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【本編】
10.対面
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「ラスター。すまないが王都に行ってきてくれないか?」
ある日領主様が思い切ったように俺へと言ってきた。
どうやら様子を見ていたものの、ご子息であるディオン様が全く帰ってこないからとうとう業を煮やしたらしい。
「最近は私も年を感じるようになったし、どうしても心配でな」
そう言う領主様はまだ45才だ。まだまだ若い。
ただ先日座り仕事が続いていた際に、急な来客で急いで椅子から立ち上がろうとして腰がグキッとなり、暫く動けなくなったことがあったから心配になったんだろう。
そんな領主様の為にマッサージもマスターして、座り仕事が続いた時は労わるように気を遣っていたが、それだけではダメだったらしい。
「わかりました。ディオン様の様子を責任もって確認してきますので、どうか安心して待っていてください」
「頼む。ラスターが行ってくれるなら安心だ」
そして信頼して任せてくれる領主様の期待に応えるべく、俺は早速王都へと旅立った。
「ここが王都……」
そして馬車で7日かけてやってきた王都はとても華やかな場所だった。
確かに15年以上こんな華やかな場所に住んでいたら領地に帰りたくなくなるかもしれないとは思った。
人も多いし、装いも領地とは大違いだ。
(なるほど…)
今の流行はこんな感じなのかと目をやりながら吸収できる知識はどんどん吸収していく。
ついでに市場を歩いて物価や品揃えも確認し、需要がありそうなものを確認する。
折角来たのだから視察も兼ねてあれこれ見ておかないと時間がもったいない。
そんなこんなでじっくり見て回ってから宿を取り、領主様の奥方である領主夫人宛に手紙を書いた。
明日の午後に伺いたいという先触れだ。
確か今ディオン様は近衛騎士として働いているから、城にある寮に入っているはず。
こうして予め伝えておけば呼び寄せてくれるだろう。
そして翌日、身嗜みを整えて、辺境伯家の王都にある屋敷を訪問した。
案内された応接室で領主夫人とディオン様が来るのを待つ。
そっと窓際に立っていると馬車が到着して藍色の髪色をした男性が降りてくるのが見えた。
あれがディオン様だろうか?
そう思っていたら暫くして何やら言い合うような怒鳴り声が耳へと飛び込んできた。
「確かにいつまでも帰らない俺も悪かったかもしれないですが、何もわざわざ人を送り込んでくる必要はないじゃありませんか!そんなに俺は信用なりませんか?!」
「でも、近衛騎士になったのだっていきなりだったでしょう?旦那様も心配しているのよ?このまま貴方が領地に戻ってこないんじゃないかって。だから信頼している人に貴方の様子を見てくるように言ったのだと思うわ」
「信頼している人?それっていつだったか母上が言っていた平民でしょう?それならそれで適当に言い包めて帰せばよかったではありませんか!わざわざ俺を呼び出してまで会わせる必要なんて……っ」
どうやらディオン様はご立腹らしい。
平民が嫌いなのかな?
でも申し訳ない。
身分は生まれ持ったものだから変えられないのだ。
取り敢えず笑顔で挨拶をして様子を見ようか?
少しでも好印象を与えないとそれこそ『帰れ』と言い放たれておしまいだ。
そうなったら領主様に報告することができなくなってしまうと考え、終始穏やかに対応しようと心に決めてドアの方へと振り向いた。
そこにいたのは領主夫人と、ディオン様らしい俺と同じくらいの年頃の男性。
近衛騎士なだけあり鍛えられた逞しい身体を持ち、艶やかな藍色の美しい髪と切れ長の目に澄んだ水色の瞳の持ち主。
文句なしの美丈夫だ。
(でも…どこかで会ったような?)
思いがけず既視感を覚えて内心で首を傾げる。
どこで見たんだろう?
(肖像画は領地の屋敷に特に飾られていないし……)
不思議だ。
とは言えあまりジロジロ見て悪印象を与えるのも良くはない。
貴族は平民と視線を合わせるのを嫌う人も多いと聞くし、口元辺りを見ながら話そう。
「お初にお目にかかります。ウィルラン辺境伯様からご子息である貴方様の様子を窺ってくるよう申し付かりました、ラスター=ルクスと申します。以後お見知りおきを」
「えっ…、あ…ディオン=ウィルラン、です。よろしく」
笑顔で挨拶したのが良かったのか、さっきまでの怒りは一先ず収めてもらえた様子。
これなら少しは話せるだろうか?
