【本編完結】敵国の王子は俺に惚れたらしい

オレンジペコ

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お城生活編

56.駆け付ける者と助かる者

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【Side.ジークフリート】

翌日、無事に魔力が回復したシャルルと共に宿を出て、念のため認識阻害の魔法を使用して移動する。
その道すがら、サービス子爵家の事情を少しだけ聞いた。
今回の件についてサービス子爵家の罪に問わないと伝えた時にどこかホッとしながら『良かった』と口にしたから、冗談で『潰してやっても良かったんだがな』と言ってやったら、母親だけは助けてくれと言われたから気になって聞いてみたのだ。

それによるとサービス子爵家は当主と長男は金遣いばかり荒く、仕事もほとんどしない無能なのだとか。
だから代わりに子爵夫人がサービス子爵家の切り盛りをしていて、日々頭を悩ませているらしい。
そんな母親を助けるためにシャルルは各所に顔を売り、令嬢達から情報をもらって母の仕事がしやすいようサポートし、ついでに彼女達からの貢物を売り飛ばすことで父や兄の散財を補填し、その傍ら束の間の自由をもらって冒険者活動に励んでレベルを上げ実力をつけると共に、いつ何があっても生きていけるよう経験を積みながら貯蓄をしていたらしい。
転移魔法を身に付けたのも手っ取り早く稼げる場所に移動することができるからなのだとか。
なかなかの現実主義の苦労人だ。

「将来的には兄が子爵家を継ぎますが、母としては兄に仕事を引き継いだら家が潰れるのは確実だし、そうならないよう陰ながら支えてやって欲しいと言われてまして…」

つまり今の母親のやってることをシャルルが引き継げ…と。
随分勝手で酷い話だ。
いっそのこと全部捨てて独立すればいいのに。
もしかしたら下手に貴族として育ったせいで責任感が強いのかもしれない。
アマリリスの件でちょっと虐めてやろうかと思っていたが、流石に哀れで仕方がないからやめてやろうと思ってしまった。

「さて。ここまで来たら大丈夫でしょう」

人けのない場所へと移動したところでシャルルが俺とクロヴィスの手を軽くとって、転移魔法を行使する。
そしてほんの瞬きの間に、俺達は見慣れた城の庭園へと移動していた。

「ここは俺とアマリリス王女がよく茶会をしていた城の庭です。ご確認ください」

そう言ってシャルルがほんのりと笑う。
そんなシャルルに礼を言い、また落ち着いたら連絡をすると伝えていたら、聞きなれた声が耳に飛び込んできた。

「お兄様?!え?シャ、シャルル?!」

そこに立っていたのはアマリリスだ。
面倒臭い奴に見つかってしまった。

「ごきげんよう。アマリリス王女」
「シャルル。私に会いに来てくれたの?う、嬉しいのだけど、ちょっと今は取込中なの!ごめんなさい!」
「取込中?」
「そうなの!そこのクロヴィス様に大至急、用があって!」
「え?俺?」

あまりにも切羽詰まったようなアマリリスの態度に訝し気な目を向けてしまう。
クロヴィスも驚いているようだ。
何があったんだろうか?

「お義姉様が!お義姉様が今にも死んでしまいそうなの!」

お願いだから助けてほしいと目に涙を浮かべてアマリリスがクロヴィスへと懇願する。

それを受けて俺達はアマリリスに先導されるかたちで、急いで義姉の元へと向かったのだった。


***


【Side.クロヴィス】

シャルルのお陰で無事にローナ帝国まで戻って来られてホッとしたのも束の間。
アマリリス王女にいきなり助けを求められて困惑を隠せなかった。
けれど王太子妃に何かあったのは確実なようだったので、案内されるがままに急いでそちらへと向かう。
そして辿り着いた先にはベッドに横たわる王太子妃の姿が。

「クロヴィス!」

すぐ傍に王太子の姿もあり、どこか縋るような目で俺を見つめてくるその目の下にはくっきりと隈ができていた。
心配で眠ることができず、ずっと王太子妃の傍についていたのだろうか?
駆け付けるのが遅くなってしまい申し訳ない気持ちになってしまう。

王太子妃の状態を確認するためすぐさま鑑定の魔法を使うと、【毒による衰弱、昏睡状態】と出た。
確かにこれはアマリリス王女が俺に助けを求めに来る気持ちもよくわかる。
俺は急いでヒールと状態異常回復の魔法を使った。
こういう状態の時はどちらか片方の魔法を使うより両方使った方が確実に回復できるのだ。
そして光が消えた後で再度鑑定の魔法を使うと無事に回復できたことが分かった。

