっては割と特別な剣だった。
手に入れてからずっと大事に大事に手入れしてきた剣だ。
何が何でも取り戻したい。
もし万が一裏ルートに流れてしまったのなら、苦手なロキ陛下に頭を下げて全財産投げうってでも裏に手を回してもらって取り戻そう。

(もう絶対こんなことに陥らないよう、今後は絶対深追いなんかしないぞ!)

しっかり反省したら兎にも角にも現状確認だ。
移動中のようだが男達の会話から何か情報を得られないだろうか?
そう考えたところでちょうど男がそれらしいことを口にした。

「連絡はついたか?」
「ああ。ハインリッヒ公国でオークションにかけようかってさ」
「お前も悪い奴だな。後で依頼主に話が違うと言われるぞ?ククッ」
「はっ!他国に連れ出せとしか言わなかったあいつが悪い。こっちはただでさえ危ない橋を渡ってるんだ。売り飛ばして逃亡資金を得て何が悪い」
「そりゃそうだ」

ハハハッ!と男達が笑う。
どうやら主犯である依頼主は街に留まっていて、ここに同行してはいないようだ。
そして俺は他国へと連れて行かれてそこからオークションにかけられる予定らしい。

(なるほどな)

それなら確かに英雄の片腕の名を持つ自分は高値が付くかもしれない。
護衛として手に入れるなら十分アリだろう。
ついでに言うと大国ブルーグレイの王子の側妃だ。
人質にしてブルーグレイを脅すこともできなくはないかもしれないし、逆に側妃を助けたとして恩を売ることだってできるかもしれない。
俺の使い方はいろいろ考えられる。

(ヤバいな)

一先ず身の安全は保障されたということは確信できたものの、ハインリッヒ公国という名を聞いて思う。
ハインリッヒ公国はブルーグレイの北西方面に向かい三か国ほど向こうにある遠い国だ。
となるとこの後はワイバーンに乗せられるのだろう。
流石にそんなところまで連れて行かれるとすぐには帰ってこられない。

(休憩を取るとしたらいくら何でも途中で街に降りるよな?)

逃げるチャンスがあるとすればその時だ。
飯は最悪食べさせられる形になるかもしれないが、流石にトイレくらいは自分で行かせてもらえるはず。
その時は足の拘束だって外されるだろうし、そこが逃亡する最大のチャンスだ。
でもそこから無一文で歩いて帰るには無理があるし、何か手を考えないといけない。
恐らくポケットに入れていたツンナガールは取り上げられているだろうし、そこから連絡を入れることはできないだろう。
それに金目の物も回収されているはず。
せめて剣があれば護衛と称して商人の馬車に同行する手もなくはなかったかもしれないが、それもできない。

(野宿はできるけど、せめてナイフとかがないとなぁ…)

男達から奪えたら一番いいが、そう都合よくナイフを手に入れられるとは限らないから他の手も考えないと。

そんなことを考えている間に馬車がやっと止まった。
木々の葉擦れの音と草の匂いがする。
人けのない山の中にでもワイバーンを隠していたんだろうか?
そう思っていると、俄かに馬車の外が騒がしくなった。

「よぉ!英雄の片腕を捕まえたって本当か?」
「ああ。ありゃあ確実にオークションで良い値が付くと思うぜ!見目もいいし、剣の腕も一級品!加えてあのセドリック王子の寵愛深い側妃ときたら、脅すネタにも使えるしな!」

ハハハッと上機嫌に男達が笑う。
けれどそこで何があったのか、緊迫した声で別の男が言った。

「マズいな。すぐにワイバーンに乗せろ!追手が来るぞ!」

(追手?)

もしかして俺が連れ去られたとセドに伝わったんだろうか?

(まさかな)

単独行動だったし、今回セドの暗部は俺についてきてはいない。
だからこそ俺が暴走して襲撃犯を追いかけたという情報がセドに入ることはあっても、捕まってそのまま攫われたなんて情報は入るはずもないのだが…。

(変だな?)

そう思いながら首を傾げていると、男にガバッと肩に担がれて、そのまま問答無用でワイバーンへと乗せられてしまう。

「行くぞ!」
「んんっ!!んんんっ!!」
「あんまり暴れるなよ?落っこちたら確実に死ぬぞ?」

その言葉と共にふわりとワイバーンが空へと舞い上がる。
悔しいがここで暴れても何も良いことはないだろう。
俺にできるのはここは大人しくしつつ、逃げる算段を考えることだ。

男は俺が暴れるのをやめたのを確認すると逃げられないようにと腕の中へと抱え直し、空を駆けた。
そんな男の肩越しに、俺の目に飛び込んできたのは追手と思しきワイバーンの群れ。

「ワイバーン部隊に囲まれたぞ!!」
「応戦しろ!!」

剣を手に男達が臨戦態勢に入る。
俺は大人しくしてろと言われ、振り落とされないようにできるだけワイバーンに身を寄せたのだが、途中で『面を貸せ!』と言われて抱き寄せられ、人質宜しくワイバーン部隊の方へと顔を向けさせられた。

「お前ら!側妃様がどうなってもいいのか?!あぁ?!」

その言葉に怯む追手達。
なんだか物凄く申し訳ない。
風向きも良くないから、向こうからしたら攻めるに攻めきれないというのもあるだろう。
余程の腕がないとこの状況で俺を取り戻すのは難しいと思う。

(こりゃ、一旦退却するかもな)

そう思った時、背後から見知った殺気を感じて俺は思わずそちらへと振り返った。

(セド…!)

でも喜んだのは一瞬で、その悪魔のような冷徹な表情を見た途端、俺の同乗者に『今すぐワイバーンの操縦を俺に代われ!全速力で逃げてやるから!!』と言いたくなった。
まあ縛られてるから無理なんだけど。

あんなセドに捕まったら俺、ヤリ殺されるんじゃないだろうか?

そんなことを考えながら絶望的な心境で救助されることになったのだった。


しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

処理中です...