「ようこそ、ラスター。私はシアナ=ウィルランよ。貴方のことは主人からも聞いているわ。とても優秀なのですって?」
「優秀だなんて、恐れ多いです。領主様には過度の評価を頂くばかりで、勿体ない限りです」
領主夫人に促されてソファへと腰を下ろし、和やかに会話する。
領主様の奥方なだけあってとても気さくな方だ。
「二年前、だったかしら?主人からの手紙に貴方のことが書かれてあったから、この子にも一度領地に帰ったらと言ったのだけど、どうしても帰らないと言って…」
「そうなんですね」
「そうなのよ。しかもその後皇太子殿下と遊学に出てしまったでしょう?」
「そう言えばそうでしたね。一年ほど行かれていたんでしたか?」
「ええ。恋仲の噂があった皇太子殿下と一緒に遊学だなんて心配だったのだけど、本人も乗り気だし、皇太子殿下からの直々のお誘いだったから断ることもできないしと見送ったのだけど、それが失敗だったのかしら?帰ってきたら今度は勝手に近衛騎士になると言いだして……」
「なるほど。それほど殿下と離れがたかったのですね」
どうやらディオン様は皇太子殿下と恋仲らしい。
確かに魅力的な容姿をしているし、女性だけではなく男性にモテても全くおかしくはないな。
そう思いながら納得していると、何故か慌てたように否定の声を上げられた。
「ち、違う!お、俺と皇太子殿下は本当にそんな仲ではないんです!ただの友人同士で…っ」
どうやら領主様に報告されたらマズいと思ったのか、蒼白な顔で慌てて否定してこられた。
でも領主夫人はそんな動揺するディオン様に容赦なく言葉を浴びせかける。
「周りはそうは思っていないわよ?まあでも、お互いに跡継ぎを残す必要がある立場ですもの。本人の口からはとても大っぴらに恋人同士だなんて言えないわよね」
「お相手がお相手ですし、仕方がありませんよね」
「ち、違っ…!」
益々白くなった顔で必死に言い訳の言葉を探すディオン様。
俺なんかに言い訳しなくてもいいのに。
余程領主様に言いつけられたくないのかな?
可哀想だしここは黙っていてあげよう。
報告は『王都の生活を楽しんでいるようで、とてもお元気そうでした』とマイルドに濁そうか。
他にも話をして色々聞き出して報告すれば特に突っ込まれることもないだろうし。
「そんなことより貴方はどうなの?ラスター。それだけ綺麗ならきっとモテるでしょう?恋人は?もう結婚はしているの?」
領主夫人もディオン様をこれ以上虐める気はないのか俺へと話を振ってきた。
まあ最近よく聞かれる内容でもあるし、俺はサラリといつも通り答えを返す。
「いえ。色々お声掛けはしていただけるんですが、どうも俺はそう言ったことに興味が出なくて。丁重にお断りさせていただいています」
でも領主夫人は俺の答えがあまりにもあっさりしていたからか、過去に何かあったのかと勘ぐってきた。
「そう。もしかして恋愛に興味がないのは何かトラウマでも?」
そんなに恋愛に興味がないのは珍しいんだろうか?
竜人の感覚では20才はまだまだ子供って感じだし、別に恋愛してなくてもおかしくはないのだけど。
(まあそもそも呪いがあるから恋愛する気はないし、単なる言い訳だけど…)
とは言えそれをストレートに言う気はない。
何とかそれっぽい言い訳を口にしないといけないだろう。
(まずは何もないと安心させてからだな)
「いいえ。特にトラウマなんてありませんよ?うちの親は根っからの領地民でして、父は冒険者ギルドの魔物の解体の仕事、母は薬師の助手をしているんですが、そういうこともあって小さな頃から冒険者達とも顔見知りなんですけど、彼らが口にする女性達とのあれこれがどうも苦手で。俺には恋愛は向いていないなと思ったんです」
冒険者の知り合いはいつも女がどうとかあれこれ言っていたから、こう言っておけば疑われることもないだろう。
そう思っていたら今度は学校の女子達について言及された。
「ああ、そうなのね。でも学校では女の子達の話を聞いたりしたんじゃないかしら?」
「そっちはそっちで真逆と言いますか…相手を見るというより理想を押し付けている印象が強くて」
確かに女子達はコイバナをよくしていたように思う。
俺とは無縁の、非現実的な世界。
それは俺からすれば恋愛小説の中の話のようにどこまでも他人事だった。
エリンにも呆れたように言われたものだ。
『ラスターって本当に恋愛に興味ないよね。モテるのに勿体ないよ?』
モテたからってどうだというのか。