「ふぅ。これでもう大丈夫」

顔色も良くなったし、きっとすぐに目も覚めるだろう。
そう思っていたら程なくして彼女の目がそっと開かれた。

「お義姉様!!」
「カトレア!」
「う…」
「水か?!」

そう言ってすぐに王太子が水を口移しで飲ませたので、ちょっと目のやり場に困ってしまう。
なんだかんだで仲のいい夫婦だ。

「あ…私…?」
「カトレア!良かった…。もう…目を覚まさないかと…」

王太子が涙ながらにそう言って王太子妃をそっと抱きしめる。
ここは二人にしてあげた方がいいだろうと気を遣って、俺達はそっと部屋を出ようとしたんだけど、それよりも早く王太子がこちらを向いて礼を言ってきた。

「クロヴィス。カトレアを助けてくれて本当に心から感謝する。ありがとう」

そんな王太子に気にしなくていいと伝え、俺はジークと共に部屋を出た。
アマリリス王女もシャルルに付き添われて一緒だ。
そう言えばこの二人って付き合ってるんだったっけ?
あれ?でもジークの話では違ったような?
王女の想い人とか言ってたよな?片思いなのか?

「シャルル。折角来てもらったのにごめんなさい」
「いいえ。麗しい姫の顔を見れただけで望外の喜びです。また機会がありましたらお茶でも致しましょう」
「まあ!シャルルの為ならいくらでも時間を作るわ!明日はどう?明後日でも空いているわ!シャルルの都合に合わせるから、いつでも言ってちょうだいね」
「ありがとうございます」

にこにこ笑顔で王女に接するシャルル。
そんなシャルルに気を良くして頬を染めながらアマリリス王女が言葉を紡ぐ。

「そうだわ!何か欲しい物はない?今日のお詫びに用意させてもらうわ」
「姫が選んでくださるものならなんでも嬉しく思います。姫とお揃いで良いものがあれば、是非身に付けさせてください」
「シャルルったら!じゃあシャルルの瞳の色に合わせた最高級のブルーサファイアのブレスレットを用意するわね。あ、そうだわ!ちょうど来月にパーティーがあるでしょう?その時に一緒に付けましょう?もちろん、服もこちらで用意しておくから大丈夫よ!シャルルはいつもの通り、身一つで来てちょうだい」
「姫のご厚意に感謝致します。姫のセンスはいつも素晴らしいので、今回も当日を楽しみにしていますね」
「まぁ~!シャルルったら!今回も張りきって選ぶから楽しみにしていてね。小物から靴まで全部しっかり選んで用意しておくわ!」

そんなやり取りを見て思わず『うわぁ~』と思った。
どう見てもシャルルは王女に惚れている感じではないのに、アマリリス王女は嬉々として最高級のブレスレットだけではなくその他諸々まで貢ごうとしている。
別にシャルルの方は強請っているわけでもないのに、どうしてそんな話になるんだろう?
ちょっと驚きの光景にドン引きしてしまう。

「やはり潰すか」

ジークとしては目の前でこんなやり取りを見てちょっとイラついている様子。
まあ気持ちはわからないでもない。

「では姫。また」
「ええ。また連絡するわ」

そうしてシャルルはアマリリス王女の手を取り笑顔で軽く口づけを落とすと、少し視線を絡ませてから踵を返しこちらへ向いた。
その顔に一瞬『やってしまった』という表情が浮かんでいたから、もしかしたら癖でやってしまっただけなのかもしれない。
どれだけ場数を踏んでいるんだとちょっと思ってしまったが、ただの遊び人ではないとわかってしまっているだけに何とも言えない気持ちになってしまった。

そんな俺達に向かってシャルルは衝撃的な言葉を告げてくる。

「どうぞお許しください。ああそうだ。忘れていましたが、あの困った男がクロヴィス殿下にこれ以上付き纏わないよう言い含めておきました。もし舞い戻って迷惑をかけることがあれば是非ご一報下さい」
「え?」
「捕まえるのに協力しますし、場合によっては再度あちらに捨ててきますので」
「え…」
「もちろんジークフリート王子のご要望に応じて遠方への新婚旅行の相談にも乗らせていただきます。ご都合に合わせていつでもご連絡くださいね」

にっこり笑ってそう言うと、シャルルは颯爽とその場から立ち去って行った。
これにはジークも苦々しい表情を隠せない様子。
これではシャルルに手は出しにくいと思ってしまったからだろう。

ラナキスに関しての協力は惜しまないと告げ、自分特化のアピールポイントを口にすることで咄嗟に身の安全を確保するなんて凄いと思う。
これならラナキスに言い含めてくれたという言葉はかなり期待できるのではないだろうか?

「あのラナキスに言い含められるなんて…凄すぎる。師匠って呼んでもいいかな?」

だから思わずそう言ってしまったんだけど、ジークが何故か嫉妬したように俺を抱き寄せてきて『あんな男を頼りになんてしなくていい』と言ってきたのにはつい笑ってしまった。

(何も心配なんてする必要はないのに…)

「ジーク。俺達の部屋に帰ろうか」

俺が頼りにしてるのはジークだし、俺が帰る場所はジークの傍だと、今ならはっきりと言えるんだから────。


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