こっちに選ぶ気がないのだから何も意味はないと思う。
まあわざわざそんなことは口にはしないけど。
とは言え『ラスターは変なところで冷めてるね』とエリンに溜息を吐かれたのにはどう答えていいのかわからなくて、結局曖昧に誤魔化すことしかできなかった。
「ふふふ。わかるわぁ。実はこの子もそうなのよ。昔から理想ばかり相手に追い求めてちっとも現実を見ないの」
「母上?!」
そうして過去に思いを馳せていたら領主夫人の話がまたディオン様のことに戻ってしまった。
ディオン様、ご愁傷様です。
「一度付き合ってみないと相手のことは何もわからないわよって言ったのだけど、全く聞く耳を持ってもらえなくて」
「そうなんですね」
若いうちの恋愛なんて理想を追い求めることも多いのだから、そこはサラッと流してあげればいいのに。
とは言え俺は領主様に雇われている身だし、ここで奥方に強気に出れなくて申し訳ない。
それにしてもさっきから狼狽えてるディオン様は可愛いな。
(大丈夫。俺は貴方の味方ですよ。ちゃんと領主様に上手く言っておくので皇太子様との愛を育んでください)
そんな気持ちで笑みを向けたのに、何を思ったのかディオン様は急に領地に戻ると言い始めた。
「母上。俺、すぐにでも領地に帰ります」
これには領主夫人も驚いて目を丸くしてしまう。
「どうしたの?急に」
「急にではありません!元々皇太子殿下には『運命の相手と出会うか領主の仕事を継ぐとなった場合は近衛騎士の職を辞してよい』とお約束頂いていますので!」
「でも貴方、さっきまで一切帰る気なんてなかったでしょう?折角来てくれたラスターに会うのも消極的で、平民なんだから適当に言い包めて帰せばいいじゃないかと言っていたじゃないの」
確かにその言葉は俺も聞いた。
なのに余程領主様へ報告されるのが嫌だったのか、涙目で謝ってきた。
「へ、へい…いえ、ラスター。すみません。情けないことに母や貴方に八つ当たりをしてしまいました。未熟者で申し訳ありません」
どうしよう?
凄く可愛いんだけど。
身体つきは立派なのに、捨てられた小犬のように縋るように見つめてくるものだから思わず胸がキュンとなってしまったじゃないか。
(俺のツガイもこんな感じだったのかな…)
きっとディオン様のように可愛らしい人だった気がする。
だって初対面にもかかわらずこんなに心が温かくなったのだから。
ある日領主様が思い切ったように俺へと言ってきた。
どうやら様子を見ていたものの、ご子息であるディオン様が全く帰ってこないからとうとう業を煮やしたらしい。
「最近は私も年を感じるようになったし、どうしても心配でな」
そう言う領主様はまだ45才だ。まだまだ若い。
ただ先日座り仕事が続いていた際に、急な来客で急いで椅子から立ち上がろうとして腰がグキッとなり、暫く動けなくなったことがあったから心配になったんだろう。
そんな領主様の為にマッサージもマスターして、座り仕事が続いた時は労わるように気を遣っていたが、それだけではダメだったらしい。
「わかりました。ディオン様の様子を責任もって確認してきますので、どうか安心して待っていてください」
「頼む。ラスターが行ってくれるなら安心だ」
そして信頼して任せてくれる領主様の期待に応えるべく、俺は早速王都へと旅立った。
「ここが王都……」
そして馬車で7日かけてやってきた王都はとても華やかな場所だった。
確かに15年以上こんな華やかな場所に住んでいたら領地に帰りたくなくなるかもしれないとは思った。
人も多いし、装いも領地とは大違いだ。
(なるほど…)
今の流行はこんな感じなのかと目をやりながら吸収できる知識はどんどん吸収していく。
ついでに市場を歩いて物価や品揃えも確認し、需要がありそうなものを確認する。
折角来たのだから視察も兼ねてあれこれ見ておかないと時間がもったいない。
そんなこんなでじっくり見て回ってから宿を取り、領主様の奥方である領主夫人宛に手紙を書いた。
明日の午後に伺いたいという先触れだ。
確か今ディオン様は近衛騎士として働いているから、城にある寮に入っているはず。
こうして予め伝えておけば呼び寄せてくれるだろう。
そして翌日、身嗜みを整えて、辺境伯家の王都にある屋敷を訪問した。
案内された応接室で領主夫人とディオン様が来るのを待つ。
そっと窓際に立っていると馬車が到着して藍色の髪色をした男性が降りてくるのが見えた。
あれがディオン様だろうか?
そう思っていたら暫くして何やら言い合うような怒鳴り声が耳へと飛び込んできた。
「確かにいつまでも帰らない俺も悪かったかもしれないですが、何もわざわざ人を送り込んでくる必要はないじゃありませんか!そんなに俺は信用なりませんか?!」
「でも、近衛騎士になったのだっていきなりだったでしょう?旦那様も心配しているのよ?このまま貴方が領地に戻ってこないんじゃないかって。だから信頼している人に貴方の様子を見てくるように言ったのだと思うわ」
「信頼している人?それっていつだったか母上が言っていた平民でしょう?それならそれで適当に言い包めて帰せばよかったではありませんか!わざわざ俺を呼び出してまで会わせる必要なんて……っ」
どうやらディオン様はご立腹らしい。
平民が嫌いなのかな?
でも申し訳ない。
身分は生まれ持ったものだから変えられないのだ。
取り敢えず笑顔で挨拶をして様子を見ようか?
少しでも好印象を与えないとそれこそ『帰れ』と言い放たれておしまいだ。
そうなったら領主様に報告することができなくなってしまうと考え、終始穏やかに対応しようと心に決めてドアの方へと振り向いた。
そこにいたのは領主夫人と、ディオン様らしい俺と同じくらいの年頃の男性。
近衛騎士なだけあり鍛えられた逞しい身体を持ち、艶やかな藍色の美しい髪と切れ長の目に澄んだ水色の瞳の持ち主。
文句なしの美丈夫だ。
(でも…どこかで会ったような?)
思いがけず既視感を覚えて内心で首を傾げる。
どこで見たんだろう?
(肖像画は領地の屋敷に特に飾られていないし……)
不思議だ。
とは言えあまりジロジロ見て悪印象を与えるのも良くはない。
貴族は平民と視線を合わせるのを嫌う人も多いと聞くし、口元辺りを見ながら話そう。
「お初にお目にかかります。ウィルラン辺境伯様からご子息である貴方様の様子を窺ってくるよう申し付かりました、ラスター=ルクスと申します。以後お見知りおきを」
「えっ…、あ…ディオン=ウィルラン、です。よろしく」
笑顔で挨拶したのが良かったのか、さっきまでの怒りは一先ず収めてもらえた様子。
これなら少しは話せるだろうか?
「ようこそ、ラスター。私はシアナ=ウィルランよ。貴方のことは主人からも聞いているわ。とても優秀なのですって?」
「優秀だなんて、恐れ多いです。領主様には過度の評価を頂くばかりで、勿体ない限りです」
領主夫人に促されてソファへと腰を下ろし、和やかに会話する。
領主様の奥方なだけあってとても気さくな方だ。
「二年前、だったかしら?主人からの手紙に貴方のことが書かれてあったから、この子にも一度領地に帰ったらと言ったのだけど、どうしても帰らないと言って…」
「そうなんですね」
「そうなのよ。しかもその後皇太子殿下と遊学に出てしまったでしょう?」
「そう言えばそうでしたね。一年ほど行かれていたんでしたか?」
「ええ。恋仲の噂があった皇太子殿下と一緒に遊学だなんて心配だったのだけど、本人も乗り気だし、皇太子殿下からの直々のお誘いだったから断ることもできないしと見送ったのだけど、それが失敗だったのかしら?帰ってきたら今度は勝手に近衛騎士になると言いだして……」
「なるほど。それほど殿下と離れがたかったのですね」
どうやらディオン様は皇太子殿下と恋仲らしい。
確かに魅力的な容姿をしているし、女性だけではなく男性にモテても全くおかしくはないな。
そう思いながら納得していると、何故か慌てたように否定の声を上げられた。
「ち、違う!お、俺と皇太子殿下は本当にそんな仲ではないんです!ただの友人同士で…っ」
どうやら領主様に報告されたらマズいと思ったのか、蒼白な顔で慌てて否定してこられた。
でも領主夫人はそんな動揺するディオン様に容赦なく言葉を浴びせかける。
「周りはそうは思っていないわよ?まあでも、お互いに跡継ぎを残す必要がある立場ですもの。本人の口からはとても大っぴらに恋人同士だなんて言えないわよね」
「お相手がお相手ですし、仕方がありませんよね」
「ち、違っ…!」
益々白くなった顔で必死に言い訳の言葉を探すディオン様。
俺なんかに言い訳しなくてもいいのに。
余程領主様に言いつけられたくないのかな?
可哀想だしここは黙っていてあげよう。
報告は『王都の生活を楽しんでいるようで、とてもお元気そうでした』とマイルドに濁そうか。
他にも話をして色々聞き出して報告すれば特に突っ込まれることもないだろうし。
「そんなことより貴方はどうなの?ラスター。それだけ綺麗ならきっとモテるでしょう?恋人は?もう結婚はしているの?」
領主夫人もディオン様をこれ以上虐める気はないのか俺へと話を振ってきた。
まあ最近よく聞かれる内容でもあるし、俺はサラリといつも通り答えを返す。
「いえ。色々お声掛けはしていただけるんですが、どうも俺はそう言ったことに興味が出なくて。丁重にお断りさせていただいています」
でも領主夫人は俺の答えがあまりにもあっさりしていたからか、過去に何かあったのかと勘ぐってきた。
「そう。もしかして恋愛に興味がないのは何かトラウマでも?」
そんなに恋愛に興味がないのは珍しいんだろうか?
竜人の感覚では20才はまだまだ子供って感じだし、別に恋愛してなくてもおかしくはないのだけど。
(まあそもそも呪いがあるから恋愛する気はないし、単なる言い訳だけど…)
とは言えそれをストレートに言う気はない。
何とかそれっぽい言い訳を口にしないといけないだろう。
(まずは何もないと安心させてからだな)
「いいえ。特にトラウマなんてありませんよ?うちの親は根っからの領地民でして、父は冒険者ギルドの魔物の解体の仕事、母は薬師の助手をしているんですが、そういうこともあって小さな頃から冒険者達とも顔見知りなんですけど、彼らが口にする女性達とのあれこれがどうも苦手で。俺には恋愛は向いていないなと思ったんです」
冒険者の知り合いはいつも女がどうとかあれこれ言っていたから、こう言っておけば疑われることもないだろう。
そう思っていたら今度は学校の女子達について言及された。
「ああ、そうなのね。でも学校では女の子達の話を聞いたりしたんじゃないかしら?」
「そっちはそっちで真逆と言いますか…相手を見るというより理想を押し付けている印象が強くて」
確かに女子達はコイバナをよくしていたように思う。
俺とは無縁の、非現実的な世界。
それは俺からすれば恋愛小説の中の話のようにどこまでも他人事だった。
エリンにも呆れたように言われたものだ。
『ラスターって本当に恋愛に興味ないよね。モテるのに勿体ないよ?』
モテたからってどうだというのか。
こっちに選ぶ気がないのだから何も意味はないと思う。
まあわざわざそんなことは口にはしないけど。
とは言え『ラスターは変なところで冷めてるね』とエリンに溜息を吐かれたのにはどう答えていいのかわからなくて、結局曖昧に誤魔化すことしかできなかった。
「ふふふ。わかるわぁ。実はこの子もそうなのよ。昔から理想ばかり相手に追い求めてちっとも現実を見ないの」
「母上?!」
そうして過去に思いを馳せていたら領主夫人の話がまたディオン様のことに戻ってしまった。
ディオン様、ご愁傷様です。
「一度付き合ってみないと相手のことは何もわからないわよって言ったのだけど、全く聞く耳を持ってもらえなくて」
「そうなんですね」
若いうちの恋愛なんて理想を追い求めることも多いのだから、そこはサラッと流してあげればいいのに。
とは言え俺は領主様に雇われている身だし、ここで奥方に強気に出れなくて申し訳ない。
それにしてもさっきから狼狽えてるディオン様は可愛いな。
(大丈夫。俺は貴方の味方ですよ。ちゃんと領主様に上手く言っておくので皇太子様との愛を育んでください)
そんな気持ちで笑みを向けたのに、何を思ったのかディオン様は急に領地に戻ると言い始めた。
「母上。俺、すぐにでも領地に帰ります」
これには領主夫人も驚いて目を丸くしてしまう。
「どうしたの?急に」
「急にではありません!元々皇太子殿下には『運命の相手と出会うか領主の仕事を継ぐとなった場合は近衛騎士の職を辞してよい』とお約束頂いていますので!」
「でも貴方、さっきまで一切帰る気なんてなかったでしょう?折角来てくれたラスターに会うのも消極的で、平民なんだから適当に言い包めて帰せばいいじゃないかと言っていたじゃないの」
確かにその言葉は俺も聞いた。
なのに余程領主様へ報告されるのが嫌だったのか、涙目で謝ってきた。
「へ、へい…いえ、ラスター。すみません。情けないことに母や貴方に八つ当たりをしてしまいました。未熟者で申し訳ありません」
どうしよう?
凄く可愛いんだけど。
身体つきは立派なのに、捨てられた小犬のように縋るように見つめてくるものだから思わず胸がキュンとなってしまったじゃないか。
(俺のツガイもこんな感じだったのかな…)
きっとディオン様のように可愛らしい人だった気がする。
だって初対面にもかかわらずこんなに心が温かくなったのだから。
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